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39.お水がいらないキンレイ再び

※注・・・この話は昨年の8月にほぼ書き終えていたのに、何故かその事を忘れていたため9カ月間下書きリストに眠っていたままでした。30話到達の達成感を感じさせる当時の筆者のハイテンションをお楽しみください。


 この謎のエッセイシリーズも今回で第30話目。武田鉄矢ではないが、思えば遠くへ来たものだ。これもひとえにこの拙いエッセイを読んで下さる読者の皆様のおかげ。こんな下らない話にブックマークやコメント、いいねを頂けるなんてまさに望外の喜びだ。「嗚呼、日本のどこかにこのエッセイを読んでくれてる人がいる」と思い、そのおかげでここまで書き続けられました。いつか街で偶然出会ったら情熱的なハグをしてしまいそうなほど感謝しております。

 今後は「読者の皆様」のような他人行儀な呼び方ではなく、「生まれた日は違えど・・・」なノリで「義兄弟」とか「ブラザー」と呼ばせて頂きたい。ジャイアニズム的に「心の友」でも良い。なんにしても感謝してもしきれないとはこの事。有難う、ブラザー達。


 そんなソウルブラザーたちのご期待に応えるため、日々コツコツと書き進めているわけだが、実はちょっと困ったことが起きている。「書いてはいけない時間帯に書く習慣」が身についてしまったのだ。

 一応、社会人なので出勤日はそれなりに忙しい。よって用事がない休日に一気に書き上げるのが理想だ。しかし、予定がない休日の昼食後、「今日は6時間は書けるぞ」と意気込んで飲み物や間食を用意してPCと向き合ってもまったくやる気が起きない。「さあ、書くぞ!」と頭の中で思っていても気が付けばネットニュースで興味がない芸能人の不倫のニュースを見たり、何度も読んでるゴルゴ13を再読したり、すでに飽きが入ってるマインクラフトでダイヤを掘ったりしてしまう。

 そんなわけで、このエッセイは主に明日の仕事に備えて就寝すべき深夜の時間帯に書かれている。「今書いてはいけない」と思うほど、何故か急に書きたくなるから困ったものだ。しかも「昨日は早めに出勤しないといけないので早く寝ないと」なんて焦れば焦るほど筆が乗ってくる。危機感を感じれば感じるほどキーボードを叩く手が止まらない。これは一体どういうことなのだろう?


 こんな感じでこのエッセイは書いてはいけない時間帯に書いているわけだが、きっと人間はそういう悲しき性を背負っている生き物なのだろう。「食べるな」といわれた林檎を食べたアダム、「振り返るな」と言われていたのに黄泉の国の妻を振り返り見たイザナギ、「開けるな」と言われた玉手箱を開けた浦島太郎、「押すなよ!押すなよ!」と言われているのに押してしまうダチョウ俱楽部。これらの「見るなのタブー」が遥か昔から世界中の神話や民話のテーマとして扱われている事でも分かる。

 このように民俗学的見地からも人間はやってはいけないことをやってしまう生き物。そしてそれが最も顕著な形でも現れるのが飲んだ後に食べる〆のラーメン。そう、人は食べてはいけない時間帯にモリモリ食べてしまう悲しき生き物なのだ。


 

 さて、今回は飲んだ後の〆のラーメンについて。このエッセイシリーズでちょくちょく言及させて頂いてるテーマだが、語り尽くせぬ深淵なるテーマでもある。我々は意志弱きアダムの末裔。どうせ食べてしまうのなら真剣に向き合おう。


 まずはどれくらいのレベルのラーメンを食べたいのか、己のコンディションを真剣に見極めなければならない。深夜のラーメンは胃袋の状態に応じ、下記のように大まかに三つのカテゴリーに分けられる。


1.昔ながらのカップ麺

2.ちょっとゴージャスなハイエンドカップ麺

3.ガチンコのラーメン


 小腹が空いたからと言って適当に食べてはいけない。アルコールで判断力が低下した中でも自身の胃袋のコンディションを的確に見極め、最も適切なラーメンを選ぶのが酔っぱらいの玄人の洗練された仕事だ。それではまずは「昔ながらのカップ麺」から説明していこう。


