ボスキルアナトル05
「ちょ、ちょっとユーリ。この人、本当に大丈夫なのかよ?」
「ごめんね。おじさんはちょっと変わってるから」
「ゼンジューローがごめんなさい。ゼンジューローは自重があまりできない人なのよ」
誤解を招かぬよう正直にお話ししたのに……私に味方はいないようです。悲しいですね。
「キュル」
おや、ラキくんが私を慰めてくれています。いえ、ラキくんも私と同じ気持ちのようですね。
ありがとうございますラキくん。そうですよね。強いお相手でしたら挑んでみたくなるものですよね。
ありがとうございます。私も自信が持てました。
「ねえ、今度はあの大きいレッサーパンダのお腹に抱きついてるんだけど?」
「アレはあーしも時々やってる」
「ラキは癒しだからね」
ふぅ、落ち着きました。ラキくんにはいつも助けられています。
ラキくんなしではもはや生活が成り立たないと言っても良いでしょう。
「それで、ユーリさん。私を呼び出したのはこの護衛に加わらせるためでしょうか?」
「うーん。違うかなー。もー少しでこれも維持できなくなりそうだしー」
「そうなのですか?」
私の言葉にユーリさんの横に立っている水瀬さんが頷きました。
「まあな。ユーリがこれを維持し続けられるのはあと残り20分程度ってところだ」
「限界まで搾り取るならねー。それと後10分くらいで戦うこともできなくなるかなー」
「それはピンチですね」
「ピンチだよー」
「ピンチなんだよ」
ユーリさんと水瀬さんが大きく頷くと、続けてユーリさんがこう口にしました。
「ということでねおじさん。身動き取れなくなる前に我々は突入してボスを倒そうと思いまーす」
「なるほど。分かりました」
まあ時間がないのであれば、そうするべきでしょう。
基本的に迷宮災害を発生させるのは統率個体、通称ボスと言われる魔獣なのだそうです。
詳細は存じ上げませんが、迷宮災害を終わらせるには時間経過でゲートが安定するのを待つか、ボスを倒してゲートを閉じる必要があるのだとか。だからユーリさんがボスを倒すと言ったのは自然な話だと思うのですが、この場の皆様方はザワッといたしましたね。何故でしょうか?
「ところでおじさん。さっき、あーしを倒すーとか言ってたけどさー」
「はい」
「実際、あーしを倒すことってできそうなのー?」
「そうですね。不可能ではないかもしれませんが、一手足りない……ですかね」
ユーリさんが油断してくれればイケるのではないでしょうか。でも上級探索者の勘っていうのは恐ろしいもので、危険時には凛さんのスキル『直感』に近いことが可能らしいのですよ。もしかすると、そうした危険感知の能力をスキル化したものが直感スキルということなのかもしれません。
「へぇ、一手ねぇ」
おや、ユーリさんの目が若干据わっています。
やはり今の状況はお辛いのでしょうね。随分と無理をしているようです。
「だったらおじさん。ボスはおじさんに任せても良いかなー?」
「ちょっとユーリ!?」
その言葉に水瀬さんが慌てた顔になりました。
ああ、なるほど。水瀬さんはオーガニックのメンバーですし、手柄をポッと出の私に横取りされるようなことはクランとして許容しがたいのでしょう。まあ当然の話ではありますね。ユーリさんが私を贔屓し過ぎていることを懸念しているのかもしれません。
「お前、大人気ないぞ。大体、大貫さんはまだ上級探索者でもないんだろ?」
「まあそうですね。この通り、まだまだ普通の探索者です」
私がシーカーデバイスに表示させた身分証明画面をお見せすると彼女は目を丸くしました。
「ちょ、ちょっと、若葉マークついてるじゃんか。え? マジで? さすがにそれは予想外なんだけど」
これに驚かれたのは今日二度目ですね。
今まで見せる機会というのはありませんでしたが、私のようなルーキーは珍しいのかもしれません。
「はっはっは、ふーちゃんはあーしが売り言葉に買い言葉で決めたとでも思ってるの?」
「今の流れでそう思わないヤツはいないだろ」
「んー。まー確かにねー。おじさんは上級探索者ではないし、若葉マークのルーキーだし、そもそも探索者になってまだ一ヶ月半の素人だからねー」
「マジかよ」
「本当にルーキーじゃねえか」
「自殺と変わらねえだろ。そりゃ」
探索者の方々からも次々とそんな言葉が飛んできます。まあ、分からないでもありません。仕事においてもっとも重要なのは紙に書かれたスペックでも、上の人間からの説明でもなく、これまで成してきた実績です。であれば……
「はいはーい。シャラップだよーみんなー。確かにおじさんはルーキーだけどね。ここ最近ドラゴンを連続で二体討伐してるからねー」
ユーリさんの言葉に、全員の声が止まりました。
「ちょっと待ってくれ風間さん。流石にそれはメチャクチャだ」
「新人がドラゴンを? それが事実だとしてもアンタらオーガニックの手伝いってだけじゃあ」
「いや、それは違うと私からも言わせてもらうよ。オーガニックが手伝ったのは二度目のドラゴン討伐時の素材の運搬と買取の手続きだけだ。大貫さんは単独で二度ドラゴンを仕留めてる。それもランクAのドラゴンをね」
単独と言っても実際にはラキくんやティーナさん、フォーハンズもいたのですけどね。
ただ従魔はテイマーの手柄としてカウントされていますので、記録の上では私単独の成果となってしまいます。
「それに一回目のドラゴン戦はうちのメンバーが助けられた形だからね。そんな状況でオーガニックが手伝った。もしくは手伝わせた……なんて恥知らずなことあーしは言えないし。ウチのクランメンバーでそんなことを吹聴してるヤツがいたらぶっ飛ばすよ」
バンっとユーリさんが自分の拳と拳をぶつけました。バリッと放電して迫力満点です。
「普通に考えて一体だけでもドラゴンを相手に運だけで倒すのは無理だよねー。二体続けてってんならなおさらさー。で、この場にいる人間で他にドラゴン二体をソロで倒すことができる人っている? あーしはできるけど」
「私には無理だね」
水瀬さんがお手上げというポーズでそう返します。他の方たちも同じようです。
それから水瀬さんがこちらに顔を向けました。
「まあ実力はユーリの言う通りなんだろうよ。でも、個の強さと群の強さってのは正直別もんだし、相性だってある。それに大貫さんがルーキーだってのも事実で、ぶっちゃけこちらから無茶は言えない立場なんだ。だから素直に答えてほしいんだけどさ。大貫さん」
「はい」
「実際のところ、どうなの? やれる?」
「……そうですねぇ」
今回のボスこと統率個体はあのソードアントやシザーズアントなどの親玉のはずです。つまりは蟻の魔獣の上位種や変異種であるはずでしょう。となれば……
「集団戦でもどうにかなると思います。ボスがグランドウィンドドレイクより弱いのであればイケるのではないでしょうか?」
「なるほど……大物だね、こりゃ」
「でしょー」
水瀬さんは呆れたような、諦めたような顔をしていますが、ユーリさんが嬉しそうなので問題はありません。
ともあれ、軽口を叩いているユーリさんですが、先ほどから限界が近いのか、お汗が増えています。時間もあまりないようなので、さっさと始めてしまいましょう。
【次回予告】
都市の命運をかけた大勝負。
挑む彼らに迫るは数え切れぬ蟲の群れ。
その黒き壁を越え、善十郎は戦いの場へと躍り出る。
対峙するは母なる魔蟲。貪欲なる群れの長。
それこそが発端。それこそが元凶。
すなわち、今宵最後の獲物なり。





