烏賊とお髭と大地の精霊 後編
急いで家に帰ってきた私は勢いよく冷蔵庫を開けた。
そこにはタッパーに入った、とろりとした――烏賊の塩辛。
それは市販のものに比べると少し黒ずんでいる。
たっぷりの肝と、一夜干しにした烏賊の半生の身が絡み合ってとろとろだ。
初日に作ってから明日で5日目。丁度いい塩梅に発酵しているはず。
私は箸で一切れ身を掬うと口へ運んだ。
……! よし、いい頃合いだ。
ばりばりになるまで干した烏賊の身は、表面はサクッとした歯触り。だけれど中は半生だ。歯が身を噛み切る頃にはとろとろの舌触りに変わる。
烏賊の肝は濃厚で複雑な味。塩で一晩漬け込んだ肝は、新鮮でぷりぷりのものを使ったから臭みは全くない。旨味の塊ともいえる肝と、サクッ、とろとろの烏賊の身が混じり合うと、炊きたてほかほかの白いご飯が欲しくなる最高のご飯のお供。
だけどお酒のつまみにする時は、大根おろしを添える。しゃきしゃき、ちょっと辛い大根おろしと、甘い烏賊の塩辛の相性は最高だ。
……これが、私の隠し玉。
酒好きなら堪らない、最高のおつまみ。
「……だいじょうぶ、きっと。大丈夫……」
ゴルディルさんの様子から、恐らく大丈夫だろうとは思っている。けれど、胸の奥で燻ぶる不安感が拭い去れない。
万が一にも、私のもてなしが気に入らなくて、ドワーフ達が帰ってしまうことになったら……。
最悪の事態を想像して、思わずぶるりと震えた。
「茜?」
そのとき、ジェイドさんが軽く息を弾ませて台所に入ってきた。
突然大食堂を飛び出した私を追って、走ってきたのだろうか。
「……あ。ジェイドさん、ごめんなさい。勝手に戻ってきたりして」
「一言断っていただけると助かりますけど……次から気をつけてくれれば大丈夫ですよ。……それより」
ジェイドさんは私の頭に手を置いて、ふんわりした手つきで頭を撫でてきた。
「ここ数日、根をつめすぎではありませんか。……疲れていませんか。……隠れて、辛い思いをしていませんか」
ジェイドさんは少し寂しそうな顔をしていた。
「大丈夫ですよ。ジェイドさんは心配性ですねえ」
「すみません。あなたが泣いていないか、心配で」
ジェイドさんの言葉に、胸がきゅっと苦しくなる。
……大丈夫。私、笑えているはず。
「ジェイドさんの中で、私ってそんなに泣き虫ですか?」
「……泣き虫ですよ」
「ふふ。酷いなあ、昔から強いおねえちゃんだって、母からも親戚からも良く言われていたのに」
ジェイドさんを安心させたくて、なんとか笑顔を作って見上げるけれど、彼はそんな私を寂しそうに見つめるだけだ。
ジェイドさんの手つきはとても優しくて、心地よくて。
私は視線を落として、ジェイドさんにされるがままじっとして、素直に撫でられていた。
そしてお互いに無言のまま、ほんの少しだけ静かな時間を過ごした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ゴルディルさんの目の前に、お酒とおつまみを並べていく。
米焼酎は家にあるものの中でも一番上等なものを持ってきた。
さつまあげも食べる直前に揚げたから、まだほかほか。枝豆も塩味をしっかり染み込ませてある。
そして、小鉢のなかにはとろりとした塩辛。大根おろしも添えて準備万端。
ゴルディルさんは今日も腕を組んで目を瞑っている。
私はいつものとおりにお酒を作ってグラスを渡した。
だけど、今日はいつもと違うところがある。
昨日まで壁際に山積みになっていた酒樽は全て片付けられ、酔いつぶれて寝転がるドワーフも居ない。