 休日前におけるプロの酔っぱらいの晩酌は長時間に及ぶ。私は映画を観ながら飲むことが多いのだが、幼少期に映画館で「映画ドラえもん」を観る際に同時上映のパーマンとか忍者ハットリくんも観て育ったせいか基本的には二本立てでないと満足できない体質だ。当然、二本立てなら4時間程度。その間ずっと飲み続けるのだから中年の胃袋は疲れ切っている時が多い。そんな時にはトラディッショナルな「カップヌードル」や「どん兵衛」、「赤いきつね」あたりが疲れ切った胃袋にミラクルフィットする。昔ながらのチープさを備えた、ボサボサした食感の即席めんは消化に良い。これなら弱った胃腸でも充分戦える。

 これらが〆の基本の型となる。


「結構長く飲んでるのに割と元気だな」と、胃腸のコンディションが良い時は昔ながらのカップ麵ではちょっと物足りない。そいつらと比べると明らかに大きいサイズ、明らかにお高いお値段で存在感を放っている「マルちゃん正麺」や「ニュータッチ凄麺」のような「ちょっとゴージャスなハイエンドカップ麺」が飲みの〆としてはふさわしい。これらは概ね粉末スープをあけてからお湯を注ぐだけの「昔ながらのカップ麺」と比べて作業工程が複雑だ。複数の小袋が用意されている事が多く、それをお湯を入れた後に蓋の上に置いて温めたり、投入するタイミングが厳格に指定されていたりと作成難易度は格段に高い。しかし、その難しさの見返りに相応しい麺のコシ、スープの濃厚さ、油のギトギトさがある。これらがもたらしてくれる食体験は「昔ながらのカップ麺」では決して得られないので、コンディションさえ合えば積極的に投入して欲しい。

 ちなみにこれ系では「一蘭」のカップ麺が個人的にお気に入りだが、ちょっとお高い値段設定だ。近所のスーパーの売価は何と破格の約500円。「ニュータッチ凄麺」の倍くらいの値段だ。このやんごとなきお値段にビビッてしまう兄弟もいらっしゃるかと思うが、たまには贅沢なご褒美もいいんじゃないかな、ブラザー。


 

 さて、長時間ガブガブ飲んだにも関わらず、胃袋は疲れるどころか往年の中畑清を彷彿させる「絶好調」な時が年に数回はある。小腹が空いたというよりガチで腹減った状態。そんな時は普段の食事と同レベルのブツを胃が欲しているので胃酸も増量中。お店に行ったり、家で生麵タイプを調理して食べる「ガチンコのラーメン」が最適解となるわけだが、実際これを投入するのは意外とハードルが高いのも事実だ。

 お店に行って食べるのが一番良いのは言うまでもない。いわゆる私の社畜時代、神奈川県の某市に住んでいた頃は「一蘭」が徒歩7分の距離にあった。一蘭は24時間営業。なので、よくお世話になっていたが、こんな晩酌的好立地に住んでいる人なんて都会暮らしでもあまりいないだろう。

 ゆえに近所にラーメン屋がなければ残る選択肢は「自分で作る」だ。近年の食品メーカーは生ラーメンや半生ラーメンにも力を入れているみたいで品揃えの充実ぶりには目を見張るものがある。近所のスーパーのチルドコーナーでは昭和の時代から売っている古典的名作は勿論のこと、北は北海道、南は九州の有名店とのコラボ商品がしのぎを削っている。その様はまさに壮観。特に博多で一度食べた事がある「博多一双」の生ラーメンを見た時は思わず興奮してしまった。


 だが、ここで問題だ。生ラーメンは調理工程がハイエンドカップ麺以上にめんどくさい。まず、スープ用、麺を茹でる用と別々にお湯を用意しないといけない。これは生ラーメンを作るうえで絶対的ルールだ。生麺はスープに使うお湯で茹でてはいけない。面倒だからと言って袋麺を作る要領で麺とスープを同じお湯で作るとクオリティが著しく落ちる。そして麺を茹でた後にしっかりと湯切りするのも肝要だ。湯切りが甘いとスープが薄くなり、本来の味を損なう事となる。しかし、深夜3時にべろんべろんになってる状態での湯切りが危険を伴う作業なのも事実。手元がおぼつかないので火傷する恐れがある。まあ、火傷程度ならまだかすり傷みたいなものだ。台所のシンクに豪快にぶちまけてしまったら目も当てられない。落ちたものは3秒以内に回収すれば衛生学的に問題無しとされる、いわゆる「3秒ルール」があるので迅速に回収すれば良いわけだが、茹で上がったばかりで熱々の麺を素手で回収するのは困難を極める。

