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45.「てげうめぇ」の速射砲・後編 ~宮崎グルメ~

「ご当地グルメを通してお客様にギンギンになって欲しい」のキャッチコピーでお馴染みの認識番号観光株式会社、首席ツアープランナーの認識番号8830でございます。前回は宮崎のご当地レストラン・おぐらチェーンのチキン南蛮を熱烈プレゼン。この勢いのまま次なる宮崎グルメのご提案をさせて頂きましょう。それでは後編、始まります。


 

 繰り返すようだが宮崎は「てげうめぇ」で溢れている。おぐらチェーン以外で個人的に強くおススメしたいのは宮崎市内に数店舗展開している居酒屋チェーンの「ぐんけい」。そこで提供される鶏料理はあまりの美味さに顎とか恥骨が外れるほど。今でも宮崎旅行の際は必ず一度は訪れる宮崎グルメの秘密兵器だ。


 

 ぐんけいの看板メニューは鶏もも肉を炭火で焼いた「もも焼き」。いわゆる「鶏の炭火焼き」に分類されるメニューだ。酒好きにとっての頼もしい味方であるそれはビールのあてとして圧倒的破壊力を誇るゆえに今や日本中の居酒屋、スーパーやコンビニのお総菜コーナーに並んでいるが、ぐんけいを始め宮崎の居酒屋さんで提供されるものは似て非なる物。同じ括りでなく、「宮崎の炭火焼き」という別の食べ物と考えた方が良いほどその違いは歴然。世間一般的な炭火焼の特徴である「塩気が利いてコリコリと噛み応えがある」とは全く異なり、本場の炭火焼はとにかくやわらかい。

 特にぐんけいの「もも焼き」は地頭鶏じとっこという希少な品種の鶏を炭火で焼いたもので、有象無象の炭火焼きでは到底及びようもないクオリティを誇る。やわらかくも力強いボディを噛み締めた瞬間に肉汁と脂が溢れ出すのだが、その美味しさ、その素晴らしさ、その幸福感を表現するにはあまりにも私のボキャブラリーは貧相過ぎる。論ずる術がない。「最高」としか言いようがない。きっと旨味成分的なサムシングが凝縮しているのだろう、自然と口から「てげうめぇ」との感嘆が漏れる。そしてそこへキンキンに冷えたビールを投入すると口腔内で何かがスパーキングし、影山ヒロノブでなくとてシャウトしたくなる。これは天国へのパスポート。こうなれば「もも焼き」→「ビール」→「もも焼き」→「ビール」の無限ループが止まらない。これだけでも二日酔いは約束されたようなものなのに、更に柚子胡椒を使った味変もあるので酒飲みは完全にブレーキが利かない状況となる。もう、どうにかなっちまいそうだ。

 将来を約束した愛する人ともも焼きとビール。この幸福の三重奏に酔いしれて欲しい。こうなれば「てげうめぇ」だけでなく、もも焼きをがっつきながらビールを煽っている美しい妻の姿に思わず「君はバラより美しい」なんて言葉が出てしまうかもしれない。そんなロマンチックな時間を楽しんでほしい。


 一応注意しておくが、一度この味を知ってしまったら他の炭火焼が食べれなくなる危険性がある。実際、こんな事があった。宮崎旅行から帰ってきて数日経った頃、家族が「某セ○ンイ○ブン」の鶏の炭火焼を買ってきてくれていたので晩酌の肴にしたのだが、まるで多摩川の河川敷で拾ってきた石ころでも食べているかのような不快感。買ってきてくれた家族、鶏を育ててくれた農家さん、料理してくれた誰かさんに申し訳ないと思いつつも、結局は残してしまった。私も炭火焼を見るとついつい手に取ってしまう酒飲みの端くれだ。セブンの炭火焼を見るといつだってギンギンになってたのに、ぐんけいのもも焼きを食べてからしばらくの間、このようにまったくエレクトしなくなった。いわゆる「炭火焼ED」だ。

