ヨコドリハント5
風竜は咄嗟の出来事に目を見開かせるも、思考を止めることはしなかった。
なぜここにいる? 番の気配をなぜ垂れ流している? そんな疑問よりも、何よりも、その猿が卵のそばにいることが風竜を激怒させた。
『殺す』
それは母が子を想うが故の純粋な殺意だ。
その距離であれば、猿は卵に手を届かせることができるだろう。害することが可能だろう。それが風竜には許せない。実際に行ったか否かは問題ではない。それが可能な状況を造ってしまったことが彼女にとっての逆鱗に等しい。
そして右腕を振り上げて激情とともに振り下ろそうとして……
「ガッ」
次の瞬間、猛烈な衝撃と共に風竜の意識が飛んだ。
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「ギュァァアアアア!?」
私の目の前でグランドウィンドドレイクの巨体が悲鳴をあげながら転げていきます。
それは私が咄嗟に圧縮空気弾を放った結果でした。
「うーん。まさか仕掛ける前にバレるとは……やはりドラゴン、侮れませんか」
見つかったことに慌てて攻撃を仕掛けてしまいましたが、しくじったという思いが強いです。
今回、私たちの考えた討伐作戦はティーナさんの転移でグランドウィンドドレイクの懐に飛ばしてもらった私が気付かれる前に口の中へと収納ゲートを開き、ロックナイフを射出して仕留めるというものでした。
シンプルではありますがその有用性はすでに実証済み。ただしドラゴンは口の中も頑丈です。ロックナイフを撃つだけでは口内を突き刺せても貫けませんので、刺さったところを空気弾で押し出す必要があります。前回は複数回撃ってロックナイフを突き抜けさせましたが、圧縮空気弾なら一撃で脳まで破壊できる……はずでした。
ですが結果はこれです。転移されてすぐに目に入ったのが大きな卵でビックリしたという面もあるのですが、そのことを抜きにしてもドラゴンの反応が早かったのです。
それにとっさに放った圧縮空気弾は時間遅延解除を発動していなかったために威力が伸びず、グランドウィンドドレイクを弾き飛ばす程度の結果に留まりました。
柔い腹を狙ったにも拘らず、分厚いタイヤを叩いたような音でしたよ。おそらく有効打ではあっても致命打にはなっていないでしょう。それに今のでグランドウィンドドレイクとの距離が離れましたので、戦況はより厳しくなりました。
「グルルルル」
ほら。転げて大木に激突した後、一度は倒れたグランドウィンドドレイクがもう起き上がっています。若干ふらついていますが、それ以上に怒りの籠もった魔力が放出されていて、この距離でも肌がビリビリきていますね。
「まあ、この卵がある以上はブレス攻撃などはしてこないはず……だと良いのですがね」
そう。私の後ろにあるのは卵です。まさかの卵が目の前にあります。あのドラゴンがここから離れない理由、グランドアースドレイク戦の時にいなかった理由、それに先ほど遭遇した探索者たちが逃げられた理由がこの卵なのでしょう。あのドラゴンはこの卵をずっと守っていたというわけです。
しかし卵があるということは、つまりあのドラゴンは以前に倒したグランドアースドレイクの奥さんということになるのでしょうか?
となるとちょっと不味いかもしれません。現在私はティーナさん作成の魔法具を発動しています。その効果は使用者を守るシールドの構築です。限度はありますが、ある程度の攻撃、また暑さや寒さなどからも守ってくれる便利なシールドです。
ティーナさん曰く、グランドアースドレイクはあらゆる環境下でも生存可能なドラゴンの特性をさらに先鋭化させていたらしく、このブローチの形をした魔法具は、そんなスキルを抽出して魔法具化したものなのだそうです。防御力の高い空調服のようなものと言えば分かりやすいでしょうか。
けれども今目の前にいるドラゴンの彼女にとってはそうした魔法具の利点を踏まえたとしても総合的にはマイナスに働いているように思えます。あの目の鋭さはきっと私が旦那さんの仇だと気付いているからではないでしょうか。
ともあれ、初手の不意打ちアタックは失敗。ここからは正攻法であのドラゴンを仕留めないといけないわけですが……さて、次はどうしましょうか。
【次回予告】
ただ己が欲のため、男はすべてを奪い去る。
番も、子も、命も、吐息すらも奪い去る。
ただ無邪気に、凶相の笑みを浮かべて奪い去る。
その有り様は狂犬のソレだった。
故に己が命も顧みず、男はすべてを奪い去る。