汚らしい格好だった彼らは、きちんと身なりを整え、遠巻きにゴルディルさんの動向を見守っている。
そして、ルヴァンさんや文官らしき人たちも、ドワーフ達に混じってこちらを見ていた。
私は震える手で自分の分のお酒を作る。
そして、ゴルディルさんを見ると、彼は私を真っ直ぐ見ていた。
「……ふん。乾杯」
「! ……乾杯」
初めてゴルディルさんから掛けられた乾杯の言葉に嬉しくなる。
ゴルディルさんはぐいっと酒を飲み干すと、さつまあげを口にした。
私はすかさず空いたグラスに酒を注ぐ。
「……はふっ、はふ……」
揚げたてのさつま揚げはかなり熱いはずだ。
それをひと口で食べ、熱さを逃がしながら噛み締めている。
ごくり、と飲み込んだら、またグラスの中の酒を飲み干した。
「……お前さんも食え」
その言葉に一瞬戸惑ったけれど、「酒は一緒に飲んだほうが美味いんだろう?」というゴルディルさんの言葉に、私は小さく頷いてさつま揚げを一つ手にした。
我が家の自家製のさつま揚げは、白身魚と海老のすり身をれんこんと白ネギを刻んだものと和えて、揚げたものだ。黄金色をした小判形のさつま揚げは、箸で持ち上げるとぷりん、と弓なりに撓った。
「あち、はふ、あちち……」
熱々のさつま揚げを苦労しながら噛み締めると、ぷりっとした弾力の後、魚の強い旨み、甘味を感じた。少しだけ入れた塩が、えびと白身魚の味を引き立たせ、時折さく、さくと感じるレンコンの楽しい食感と、一緒に入れた白ネギの風味がいいアクセントになっている。
さつまあげの美味しさに、ついつい手元のお酒を煽る。
辛口の焼酎と、魚の甘みがたっぷりと感じられるさつま揚げ。これが堪らなく合う。
ゴルディルさんは枝豆にも手を伸ばした。ゴルディルさんの大きく太い指と比べると、枝豆がかなり小さく見える。
ゴルディルさんは、それを指先でそっとつまんで口へ持っていき、ちゅっと中身を搾り出した。
暫く無言で枝豆を食べる。四つほど食べたところで、私が注いでおいた酒をまた飲み干した。
そして、とうとう塩辛だ。
箸は使えないだろうから、ちいさなスプーンを添えてある。
ゴルディルさんは、スプーンで塩辛を掬うと、珍しいのかまじまじと眺めて――ぱくりとひと口食べた。
ゴルディルさんは無言で塩辛を味わっている。
その様子を誰もかれもが身じろぎひとつもせず見つめる。
部屋は静まり返り、緊迫した雰囲気が場を支配している。
――ふう。
塩辛を飲み込んだ後に、ゴルディルさんの吐いた息の音が、やけに大きく聞こえる。
次の瞬間、ゴルディルさんがいきなり俯いて肩を震わせはじめた。
「ふ、ふふ……ふは……」
「ゴルディル……さん?」
急に笑い始めたゴルディルさんに驚いて思わず声をかけるけれど、ゴルディルさんの笑いは止まらない。
「ふはははははははははは!」
とうとうゴルディルさんが大口を開けて笑い出すと、鼓膜がビリビリするほどの大音量に、思わず耳を押さえてしまう。
「ああ、美味い! なんだこれは! はははは!」
ゴルディルさんは目端に滲んだ涙を拭っている。
私や他の人たち、ドワーフたちは唯々呆気にとられてその様子を見つめていた。
「これは烏賊か! なんだ、このとろりとした汁は」
「し、塩漬けした烏賊の肝です」
「肝! そうか、肝か……! この複雑な旨味! とろっとした食感! ああ堪らん! 酒に合うどころの騒ぎじゃない!」
ゴルディルさんは、私から酒の瓶を奪い取ると、とうとう手酌で飲み始めた。塩辛をつまみに、次から次へと杯を空け、気づけば焼酎の瓶一本分を飲みきってしまった。
「お前さん、酒だ! もっと寄越せ!」
「……はい!!」
