ボスキルアナトル09
「ヒャッハァアアアアアアア!」
その老婆は私を飛び越え、シールドクィーンアントが顔を出したゲートに向かってウォーハンマーを一気に振り降ろしました。
「あ、ゲートが……砕ける!?」
そして降ろされたハンマーは黄金の輝きを放ちながらゲートと激突し、衝撃波を発生させながら一撃でゲートそのものを破壊してしまったのです。
あ、シールドクィーンアントの頭部が飛んでいってますね。凄まじい威力です……というかですね。
「ゲートって……直接壊せるのですか?」
「基点となる存在がいなくなればねー」
のしのしと近づいてきたラキくんに干された洗濯物のように乗っているユーリさんがそう言いました。
「おじさんがシールドクィーンアントを倒したから可能になったことだよー。だからあのババアがすげーってわけじゃないからねー」
「ひゃっひゃっひゃ。なんだい。風間のお嬢ちゃんが助けてーってべそかいてるって聞いたからすっ飛んできたっていうのに随分な言い様じゃあないか」
「言ってませんー。おじさんがきてくれるって分かってたから心配もしてませんでしたー」
「ユーリ。その格好で言ってもなー」
「うっさいよ。ふーちゃん」
なんでしょう。あの老婆が来た途端に、ユーリさんが子供のようになっています。まるで祖母と孫のようです。
「んだよ。私たちが助かったのは事実じゃんか。なあ大貫さん」
「まあ、そうですね。私では防ぐだけしかできなかったでしょう」
シールドクィーンアントは止められましたし、隙間から出てくるソードアントの群れさえ対処できればなんとかはなったかもしれませんが……うーん、圧縮空気弾ならゲートも破壊できたのでしょうか。先ほどのゲート破壊では魔力がぶつかり合った感じがありましたし、魔力を伴わない圧縮空気弾での破壊は難しいかもしれませんね。
「ふん。手柄奪っちまったババァにお優しいことで」
「あのまま防衛に徹していてもソードアントが漏れ出た可能性はありましたから。これ以上の被害なくゲートを閉じられたのは三船さんの功績でしょう」
目の前のこの人はユーリさんと同じ上級クランの『グランマ騎士団』リーダー三船ベラさんです。クランメンバーからはベラ団長と呼ばれていましたね。
「それにしてもグランマ騎士団のクランリーダーがよく来れましたね。別の迷宮災害に回っていると思っていましたが」
確かグランマ騎士団はオーガニックと一緒に秋田に配置されていたはずです。
「んーおじさん。そこのババアは配信の探索でドジって入院してたんだよ。いや、マジで大丈夫なの?」
ああ、あの遺跡倒壊ですね。流石に無事ではなかったのですか。ですが……
「怪我ならポーションでは治せないのですか?」
「ハッ、見ての通りのババァなんでね。瓦礫を受け止めるのに無茶な姿勢になってギックリ腰をやっちまってねぇ」
「それはお辛かったでしょう」
「あんがとねぇ。ま、この手のはポーション使うにしてもじっくりと治療しないと癖になっちまうからね。けど、今回はそうも言ってらんないから上級ポーション風呂に入って治したってわけさ。ほれ、卵肌だろう?」
「確かに」
ご老人とは思えない肌のツヤです。
これが上級ポーションの力ですか。
「で、腰を治してさっさとウチの連中んとこに向かおうとしたところを国防軍に止められて泣きつかれて、ここに来たってわけだ。とはいえ、どうやらあたしは要らなかったみたいだけどね風間の嬢ちゃん」
「ふん……んなことないっての。助かったわよ。あんがと」
「ヒャッヒャ」
ユーリさんが頭をぐりぐりされています。
やはり仲がよろしいようです。
「まあ、秋田と青森はカタが付いたらしいし、あっち行って遅刻ってなるよりゃ、こっち来て正解だったかもしれないけどねぇ」
「え、秋田攻略できたの?」
「ああ、連絡見てないのかい? 一分ぐらい前に来てるよ。ウチんとこもアンタんとこの連中も無事だってね」
その言葉にユーリさんが安堵の息を吐きました。
「青森は流石に無傷とはいかなかったが、九州男児とお前さんのねーちゃんが仕留めたみたいだね」
「チコ姉が」
姉? と私が首を傾げていると水瀬さんが横から声をかけてくださいました。
「風間壱呼。ユーリの姉さんは国防軍のエースなんだよ。有名なんだけど知らねーの?」
「申し訳ありません。その手のことに疎いもので」
探索者の情報は集めていますが、国防軍まではまだなのですよね。ユーリさんのお姉さんですか。お強いのでしょうね。それと九州男児というのは九州の方でしょうか。西郷隆盛っぽいイメージしか浮かびません。
「にしても、ゲートを見事に粉砕してくれちゃって。これじゃあアーティファクト取りにも戻れないなぁ」
「ハッ、アンタらにそんなことやれる余裕があったのかい?」
「……ふん。可能性の話よ」
「アーティファクトですか?」
私がその言葉に首を傾げると水瀬さんが「ダンジョンが生まれる原因だよ大貫さん」と教えてくれました。
「原因はよく分かってないんだけどさ。あちらの世界にあるアーティファクトを手に入れた魔獣がゲートを開くんだ。それが迷宮災害って呼ばれるものになるわけだね」
「ほぉ」
なるほど。それが迷宮災害誕生の秘密なわけですから。いえ、秘密ではなく単純に私が物知らずなだけのようですが。しかし、アーティファクトですか。もしかして……
「あの、水瀬さん。それって、これのことでしょうか?」
私はショルダーバッグに入れていたボロボロの腕輪を見せました。途中で割れていて、餅がベタっとくっついたみたいに魔石がくっついていますが、多分これがアーティファクトではないでしょうか?
【次回予告】
戦いは終結した。
老婆は去った。
太陽はまた昇り、
新たなる朝が来た。
しかし、そこに……
善十郎の名はなかった。





