バーニンホット06
善十郎考察回。今話で第八章前編終了。
中編自体は書き上がっていてポエ……次回予告の調整をしているところですので、一週間後には再開する予定です。
「ハァ……」
私の名前は本丸久美。今は風間サンライズビルを出て、上野ゲートに車で向かってるところ。色々あって田崎がメンタルブレイクしたけど、一応ダンジョンに向かうことにはなったわ。
それで烈さんは大貫さんの車に乗っているから、こっちの車の中にいるのはウチのパーティの面々のみ。そんな中で私がため息を吐いたら、みんなに心配はかけるだろうけどさ。けどね。仕方なくない? ため息だって吐きたくもなるわよ。
なんなのあの人?
大貫さんは持っている収納スキルのランクがFだと明かしてくれたけど、でもその強度は……100メートルは離れないと私の収納空間が開けないほどだった。他のメンバーはピンときてないみたいだけど、これってはっきり言って異常よね。
「なあ久美。お前、すげえ顔してるぞ」
私が唸っていると、龍平が声をかけてきた。
ちなみに田崎は後ろでグロッキー中。精神的ダメージが大きいのね。あの盾はあいつの自慢だったから。三菱は運転で、三菱の恋人の千佳は助手席。だから私の隣にいるのは当然リーダーの龍平になる。
龍平は最強スキルの一角とも言われている未来予知スキルの持ち主。私たちはその龍平を中心として機能する様に組まされたパーティだ。
未来予知は一見して地味なスキルだけど、ほかのスキルと組み合わせることで真価を発揮するの。だって、そうでしょう? 攻撃が来るのが分かっていれば、防ぐこともカウンターで返すことだって容易。奇襲だって回避できるし、遠距離攻撃だって指示通りに撃てば百発百中なわけ。
だから強力な剣士の千佳と、鉄壁の護りを誇る田崎、高火力の光魔法の使い手である三菱、それにランクA収納スキル持ちの最上級ポーターである私が組まされたのよ。
龍平は将来的にはそうした役回りのメンバーを増やしてオーガニックの一軍、いえ、迷宮災害などでの探索者全体の指揮官として活躍することすらも望まれているトップエリートってわけね。
でも……その事実が霞むほどの探索者を私は知ってしまった。
「龍平。あの人、ヤバいかも」
「あの人って……大貫さんか? そりゃあそうだろ。烈さんが負けて、田崎が殺されかけたわけだし」
うん。それは確かにすごい。田崎は本当に死ぬところだった。これまでのダンジョン探索が順調だったから私たちって選ばれた人間で、ひょっとしたら死なないんじゃないか……なーんて思ってたりもしたけど、冷や水ぶっかけられた思いだったわ。龍平も結局やられちゃったしね。
でも、あの大貫って人の真価はアレだけじゃない。
「ねえ龍平。私の収納スキルのランクはAで強度は8。自分でも探索者としては優秀な部類だとは思ってるんだよね。アンタには劣るけど」
「劣るって……役割の違いなだけだろ。実際、オーガニック内でも久美以上の収納スキル持ちはいないんだし」
そこは私も自慢に思ってる。私以上の収納スキル持ちは国内でも多くはないし、私が上澄みにいるのは間違いない。
収納スキルは便利なスキルだ。簡単な鑑定や、時間遅延、時間停止機能も覚えたし、時間巻き戻し機能なんかも将来的には覚えられるはずで、戦闘にも応用が利くし、戦闘以外でも活躍する。
「まあね。でも強度のランクは1程度の差だと、あんな風にまったく収納空間を開けない……なんてことはないはずなのよ」
「ふーん。つまり、それだけ大貫さんの収納スキルの強度が高いってことか。ん?」
龍平も気付いたわね。普通に考えれば、あり得ない事実に。
「いや、でもおかしくないか。スキル強度って最高が9だよな? でも久美との差は1以上?」
「理論上の上限は10よ。公的に強度10のスキルが確認されたことはないけど、実際に強度10のスキルを得るにはって仮説はあってね。ユーリ姉さんのように素のリソースが多くて覚醒施術で最初っから強力なスキルとステータスを持てるような人が、その全リソースをスキルに注ぎ込むことでどうにか届くかもって感じらしいのよね」
「無茶苦茶だな」
まあね。あくまで今までの研究から導き出された予測らしいから、実際のところは分からないんだけど。
私たちのスキルもステータスも、覚醒施術で人工魔石エクステンドプレートを埋め込まれた際に探索協会のAI『セブンセージ・プロトコル』と接続して決められている。私たちの内に眠っているリソースと呼ばれている生命エネルギーをその人物にとっての最適な形に振り分けてるらしいのよね。
ゲームでいうところの初期ポイントを自動振り分けしてる感じかしら?