「お前ら! お前らも飲め! 景気付けだ! 飲んだら儀式に入るぞォ! 文官ども! 準備を整えておけ!」
ゴルディルさんの言葉に、周りが急に慌ただしくなる。ドワーフたちはまた酒を飲みはじめるし、ルヴァンさんや他の文官は、バタバタと大食堂を慌てて出て行ってしまった。
私は新しい酒の瓶をゴルディルさんに手渡そうとした。
すると、ゴルディルさんは私の手ごと、酒の瓶をごつごつした大きな手で包み込んだ。
そして、初めて見る優しげな眼差しでこう言った。
「すまねえな、お前さん。悪いことをした。大昔のことにまぁだ縛られてる爺いの我儘に付き合わせちまった。爺いなりに、若いもんの事を思ってのことだ。許してくれとは言わないが……わしに出来る最高の仕事をしよう。約束する」
「ゴルディルさん」
「年寄りはこれだからいかん。……今と昔がごっちゃになって、判断が鈍る。邪気の事は、今のままじゃ他に手立てがないことも、若いもんに任せるしかないことも。自分にできることの全ても、長いこと生きてきたからこそ見えてるってぇのに」
ゴルディルさんは、ぐっと眉を寄せて少しだけ目を瞑った。そして、再び目を開けた時、また柔らかくて優しげな表情に戻った。
「何百年も前と同じやり方しか出来ない事が腹立たしくて、この老いぼれ爺いがごねれば、若いもんが危険な場所へ行かなくて済むような――そんな夢を見ちまった。……そんなこと、絶対にありえないのにな。さっさと美味い酒を飲んでしゃきっと目覚めないといかんな」
「……お酌しますね」
「おお、すまねえな」
とくとくとく、とゴルディルさんのグラスに酒を注ぐ。その酒をゴルディルさんは愛おしそうに眺めて、ぐいっと一気に煽った。
「ああ。美味い。美味い酒に美味いと言えないのがこんなにも辛いとは思わなんだ」
「もっと早く、正直になってもよかったんじゃないですか」
「そりゃあ、無理だ。爺いには爺いの矜持ってもんがある」
「それは、厄介ですねえ」
「ああ。厄介だなあ」
ふたり顔を見合わせて苦笑した。
けれども、ゴルディルさんは次の瞬間、ふっと真顔に戻り、
「今回は、いや、今回こそ――王子も、聖女も笑って終われるように。この老骨の全てを掛けて、完璧な船を造る。この酒に、この世の全ての酒に、誓おう」
そういって、高く杯を掲げた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
王宮のはずれ、沢山の木々に隠されるように建てられている、石造りの建物に私はいた。
ここは大地の精霊を祀る神殿だ。
無骨な大きな石を組み造られた神殿は、所々に人型の意匠が彫られていて、古代の遺跡に迷い込んでしまったような不思議な雰囲気を醸し出している。
――そこでは今まさにドワーフたちが儀式を行おうとしていた。
四本の大きな柱に囲まれた舞台。そこには轟々と大きな篝火が焚かれ、その周りに沢山の供物――主に酒だ――と、大小様々なハンマー……恐らくドワーフたちの仕事道具が置いてある。さらにそれを囲むように、上半身裸のドワーフたちが立っていた。
彼らは丸い丸太のような体に、赤色と白色の塗料で、目玉のような不思議な文様を書き込んでいた。
そして、裸足になった彼らはどん、どん、どん、と足を打ち鳴らし体勢を低くして、低い声で一定のリズムで声を上げながら、舞台をぐるりと取り囲んだ。
時はすでに夕暮れ。
空は綺麗な茜色に染まって、空気も少しひんやりとしてきた。
夕日に染まった神殿の舞台は赤く染まり、日が当たらない陰った場所は驚くほど暗く色が無い。