 と、このように深夜の生ラーメン調理は実にハードルが高い。


 そんなわけで〆のガチラーメンは諦めがちだったのだが、そんな私の前に救世主が現れた。そう、俺たちのキンレイが誇る「お水がいらない」シリーズの冷凍ラーメンだ。

 とにかくこのシリーズは作るのが簡単だ。麺もスープも具材も一緒に冷凍してあるので、そいつを鍋に放り込んで温めるだけで完成。冷凍スープの優位性だろう。スープの再現度はカップ麺の追随を許さない。

 そもそもキンレイと言えば冬の日の深夜に食べる本格的な冷凍鍋焼きうどんのイメージだが、「08.アルミの鍋焼きうどんとマンモス西」でも語らせて頂いているように近年は冷凍ラーメンの方にも力が入っている。と言うか、近年のキンレイはうどんよりこっちがメインになってしまったのではないかと思うほどのラーメンの新商品をバンバン市場へ投入している。実際に私の家の近所のスーパーでは様々な種類、様々な味のキンレイラーメンが冷凍コーナーの棚を席巻中だ。


 それではここ最近で新たに試してみた「お水がいらない」シリーズの2種類の商品についての感想を述べさせて頂きたい。以前に紹介した「家系ラーメン」や「ラーメン横綱」も初めて食べた時は感動したものだが、今回試した新たなブツは感動を通り越してぶっ飛ぶような代物だった。まずは「坂内食堂」の冷凍ラーメンを。

 

 福島のご当地ラーメンといえば「喜多方ラーメン」。鶏ガラベースの醤油味、独特な形の平打ち縮れ麺に他と比較して明らかに大ぶりな具材が特徴で、TVなんかでご当地ラーメンの特集があると必ずと言って良いほど取り上げられるキング・オブ・ご当地麺だ。その高名さゆえ、喜多方ラーメンのお店がない私が住んでいる田舎のスーパーにもそれ系のカップ麺が並んでいる事がある。関東時代にちょくちょく食べていたので、昔を懐かしんで購入するも、完成度の高さに定評がある「ヤマダイの凄麺シリーズ」以外のブツは「あれ?喜多方ラーメンってこんな感じだったけ?」と首を傾げるような代物ばかりだった。そんな中、全国の喜多方ラーメンファンを救うべく爆誕したのが「お水がいらない喜多方ラーメン坂内食堂」だ。

「坂内食堂」と言えば喜多方ラーメンの最大勢力。聖地・福島だけでなく関東一円、更にそこそこの大きい地方都市にもバンバン店舗展開しているのでご存じの方も多いのではないだろうか。私が関東でお世話になっていたのも坂内食堂だ。

 特に器一杯に肉が敷き詰められている「焼豚ラーメン」には頭が上がらない。肉をガブガブ食べたいけど麺もズルズル啜りたい。年に数回訪れるそんな私の胃袋からの無茶振りを受け止めてくれた傑作だ。はっきり言ってそこらの定食屋で焼肉定食頼む時よりも肉の量が多いので、初見の方はビビること請け合いだ。

 実際に食べてみて思ったのは、「そう!これが俺の思う喜多方ラーメンだ!」。繰り返すようだが冷凍スープゆえにその再限度はカップ麺の比ではない。全てのものを一緒くたに煮込む調理過程のせいか麺の質感に関してはヤマダイのカップ麺の方に若干の分があるが、スープのアドバンテージが大きく寄与して総合点ではキンレイの勝利だ。

 飲み干したいほど蠱惑的なスープなのだが、残念な事にナイスミドルはカロリーや塩分をあまり摂ってはいけない悲しき境遇。先日も麺を食べ終え、泣く泣くスープを捨てようとしたときにある考えが私の脳裏に閃いた。「このスープ、再利用出来ないかな?」。こうして日々節制すべき中年の体と持ち前の貧乏臭さにより延長戦が設けられた。翌朝、残ったスープに茹でた冷凍中華麺を投入、それに冷凍餃子と白米を添えて頂いたら実に満足だった。そう、これがキンレイの恐ろしさ、「捨てるのが勿体ないほどスープの完成度が高い」のだ。ブラザーのみんな、坂内食堂に限らずキンレイを夜中に食べる際は翌朝の献立も事前に考えておいた方が良いと忠告しておこう。 

 

 しかし、「坂内食堂」の冷凍麺が発売されたおかげで気付いたことがある。喜多方ラーメンは鶏ガラベースと思ってたのに、パッケージにデカデカと「豚骨ベースのスープ」と記載してあった。まあ、私は猫舌、バカ舌、貧乏舌で通ってるので多少の間違いは気にしないのだが鶏ガラと豚骨の違いが分からないのは正直ショックだったよ。


