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元悪役令嬢は文化祭を企画する3

名前だけ出ていたあのキャラが登場!

 翌日の昼、ヴェロニカはハンナと共に街に出掛けた。文化祭は一か月後だが、色々と必要な物を買わなければいけない。


「このレーズン、パンに入れたら美味しいかもしれないわね」

「わあ、食べてみたい」


 ヴェロニカ達が果物屋の前で話していると、大きな声が聞こえた。


「おい、お前、盗んだだろう!!」


 驚いてヴェロニカが振り向くと、少し離れた所にある雑貨屋で、店主らしき中年男性が一人の少女を怒鳴りつけている。

 その少女は、赤く長い髪を垂らして俯いていた。その少女の顔に、ヴェロニカは見覚えがある。


「あ、あの時の……」


 ヴェロニカが以前義母のヘルガと出掛けた時にぶつかった、『炎の民』の少女だ。まさか、また盗みを働こうとしているのだろうか。



「……あの、この子、何かしたんですか?」


 恐る恐るヴェロニカが話し掛けると、店主は怒りを隠さずに答えた。


「ああ、貴族のお嬢さん。……この子が、うちのマグカップを盗んだんだよ。返せば許すと言っているのに、自分は盗っていないの一点張りなんだ。全く、これだから『炎の民』は……」


 『炎の民』への偏見はまだ根強く残っている。それはそうと、本当にこの少女がマグカップを盗んだのだろうか。

 ヴェロニカは、少女の方に向き直って聞く。


「……ねえ、本当にあなたがマグカップを盗んだの?」


 少女は、ゆるゆると首を振って言う。


「ウウン。ワタシ、ヌスンデナイ……」

「そう……」


 ヴェロニカは、店主に尋ねた。


「あの、盗まれたマグカップはどこに置いてあったんですか?」


 店主は、机のような台を指さして言った。


「この台の隅に置いてあったよ」


 その言葉を聞いたヴェロニカは、キョロキョロと台の周囲を見渡した。すると、台から少し離れた所に、白いマグカップが落ちているのが目に入る。


「もしかして、盗まれたマグカップというのはこれですか?」


 ヴェロニカがマグカップを拾い上げて聞くと、店主は目を丸くした。


「そうです、これです!……俺がただ落としただけだったんだな……」


 店主は、申し訳なさそうな顔で、少女に「疑って悪かった」と謝罪した。無事解放された少女は、おずおずとヴェロニカに話し掛ける。


「アノ……タスケテクレテ、アリガトウ。オネエサン、マエニモワタシトアッテル……」


 ヴェロニカは、微笑んで言った。


「ああ、覚えていてくれたのね、嬉しいわ。あなた、お名前は?」

「……ダリナ」

「そう……良い名前ね。私はヴェロニカよ」


 ダリナは、上目遣いでヴェロニカを見つめながら言った。


「オネエサンガ、コノマエ、チュウイシテクレタカラ、ワタシ、ヌスミシテナイ。イマ、チャントシタトコロデ、ハタライテル」

「そうなの、働き口が見つかって良かったわ」


 ヴェロニカがニッコリ笑った所で、後ろから声が聞こえた。


「あー、こんな所にいたのか、ダリナ。ごめんねえ、勝手に離れて」


 ヴェロニカが振り向くと、そこにはウェーブがかった黒髪をショートカットにした男性がいた。

 十代に見えるその男性に、ヴェロニカは見覚えがあった。


「え、ハインリヒ殿下……!?」


 ヴェロニカが思わず声を上げると、黒髪の男性は「シー」と言って指を唇に当てた。

 彼は、この国の第二王子であるハインリヒ・ハイゼンブルク。ヴェロニカより一歳年下の十七歳。

 ハインリヒは飛び級で学園を卒業した頭脳明晰な王子。しかし、あまり表舞台に姿を現さないので、彼の顔を知る平民は少ないだろう。

 今、彼は平民が着るような簡素な白いシャツに黒いズボンを身に着けているので、余計気付かれ辛い。


「久しぶり、アイスナー夫人。……といっても、あまり同じ授業を受けた事は無かったけどねえ」


 笑顔で話し掛けるハインリヒに、ヴェロニカは小声で応えた。


「お久しぶりです、殿下。……どうして護衛も付けずにこんな所にいらっしゃるのですか?」


 ハインリヒは、笑顔のまま説明する。


「ちょっと調べたい事があってね。平民の振りをして街に出ていたんだあ。人は少ない方が都合がいいから、僕が連れているのはここにいるダリナ一人だけだよ。ダリナは最近雇ったんだけど、優秀な護衛なんだあ」


 ヴェロニカは目を丸くした。ダリナは護衛として雇われていたのか。『炎の民』は身体能力が優れていると聞いているが、ハインリヒに認められる程とは。


「ところで、アイスナー夫人こそ、ここで何をしているの?」


 ハインリヒに聞かれ、ヴェロニカは孤児院でボランティアをしている事や、文化祭の為に買い出しをしている事を説明した。


「へえ……ボランティアねえ……話には聞いていたけど、アイスナー夫人が改心したって、本当だったんだね。人は変わろうと思えば変われるんだねえ」


 ハインリヒがしみじみと言った。学園にいた頃のヴェロニカは傲慢でプライドが高かったので、変わりように驚いているのだろう。


「お兄さん、ヴェロニカ先生の知り合いなの? 良かったら文化祭に来て下さい。私、文化祭でダンスを披露する予定なんです!」


 ハインリヒの正体を知らないハンナが無邪気に話し掛ける。ハインリヒは、笑顔で言った。


「へえ、ダンスか。見に行こうかな。……僕が個人的に孤児院に寄付をするのも良いかもしれないなあ」

「え! 本当ですか!」


 ハインリヒの言葉に、ヴェロニカは目を輝かせる。


「うん。将来僕の義姉になるだろうフリーデが君の世話になったみたいだしねえ」


 ハインリヒが孤児院を援助して、その話が民に広まれば、孤児院の取り壊しも撤回させる事が出来るかもしれない。ヴェロニカは、希望を抱きハインリヒを見つめた。

 そんなヴェロニカ達の様子を、モーリッツが遠くから見ていた事を、ヴェロニカは知らない。

少し不穏な予感……。

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