陽が落ちるにつれ、舞台上の熱は上がる一方だ。ドワーフたちはゆっくりと足を打ち鳴らしながら、中央の篝火に近づいたり遠のいたり、そして順番に小さな瓶を炎に投げ込んだ。
その中には油が入っているのだろうか、瓶が投げ込まれるたびに炎が一段と大きくなり、少し離れた場所でそれを見ている私の肌も、熱でちりりと痛むほどだ。
「――我等、大地の精霊の加護を賜りし者なり!」
「「「――我等、大地の精霊の加護を賜りし者なり!」」」
ゴルディルさんの声がして、それにドワーフたちが追従する。
夕日の陰になっていた神殿の入り口のほうから、他のドワーフより沢山の文様を体中に書き込んだゴルディルさんが現れた。
ゴルディルさんは立派な錫杖のようなものを持ち、それを地面に打ちつけながら歩みを進める。
杖の先についている美しく煌く鉱石が、打ち付けられるたびにキン、キィンと澄んだ音をたてる。
それにあわせてドワーフたちも足を打ち鳴らす。
それは次第に体の奥にずしん、と響くようなリズムを作り出し、私は彼らの世界に惹きこまれて目を離すことが出来なくなってしまった。
ゴルディルさんは炎の一番近くに到着すると、錫杖を打ち鳴らしながら大地の精霊を讃える歌を歌う。
それは以前ひよりが、ウンディーネを喚ぶときに歌った歌と、どこか似ていた。
けれども、ゴルディルさんの地を這うような低い声は、ひよりの歌とは全く違う雰囲気を創り出す。
低く、どこまでも低く、鼓膜どころか体すら震えさせるような渋い声が、どこか坊主の読経のような、厳かで真摯な気持ちにさせてくれる。
ゴルディルさんの歌が始まると、ドワーフたちが踊り出した。
このときには陽も既に落ちて空は真っ暗だ。中央の大きな篝火の炎の光が、踊るドワーフたちの影を大きく伸ばし、背に篝火を背負っているせいで、逆光で真っ黒な影が踊っているようにみえる。力強く響くリズムと踊り続けるドワーフたちの影は、幻想的でありながら、どこか民族的でもある。
ゴルディルさんの錫杖の澄んだ音、ドワーフたちが足を打ち鳴らす音、低く鼓膜が震えるようなゴルディルさんの歌。
それらは時が経つにつれ、勢いを増し、音量を増す。遂には圧倒的な音と声量に、私は圧倒されてしまい、思わずその場から一歩退いてしまった。
――キィン!
「我等の祈りを聞き届け給え!」
――キン、キィィン!
「此処に邪気を打ち祓わん為の、聖なる御業を!」
ゴルディルさんの大きな声が響き渡ると、踊るドワーフたちの足元に何かが現れ始めた。
ドワーフたちから伸びる影、そこにちらちらと何かが紛れ込んでいる。
「……?」
私は不思議に思って、ドワーフたちの足元をじっと目を凝らして見てみた。
それは、人形のような何か。
人型で、手のひらほどのサイズしかない、不細工な土くれの人形のようなものが、ちょろちょろとドワーフたちの足元で、一緒にリズムに乗って踊っている。
「あれは大地の精霊ノームですよ」
隣で儀式を見ていたジェイドさんが教えてくれた。
「ドワーフが信仰し、そしてドワーフを愛する精霊。それがノームです。ドワーフのものづくりの業の魔力的な部分、それは全てノームに由来しています」
「ノーム……」
「茜。ドワーフの長、ゴルディル様は茜から見ておいくつに見えますか?」
「え?急になんですか?……ええと、70歳くらいでしょうか」
「彼は500歳をとうに超えていますよ」
ジェイドさんの言葉に思わず絶句する。
お爺ちゃんだとは思っていたけれど、まさかそんな歳だとは思いもしなかった。
「ドワーフ自体はそんなに長命な種族ではありません。ノームはドワーフの持つ技術を残すために、選ばれた長の寿命を延ばします。それがドワーフ族の、長には絶対服従だということの所以でもあります」
