トランスワールド03
今章はここまで。明日の登場人物紹介の更新後は書き溜め期間に入ります。
それでは、次章『超熊大戦編』でお会いしましょう。
書籍版もよろしくお願いします。
「おじさーん。これはとんでもないねー」
「ですよねぇ」
遺跡探索を終えた二日後、出張から戻ってきたユーリさんが目の前の光景に感嘆の声をあげています。
まあ、それも無理のないことでしょう。
今ユーリさんと私の前にあるのは金銀財宝の山々の並ぶ一室です。あの落とし穴の部屋で見た貴賓室がそのまま広がっているのですから、如何に上級クランのユーリさんとて、見慣れたものというわけではないはずです。
これは探索協会に発表されたあの亡霊の王様の名を取って、夜王の王笏と名付けられた魔法具によって出現したものです。
どうやら夜王の王笏は幻を生み出すものではなく、異空間にある貴賓室に繋がる門を喚び出す魔法具のようでした。
それが分かれば、あの落とし穴の罠部屋の仕組みも簡単です。あの部屋の入り口から中に入った時点で私たちは異空間にある貴賓室へと入っていて、部屋の中心にある王笏を取ると異空間が解除されるのを利用し、本来の罠部屋の存在する通常空間へと戻されたわけです。
解除された時点で罠部屋の入り口は閉じ、侵入者は落とし穴に落ちて死ぬか、無事でも天井落としで死ぬわけですね。
仮にそれでも生きていたとしてもあの部屋を抜け出すのは難しいでしょうし、いずれは抜け出せずに餓死していたことでしょう。
そうなった場合の王笏の扱いが気になりますが、ティーナさん曰く「多分壊れないと思う」とのことなので、罠にかかった人間が死んだのを見計らって回収していたのでしょうね。
なんとも恐ろしい罠でした。
「そこら辺のモン一個売っただけでうん千万から億はいくんじゃない」
「売れれば、そうでしょうね。でもここにあるものは、外に持っていけないんですよ」
「あらま」
「見ていてくださいね」
私は部屋の一角に飾られている無数の宝玉が並ぶ王冠を手に取り、それから中央の台座に置かれた夜王の王笏を手に取ります。するとスーッと貴賓室が薄くなって王笏に吸い込まれるように消えていき、光景が元のホテルの一室に戻りました。
「あれ、おじさんの持ってた王冠が消えてるね?」
「どうやら、あの部屋のものは外に出せないみたいなのですね。こうして外に出ると手からは消えていますし、置かれていた場所に戻っています。持ち出せるのはこの王笏だけです」
遺跡から帰還し、探索協会でお話して帰った後にティーナさんと検証したのですが、どうやらそういう仕様のようなのですよね。
収納スキルの代わりの倉庫室として使えるのでは……とも思ったのですが、解除すると荷物も放り出されるので休憩室代わりにしか使えないと思います。
「あら、ゼンジューローにユーリ。あの部屋から戻ってきたのね」
「ニパーー」
「キュルッ」
私たちが戻った部屋の中にはティーナさんとラキくんにフォーハンズがいました。
もっともフォーハンズの格好は以前のガウチョパンツなどを穿かせたものではなく、遺跡フォーハンズの装飾のついたロックメイルを装備させた姿になっております。
結局親機がないということで遺跡フォーハンズはまだ動かせてはいないのですが、活用法が一応あって良かったです。
あとフォーハンズは花の部分に笑っている口が残ったままで鳴くようになったのですよね。歯並びの良いニッコリ笑顔が素敵です。ユーリさんは若干顔を引き攣らせていましたが。
「ティーナちゃん、アレすごいねー。あーし、マジでビビったし。中のもん取り出せないって言っても王笏ごと売っちゃえばスッゴイ額になりそうだけどー?」
「売らないわよ。ゲーミングフェアリーチャンネルのスタジオにする予定だし」
「リアリー?」
「リアリー!」
「オーイエー。ならあーしもコラボで使わせてー」
「いいよー」
探索中の休憩室代わり以外では、そのような利用もする予定です。ティーナさんのメイチューバーとしての設備が充実していきますね。必要なものを自らの手で掴み取る。そこには、お金では得られない喜びがあります。
「それだけ喜んでもらえると、苦労して手に入れた甲斐がありますね」
「苦労ねぇ。おじさんたちが攻略した遺跡……とんでもないことになってるみたいだよー。なんかもー超ヤベーッて感じで」
