元悪役令嬢は文化祭を企画する5
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「あーあ、第二王子である僕に殴りかかってしまったねえ。もう君は自由にここに出入り出来なくなるねえ」
「なっ……王子だと!?」
組み伏せられた男は、目を丸くしてハインリヒを見上げた。どうやら、ハインリヒが第二王子だとは知らなかったらしい。
その後、男達三人は騒ぎを聞きつけた衛兵に連行されていった。連行される男達を、モーリッツは茫然と見つめている。
「残念だったねえ、バーダー公爵。……ああ、公爵はあの三人の男とは関係なかったんだっけ。ねえ、バーダー公爵。もしこの文化祭が成功したら、孤児院の取り壊しを中止してもらってもいいかなあ。孤児院の子供達が作ったものを販売できる仕組みが出来れば、地域の経済にも良い影響を与えると思うんだあ」
「……承知致しました、ハインリヒ殿下」
モーリッツは、悔しそうな顔でそう言うと、孤児院を後にした。
「それにしても……どうしようかしら、こんなになっちゃって」
ヴェロニカは、壊された露店を見つめながら溜息を吐いた。
「露店は私達が直すとして、あれはどうしましょう……」
ライナーが後ろを振り向いて言う。そこには、滅茶苦茶に壊された木製のステージがあった。男達は、露店だけではなく、ステージも壊していたのだ。
「もうすぐダンスをする時間なのに……」
側にいたハンナが泣きそうになる。それを見たダリナは考え込むような表情をすると、口を開いた。
「ワタシニ、イイカンガエ、アル。ミセデウッテルフクノキジ、ホシイ」
有志が開いている露店にある服飾用の生地の事を言っているのだろう。ヴェロニカは生地を何に使うのか不思議に想いながらも、ダリナを店に案内した。
◆ ◆ ◆
しばらくして、ダンスを披露する予定の時間が来た。来訪者達は、「あのステージって、壊れてるよね」「どうするんだろう」と心配そうに話している。
そんな中、庭の中央に現れたのはダリナ。簡素な白いワンピースの上に鮮やかな細いピンクの布を纏っている。
白いワンピースは元々ダリナが着ていたものだが、ピンクの布は露店で借りたものだ。ピンクの布が一枚あるだけで、洒落た雰囲気を醸し出している。
ダリナは、ふわりと足を前に踏み出すと、見事なステップで踊りながら、庭中を回っていった。そう。ステージが無いなら、こちらから庭中を移動していけば良いのだ。
ダリナは、ハンナの側まで来ると、ハンナに手を差し伸べた。
「アナタノダンスモ、ミテミタイ。イッショニ、オドリマショウ」
ハンナは一瞬きょとんとしていたが、すぐに満面の笑みを浮かべ、ダリナの手を取って応えた。
「うん、踊ろう、ダリナちゃん!」
ダリナとハンナのダンスを遠くで見つめながら、ヴェロニカが呟く。
「ダリナは、ダンスが得意なのね。とても美しい動きだわ」
「ダリナの故郷で伝統的に受け継がれている踊りらしいよー。綺麗だよねえ」
側にいたハインリヒも笑顔で説明する。
「……これを機に、『炎の民』への偏見が少しでも無くなれば良いのだが」
ハルトムートも、真剣な顔で言う。
ハルトムートの横顔を見ながら、ヴェロニカは思い出していた。ハルトムートの母親であるヘルガは、ダリナと同じ『炎の民』。ヘルガは、迫害を逃れる為に髪の毛を黒く染めている。
ハルトムートもヘルガも、ヴェロニカの中では既に大切な家族。『炎の民』への偏見が無くなるよう祈りながら、ヴェロニカはダリナ達のダンスを見つめた。
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