ボスキルアナトル01
「それにしても彼らはシェルターに避難していたのですよね? わざわざ避難所に移動する必要があったのでしょうか?」
ラキくんに乗って移動中、私が先ほどの避難民たちを思い出しながらそう口にすると、ティーナさんが周囲を見回しながら「ここら辺見てもそう言えるのゼンジューロー?」と問うてきました。
うーん? いや、確かにそうですね。この辺りの家々はボロボロです。恐らくはソードアントの群れが暴れたのでしょう。シェルターの入り口もいくつか丸見えになっています。
「ソードアントってのはね。免許センターで仲間の死体をたどって集まってきたように臭いにはかなり敏感らしいのよ。それで人間の臭いに気づいてシェルター周りをずっと徘徊していたんだって。崩れた壁の隙間から頭だけ出してガチガチと顎を鳴らされてた……なんて話してた人もいたわよ」
「ああ、それはゾッとする話ですね。シェルターと言っても民生品ですし、確かに強度についての不安もありますか」
ラキくんに懐いていた子供達はともかく、大人たちはすがるような目で立ち去る私たちを見ておりました。
一緒についてきてほしかったようですが、申し訳ありませんがユーリさんの先約があります。これ以上のタイムロスは許容できません。
「本当にひどい有様ですね」
ゲートに近づくにつれて被害が大きくなっていきます。並ぶ建造物は軒並み破壊されていて、正しく廃墟といった様相です。
こういう光景を見ると前職の同僚の方たちを思い出します。
以前に勤めていた会社は、こうした迷宮災害の被害者の受け皿の側面もありました。だからこそダンジョンの話題は社内では厳禁だったわけです。
ダンジョンという言葉を聞くだけでPTSDを発症する同僚もおりました。
羽田社長も子供や奥さんを魔獣によって亡くしています。だからこそ、社員に対しての仲間意識が強かったのでしょう。今思い返せば羽田社長はダンジョンや魔獣だけではなく、もたらされる素材も、それを利用する探索者、ダンジョンに迎合する社会、ダンジョンに関わるすべてを憎んでいたような気もします。
最後の出社日のあの人の背中は嘆いている……というよりも怒りを溜め込んでいるように見えました。今頃何をしているのでしょうね。立ち直ってくれていると良いのですが。
「ゼンジューロー、何しんみりしてるのよ」
「羽田社長のことを思い出してました」
「ああ、そうなんだ」
私の記憶を持っているティーナさんも羽田社長のことはよくご存知です。だから私の考えていることもすぐに察してくれたのでしょう。
「羽田社長、元気でいると良いけどね」
「ですね」
まあ、その辺りの話は、今は置いておきましょう。それに目的地も見えてきました。
ええ、目標はずっと見えていました。非常に分かりやすく輝いておりましたから。だから辿り着くだけならそう難しくはなかったのです。
「なるほど。アレが国内有数の実力者の力……というわけですか」
そこにあるのは出現したゲートを覆うようにしてできた雷の柱でした。
免許センターを出た辺りからずっと視認できていましたが、近くに寄れば寄るほどに理解させられます。上級クランのリーダーにして、国内でもトップクラスの実力を持つ上級探索者。『雷霆使い』の風間ユーリ。彼女は今、ゲートから出てこようとする魔獣をたったひとりで押し留めているのです。
…………
……
いえ、たったひとりで……というのは少々言い過ぎかもしれませんね。確かにゲートを封印しているのはユーリさんおひとりなのでしょうが、戻ってきたソードアント対策と思われる護衛役と思われる探索者の方々が彼女の周囲におります。申し訳ございません。訂正しておきます。
彼女たちは今、ゲートから出てこようとする魔獣をたったさんじゅう……に名? で押し留めているのです。
ふむ。数が多いと動いて数えにくいですね。
【次回予告】
時は止まらず。滅びの足音が迫り来る。
選択はふたつ。待つか、退くか。
いずれにせよ、流れる血は止められぬ。
いずれにせよ、死の運命は変えられぬ。
それは更なる厄災の前の小事。
故に命が消費されることは許容された。
盤上の冷たい試算を前に、選び取る未来は如何に?





