ブリテンアライ01
※※2/13 21:00〜23:00にかけて今話が不完全な内容で掲載されていました。現在は修正済みとなります。400文字くらい増えましたが文章の手直しメインで内容はほとんど変わらないので読み返す必要は特にないです。※※
※探索者の海外旅行は手続きが面倒な上に拉致の危険や、場合によっては国家主導で冤罪からの強制労働コースとかの実例もあります。探索者が国外に出るのはなかなか難しいご時世なのです。
「あら、沢木さん。今日はご機嫌じゃない」
「面倒ごとが片付いたからですかねえ。今日は私もNO残業デーですよ」
はい。私です。探索協会一般職員の沢木です。目の前にいるのは私の先輩の青山さんです。私と違ってNO残業を心情とし、仕事よりもアフターファイブが一日のメインとなっている剛の人です。周囲の目を気にしないで生きていられる人って羨ましいですよね。
とはいえ、私も今日は残業せずに業務完了となりました。
何しろ大貫氏案件の区切りが付きましたからね。迷宮災害のあれこれの処理はひと通り終えたし、国防軍の管轄であるヘヴィスキルホルダーに大貫氏が選出された関係で実地試験の承認も早く下りたことで、シーカーグランプリへの道筋も一応整えられました。
しかも実地試験の手続きは国防軍でやってくれるらしいんですよ。あとはもう余計な仕事が舞い込んでこなければ……
「おーい。沢木はまだいるか?」
「え、吉田課長!?」
いざカバンを手に取り、事務所を出ようとしたところで吉田課長がやってきました。
チッ、課長が来るのがあと五分遅ければ退勤してアフターファイブに入れたのに……いや、課長のこの慌てようからすると呼び出されてUターンコースになってた気もするけど。あー、うざー。
「いたいた。沢木、やりやがったぞ。大貫氏がまたやりやがった」
「ははは、ナイスジョーク」
ははは、ナイスジョーク。
「ジョークじゃない。本部からの通達だよ。マジだよ。マジもんだよ」
えーーマジでーー。
「ともかくだ。嫌そうな顔をせずにまずは話を聞け。実はな。先ほど上野ゲート先で魔獣災害に発展してそうな魔獣の動きが観測されていたんだよな」
「ええ? ニンジャゴブリンでも溢れたんですか?」
「ニンジャゴブリンだったら良かったんだがな。観測されたのは奥にある熊林渓谷だ」
「熊林渓谷? あそこって確かランクB帯のエリアでしたよね?」
上野ゲート自体は入ってすぐのエリアであるニンジャレイクフォレストに合わせてランクC扱いになってるけど、奥の熊林渓谷はランクB帯の危険地ー帯なんですよね。
特にそこに生息するハーフムーンブルーベアの上位種であるフルムーンイエローベアは単独でランクBに指定されていて、攻撃手段である次元爪は高レベルの探索者でも直撃すると即死しかねない危険な魔獣なんですよ。
つまりは超ヤバいってことじゃないですか。
「そうだ。そこで今日、モノクロバッドベアとハーフムーンブルーベアの群れが縄張り争いで衝突した。その数は二千体以上とのことだ」
「それマジですか。そんなのに巻き込まれたらどんな探索者だって普通に死ねますよ」
「そう思うよな。で、大貫氏がその場にいたんだよ。オーガニックの烈氏と一緒に」
「は?」
いや、なんで? 烈氏も?
「さらにラファール・ハウザー氏も一緒dsったようでな。彼らはその状況に巻き込まれたってわけだ」
「意味分かんないんですけど。なんでラファール氏までいるんですか!?」
「嫁さん探しだそうだ」
「???」
嫁さん探し? 意味が分からない。drも、これってもしかしてラキくん狙いで大貫氏と接触を図ったってこと? それで巻き込まれたってこと? あの台場烈まで一緒に? 嘘でしょ!?
「ねえねえ、課長。それって国際問題になりませんか? そりゃー、いくら相手が探索者だから自己責任で出向いたとしても、この状況が起こることを事前に察知して英国の英雄相手に知らせられていなかったのは日本の探索協会の落ち度になるでしょ?」
「それはそうだな青山くん。巻き込まれた探索者の安否よりもそっちを先に気にするあたり、最高に青山くんって感じだ」
「へへへ、褒めないでくださいよ課長。私も勤続五年のベテランっすから」
え、今の皮肉ですよね?