「あの、ジェイドさん。ゴルディルさん、500歳ってことは」
「ええ。彼は以前の邪気の急増期の時代も知っているのですよ」
……ああ。そういうことなのか。
私の中の疑問が解けていく。
ゴルディルさんは以前の急増期、聖人が死んだときのことを覚えていて――……それで。
――お前さんはそんなにも、聖女を……妹を死地におくりたいのか。
――それでも、お前さんは妹を送り出すのか。わしにお前さんの妹の棺を作れというのか。
ゴルディルさんの言葉を思い出すと、胸がずきりと痛む。
もしかして、以前の聖女も黒髪黒目だったのだろうか。そうだったのならば、ゴルディルさんに初めて会った時に、直ぐに私が異界から来たことを見抜かれたのも納得できる。
篝火の前に立ち、祝詞を歌い続けるゴルディルさんの背中は、とても大きく力強くて、そんな大昔から生きているようには決して見えない。
以前の急増期に、彼に何があったのかは知らない。彼は、屍となって戻ってきた聖人フェルファイトスを迎えたとき、どれほど辛かったのだろう。よほどの衝撃を受けたに違いない。だからこそ数百年経った今も辛く苦しい思い出として記憶に残っているんだろう。
「祝福を!」
ゴルディルさんがそう大きく叫ぶと、篝火の周りで踊っていた精霊たちが一斉に炎に向かって走り出す。途端、炎がいっそう高く燃え上がり、赤々とした炎の光のせいで、舞台が眩しくて見えない。
手をかざし、目を細めて舞台をみると、ノームが楽しそうに飛び跳ねながら、篝火の近くに置いてあるドワーフたちの仕事道具……ハンマーに青白い燐光となって吸い込まれていった。
それを見届けたドワーフたちは、踊るのを止めてそれぞれ道具を手にする。
ゴルディルさんも一際大きな金属製のハンマーを持ち上げた。
すると、舞台袖から数人のドワーフが現れ、鈍く光る台のようなものをゴルディルさんの前に置いた。
そしてインゴットを幾つかその上に置く。
「――我、大地の精霊の加護を賜りし者なり! ここに大地の精霊の御力を示さん!」
ゴルディルさんはそう叫ぶと、大きくハンマーを振りかざし、インゴットを力一杯打ち付けた。
ギィィィィィィィィン!
インゴットを打ちつけた瞬間、そこから色とりどりの火花が散る。
インゴットから弾けた火花は、ゆっくりとした軌跡で地面に落ち、パチパチと細かく弾けた。
ギィィィィィィィィン!
舞台のそこかしこで、ドワーフたちが同じようにインゴットを打ちつけ始めると、色とりどりの火花で舞台中が彩られる。
「ああやって、銀のインゴットに大地の精霊の御力を込めて、聖銀へと変えるんです。あの聖銀が、邪気に対して大きな抵抗力を生み出す素材となります。あれで、穢れ島へ行くための氷上船を装飾するんです」
甲高い金属が打ち付けられる音。
弾ける色とりどりの火花。
「――花火みたい……」
まるで、地上で弾ける花火のような、色とりどりの鮮やかな火花に私は見蕩れる。
――ひよりのために、なったのかな……。
ふっと過ぎる不安。
私は軽く頭を振って、なんとかそれを振り払おうとする。
けれども次から次へと不安が沸き起こり、それがあまりにも耐え難くて、下唇を噛み締めて拳を強く握り締めた。
――信じよう。信じるんだ。
死地なんかじゃない。
妹がやると決めた、浄化の旅の終着点だ。
最高の仕事をすると、ゴルディルさんは言ってくれた。
だから、大丈夫。妹は絶対に大丈夫。
様々な色が溢れる視界に疲れてしまって、瞳を閉じる。
けれども瞳を閉じても尚、瞼の裏側で青白い光が弾けて、ちかちかと瞬いていた。




