メイズハザード06
「ウワァアアアアア」
「谷川が負傷した。下がらせろ。神崎、撃て撃て。山田は腹を狙え。絶対に近づけるな」
「分かりました」
「チックショー。谷川の仇!」
「し、死んでませーん」
よし、仕留めた。銃声が鳴り終わり、ソードアントも動く気配はない。全部で12体。これで襲ってきた連中は片付いたな。
「葛西少尉。ひとまずは凌げたってことでしょうか」
「そうだな。A班は負傷組を回収して休憩。B班はここで待機。C班は巡回してバリケードの確認を行っとけ」
「「「はいっ」」」
ふー、やれやれだ。まったく今日は最悪の日だな。
俺の名は葛西銀次。国防軍に所属する軍人で、今は避難所になってる鴻巣免許センターの防衛を任されている。あの建物の中には数千人の市民がいて、俺らのお仕事は彼らを守ることってわけだ。
最初は探索者も一緒にいたんだが、市街地に散らばったソードアントを片付けるために今は別行動になっている。まあ、各々がやれることをしっかりやってくしかねーからな。しゃーなしだ。
とはいえ、状況はかなりよろしくねえがな。
「山田ぁ、弾はまだあるか?」
「今の規模の相手ならまだ対処はできますが、ここを守っていくことを考えれば心許ないですね。初手の群れを仕留めるのに使い過ぎましたし、連中は仲間の死体を盾に進んできます。また群れでこられたら厳しいですよ」
「蟲型は銃弾が通りにくいからな」
対魔獣用のEBB特殊反応弾も用意しているが、アレは魔法防御を抜くだけで単純に硬い相手には普通の弾丸程度の威力でしかねえ。蟲型の甲殻はそこまで硬くなくとも角度次第では弾かれるし、後ろにまで貫通もしない。死体を盾にされたら接近戦でやり合うしかねえし、連中もそういう戦い方をしてきやがる。
「人員も装備も追加の要請はしてるが……やっぱり初動の遅れが響いているな。それもこれもあの馬鹿どものせいだ」
「馬鹿どもって、本当なんですか? 探索者議員がゲートに飛び込んだって」
「事実だよ。おかげで魔獣を刺激して防衛線は崩壊。この有様ってわけだ」
おかげで同期が何人も戦線離脱せざるを得なくなったしな。
探索者の議員と取り巻きがゲート閉鎖のために勝手に動いて派手にしくじったんだ。それだけならまだ良い。死にてえ奴は勝手に死んでくれって話だ。
だが国防軍が睨み利かせて準備している途中で突っ込んで、魔獣どもを刺激して防衛線が崩壊した。ただでさえ戦力を引っ張ってくるのが難しい状態をさらにややこしくしやがった。手持ちの戦力だけだとそろそろ限界だぞ?
「神崎、外はどんな感じだ?」
「秋田はそろそろカタがつきそうっすけど、青森の方がヤバいっす。多分追加の戦力はあっち優先になると思います」
「チッ、風間ユーリが『ひとりでゲートを抑えてる』ッつっても限度がある。間に合わんだろ?」
「俺に言われても」
「分かってるよ。言いたくなっただけだ。クソッタレ」
勝手に死んだ馬鹿のせいもあるが鴻巣市のゲートは遅れて発生したせいで、上級探索者の配分から外されてる。
出てきたのがよりにもよって蟲型ってのも最悪だ。蟻型魔獣は数が多いし、外殻が硬く、ロボットのように無機質に襲ってくる魔獣だ。囲まれれば実力のある探索者だって殺される。
そんで市内には千を超えるソードアントが散らばってやがる。
秋田から緊急でやってきてくれた上級探索者の風間ユーリがゲートを押さえ込んでくれたからどうにかなってるが、まったくもって最悪の状況は今なおも続いているってわけだ。
「でも実際、増援来ないと不味いですよね?」
「不味い……が避難民には言うなよ。あの数がパニックになったら俺らじゃどうにもできんぞ」
「わかってますが……ねえ少尉。風間さんが抑えきれなくなったらどうします?」
「考えたくねーなー。籠城か、脱出か。選択するのは上だが、どっちにしろ厳しい状況にはなるだろうさ」
風間ユーリがゲートを封じるまでに千匹以上のソードアントが町中に散っていった。ゲートが抑えきれなくなったらもっと多くのソードアントが出てくるはずだ。
籠城している間に増援が来なけりゃ俺らは死ぬ。避難民と共にここを出て市外に出ようとしてもとてもじゃないが守り切れる自信はない。多分かなりの犠牲が出るだろう。
どちらにせよ、手遅れになる前に動く必要があるわけだが……そう思って上に掛け合おうかと思った俺に部下からの報告が届いた。
「少尉、虫どもが正面から大量に向かってきてますよ。数は100を超えています」