 ちなみに前回の宮崎旅行から何年も経つので、今ではセブンのやつも「てげうめぇ」と言いながら食べている。私が記憶力もあまり良くない上にバカ舌にも定評がある男だからだろう。ただ、貴方がしっかりとした記憶力と、しっかりとした味覚をお持ちなら今後一生宮崎以外で炭火焼を食べれなくなるかもしれない。ゆえに覚悟を決めてから臨んで欲しい。


 もも焼きをガブガブ食べ、ビールをガブガブ飲んだ後の〆は「鶏飯」をどうぞ。農林水産省のHPで確認してみると元は鹿児島県の奄美群島の郷土料理らしい。ほぐした鶏肉、干ししいたけ、錦糸卵、パパイヤの味噌漬け、みかんの皮などをご飯にのせ、鶏ガラスープをかけて頂く料理らしいが、宮崎に伝わる際にレシピがアレンジされたのか知らないがほぐした鶏肉、干ししいたけは同じでもゴボウや人参といった「かしわ飯」に使われそうな具材へと、フルモデルチェンジに近い大きな変化を起こしている。それに海苔をまぶし、鶏ガラからとったスープをかけて頂くわけだが、このような簡単な説明でもご理解いただけると思うが不味いわけがない。個人的には飲みの〆としては米系で最強レベルだ。ちなみに飲みの〆としてラーメンと双璧をなすお茶漬けと似ていて、ご飯は少なめ、スープは多めが良しとされ、さらさらと掻き込むようにして頂くのが是とされる。弱った胃の消化を助けるために水分多めで体に優しいのも嬉しい。

 

 絶品のもも焼きに始まり最後にこの鶏飯で〆る、この美しいとさえ言える一連の流れを提供してくれるゆえに私はぐんけいをこよなく愛している。この喜びを新婚の二人にも味わってほしいと思う次第だ。

 それとこれはついでだが、ぐんけいで「鳥のレバーの塩辛」をメニューに見つけたら是非注文を。もし出会えたならば超ラッキー。何回も通ってるぐんけいだが、1度しか見た事ない幻のメニューだ。絶妙な塩気と旨味でとにかくビールが捗る。この塩辛のことを考えると「あの塩辛、てげうまかったなあ」と、「昔食べたあの料理の味が忘れられないので探してくれ」と山岡さんに相談する美味しんぼのゲストキャラクターみたいな気持ちになってしまう。嗚呼、また喰いたいなぁ・・・

 

 

 

 ぐんけいを堪能した翌朝。前日の夜にあれだけアグレッシブに鶏飯を決めてたのが嘘みたいに二日酔いが酷い。きっとそう言う危機的状況に陥ってることだろう。厳密には病気と言うわけではないが、「健やかなる時も病める時も云々~」と誓った二人だ。このピンチも手を取り合って乗り越えて欲しい。そんな時には宮崎県の母の味、「冷や汁」を投入だ。おぐらのチキン南蛮やぐんけいのもも焼きが宮崎人にとっての「特別」な「てげうめぇ」だとするなら、対する冷や汁は「日常」に根付いた「てげうめぇ」だ。ご飯にお味噌汁をぶっかけた「猫まんま」みたいなビジュアルだが、見た目ほど単純な料理ではない。意外と調理工程は複雑だ。これまた農水省のHPからの情報によると焼いた魚の身をほぐしたものに味噌をすり合わせ、更に手でほぐした豆腐も加え、それを冷ましたお湯で溶き、きゅうり、青じそ等の薬味をのせたご飯にかけて頂くとの事。元々が「夏の食欲がない時期でも食べられるように」との発想で生まれた料理らしいので、同じく食欲がない二日酔いの朝でもスルスルと頂ける郷土料理だ。これも宮崎に旅行に行った際には是非。

