40.マクドナルドの3つの罪・前編
ジャンクフード(JUNK FOOD)の「Junk」は英語で「がらくた」や「屑」を意味するが、その単語から綴りが似た別の単語を連想するのは私だけだろうか。それは麻薬中毒者を意味する「Junkie」。定期的に食べたくなるではなく、定期的に食べないと禁断症状が出るのがジャンクフード。もはや合法ドラッグと言っていいくらいだ。
そんなジャンクフードの代表格と言えばやはりハンバーガーが挙げられるだろう。某有名グルメ漫画に出てくる、某有名陶芸家は「アメリカ生まれのあさましい食べ物」と辛辣な評価をしていたが、実際にこれを嫌いな人なんて彼とヴィーガンの人たちくらいしか見た事がない。それどころか「ハンバーガーが嫌いなんて嘘に決まってるだろ」と疑ってしまう。「口ではああ言ってるけど、海原雄山だって中川やおチヨの目を忍んではコソコソとそれに齧り付いているに違いない」なんてゲスな勘繰りをしてしまうほどだ。
そんなジャンクフードの雄であるハンバーガー。今この瞬間にもそれに対する禁断症状に陥って唾液を垂れ流している人がいる事だろう。それも日本全国津々浦々、老若男女問わずだ。
そんなジャンキーさんたちのおかげで日本はチェーンのハンバーガー屋さんで溢れている。誰もがその中でお気に入りのチェーンを持っているが、「これこそが伝統的なハンバーガー」と言わんばかりな直火焼きのワイルドなパティとケチャップ主体の素朴な味付けが堪らない「ワッパー」を提供してくれるバーガーキング、バーガーも美味いけどサイドの「ウェンディーズチリ」が病みつきになるウェンディーズは私の大のお気に入りだ。スパイシーな気分の時はハラペーニョの刺激が堪らない「スパイシーモスバーガー」がストライクゾーンど真ん中のモスバーガーも捨てがたい。モスと言えば他のチェーンであまり見かけない「チリドッグ」と「メロンソーダ」が定番メニューに入ってるのも嬉しい。「メロンソーダとチリドッグがあれば生きていける」と思っている私たちにとっての最後の砦だ。
と、色んなチェーンの良さを話してみたものの、何だかんだ言って私はマクドナルドのヘヴィユーザーだ。マックの価格の安さ、回転率の速さ、立地の良さが影響しているのもあるが、やはり決め手はお気に入りの「てりやきバーガー」があるから。濃厚なてりやきソースが荒々しい美味さを迸らせているが、スイートレモンソースの酸味とレタスのさっぱり感によりくどさは一切感じない。おかげで何度食べても飽きない逸品だ。実際、10代の頃に初めて食べて以来、かれこれ30年近くそればっかり飽きずに食べ続けている。こうなったらもう私とてりやきの関係は親子以上の関係と言っても差し支えないほどだ。
そんな「筋金入りのてりやき喰い」を自称する私だが、季節限定の商品がある時は例外。風流を愛でるのは教養ある日本人の嗜み。そう言うわけでマックでは季節ごとに時候のハンバーガーを楽しませて頂いている。
先日は秋の風物詩である「月見バーガー」を食してきた。月見には長年に渡りお世話になっている。何故なら定期的に起こる私の中の「佐世保不足」を解消してくれるから。大恩人と言っても過言ではない。
長崎県佐世保市のご当地バーガーである「佐世保バーガー」は主たる具材が「パティ+玉子+ベーコン」のハンバーガーだ。どう考えても美味しいものしか出来上がらない組み合わせ。学生時代にこいつを初めて食べた際は「こんなに食べ応えがあるハンバーガーが存在するとは!」と感動したものだ。特に玉子が私的に強く刺さった。以降、定期的にこの組み合わせを欲するようになるものの、玉子を使ったハンバーガーは意外と販売されてない。しかし、現地まで食べに行くのは時間もお金もかかる。そんな悩みを解決してくれたのが我らが月見。多少の違いはあれど「パティ+玉子+ベーコン」と核となる部分は佐世保バーガーと同様の構成。年に一度とは言え佐世保ライクな玉子を挟んだハンバーガーを堪能できるのは有難いに尽きる。
