トランスワールド01
はい、沢木です。
有給休暇中の一般職員の沢木です。
上司の無茶な指示で一度ぶっ倒れましたが、私は元気です。頑丈な探索者の体が憎いです。でも、今回ばかりは大事をとって休んでいます。イエーイ。
もっとも、だというのに今日もまた緊急の連絡が来たんですよね。
だもんで、今回ばかりは流石に辞めますよと返したら出勤後で良いとのことで、おやすみ継続です。
いやー、言ってみるもんですね。なんならこれで評価を下げて、簡単な仕事だけ回してくれてもええんですよ?
で、一応連絡には目を通しましたが、実に頭が痛くなる内容でした。
なんでも大貫氏が秩父ゲート先にある境界の森というエリアで厄災級と遭遇したようなんですよ。
え、なんで?
いや、もうね。意味が分かりません。
迷宮災害が終わってから何日経ちましたっけ? まだ七日ですよ。あれから一週間しか経ってません。事後処理も済んでません。
なのに大貫氏は何故、元気に厄災級と遭遇してるんですかね。マジで何してるんですかね、あの人。
鴻巣の迷宮災害では騒動の中心で戦っていたのに、なんでろくに休まずダンジョンに潜って、その上とんでもないのと遭遇してるんですかねー。ハァアア……クソデカ溜め息出ますわ。
ともかく、今は本部の調査員が動いて色々と調べているらしいんで私が関わるのはもうちょい後になるっぽいです。なので、今のうちにエイチピー回復させておきましょう。
しっかし、本当に転職考えた方がいいんですかねぇ。ドンドンヤバい道に進んでいる気がして仕方ないのですが。
ただね。元探索者って普通の再就職が難しいんですよ。どうしたって色々と制限がありますし、給料も現在の職場以上のところはまずない。ははは、世知辛い世の中です。
あれ? また新しいメールが来てますね。
これは私宛ではなく、職員用メーリングリスト宛ですか。ふむふむ。ハァ? 円卓のメンバーが日本に来る? しかも、やって来るのは『ガウェイン卿』ラファール・ハウザー?
日本に来た目的はレッド……ブラウニーベアの…………捜索?
んーーーー? んんーー?
いや、よく分かりませんね。心当たりがまったくない。吉田課長からの電話? ははは、知らない課長ですね。あーもー。はいはい。知りませーん。今日の私はお休みでーす! ウッセッ、死ね吉田ァ!
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「ふぅ……アイツ、居留守だろうなぁ」
緊急の連絡を受けて、すぐさま沢木に連絡を入れたわけだが、今回は繋がらない。
まあ、仕方ない。ここ最近は散々こき使ったからな。油断すると時々言動が探索者時代に戻るし。
でもなぁ。アイツはある程度の立場にならんと結構ヤバそうなんだよな。
何しろ、あの大貫氏ってのはどう考えたって本物だ。この近々でここまで実績を上げた国内探索者はあの人ぐらいしかいないと言っても言い過ぎじゃない。
今はまだ知る人ぞ知るっていう扱いだが、あの人の知名度が実績に追いつく日は必ず来る。
その時に大貫氏の情報を握ってる一般職員なんぞ、ましてや離職した元一般職員だったりなんてしたりすれば後処理に困らない良い情報源になってしまうんだよな。
だから、さっさと実績を積ませて、探索協会が後ろ盾になれるぐらいの立ち位置を身に付けてほしいと思っての指示だったんだが……いやまあ、大貫氏の活動が激し過ぎて完全にオーバーワークだな。もうちょい加減するしかないか。いやホント。加減してほしい。ちょっと意味が分からない。俺も死んじゃう。
「ハァ、お待たせして申し訳ありません西田少佐」
「いや、こちらも急に訪ねてきた身だからな。それよりも、ずいぶんとお疲れのようだな吉田課長」
「いや、優秀な部下に無理を押し付けることの罪悪感が押し寄せてるだけですよ。それに、ここ最近はともかく忙し過ぎる」
そう言って俺はスマホを机の上に置いた。
待っていた女性は西田園子という国連軍の人間だ。国連軍と言っても少々特殊な部署の所属で、彼女たちが探索協会にくる時は大抵が厄介ごとなんだが……まあ、今回はこっちが巻き込んだ立場ではある。俺たちも十分に巻き込まれた側ではあるんだけどな。
「まったくだな。こちらにも先ほど連絡が入ったが、あちらも迷宮災害の後だろうに自由な連中だよ」
「円卓が来ること。そっちは掴んでなかったんですか?」
「とある財閥にフェアリーアーティファクトの密輸問題が出ていて、それを円卓が調べているという話は耳に入ってきてはいた。ただ、そちらはモウドリッド卿が動いているそうだから、ガウェイン卿の目的とは別口だろうな」
なるほど。
この円卓ってのは、英国の上級クランのひとつだ。英国政府との繋がりも深く、妖精郷と呼ばれているダンジョンに繋がるゲートを独占している。
この妖精郷というのは、希少魔法具フェアリーアーティファクトが出土されるダンジョンで、彼らはそのダンジョンの番人として、英国政府によって結成されたという噂もあるぐらいだ。
その円卓の幹部にはアーサー王伝説に倣った称号が与えられているんだが……まあ、そこら辺は彼らが実際の円卓の騎士の子孫だとか、そういうわけではなく、コードネーム、或いはごっこ遊びの類ではある。実際自分の武器にエクスカリバーとか名付けて剣振ってるのはリーダーのアーサー氏だけだからな。
とはいえ、日本に対して円卓の幹部がふたりも動いているというのは怖い話だし、そもそもこの女が何故、聞いてもいない別件の情報を口にしたのかも分からない。何かしらの意味はありそうなんだが……
「ま、難しく考える必要はないよ。モウドリッド卿はともかく、ガウェイン卿は裏表のない御仁だ。悪いようにはならないだろうし、恐らく埼玉支部にも顔を出すだろうから、丁重にもてなしてやってくれ」
「ハァ……承知いたしました、西田少佐」
ああ、こちらの事情も完全に把握してるわけだ。大貫氏、また面倒を起こさないといいな。止めてね? 本当マジで。
ただでさえ、目の前の頭の痛い案件にまず対処しないとならないんだからさ。ハー、俺も休み取りたい。
そんなことを考えながら俺は目の前のモニターに視線を戻した。ああ、もう。どこに目を向けても厄介ごとばかりだよ。
「それで、話を戻すが、そちらの件の感想はあるかな?」
感想、感想ね。こんなの苦笑いしか出ないさ。本当にね。
「ははは、自分たちのお膝元でこんな爆弾が埋まってたかと思うと背筋が凍りますね。それにしてもここまではっきりと見えるもんなんですな」
モニターに映っているのは、秩父ゲートの先のダンジョン内のエリアのひとつ『境界の森』の映像だ。
もっとも、そこはもう森と呼べる場所じゃなくなってる。何しろ、森の中に『都市がひとつできている』んだからな。
【次回予告】
それは家族と引き裂かれた父親の物語。
それは復讐に身を焦がした男の物語。
それは千年を経て再会した家族の物語。
そこが地獄であろうとも、
その有り様こそが王の望んだ光景。
さあ、世界よ。改変せよ。





