元悪役令嬢は数学を教える2
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その後しばらく雑談をした後、ヴェロニカはハルトムートと共に孤児院へと足を踏み入れた。
教員室で授業の準備をしてから、ヴェロニカは教室に向かう。教室に入ったヴェロニカが教壇に立つと、早速授業が始まった。ちらりと見ると、教室の後ろの隅にハルトムートが佇んでいる。この授業の生徒は十歳くらいの少年が四人だけなので、隅に居ても目立つのだが。
「では、先日の復習から。サイン30°は1/2なので、この計算は……」
「待て待て待て待て!」
思わずハルトムートが声を上げた。
「どうなさいました? 旦那様」
ヴェロニカが不思議そうに首を傾げる。
「どうしたも何も、この年齢の子供には難しいんじゃないか?」
「もう基礎は出来ているので、大丈夫です。それに、この子達は、将来大工になりたいのです」
「大工?」
「はい。ただの作業員ではなく、設計も出来るようになりたいとの事です。そうなると、三角比の知識が必要になるので、教えているのです」
「……きちんと考えて教えているのだな」
「はい」
ヴェロニカは、ニッコリと微笑んだ。その後、何事も無かったかのように授業は再開された。
ヴェロニカの授業が終わり、ヴェロニカとハルトムートは廊下へと出た。すると、教室に入ろうとするライナーとすれ違う。
「あら、ライナーさん、こんにちは。ライナーさんの地理の授業はこれからですか?」
「はい、アイスナー夫人。今日はカラフルな地図を用意……っと、失礼致しました。アイスナー伯爵もご一緒だったのですね」
靴職人のライナーは、ハルトムートの存在に気付くと慌てて挨拶する。
「畏まらなくても大丈夫だ。私の事を知っているようだが、改めて自己紹介しよう。ハルトムート・アイスナーだ。いつも妻が世話になっているな」
「いえいえ、こちらこそ奥様にはお世話になっておりまして……」
ライナーが笑顔で応えると、ヴェロニカも微笑んで言った。
「ライナーさんは凄いんですよ。職人さんなだけあって、子供達の興味を引きそうな教材を作ったりするんです。それに優しくて、子供達からもすごく慕われているんですよ」
べた褒めである。それを聞いたハルトムートは、少し不愉快そうな表情を浮かべる。
「……そうか。しかし、忘れるなよ、ヴェロニカ。君は、私の妻だ」
そう言うと、人前だというのに、ハルトムートはヴェロニカを後ろから抱き締めた。
「だっ、旦那様、何を……!!」
「おお、お熱いですね。私は邪魔者のようです。それでは、失礼致します」
ライナーは、苦笑してそう言うと、教室へと入っていった。
◆ ◆ ◆
その日の夜、ヴェロニカとハルトムートは、リビングで二人きりになった。
「今日授業を見ていて思ったが……君は本当に、知識が豊富だな」
今日、ヴェロニカは数学だけではなく、経済と歴史の授業も行った。
「読書が好きですからね。ある程度の知識はあると自負しております」
「そういえば、以前はずっと書庫にこもっていたな。……最近は、以前より書庫にこもる時間が少ないようだが、いいのか?」
「はい。充実した時間を過ごしております」
書庫にこもる時間も好きだが、ボランティアをする時間も、こうしてハルトムートと話す時間も大切に思っている。
「そう言えば、旦那様。先程は、どうして人前なのに私を抱き締めたりしたんですか。その……恥ずかしかったです」
「ああ、気にするな。ただの嫉妬だ」
「しっ……!!」
ヴェロニカは、顔を赤くした。ハルトムートは、嫉妬してくれているのか。いやいや、舞い上がってはいけない。彼は、自分の物を盗られるのが嫌なだけかもしれないのだ。
しかし、ハルトムートと良い関係を築けているのは事実。こんな日々が長く続けば良いと、ヴェロニカは思った。
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