元悪役令嬢は捜査する(解決編)2
ヴェロニカが……!!
「……というのが、フリーデ様の推理です」
「あの女と連絡を取っていたのか!」
コンラートは、眉を吊り上げて叫んだ。
「フリーデ様は無実なのですから、連絡を取っても何の問題もございません」
ヴェロニカは、平然と応える。
「しかし、あの女が無実だとは限らないでしょう」
「無実は証明できると思いますよ」
ヴェロニカが後ろを振り向くと、側に控えていたアルマと目が合った。アルマは、小さな木箱を持ってくると、それをヴェロニカに手渡す。
「それは?」
「これは、指紋を取る道具です」
「指紋?」
「はい。人の指の先にある渦巻みたいな模様は、人によって違うのです。今から、この道具を使ってその模様……指紋を、採取します」
ヴェロニカは、木箱から化粧品を粉末状にしたものや刷毛などを取り出すと、ワイングラスから指紋を採取した。ヴェロニカが小夜だった頃、家庭で指紋を採取する方法が載った本を読んだ事がある。そして、指紋が犯罪捜査に利用できる事をフリーデに話した事がある。
ワイングラスからは、数種類の指紋が採取できた。
「フリーデ様の自室から見つかったという毒の入った瓶、まだ保管してありますよね? その瓶から採取した指紋とこのグラスから採取した指紋がコンラート様のものならば、コンラート様が犯人という事になります」
コンラートは、何も言う事が出来なかった。裏切られる事を恐れ、誰かを雇うのではなく、自らの手で毒の入った瓶をフリーデの自室に置いたのかもしれない。
ちなみに、コンラートはハインリヒが意識不明になるとは思っていなかっただろうとフリーデが言っていた。本当なら、もっと早く解毒剤を飲ませる予定だったのだろう。しかし、医師がまごついた為、少し解毒剤を飲ませるのが遅くなってしまった。
そして、ルートヴィヒが一か月以内に犯人を暴くとヴィルヘルムに言ったのは、コンラートに尻尾を出させる為である。ルートヴィヒが何をするつもりかコンラートは知らなかったが、面倒な事になる前にルートヴィヒを始末しようと思い、今回毒を盛ったのだろう。
「コンラート……どうしてこんな事を……」
ルートヴィヒが呟いた。
「昔から……あなたが嫌いだった」
コンラートは、ルートヴィヒを睨んで言った。
「私は、親に、一番になれ、一番になれと散々言われて過ごしてきました。でも、勉学も剣術も一番はあなた。あなたが、私の欲しいものを全て奪っていった。それだけならまだ我慢出来ましたが、あなたがヴェロニカ様の学園追放を決定したと聞いて、許せないと思った」
そこでヴェロニカの名前が出てくるとは思わなかった。ヴェロニカは、目を丸くする。
コンラートにとって、美しくリーダーシップのあるヴェロニカは憧れだった。確かにヴェロニカは横領したかもしれないが、勉学には真面目に励んでおり、成績もトップクラスだった。それに、高圧的ではあったが、男爵家の子供だろうが王族の子供だろうが態度を変える事無く接していたのも、コンラートの目には好ましく映った。
そんなヴェロニカが学園を追放される事になり、コンラートは、横領の罪を暴いたフリーデと追放を決定したルートヴィヒを恨んでいた。
「……コンラート様、私が学園追放程度の処分で済んだのは、ルートヴィヒ殿下のおかげなんですよ。本来なら、家の財産を全て没収されるとか、禁固刑になってもおかしくなかったのです」
ヴェロニカは、穏やかな口調で語りかけた。
「ヴェロニカ様が学園追放になったのは心苦しいですが、ご自身の罪をしっかり受け止める事が、ヴェロニカ様……アイスナー夫人の為になると信じて告発致しました」
そう言ったのは、いつの間にか会場に姿を現したフリーデだった。簡素なピンク色のドレスを着ている。
「フリーデ様、いらしていたのですね」
「はい、夜会の様子が気になってしまって……」
フリーデはヴェロニカにそう答えた後、コンラートの方に向き直った。
「コンラート様も、ご自身の罪と向き合って下さい。まだ人生長いのですから、やり直せるはずです」
「うるさい!……どうして私の邪魔ばかりするんだ。お前なんか……」
そう言ってコンラートは、懐から何かを取り出した。それは、小さな拳銃だった。ヴェロニカは、この世界に懐に入れられるような小さい拳銃は無いと思い込んでいたので驚いた。
しかし、驚いて固まっている暇はない。銃口が、フリーデに向けられているのだ。
「危ない!」
そう言ってヴェロニカはフリーデに飛びついた。次の瞬間、大きな銃声が会場に響く。
ヴェロニカの腹部を、銃弾が貫いていた。
「あ……」
ヴェロニカは、その場に崩れ落ちた。
「ヴェロニカ!」
「ヴェロニカ様!」
ハルトムートとフリーデの声が重なる。ヴェロニカのドレスには、みるみる内に血が広がっていった。痛い、苦しい。
「なっ……!!」
目を丸くするコンラートを、一人の男性が取り押さえた。コンラートを組み伏せたその男性は、ウェーブがかった黒髪を短く整えている。ウエイターの服装をしているが、彼は確かに、ハインリヒだった。そう、ハインリヒは、意識を取り戻していたのだ。
「ハインリヒ殿下……!!」
思わず声を漏らすコンラートを、ハインリヒは冷たい瞳で見下ろす。
「僕、こう見えても兄上の事が大好きなんだよね。兄上やその婚約者を害しようとするなんて、許せないよねえ」
いつもののんびりとした話し方からは想像できない怖い口調で、ハインリヒが呟いた。
「ヴェロニカ、ヴェロニカ、死ぬな!……おい、誰か医者を、早く!」
ハルトムートの声を聞きながら、ヴェロニカは意識を失った。
おまけの話もありますが、次回で実質最終回です!!




