元悪役令嬢は捜査する(事件編)4
読んで頂けると嬉しいです!
それから間もない内に、ルートヴィヒ、ヴェロニカ、ハルトムートの三人は、城内の静かな廊下を歩いていた。
「そうだ、ヴェロニカ。君は、孤児院でボランティアをしているんだよね?」
ルートヴィヒに聞かれ、ヴェロニカは頷きながら答えた。
「はい。子供達に勉学を教えております」
「父上が今度、福祉や教育について新しい政策を打ち出そうとしていてね。僕も案を出す事になったんだ。都合が良い時に、勉学を教えている様子を見学させてくれないかな」
「はい、教会に相談してみます」
そんな会話をしていると、不意に大きな叫び声が聞こえた。
「お前ノセイデ、ハインリヒ殿下ガ……!!」
ヴェロニカ達は、急いで声がする部屋に向かった。声がするのは、レナーテの自室らしい。
「母上! どうなさいました!?」
バンと音を立ててルートヴィヒが扉を開けると、そこには驚きの光景が広がっていた。
ベットに仰向けになる四十歳前後の女性。その女性の上に馬乗りになり、小型のナイフで女性を刺そうとする赤髪の少女。四十代の女性は、歯を食いしばってナイフを両手で握り、自分の胸に刃が届くのを防いでいる。
「母上!!」
ルートヴィヒが叫ぶ。刺されそうになっている四十歳前後の女性が、側妃のレナーテだ。プラチナブロンドの髪を垂らしていて、青いドレスを身に着けている。
レナーテを刺そうとしているのは、ハインリヒが外出する際護衛をしているダリナ。
「ちょっと、何なのよ、ダリナ……!」
レナーテは、困惑した様子でダリナに声を掛ける。
「ダリナ、何やってるの!?」
ヴェロニカは、慌ててダリナの方に駆け寄り、ダリナを羽交い絞めにした。ダリナはレナーテから引き剥がされて尚、ジタバタと脚を動かしながら叫んだ。
「放せ! コノ女ハ、ハインリヒ様ヲ殺ソウトシタンダ! フリーデトカイウ次期王妃ハ犯人ジャナイ!!」
「……どういう事?」
ヴェロニカが聞くと、やっと大人しくなったダリナは、目に涙を浮かべながら言った。
「……コノ女ハ、ルートヴィヒ様ヲ王様ニシヨウトシテイル……ハインリヒ様ガ、邪魔ダッタンダ」
レナーテを含む四人は、そのままダリナの話を聞いた。
◆ ◆ ◆
ハインリヒが毒を盛られた日、ダリナは朝から夕方まで騎士団で剣の稽古をしていたらしい。ダリナは騎士団に頼み込み、ほぼ毎日稽古をつけてもらっている。
そして夕方、ダリナが食堂の前を通りかかると、廊下でハインリヒに呼び止められた。
「あ、ダリナ。丁度良かった。葡萄ジュースを飲まない?」
「ブドウジュース……デスカ?」
「うん。今度、知人が子供向けにアルコール抜きの飲み物を販売する事になってね。ダリナにも味の感想を聞かせてほしいんだ」
ダリナが食堂に入ると、そこには使用人の他に国王の正妻であるカルラ、王子達の友人であるコンラートがいた。
「ああ、ダリナちゃんじゃない。こちらにいらっしゃいよー」
「……ハインリヒ殿下の護衛か」
カルラとコンラートに声を掛けられ、緊張しながらもダリナはジュースを試飲した。ジュースは程よい甘さで、とても美味しかった。
その後、ダリナが自室で休んでいると、廊下が騒がしい。ダリナは部屋を出て、廊下を早足で歩いているメイドに聞いた。
「アノ、ドウカシタンデスカ?」
すると、メイドは困惑した顔で言った。
「ああ、ハインリヒ殿下の側にいる子……。あのね、私もよくわからないんだけど、ハインリヒ殿下が倒れて……今、寝室に運ばれたそうなの」
「エッ!!」
ダリナの頭は真っ白になった。そして、気が付けば廊下を走り出していた。
ダリナは、初めてヴェロニカに会った日、彼女に怖い顔で忠告されてから、盗みをしていない。しかし、盗みをせずに生活していくのは大変だ。そんな生活の中、偶々自分を拾ってくれたのがハインリヒだ。
ハインリヒに何かあったらどうしよう。ダリナは、只々ハインリヒの事を心配しながら廊下を走った。
「お願いシマス! ハインリヒ様ニ会ワセテクダサイ!」
「駄目だ! ハインリヒ殿下は今大変な事になってるんだ。『炎の民』なんかを入れるわけにはいかない!」
ダリナはハインリヒの寝室の前で必死に頼むが、近衛兵は断固として拒否する。
ダリナは、とぼとぼと廊下を歩いて引き返す。自室に戻る途中で、侍女頭らしい女性とメイドの会話が聞こえてくる。
「聞いた? ハインリヒ殿下、毒殺されかけたらしいわよ」
「ああ、私も聞きました。コンラート様によると、植物から抽出された毒が使われたとか」
「殿下、今も意識が戻っていないんでしょう? 怖いわねえ……」
ハインリヒ殿下が毒殺?……許さない。あの人の命を奪うなんて、絶対に許さない!
ダリナは、ギュッと拳を握り締めた。
感想等を頂けると嬉しいです^^




