バーニンホット02
「大貫さん、俺の勝手な申し出に応えてくれてありがとうございます」
俺、田崎忍は今、風間サンライズビルの地下にある訓練場、そこに設置されているコロッセオフィールドにいる。俺はこれから大貫さんと模擬戦をする。と言っても俺がこの人の攻撃を受けるだけで、こちらから仕掛けるわけじゃないけどな。
あなたの攻撃を受けてみたいという俺の頼みを大貫さんは快く受けてくれた。烈さんが呼んだだけあって、気持ちのいい人だ。だけど同時にそれは、この人の余裕の表れでもあるように思えた。
俺らゴールドクラブのメンバーの平均レベルは25、俺自身はレベル27。若手のパーティとしては上澄みだっていう自覚はある。
何しろ俺らはオーガニックの次代を担うために選ばれたメンバーだ。このパーティの中心が龍平ってのはムカつくが、あいつには未来予知っていうチートスキルはあるものの、自前の攻撃手段や身を守る術が乏しい。だから俺たちがヤツの盾となり、剣となる。そうすることで俺たち全員が最強になる。ゴールドクラブってのはそういう前提のパーティだ。だからこそ俺は最硬の探索者に、どんなヤツの攻撃だって耐えられるタンクにならなきゃならねえんだ。
対する大貫さんは、少なくとも気配は低レベルの探索者といった感じだが、俺の探索者としての本能はその認識を否と返している。この人の外見といい、俺らを前にした態度といい、従えている従魔たちといい、レッツゴー倶楽部の話といい、何もかもがチグハグだ。けれども、こうして対峙してみると、巣穴の奥に隠れた虎がその先にいるみてえなイメージがあるんだよ。この感覚は多分間違いじゃない。
「いえいえ、私もオーガニックの同盟者として一緒に仕事をするのですから、実力をお見せした方が良いのは確かですしね。それと攻撃は私だけでよろしいのですか?」
「はい。俺の盾はアダマンタイトコーティング製。スキルと組み合わせることで烈さんのレッドヴァジュラでも貫けないほどの防御力を発揮します。もちろん魔法だって受け付けませんよ。ウチの三菱の最大威力の光魔法だって遮断しちまいますからね」
ガンッ、と俺は自分の盾を叩く。
アダマンタイトは硬いだけではなく、アダマスの由来である何者にも征服されぬものの意味の通りに強力な魔力耐性がある。魔力の浸透を許さないから、魔法も、魔力で強化された攻撃やスキルすらも弾くんだ。
加えて俺のスキルは波紋防壁というシールド系スキルだ。このスキルを盾の前に発生させ、ダメージを波紋状に拡散させて受け流すことで、並の攻撃ならそもそも盾にまで届かせることも許すことがない。
アダマンタイトの盾と波紋防壁によって、俺の防御力は極限にまで跳ね上がっていて、レベル50台の探索者の攻撃だって止めることが可能なのさ。
一応アダマンタイトの弱点は、魔力を伴わない高熱だ……とは言われてるんだが、そんなものはどんな金属だってそうだし、ドラゴンのブレスだって魔力を伴っていることを考えれば魔獣相手や対人だったとしても俺の盾を破ることは不可能だろう。
加えて、俺たちのパーティには龍平がいる。未来予知というチートスキル。直感よりも具体的に未来が読めるそのスキルはあらゆる攻撃を事前に読む。あいつの指示があれば俺は相手の攻撃を確実に防ぎ、内藤の剣と三菱の光魔術、久美の魔法銃で反撃ができる。
正直に言っちまえば、今の俺らが本気でやれば烈さんだって倒せるかもしれねえとは思ってる。
まあ、今回は大貫さんの攻撃を受けるだけだ。大貫さんの攻撃が烈さんを倒せるほどだったとしても、来ると分かってる攻撃なんざ、残念ながら俺の盾の前では無意味なのさ。だからさ。
「だから大貫さん。本気でお願いしていいっすか?」
「本気……ですか? ですが、さすがにそれは……」
大貫さんが僅かに俯いて、考え込んだ。
やっぱり何か強力な切り札があるんだな。それがきっと烈さんを倒した力だ。だったらそいつを受けないわけにはいかねえよなぁ。俺たちがどこまで行けるか、或いはここが分水嶺なのかもしれねえ。
「大貫さん。俺ら、結構本気で最強目指してんすよ。半端じゃねーんすよ」
「おい田崎?」
龍平が俺を止めようとするが、構わず俺は大貫さんに自身の胸の内を告げた。
「俺の盾はオーガニック最硬。どれだけ強かろうが、受け止めてやるよ。分かってんだよ。あんただってそうしたいんだろ。アンタだって試してみたいんだろ。挑戦者として生きたいんだろ。だからその歳で探索者になったんだよな。だったらよ。ぶつかってこいよ大貫善十郎!」
俺の熱い想い、分かるだろ。大貫さん。アンタにさ。俺と同じ真っ赤に燃えたぎるような熱い想いがあるなら応えてみせろよ!
「最強の……なるほど」
不意に、ゾクリと何かを感じた。あれ? あれ? なんだ、これ? 足が震えて……
「確かに、そうですね。たかだか探索者歴二ヶ月の私が、先輩で、実力も、実績もある探索者であるあなたに対して無用な心配でした。自惚れていた自分が恥ずかしい」
や、ヤバい。逃げないと……あ? アレ? 逃げる? なんで俺はそう思ってる? ちょっと待て。何かがおかしい。おかしいぞ。なんで小3の時の交通事故のことが頭に思い浮かぶんだ? 魔獣に殺されかけた時のことではなく小3の? なんで? なんでだ?
「じゃあ始めますね」
そう言って、大貫さんが二本指を突き出して俺に向けた。
攻撃? 気功師なら打撃? いや、まさか気を撃つのか?
は? 龍平が叫んだ? 止めろ? どういう意味だ? でも大貫さんが止まる様子はない。龍平の声も聞こえてないのか?
おい。龍平たちが全員で飛びかかったぞ。なんだ? 何をしてる? 何が起きてる?
って、全員が吹き飛んだ!? いや久美は血を吐いて倒れた? なんでだ?
それに攻撃動作も見えなかった。まさか大貫さんの拳は見えないほど速い? 探索者の俺の目でも捉えられない?
あ、こっちを見て……
「田崎しゃがめぇえええ」
龍平?
不味い。盾で受けないと……いや、アイツの言葉を信じて
ジュワッ
あ、盾が熔け……う、ウギャァアアアアア!!??
【次回予告】
外から見ればただの狂犬。
されど犬には犬の道理がある。
何故聞かぬのか。
何故退かぬのか。
真実は時に残酷で、
現実はどこまでも条理の中に存在する。
さあ覗き見よ。その戦いの裏側を。
そこにある、ひとりの男の苦悩と選択を。