 この「冷や汁」だが、昔はやよい軒の夏場の季節限定メニューとしてたまに提供されてたくらいのカルト的郷土料理だったのに、最近は本場宮崎以外でもちょくちょく見かけるようになった。実際、この夏はイオン、ミニストップ、無印良品でレトルトが販売されてたし、驚いたことに先日行った旅行先の神戸では冷や汁専門店も見かけた。ひょっとしたら全国的にちょっとしたブームになっているのかもしれない。そうなれば「冷や汁の本場・宮崎で食べた」という事実は何となく自慢出来そうなので、そういう意味でもこの旅行中に確実に押さえておきたい。

 それに冷や汁が奥さんのレパートリーに加わるなら地球温暖化対策として心強いことこの上なし。暑い日が続く中、蕎麦、素麺、冷やし中華のローテーションだけでは心もとないが、これに冷や汁が加わると鬼に金棒。夏バテで食欲がない際もスルスルをいけるのは前述のとおり。二人で築く新しい家庭の食卓に並ぶよう、冷や汁の魅力を奥さんに叩き込んでおこう。



 ここまで認識番号観光株式会社の首席ツアープランナーとして旅行初日から2日目の朝までのプランをご紹介させて頂いたが、私からの次のご提案。完全にプレゼンとしては破綻しているが、「2日の昼からは自由行動」でお願いします。気になったお店を見つけたらとりあえず突撃して欲しい。

「職務放棄だ!」と憤慨される読者様もいらっしゃるだろう。その気持ちも分かる。ただ、宮崎には魅力的なものがあり過ぎるのでこれ以上詳細な説明を続けるのはちょっと厳しい。膨大な量になってしまうので書き切れる気がしない。そう言うわけで読者の皆様には何卒御容赦頂きたい。

 

 とは言え、これはこれで立派な旅のプランになりうるのも事実。何故なら、チキン南蛮、もも焼き、冷や汁ですら宮崎グルメの氷山の一角。何度行ったか分からないが宮崎は美味いものだらけ。よって私の案内がなくても大丈夫。適当な店選びをしても「てげうめぇ」が速射砲のような勢いで口から飛び出す事になるだろう。大事なのは知らないお店に突撃する勇気だけ。そもそも相手は飲食店だ。同じ「突撃」でも知らないお家の晩御飯に突撃するヨネスケに比べたら難易度は明らかに低い。愛しあう二人ならこの状況も手を取り合う事で乗り越えられると私は信じている。

 それでは、これから畳みかける様に行かせて頂きます。


 

 居酒屋は総じてレベルが高いので「ぐんけい」以外のお店も決して無視出来ない。「肉と魚」がバカみたいに美味い土地柄ゆえ、「ぐんけいが満席だったので別の店に行くか」と適当に入ったお店が大当たり、「てげうめぇ」と叫んだことが何度もある。その時の私たちがたまたま運が良かったのもあるかもしれないが、個人的な経験上、宮崎の居酒屋でハズレを引いた記憶がない。ぐんけいほどの鶏の炭火焼は出なかったけど、代わりに牛肉系や海鮮系でとんでもないブツに巡り合えた。そんな記憶ばかり残っている。積極的に突撃しよう。


 畜産も盛んなので、焼肉屋に突撃するのもありだ。知らない焼肉屋さんへの飛び込みは本来危険なもの。飛び込み営業と同じくらい、場合によってはそれよりも成功率が低いが、宮崎の焼肉屋さんなら適当な店選びでも高確率で美味い店にあたる。しかも都会と比べたら明らかに安い。財布の事は気にせずにたらふく食べるチャンス。この千載一遇の機会をものにして欲しい。

 

 更にこの地は果物の有名な産地。日向夏やマンゴーなんかも外せない。果実そのものを食べるのも悪くないが、それらを使った南国らしいソフトクリームは更に良い。ドライブ中にソフトクリーム屋を見つけたら必ず立ち寄って注文しよう。きっと2人の旅を鮮やかに彩るアクセントとなる事請け合いだ。 


