元悪役令嬢は文化祭を企画する1
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ある日の昼、いつも通り授業を終えヴェロニカが孤児院から帰ろうとすると、廊下で一人の女性に呼び止められた。
「ヴェロニカ様、少しお時間いいかしら」
呼び止めたのは、五十代くらいの女性。白髪交じりの黒髪をアップにしている。彼女は、この孤児院の院長であるイリーネ・アシュビー。
イリーネは元々男爵家の娘だったが、子爵家の男性の元に嫁いだ。しかし夫が若くして亡くなり、その後孤児院を運営するようになったらしい。
「はい、構いませんよ」
ヴェロニカは笑顔で答えると、イリーネと共に応接室に向かった。
応接室で二人きりになると、イリーネは溜息を吐いて言った。
「実はね、この孤児院……取り壊す話があるの」
「ええっ!!」
ヴェロニカは驚き、ソファから立ち上がりかけた。
イリーネの話によると、この孤児院を取り壊し、紡績工場を作る計画があるらしい。なんでも、この地域の領主であるモーリッツ・バーダーが、経済の活性化の為に決めたのだとか。
「今孤児院にいる子供達は、他の孤児院に移せば大丈夫だろうと領主様は言うんだけどね。孤児院の受け入れ態勢にも限界があるし、子供達の今後が不安で……」
イリーネが、頬に手を当てて心配そうに言う。何とか、孤児院を残す事は出来ないだろうか。
「……分かりました。旦那様に、相談してみます」
ヴェロニカは、真剣な顔で頷いた。
◆ ◆ ◆
その夜、ハルトムートとリビングで二人きりになると、ヴェロニカは早速孤児院の取り壊しの件について相談した。
ハルトムートは、考え込む表情で言った。
「……モーリッツ・バーダーというと、公爵家の当主だな。傾きかけた公爵家を盛り立てた実力者と聞いている。孤児院取り壊しを撤回させるのは、難しいかもしれないな」
「そんな……」
「孤児院を取り壊さないよう、大多数の住民から要望があれば別かもしれないが……。さすがの公爵様も、税金を納めている住民の意見を無視する事は出来ないだろうからな」
「そうですか……」
そう呟くと、ヴェロニカは無言で考え込んでしまった。
◆ ◆ ◆
翌日、ヴェロニカは再度孤児院に赴き、応接室でイリーネと向かい合った。ヴェロニカは、紅茶を一口飲んだ後、早速切り出す。
「院長先生、この孤児院で、文化祭を開催しませんか?」
「文化祭?」
「はい、異国の本で知ったのですが、文化祭では子供達の作った物を売ったり、劇や歌やダンスを披露するんです。そうすれば、住民も孤児院を残したいと思ってくれるかもしれません」
イリーネは、心配そうな顔で首を傾げる。
「でも、文化祭なんて今までした事が無いし、上手くいくかしら……?」
「それなら、僕達に任せて下さい!」
急に応接室のドアがバンと開いたかと思うと、カミルが声を上げた。側には、ゲオルクやハンナもいる。
「あなた達、今は他の先生の授業中じゃ……」
「孤児院が取り壊されるかもしれないという話は聞いています。院長とヴェロニカ先生の話が気になって、失礼ながら授業をサボって立ち聞きさせて頂きました。文化祭をするという事でしたら、僕達に任せて下さい。僕は、催し物を計画するのが好きなんです」
落ち着いた雰囲気のカミルにこんな一面があったとは。ヴェロニカは驚いたものの、笑顔で応えた。
「じゃあ、今日の授業が終わったら、話し合いましょう。もう授業をサボってはダメよ」
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