元悪役令嬢はデートに誘われる2
ヴェロニカの知識がさく裂(?)
「あの、もし。炎の色を変える程度なら、私にも出来ますよ。デザインを気に入ったのならともかく、災いを恐れてそのペンダントを買う必要は無いかと」
ヴェロニカが貴族女性に声を掛けると、その女性は驚いて振り向いた。
「あ、あなたはアイスナー夫人……。話を聞いていらしたんですね……。炎の色を変える事など、本当に出来るのですか……?」
「はい、見ていて下さい」
ヴェロニカは、籠からホウ酸団子を取り出す。屋敷の虫を駆除する為に先程買ったものだ。そして、ホウ酸団子の一部を陶器に入れると、「ちょっと失礼」と言って、店主の持っていたマッチを一本手に取った。
そしてヴェロニカがマッチに火を着け、陶器に火を近づけると――炎が緑色に変化した。
「まあ……!!」
貴族女性が、口元に両手を当てて声を上げる。一方、老婆は、苦虫を嚙み潰したような表情で押し黙ってしまった。
ヴェロニカは、貴族女性の方に向き直ると説明した。
「このホウ酸団子に含まれるホウ素というものが、炎を緑色に変化させるんです。先程の場合は、この陶器にミョウバンを混ぜたアルコールか何かが入っていたんでしょう。ミョウバンに含まれるカリウムというものは、炎を赤紫に変化させるので……」
「そうだったんですか……」
女性は呟くと、老婆の方をキッと睨んだ。
「よくも騙そうとしてくれたわね! 衛兵に突き出してやろうかしら」
「ひいっ、勘弁して下さい!」
老婆は、そそくさと店を畳むと、逃げて行った。
逃げる老婆の後姿を見ながら、ヴェロニカが言う。
「旦那様。あの店主、放っておいていいんでしょうか?」
「君が被害を未然に防いだからな。詐欺を行ったとして投獄するのは難しい」
「ああ……」
「でも、君は間違いなく一人の女性を詐欺の被害から救ったんだ。誇って良い」
貴族女性も、ヴェロニカの方に近付いて言う。
「助けて下さって、ありがとうございました。……ヴェロニカ様というと、浪費家でプライドが高いという噂でしたが、実際には優しくて知識が豊富な素敵な方だったんですね」
「そ、そんな……」
ヴェロニカは謙遜したが、まんざらでもなさそうだ。
その後ヴェロニカ達は女性と別れ、しばらく買い物を楽しんだ後、帰宅した。
◆ ◆ ◆
夜になり、自室のベッドに腰掛けながら、ヴェロニカは今日の事を思い返していた。
一人の女性を詐欺の被害から守る事が出来て良かった。しかも、それをハルトムートに褒められた。嬉しい。
……それに、ハルトムートは、ヴェロニカが孤児院の子供の事ばかり話しても嫌な顔せず買い物に付き合ってくれた。優しい人だ。
でも、舞い上がってはいけない。ヴェロニカはあくまで、形だけの妻なのだから。
ヴェロニカがそんな事を考えていると、部屋のドアがノックされた。
「どなた?」
ヴェロニカが聞くと、思わぬ人物の声が聞こえた。
「私だ、ハルトムートだ。……ヴェロニカ、少しいいか?」
「は、はい!」
ヴェロニカは、慌ててドアに駆け寄った。どうしたんだろう。ハルトムートがヴェロニカの部屋を訪れるなんて、今まで無かった事だ。
ヴェロニカがドアを開けると、そこには少し緊張した面持ちのハルトムートがいた。
「どうなさいました? 旦那様」
ヴェロニカが首を傾げると、ハルトムートは手に持っていた小さくて細長い木箱を差し出した。
「ヴェロニカ、良ければなんだが……これを受け取ってくれないか」
「はあ……開けても宜しいですか?」
「もちろんだ」
ヴェロニカが木箱を開けると、そこには黄色い宝石の嵌ったペンダントが入っていた。
「これは……」
「私の瞳の色をした宝石だ。君は私の、つ……妻だからな。これくらいプレゼントさせてくれ」
ハルトムートからプレゼントを貰うのは、初めての事だ。ヴェロニカは、手に取ったペンダントを眺めながら、満面の笑みを浮かべた。
例え形だけの妻であろうと、今はこの幸せを噛み締めていたい。ヴェロニカは、ハルトムートの優しい表情にも気付かずに、ペンダントを大切に両手で包み込んだ。
まだヴェロニカはハルトムートの気持ちに気付かないようです^^




