元悪役令嬢は義母に会う2
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二人で街に出て店を回ると、ヴェロニカはヘルガの知識の深さを知る事となった。果物を売る店の前では、どの地域の気候が良くて、どんな果物がよく採れるのかを教えてくれた。服屋の前では、今どういうデザインが流行っていて、どういう技術が使われているのかを教えてくれた。
二人が街を歩いていると、ヴェロニカは一人の少女とぶつかった。赤い髪を長く垂らした少女で、十歳にも満たないように思えた。少女は、古びた簡素な服を着ている。
ヴェロニカは、赤い髪の少女の腕を掴むと、怖い顔で異国の言葉を囁いた。そして、少女が怯えたように頷くと、にっこり笑って手を離した。少女は、慌てた様子で走り去っていった。
「あなた、異国の言葉が話せたのね。なんて言ったの?」
ヘルガが驚いた顔で言った。
「あの子、私の懐からお金を盗もうとしていたんです。だから、『この国で目立つ事はしない方がいい。何をされるかわからないわよ』って言ったんです。……あの子、『炎の民』のようでしたから」
「炎の民」とは、隣国にいる一部の人種の事だ。鮮やかな赤い髪が特徴で、差別や迫害の対象となっている。身体能力が高く、かつては戦争で活躍したそうだ。今、この国に移住してくる「炎の民」が増えている。
今の王になってから、差別は無くなりつつあるが、まだ差別意識のある貴族は多い。もちろん、ヴェロニカは差別などしないが、脅しておかなければあの子が犯罪に手を染めるかもしれない。前科者の「炎の民」の末路など、想像したくもない。
「そう……あの子の為にそんな事を言ったのね……」
ヘルガは、真顔で呟いた。
◆ ◆ ◆
アイスナー邸に戻った後、ヴェロニカとヘルガはリビングでお茶をしていた。経済の話で盛り上がっていたが、不意にヘルガが話題を変えた。
「ねえ、ヴェロニカさん……ハルトムートとの間に子供をもうける事は考えているの?」
「こ……子供ですか……欲しいとは思っていますが……」
実は、まだハルトムートと寝室を共にしていない。
「もし子供をもうけるなら、覚悟して欲しいの。……もしかしたら、赤い髪の子供が生まれるかもしれない」
「それは……お義母さんが髪を染めている事と関係あるのでしょうか?」
ヘルガは、一瞬目を見開いた。ヴェロニカは、ヘルガが髪を染めている事に気付いていたのだ。
「そう。私は……『炎の民』なの。本当は、赤い髪をしているのよ」
聞くと、ヘルガは子供の時この国に移住していたが、迫害を受け、髪の毛を染めるようになったらしい。シュテファンは、ヘルガが「炎の民」だと知って結婚したと言う。
「ハルトムートは幸いにも真っ赤な髪にはならなかったけど、あなた達の子供はどうなるかわからないわ」
そういう事だったか。
「……将来の事はわかりませんが、もし子供が生まれたら、どんな事があっても、守ってみせます。立派に育ててみせます」
「そう……あなたがお嫁さんで良かったわ。ハルトムートの事をよろしくね、ヴェロニカさん」
ヘルガは、優しく微笑んだ。
その夜、帰宅したハルトムートは、急にアイスナー邸に来たヘルガに文句を言っていたが、何だかんだ仲の良い親子に見えた。
次の日の朝、ヘルガは今拠点としている地域に帰っていったが、帰り際に馬車に乗りながら、こんな事を言った。
「孫に会えるのを楽しみにしてるわー」
それを聞いたヴェロニカは、顔を真っ赤にする。馬車が遠ざかるのを、ハルトムートは目を丸くして見ていた。
「孫の話をするなんて珍しいな……もしかして、『炎の民』の事を聞いたのか?」
ハルトムートは、ヴェロニカの方を向いて尋ねた。
「……はい」
「……そうか……」
ハルトムートはしばらく黙り込んでいたが、申し訳なさそうに言った。
「……済まなかったな。君は好き好んでここに嫁いできたわけでもないのに子供を急かすような事など……。母は、君が私に惚れていると勘違いしているんだ」
ハルトムートは、ヴェロニカが嫁いだ初日に冷たい態度を取った。そんな自分がヴェロニカに好かれるはずが無いと思っているのだ。
「いえ、そんな……」
ヴェロニカも首を横に振りながら、今までの事を思い返した。ハルトムートは優しいが、きっと誰にでも優しいのだろう。舞い上がってはいけない。
「……中に入ろうか」
「……はい」
ヴェロニカは、ハルトムートの言葉に頷いた。そして、少し寂しい気持ちになりながら屋敷の中へと入っていった。
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