 そしてもう一つ紹介したいのがこのエッセイが始まるきっかけとなったアイツ。そう、「天下一品」。今までもカップ麺タイプを発売していた天下一品だが、満を持して「お水がいらない」シリーズで登場だ。


 天下一品は現代日本におけるラーメン学部の一般教養みたいなものなので味や特徴について多くを語る必要はないだろう。問題は冷凍バージョンの再現度だ。天下一品の即席麵はカップ麺、袋麵、レンチン専用の冷凍麺と様々な形態で商品化されているが、「これを天下一品と言うのはちょっと無理があるな」と落胆せざるを得ないほど味が薄くて粘度が低いやつ、逆に開発担当が天下一品の粘度に囚われ、そのせいで暴走したせいかお店で食べるよりもドロドロなスープで「ちょっと違う。誇張し過ぎだな」と苦笑してしまいそうなやつと、正直なところどの商品もイマイチな再現度だった。さて、キンレイバージョンはというと・・・


 お店でガブガブ飲んでたあのスープだった。見事な程の再現度。一口目を啜った際に「自宅でこのクオリティのやつが飲めるなんて!」と、驚嘆の余り腰が抜けるかと思ったほどだ。もちろん、麺を茹でてからしっかりと湯切りをする工程を省くゆえに麺の質感が違うのは坂内食堂と同じだ。だが、そんな事が気にならなくなるほどスープの完成度が高い。これは私のように年に一回程度しか天下一品を食べられない、天下一品難民からすれば有難いとしか言いようがない。恐るべし、キンレイの冷凍ラーメン製造スキル。これにより家で食べる〆ラーメンはネクストレベルのステージに上がったと言っても大袈裟ではないだろう。


 もう、これは断言しても良い。「家ラーメンの最高傑作はキンレイの天下一品である」と。

 

 しかし、これをブラザー達に紹介していいものか少し悩んだ。実際、私の中では既に「キンレイの天下一品購入禁止令」が発令されている。何故なら、スープがあまりにも美味過ぎるのだ。「坂内食堂」を食べた際は自制してスープを翌日に持ち越せたのは先に述べたとおりだが、天下一品に関しては無理だった。「明日の朝はこのスープの残りと炒飯でも喰うか。大迫力の朝飯になるぞ」なんて思ってても、冷蔵庫にしまう前に「スープをもう一口」と飲み始めたら止まらなくなり、結局全部飲み干してしまった。カロリー過多、塩分過多と分かっていたが、もうどうにも止まらなかったというわけだ。ラーメンは容量用法を守らなければドラッグ並みに危険だ。確実に中年太りや成人病へ猫まっしぐらになってしまう。なので、ブラザーのみんなにおかれては自己責任でお願いしたい。

 

・・・なんて事を言ってみたのだが、スーパーに行くたびに冷凍食品コーナーでキンレイ版天下一品の在庫確認をし、棚を占拠してるその姿を見て安堵している自分がいる。こんな精神状態だといずれは天一禁止令を破り、夜中にズルズルやってしまいそうだ。

 まあ、日本のどこかでこのエッセイを読んだがために天下一品の冷凍を買ってしまったブラザーがいたなら話は別だ。皆様と私は「生まれた時は違えど太る時は同じ!塩分過多になるのも同じ!」と誓った義兄弟。「キンレイの天下一品買いました!」なんてコメントを頂いたらすぐに私も買いに行こうではないか。そう、一緒に冷凍ラーメン沼に堕ちてカロリー過多、塩分過多となるのが真のブラザーシップだから。


 何はともあれ今回で記念すべき30話目。今後ともよろしくだぜ、ブラザー!!


※注2・・・この話を寝かせている9カ月の間に筆者の「キンレイの天下一品購入禁止令」は無事に廃止されました。今現在も自宅の冷凍庫にはキンレイ版天下一品が備蓄してあります。しかも2個と複数個ストック。キンレイもまた皆様と同じように私にとっての「心の友」でございます。

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― 新着の感想 ―
執筆時は「30分しか書けない」っていう状況の方が書けるから、私も専ら平日の出勤の電車内と昼休みが主な執筆タイムです。 最近の飲んだ後の〆は立ち食いそばのキス天蕎麦か、味噌ラーメンで有名なすみれのハー…
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