あ、課長も苦い顔してる。
「うん、まあ。だが安心して欲しい。被害は出たものの死亡者はゼロだ」
「おお、さすがラファール様。私ん家にもあの人のキャッチャーのぬいぐるみあるんですよー。前の彼氏にもらったヤツー。生きてて良かったー」
「そうか。良かったな。ただな。ラファール氏も活躍はしたが、倒した魔獣の半分以上が大貫氏によるものだ。というか、従魔の妖精が百体以上を仕留めてる。しかも一撃でだ」
「え? それってティーナちゃんのことですよね。彼女、攻撃スキルは持ってなかったはずですけど?」
ティーナちゃんのスキルは転移と植物操作だけだったはず。成長して強力な魔法でも覚えたってこと? いや、だとしても熊系統の魔獣百体を一撃でって……威力が高過ぎるんだけど。
「隠してたのか、目覚めたのかは分からんが、彼女の攻撃は映像記録に残ってるからな。そして現場には二体の統率個体も出現したらしいんだが」
「それって激ヤバですよねぇ。絶対みんな死んじゃうってー……て、大丈夫だったんですよねぇ? 倒したのってやっぱりラファール様? それとも烈さん?」
「そちらも大貫氏だ」
「ウッソぉ」
「あの人、またですか!?」
いや、倒せたのは良いことだけど、良いことなんだけどなんだけどさ。おかしいでしょ。ヤバいのとのエンカウント率も、討伐数もおかしいでしょ!?
「国外でも確認されたことのあるアスラベアというランクA魔獣を瞬殺、同じくランクA相当と思われる未確認魔獣を、ラファール氏とその従者である御剣氏との戦闘に介入する形ではあるが続けて仕留めている。これも記録に残っている事実だ」
「新人ってなんですかねえ」
「ええと……もしかして、私に声をかけたのはその後始末ですか?」
また残業かーと思っている私に、吉田課長が首を横に振った。どうやら違うらしい。
「魔獣の討伐後の処理は東京の本部がやるとのことだ。上野ゲート内で起きたことだし、大貫氏も本部所属のオーガニックからの依頼だったようだからな。その件に関しては、こちらとしてはあちらで処理した大貫氏の実績の承認をするだけではあるんだが……沢木」
「なんですか?」
「お前、イギリスに飛んでくれないか?」
「は?」
イギリス? いきなり、何を言ってるんでしょうか。うちの上司は。
「なんでも、円卓が大貫氏と同盟を結んだらしい」
「な、なんで?」
オーガニックと個人で同盟結んだのだって意味が分からないのに、英国ナンバー1クランの円卓とも同盟? それって間違いなく日本初でしょ。いやいや、本当に意味が分からないんだけど。
「理由は俺にも分からん。なんでかは知らんし、知りたくもないが、政府間ではすでに話がついているし、絶対に締結しろと上からお達しも出ている。ただ書面を交わすにしても、有望な探索者である大貫氏を英国に送って、万が一戻ってこないことになると困るので、担当の君が代理としてあちらに向かうように要請があったというわけだ。保護の件もあるしな。ちなみに極秘のことだからな。青山くんには沢木くんに代わって大貫氏の担当代理を務めてもらうが、情報が漏れたらマジで首飛ぶから気をつけてな」
「はーい。こわーw」
青山さん、軽いなー。
というか、なんで円卓と同盟になってるの大貫氏。あの人めちゃくちゃ過ぎる。なんで私がイギリスに? 円卓の本拠って確かロンドン……に? うん? ロンドン?
「ちなみに契約を結んだ後は一週間ぐらい休暇に入ってもいいぞ。イギリス旅行を協会の立場と金で行けると思えば、それはそれで悪くはないんじゃないか」
え、マジで? 協会の後ろ盾ありきなら旅行も安全? 探索者になると渡航制限が厳しいから諦めてた海外旅行に行けるってこと? もしかして、これって結構美味しい話なのでは?
「おっしゃ! 行く! 行きます課長。大貫氏の担当は私なので!」
「あー、素子ちゃんいいなぁ」
はっはー、青山さん。悪いけど大貫氏の担当は私なんですよ。ワ・タ・シ!
イギリス! ロンドン! 旅行! 憧れの海外旅行!!
それに国外に出れば、大貫氏に厄介ごとが起ころうと私がやれることはないわけですし、こいつ美味しい話ですわ。ははは。
私の時代キタ! ビバ、イギリス! ビバ、ロンドン! 時計塔が私を待ってるわ!
【次回予告】
伝承の英雄の名を冠する者。
彼はブリテンの地にて友の声を聞く。
紡がれた言葉は男に衝撃をもたらし、
また最悪の事態を思い、眉をひそめた。
懐柔か、敵対か。
その決断が世界の運命を確定する。