ただリソースの量は個人差があるもののAIがバランスを整えてくれるから、『運悪く変な振り分けをされる』なんてことはないし、『強度10なんて超特化型ができることはない』……なんて言われてもいたんだけど。
「大貫さんはそんな無茶苦茶な存在かもしれないってこと。まあ、それだけでも十分におかしいんだけど、もっと気になることもあるのよ」
「まだあるのかよ?」
「大貫さんのスキルが、強度10のFランク収納スキルだったとするわね。龍平たちを吹き飛ばした攻撃は田崎の言うように気功師の力……だったとして、さっきのビームは何ってこと」
「気の力?」
「ブッブー。気の力って言っても魔力の亜種みたいなものだから、あんなものは出せませーん」
気も魔力も変質はしていても根は同じものだから、それなら田崎の盾で止められるはず。だったら龍平が田崎の死を視たりはしないし、アダマンタイトコーティングの盾があんな風に熔けるなんてあり得ない。
「むぅ」
「それにね。大貫さんって従魔が二体いるじゃない。フォーハンズに寄生してるひまわりっぽいのも従魔なら三体でしょ。で、従魔契約ってスキルひとつにつき一体と紐づけられるわけじゃない」
「ああ、そうか。そうなると大貫さんは他のスキルも持ってるってことだよな。んー、でも強度10のスキルって、リソース全振りでもできるかどうかってものなんだよな。つまり大貫さんはユーリさんと同等のリソースをすべて注ぎ込まないとなれない強度10のスキルを持っていて、気功師として素でも強くて、あの光の攻撃を出せる別のスキルも持っていて、それ以外のスキルも持ってる可能性がある……ってことか。何その出鱈目。大貫さんこそチート野郎なんじゃ無いのか?」
「まあねえ。そこまでおかしいと何かしらのインチキがありそうだけど……ただ、そういう人物とオーガニックは同盟を結んでいるのよね。クランに加えるんじゃなくてね」
オーガニックの同盟者ってことは、ユーリ姉さんが承認している。きっと、私たちの知らない大貫さんの秘密を知っていて、それでいてなお個人としてでも同盟を結んでおきたいと思わせる理由がある。そういう特別な人が大貫さんなんだと思う。
「烈さんも理解してるだろうし、後でみんなに共有はするけど大貫さんの情報を外に漏らさないようにって徹底しといてねリーダー。特に田崎には。あの人の価値を考えれば最悪、私らがクランから追い出されかねないから」
「お、おう」
でも、そんな人をなんで私たちの仕事に同行させたんだろ? 顔合わせ? 協力関係の構築のため? んー、今回の烈さんの同行自体が現地調査のついでらしいんだけど……もしかして、あの人も連れてこないといけないようなことが上野ゲートの先で起きてるのかしら?
【次回予告】
告げた真実は偽りではなく、されど一面でしかなく。
未だ男の真価は闇の中。
そして訪れた新たなる大地は、男に何を見せるのか。
若き戦士たちの有り様は、果たして男に何を見出させるか。
いざ新天地。善十郎の戦いが、今再び始まった。