 そうそう、おやつ的なものと言えば佐土原町の名物「鯨ようかん」を忘れてはいけない。これまた要チェックだ。名称に羊羹が含まれているが、「和菓子目・羊羹科」ではなく「和菓子目・あんころ餅科」に分類される、「赤福」や「博多ブラブラ」と同系統の「やわらかいお餅+あんこ」のお菓子で、餅をあんこでくるんだ赤福に対し、こちらはお餅をあんこで挟んだスタイルが特徴だ。

 残念な事に生ものなので日持ちがしないのは赤福と同じ。その日持ちの悪さは「お菓子の刺身」と言われてるくらいで、「賞味期限=製造日の当日」の儚い命。なので、必然的に職場へのお土産には不向き。まあ、こちらがお願いした仕事を素直にやってくれる事務の女の子や、愚痴を黙って聞いてくれるような優しい先輩に食べさせるのならいざ知らず、新婚旅行から帰ってきた途端に「新婚旅行どうだった?それはさておき早速だけどこの資料を昼過ぎまでに纏めてくれる」と無茶振りする機会を手ぐすね引いて待っているクソ上司に食べさせるには過ぎた代物なのでそれはそれで良しとしよう。ちなみにこれ系のお菓子らしく賞味期限内でもある程度の時間が経ったら餅の部分が硬くなって美味しさが半減する。そんな劣化バージョンなら上司に与えても問題ないだろう。

 この銘菓は佐土原町に行かなくても宮崎空港で売ってるらしい。新婚の二人は必ず食べておくように。 


 嗚呼、駆け足で進めてるのにまだ終わらない。言い残している事は山のようにあるが、これで最後にしよう。おぐらチェーンを極めるのは個人的におススメだ。

 聖地・おぐらのチキン南蛮が絶品なのは神様でも否定しようのない事実だが、おぐらはチキン南蛮だけのお店でないのもまた事実。ファミリーレストランであるおぐらの他のメニューを掘り下げるのもやり甲斐がある作業だ。私の宮崎の友人が絶賛している、チキン南蛮が半分、ハンバーグが半分の「ビジネスセット」なんかどうだろう。チキン南蛮が半分消え、その分をハンバーグが補う事がビジネスと何の因果関係があるのか不明だが、肉食のハートをくすぐる魅力的なメニューなのは間違いない。カレーも気になる。この手のファミレスのカレーはやたらと美味いケースがあるので油断出来ない。

 何て思うも、おぐらに行った際はいつも「チキン南蛮を頼まないと」という強迫観念に駆られているので個人的にはチキン南蛮以外全て未食だ。これを読んでいる新郎新婦の皆様。私の代わりにトライしてもらいたい。



 

 新婚旅行の候補地として宮崎県の魅力を長々とご紹介させて頂いたわけだが、あまりにも収拾がつかな過ぎて自分でも何が言いたいか分からなくなってしまった。どうやら色々と詰め込み過ぎてしまったようだ。当初はチキン南蛮に絞った話を書こうと思っていたのに、「宮崎に触れるならぐんけいの事も少し」と、無茶してでも話にねじ込みたくなるほど魅力的なものが多かったので無茶してねじ込み続けてみたらこの有様。話が迷走しがちなのはこのエッセイの「仕様」のようなものなのだが、我ながら今回は酷過ぎると猛省する次第です。


 まあ、これを読んで「機会があれば宮崎に行ってみようかな」と、少しでも興味を持ってくださればこの駄文にも何かしらの意味があるのかもしれない。もしそんなブラザー(※このエッセイを読んで下さってる紳士)やシスター(※このエッセイを読んで下さってる淑女)がいらっしゃるのならこう言いたい。「宮崎、気になったなら絶対行ったほうが良いですよ」と。そして実際に旅行し、宮崎グルメで舌鼓を打った際はこの合言葉を叫ぶのもお忘れなきよう。


「てげうめぇ!!」

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