「チッ、やっぱりそうなるか」
ソードアントの体液が仲間を誘発する性質があるってのは事前に聞いてはいた。ひとつどころに留まって戦い続ければ、群れで襲ってくるだろうとも。
それでも避難民を守るためにここで戦い続けにゃいかんのが公僕のツレーところだ。
「残弾から考えて半分削れれば御の字ですかね」
「だな、正面から当たったら厳しいか」
ああ、クソ。本当に群れが見えてきやがった。ありゃあこのままやり合ったら確実に呑まれる。
この場の国防軍のメンバーは全員レベル20以上の探索者だが、それでも数の暴力には敵わない。少なくとも無策で正面から挑むのは、ただの馬鹿だ。
「やむを得ん。センター内まで後退。応援が来るまで防衛に徹し」
そして俺が命令しながら自分も下がろうとした、その時だ。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
「な、なんだ!?」
「ウォォオオオオオオ、蟻どもが」
「どんどん倒されていくぞ!?」
何かが蟻たちに降り注ぎ、バキバキと甲殻を破壊されて、崩れ落ちていく。
百体以上いた蟻どものほとんどが動きを停止し、さらに生き残りには……
「左右から熊? いえ、巨大レッサーパンダと四つ腕のロボットが突入していきます。従魔登録信号を確認。アレは味方ですよ少尉!」
部下の報告に周囲から歓声があがる。増援か。マジ助かったぜ。しかし、最初の攻撃といい、テイマーはどこに?
「少尉、奥に大型の魔獣です。空からの攻撃も効いていません」
「アレはソードアントの上位種、シザーズアントですよ!?」
「チッ、そんなのまでいやがったのか。だが、数の脅威は消えた。俺らで力を合わせれば」
「少尉、上です!」
「!?」
その言葉に俺が夜空を見上げると、何かがシザーズアントに向かってからまっすぐ落ちていく。アレは……人か?
「まずい。喰われるぞ!?」
そう叫んだ俺の前で、ズガガガガガと連続で破砕音が響いて、最後にズガンッと大きな音と共にシザーズアントの頭部が砕けたのが見えた。
「な!?」
何が起きたのかは分からない。だが、危なげなく地面に着地したその人物が何かをしたのだろうことは明らかだった。
「あれはまさか……」
「知っているのか雷田?」
俺の横で眉をひそめて神妙な顔をしている雷田がこくりと頷いた。
「うむ。目にも止まらぬ速度で放たれた連続パンチ。空気が弾ける音から音速を超えているであろうソレは恐らくは気功闘士の扱う魔破拳。その頂点に在りし慈幻流奥義『八星魔破拳』……いや、連続で聞こえた音は十。故に『十星魔破拳』とでもいうべきか。凄まじき功夫だ。恐らくは名のある達人に違いあるまい」
「なん……だと?」
見た限り、低レベルの気配しかしない人物だが……なるほど。気功闘士は己の魔力漏れを閉じることも可能だという話だ。あの従魔や魔法ロボットも従えている辺り、かなりの実力者なんだろう。
「ラキくん、フォーハンズもご苦労様です。ティーナさん?」
「大丈夫。周囲に敵なし。今は落ち着いているわ」
さらに空からサーチドローンに乗った妖精が降りてきた。しかも喋っている。魔獣って喋れるのか? いやまあそれはいい。今はいい。それよりもだ。
「助かった。俺はここの防衛を任されている葛西だ。あんたは増援の探索者ってことで良いのか?」
年は四十代半ばか。探索者は老化が抑えられ、若返ることもあるというが、彼は年齢相応の姿だった。だが、その実力は100体を超える魔獣の群れを1分とかからずに制圧するほどのもの。只者のはずがない……が、この男の気配はおかしい。探索者ではあるんだろうが、『低レベルの気配』しかしない。
「はい。そうです。上級探索者のユーリさんに頼まれて救援にきました大貫と申します」
そして男が出したシーカーデバイスは確かに探索者であることを示すもので、液晶画面には大貫善十郎という名前が書かれていた。そして……
「若葉マーク?」
名前の横に半年未満のルーキーであることを示す若葉マークが当たり前のように添えられていた。
いや、さすがに嘘だろ。それはよー。
【次回予告】
赤き悪魔はかつて勇者であった。
善性を好み、悪性に牙を剥く勇者であった。
幼子の未来を守り、非道を断罪する勇者であった。
すべては過去。すでに彼の世界は朽ちて果て、ただ残滓が残るのみ。
されど、その有り様は変わらず。生き様は変わらず。
彼は童たちの声を受けて立ち上がる。





