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ダリナとハインリヒ(番外編)1

番外編です!

 時は遡り、ハインリヒがまだ目を覚ましていない頃。ダリナは、ハインリヒの寝室でジッとハインリヒの寝顔を見ていた。

 辺りはもう暗い。使用人から、もう自室で休むよう言われていたが、ダリナは寝室を離れる気になれなかった。

 ハインリヒを守ると決めたのに。彼の役に立ちたかったのに。彼がこんな目に遭うのを止める事が出来なかった。

 あの時から、ハインリヒは自分にとって大切な人になっていたのに。


       ◆ ◆ ◆


 二か月前、ダリナは果物屋の前で、一生懸命店主に頼み込んでいた。


「オネガイシマス、イチニチデイイノデ、ワタシヲヤトッテクダサイ!」


 店主の女性は、うざったそうな顔で言う。


「ダメダメ! うちには人を雇う余裕なんて無いし、あんた『炎の民』だろう? あんたみたいなのを雇ったら、この店が潰れちまうよ」


 結局雇ってもらえず、ダリナはとぼとぼと大通りを歩いていた。ダリナは、昨日出会った黒髪の女性の事を思い出す。

 その女性は、怖い顔でダリナに「この国で目立つ事はしない方がいい」と言った。犯罪をして目立つと碌な事にならないと忠告してくれたのだろう。優しい人なのだ。

 あの女性の気持ちを無駄にしない為にも、もう盗みはしないと決めた。

 しかし、雇ってくれる店がなかなか見つからない。どうしようか。


 そう考えてダリナが歩いていると、辺りが騒がしくなった。見ると、遠くで二人の男性が言い争っている。


「ですから、あの帳簿は書き間違えただけだと言っているではありませんか! 取引中止は、考え直して頂けませんか?」


 そう言うのは、茶色いスーツを着た二十代くらいの男性。ライトブラウンの髪を後ろで一つに纏めている。どうやら側にある商会の人間らしい。


「そうは言ってもねえ。一度だけならともかく、三度も帳簿の『書き間違え』があれば、そりゃあ改ざんだと思われても仕方ないよねえ」


 そう応えているのは、二十歳になるかならないかくらいの年齢に見える男性。ウェーブがかった黒髪を短く切り揃えている。

 

 黒髪の男は側に停まっている馬車に乗り込もうとするが、茶色いスーツの男は黒髪の男の腕を掴んで離さない。


「お待ち下さい! 本当に、悪気は無かったんです! 王室御用達の看板を掲げられなくなったら、どうやって商売をしていけばいいのか……」

「君のところの商会が取引を打ち切られるのは、ただ帳簿の改ざんをしていたからじゃないよ。君は、貴族と結託して、人身売買をしていたよねえ?」


 茶色いスーツの男の顔色が一気に青くなる。


「そんな人間がいる商会と取引を継続できるはずがないよね。悪いけど、商売に関してはイチから出直してよ。まあ、軽い刑で済めばの話だけど」


 すると、側に停めてあった別の馬車から、何人もの衛兵が降りてきた。茶色いスーツの男を人身売買の罪で逮捕するのだろう。


「畜生……畜生!!」


 茶色いスーツの男は叫ぶと、懐から小型のナイフを取り出した。そして、躊躇なく黒髪の男を斬りつけようとする。


「危ない!!」


 ダリナは母国語で叫ぶと、あっという間に二人の男に近付いた。そして、勢いよく茶色いスーツの男の右腕を蹴り上げる。


「ぐあっ!!」


 茶色いスーツの男は呻き声を上げると、ナイフをカランと地面に落とした。


「おい、捕まえろ!!」


 衛兵の一人が声を上げたのを皮切りに、大勢の衛兵が茶色いスーツの男を取り押さえた。

最後までお付き合い頂けると嬉しいです!

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