そんな月見バーガー、今年も相変わらず美味かった。だってそうだろう、どう考えても美味しいものしか出来上がらない組み合わせだ。そしてそれをさらなる高みへと昇華させるのが8年ぶりにリニューアルしたソース。今までのソースよりも格段にレベルアップしている感がある。「どうレベルアップしてるんですか?」なんて聞かれても味音痴なので具体的にどうリニューアルしたのか分からないが、とにかく玉子を始めとした具材と非常にマッチしていた。それは「奇跡的相性」と言っても過言ではない。「期間中にもう一回食べたい」と思わせてくれる傑作だ。多分まだ間に合うので、まだ食べてないブラザーはマックへ走ってそれを堪能して欲しい。
あと、同時販売している期間限定マックシェイク「シャインマスカット味」もお忘れなきよう。こんな日本語が存在するのか分からないが、あっさりとした甘さが舌に心地よいこいつは「必飲」の一品。読んで字のごとし、「必ず飲むべし」だ。
こんな素晴らしい食体験を提供してくれたのだからマクドナルドに感謝の一言でも言うべきなのだろう。だが、実は私の中ではマックに対するある種のわだかまりが出来ているせいで素直にそう言えない自分がいる。今年に入ってから立て続けに釈然としない状況に見舞われたからだ。そう、「マックは俺を怒らせた」のだ。
今からマクドナルドが犯した罪を三つ数えよう。もちろん強要は出来ないが、仮にマクドナルドの運営の方がいらっしゃるのなら正座しながら読んで頂きたい。
『1.ナゲットソースの追加が別料金になった』
実はナゲットを注文した際、店員さんに頼むとソースを2個もらう事が出来た。それがいつも間にか「ナゲット1個につきソースは1個のみ」に改悪されていた。つまり2個目のソースが欲しければ1個40円で単品注文しなければならなくなったのだ。これはつらい。
私はマクドナルドのマスタードソースを偏愛しているので、ナゲットだけではなく、ポテトにもこいつが必要だ。「ハンバーガー+ポテト+ドリンク」のセットを頼み、更にナゲットを追加する「マクドナルドのフルコンボ」の際にマスタードソースを2個注文し、それにポテトをどっぷりと浸して食べるのが最高だったのに。しかし、今これをやろうとすると40円多く払わされる。ソースが1個だけだとポテトとナゲット双方をカバーする事は出来ないので仕方なく追加注文するが、何となく癪な気持ちになるのは生来の貧乏気質ゆえか。
ついでに言うと20円だったソースの売価がしれっと40円に値上げされているのも気にくわない。フルコンボを決める自信がない時は「ハンバーガー+ポテト+ドリンク」にマスタードソースを追加して食べていたのに、それが20円アップだ。たかが20円の負担増かもしれないが、それを素直に受け止められるほどの精神的、及び財布の余裕がない。
それにマスタードソースが活躍するのだけマクドナルドの商品と合わせた時だけではない。こいつは無限の可能性を秘めている。私はちょくちょくこいつを家に持って帰り、酒の肴をグレードアップさせる「晩酌時の切り札」として使用している。ポテトチップスや野菜スティックなんかにディップするのはおススメだ。こいつの万能感はそれらに無難に合う。ちょっと冒険して「からし酢味噌」の代用として白身魚の湯引きで試したこともある。これもかなり良かった。激しさは酢味噌に軍配が上がるが、マイルドさを求めている時はこっちだ。ワンポイントアドバイスとして湯引きした白身魚の水分はしっかり落としておこう。丁寧な仕事をしていなければ水っぽくなってかなり味が落ちる。
話がかなり貧乏くさくなって申し訳ないが、個人的に最強と思われるお家マスタードソースの使い方は「魚肉ソーセージをディップ」だ。このみすぼらしさ全開の食し方に当初の私は人として何か大切なものを失った気がしたものだが、ソースの酸味と魚肉特有のジャンクな旨味の絶妙なマッチングが予想以上に私の好みに合ったので今となっては何度もリピートしている。バカっぽいけどお手軽で美味しいのでおススメの食べ方なのだが、バカっぽいので人に見られたら恥ずかしい食べ方でもある。特に付き合い始めた彼女なんかには絶対に見られたくない食べ方だ。こんな姿を見られたら百年の恋も冷めてしまうだろう。ゆえに人目を忍んでコソコソと試してみて欲しい。
そう言うわけで定期的にマクドナルドに行っては「ハンバーガー+ナゲット+ドリンク」のセットを注文し、もらった2個のマスタードソースはその場で1個消費、もう1個は家に持ち帰っていざという時のためにストックしていたのに、今となっては追加料金を支払わざるを得ない。なんと世知辛い世の中だろう。