「でしょうね」
あの遺跡は……というより境界の森は現在立ち入り禁止になっています。
秩父ゲートの閉鎖は一応免れたものの、リビングバレーから先に侵入するとシーカーデバイスから警告が飛ぶそうで、それも無視して森に入ると実刑もあるのだとか。
まあ、私は提出した録画映像から過失こそ認められなかったのでお咎めは無かったのですが、秩父ゲートへの立ち入り自体を禁止されてしまいました。
なんでも怨霊の類は一度縁を結んだ相手を索敵しやすいそうで、ある程度でも近付くのは危険なのだとか。
あの規模の相手だと周りも巻き込みますからね。あの怨霊の群れにゲート近くにまでこられたら他の探索者も危険なので入らないでくれ……とのことでした。
そうなると高純度ポーション原液と精霊銀、神霊銀の稼ぎがなくなるので痛手ではありますが、仕方ないですね。また良い金策がないか探しましょう。
小銭稼ぎなら吸引でエーテル生成が可能になりましたし、今回のように他の遺跡の探索をしても良いかもしれません。すでに探索済みの遺跡でも解析解除を使えば、新しい発見があるかもしれませんからね。
そう考えると、なんだかちょっとテンションが上がってきました。
「あんれ」
「どうかしましたかユーリさん?」
シーカーデバイスからの通知を見たユーリさんが首を傾げております。
「うーん。おじさん、テレビつけてもらっていい? テレ昼で」
「はい。む? ほぉ」
放送していたのはニュース番組で、そこにはオーロラの映像が映し出されていました。
もっともそこは南極や北極などではなく、建物を見る限りは日本の、恐らくはここらへんの上空です。川越ってテロップも入っていますし。
「ああ、またオーロラですか?」
「そうみたいだよー。今ふーちゃんから連絡来たんだけどさー。何なんだろーねー、これ?」
以前にも発生していましたし、確かに不思議な現象ですね。何かしらの危険な兆候でなければ良いのですが。
「うーん?」
おや、ティーナさんが首を傾げております。
「ねえ。ゼンジューロー、さっき外出てたよね。どこ行ってたの?」
「いえ、ちょっとした補充ですよ」
ダンジョンの光は魔力の光でしたから、集めてもエーテルになってしまいます。なのでソーラービームを補充するには地上で光を集めるしかないんですよ。まあ、念のために用意しておけば、以前のように襲われたとしても即座に対処できます。
むむ、ティーナさんが難しい顔をしていますね。
「どうかしましたか?」
「んー。うーん。どうかしたのかも……でも、確証がないしなぁ」
ティーナさんの困惑の感情が伝わってきます。何かしら気になることがあるようですが、どうしたのでしょう。もしかして、あのオーロラに心当たりが?
そう思っているとユーリさんがテレビを指差しました。
「おじさん。アレ、見て見て〜」
「はい? おや、なんですか。これ」
オーロラは臨時ニュースだったのでしょう。
次の話題に切り替わっていました。
「円卓のラファールが日本に来たんだって。いやー、相変わらずの人気者だねー」
「らうんず? それは何……いや、アレは人なのですか?」
テレビに映っている場所は空港でした。そして専用機らしい飛行機の周囲で、大勢の人間が飛行機から降りてくる人物(?)を見ています。
その有り様は、まるで大スターですね。
「そうそう獣人化っていうレアスキル持ちでねー。ちょー人気者ー。あーしも何度か会ったことあるよー」
獣人化。なるほど。以前に襲ってきた外国人の方と同じ系統のスキルですか。つまりは彼も探索者ということですね。
「ラファール・ハウザー。英国最強の一角。最近見なかったけどねー。なーにしてたんだろー?」
ユーリさんの言葉を聞きながらも、私の視線はその人物(?)に釘付けになりました。
何しろ、テレビに映っているその人物(?)は渋い執事を連れて、シルクハットに英国紳士然とした格好をし、さらには蒼い宝玉を付けたステッキを持っている……
シロクマだったのです。
【次回予告】
束の間の平和は破られた。
女と男がホテルに向かう時、
立ちはだかる善十郎は何を想い、
何を成すのか。
そしてシロクマが静かに動き出す時、
赤熊の勇者は虚空に慟哭した。