ただ、物価高騰が叫ばれている現在だ。営利企業としてソースを追加で無償提供するのがコスト的に厳しくなったのは想像に難くない。それは理解出来る。それにソースを2個貰ったにも関わらず、1個しか使わずにゴミ箱に捨てているやつも見受けられたとのこと。これはあらゆる飲食店で言える事だが、無料で追加、無料でトッピングのようなお店側の優しい配慮に泥を塗る手合いがサービスを劣化させる。こいつらも改悪の元凶かもしれない。
そう考えると全面的にマクドナルドが悪いと断定できない。罪は罪だが、情状酌量の余地もありそうなので本件は「微罪」にしておこう。
『2.えだまめコーンがあまりにも期待外れだった』
いつもメニューを見ながら「これって美味しいのかな?どう考えてもマクドナルドのカラーにそぐわない気がするけど・・・」と私を悩ませていた「マクドナルド最大の謎」がこの「えだまめコーン」だ。
年間売上高8,291億円を誇るマクドナルドでポテト、ナゲット、サイドサラダと並んでセットのサイドメニューの地位を保ち続けてるこの商品。マクドナルドを訪れる多くの人がセットを注文する事を考えると、何百億、下手したら何千億の売り上げに影響を与える重要なポジションにいるはずなのに、誰かが注文しているのを見かけた事がない。更に言うと店内でこれを食べている人を見かけた事もない。全くもって謎に包まれた存在だ。
常に興味をそそられていたものの、いつもポテトやナゲットの誘惑に勝てずにスルーしていたのだが、連日のマクドナルド通いからくるポテト疲れ、ナゲット疲れが溜まっていたある日、遂にこいつを注文する事となった。
実際に食べてみると想像の斜め上を行く代物だった。塩をあまり使わないお湯で茹でたであろう枝豆とコーンは優しい味。今までマクドナルドで食べた事のない、素材の味を引き出すのに腐心したかのような素朴さがこの場では斬新に思える味わいだった。そして同時に怒りに近い感情さえ湧いて来た。
そもそも、マクドナルドに行くときはオイリーでソルティーなものを食べたいと思ってる時だ。胃袋が荒ぶってる時に決まっている。そんな状況下でそんな優しい味を出されても正直困る。マクドナルドでも味が濃いめなサムライマックの「炙り醤油風 ベーコントマト肉厚ビーフ」と一緒に食べたのだが、交互に食べてるとその味付けの落差に違和感しか感じない。やはりハンバーガーの相棒はポテトかナゲットだ。
しかも豆とコーンというのも実に悪質だ。国によっては主食になるようなものを食べれば腹に溜まるのは自明の理。「えだまめコーンが物足りなかったのでポテトを追加したいけど、もう腹一杯なので諦めざるを得ない」と、他の商品が入るべき容量を確実に削りに行く無駄なボリューミーさも迷惑極まりなかった。
マクドナルドは日頃から節制しているご褒美としての「チートデイ」を楽しむ場所、もしくはチートデイでないのにガツガツ貪り食って「またやってしまった」と罪悪感やスリルを感じる場所だ。とてもではないがえだまめコーンはそこに居ていい存在ではない気がする。
とは言え、マイノリティを尊重するのは令和に生きる人の寛容さ。マクドナルドに付け焼刃的なヘルシーさを求める層を許してやるのも多様性だ。「カロリー爆弾としか思えないようなこってりとしたソースのハンバーガーを食べてもサイドをヘルシーっぽいやつにすればプラマイゼロ」なんて嘘を自分につきながら貪ってる人たちを温かい目で見守るのも令和的な優しさなのだろう。
よってこれもマクドナルドが悪いと断定できないので「微罪」の方向で。
さて、今回はここまで。とりあえずマクドナルドの運営の方は正座を崩してください。きっと正坐してた足が痛かったに違いない。しかし、愛するマクドナルドに苦言を呈する私の心はそれ以上に痛かったよ。そのことだけは分かって欲しい。
何にせよ、さすがは天下のマクドナルド。1話で終わらせる予定だったのに文字数が大幅に増加したために前後編になってしまった。やはりジャンクフード界の巨人であるマクドナルドを1話で書ききるのは不可能ということか。
次回は「マクドナルドの3つの罪」の最後にして最大の罪について。来週の月曜日に投稿予定なので、月見バーガーを食べながら待っていて欲しい。あと、月見を食べた後はマックシェイク・シャインマスカットで〆るのもお忘れなきよう。
それでは、今回もご拝読ありがとうございました。




