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02 交友関係を広げよう!

 若草亭のテーブルを囲んだ私達は中央に置かれた一皿の料理をじっと見つめる。先程ギルドで仕事を選んでいたシルヴィアとレインを連れて昼食を摂りにここに来たのだが、途中で少年冒険団のテディ達に出会った。彼等は酷く疲弊した様子だったので、詳しく話を聞こうと思い昼食に誘って若草亭にやって来たのだ。中央の皿に盛られた料理を見ていたテディが、静かに口を開く。



「あの、ラーベさん、これって、食べ物ですよね……ってなんで泣いてんすか!?」

「……泣いてなどいない」



 盛り付けられた料理の色合い、食材、そしてこの香り……。揺れる心を落ち着かせ、静かに口に運ぶ。独特の歯触り、口に広がる懐かしい風味。間違いない。私は熱くなった目頭を押さえて瞑目する。

 

 

 レインが今まで生きてきた中で一番美味しかったものを食べに行く。私達の旅の目標の一つだが、そう簡単なことではなかったようだ。運ばれてきたこの料理を見たレインは困惑した表情をしていた。テディ達の様子を見るに、この地方では色合いの茶色い料理はあまり好まれていないようだ。普段はその小柄な体型からは想像もできない大食らいのシーラも手を伸ばさない。感動しているは、私だけだ。私は震える手でゆっくりとそれを口に運び、噛み締め、久し振りの味を堪能する。



「ち、ちょっと! ラーベさんが食べたいって言ったんでしょ!! あたしちゃんと父ちゃんに言って作ってもらったんだから!!」

「ラーベ殿? どういうことなの……?」



 私の様子に声を上げる給仕娘。以前“黒いスープで煮込んだ料理”に心当たりが無いか尋ねたところ、父ちゃんに作れないものはない! とのことだったので無理を言って作ってもらったのだ。

 

 

「あぁ、前に言ってたろ? 今までで最高の料理を食べたいって。それで作ってもらったんだが……このスジ煮込みは、俺の故郷の味だ。もう口にすることは無いと思っていたが……」

「それで泣いてたのか! 意外と涙脆いのだな、ラーベは!」

「だから泣いてなどいない。そうだお嬢ちゃん。これは親父さんが作ったのか? ちょっと挨拶したいんだが……大丈夫か?」



 この料理を作ったシェフに感謝の気持ちを伝えに行こう。私の言葉に頷き、厨房に私を連れて行く給仕娘。厨房にいたのは壮年の太い腕をした若草亭の店主で、給仕娘の父親だった。私はスジ煮込みの感想と感謝を伝えると、彼は年に合わずはにかんだ様子で鼻の頭を掻いた。この料理は彼が若い頃に修行していた先で修得したものだという。王都から北に向かい聖協公国へ――。それが彼の修行の旅だという。我々もいずれは北に向かう。その際にまたこの料理を食べることを心に決めテーブルに戻ると、私を待っていたのは笑顔の面々と、空になった皿だった。

 

 

「おっおっお前ら……。なんで全部食べちゃうんだよ……」

「意外と美味しかった。また食べたい」

「ちょっと、シーラ! アンタが沢山食べるからラーベさんの分無くなっちゃったじゃない!」

「でもアロラも一杯食ってたよな!」



 野暮な突っ込みに頭を叩かれるテディ。私は空になった皿に溜息を吐きながら席に着いた。

 

 

「で、テディ達はなんでそんなにボロボロなんだ……?」



「昨日はテディが『コボルト狩るぞ!』って張り切っちゃって……」

「そうなの……おかげで閉門に間に合わなくて、門外で野宿……最悪……」



 そういうシーラとアロラの目の下には、薄っすらとクマが浮かんでいた。



「コボルト……? どんな奴なんだ?」

「人里の近くで繁殖して作物に悪さする犬みたいな奴だ! ラーベさん、俺達だけでコボルトを仕留めたんだぜ!」



 テディは元気そうだ。キラキラと輝く目をしてる。徹夜明けでハイになってるだけか? テディが広げた袋には、ふさふさした物がぎっしり詰まっていた。



「コボルトの尻尾、九匹分だぜ!」

「あんたが! いつまでも! 粘るから! 野宿するハメに! なったんでしょうが!!!」



 アロラがバシバシとテディの肩を叩く。賑やかな我々を見る周囲の目は冷ややかだ。私が彼女を諌めると、アロラは顔を赤らめた。

 

 

「それでその……こちらの女性は、どういう……?」

「あぁ、そう言えばまだ紹介してなかったな。彼女はレイン、俺達の新しい仲間だ」

「レインよ。よろしく……」



 レインの紹介を皮切りに、それぞれが自己紹介を始める。こういう雰囲気に慣れていない彼女は、目線が定まらず落ち着かない様子だ。年の近い友人も今までいなかったようだし、これを機に仲良くなってくれればいいのだが。テディ達はレインの髪や瞳の色について特段疑問に思っていないようで、話題に上がることはなかった。

 

 

「レインさんって、シルヴィアちゃんのお姉さんなんですか?」

「い、いや……私に兄弟はいないよ」

「でも同族なのだ! というかな、レインは我と同い年なのだぞ!」

「「「はぁ!?」」」



 ……やはりそういう反応になるよな。実年齢よりも大人びて見えるレインに、幼く見えるシルヴィア。彼女達はこの夏で一八歳になったばかりだ。信じられない様子の三人は、揃って私に目線を送る。

 

 

「……本当だ。まぁ、俺達は君達より年上だが、君達の方が冒険者として俺よりも先輩だ。気を遣わずに色々教えてもらえると嬉しい」

「ラーベさんの為なら! このテディ、一肌でも二肌でも脱ぎますよ!」

「ラーベ殿、私達に手を出さないと思ったら、テディと……!?」



 勘違いするレインの額を軽く叩くとぺちんと乾いた音が響いた。俺が抱かないのはそういう理由じゃない! だが、彼女の言葉と額を叩かれた反応に場は笑いに包まれる。意図せず和やかな雰囲気になり暫く談笑する。そうこうしている間に注文していた日替わり定食が運ばれ、私達は昼食を口にし始める。

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

「そうだ、テディ達は明日暇か?」

「なんれふからーべはん、なんかしごとれふか?」

「口に物入れたまま喋らないの!」



 私の問に答えたテディは、行儀が悪い! とアロラに頭を叩かれる。恨めしげな眼をしながらスープで流し込んだテディに再度問い掛ける。

 

 

「そのな、俺達はさっき鉄板に昇格してな」

「おぉ! おめでとうございます!」

「うむ! 本当はもっと早く上がれたんだがな、ラーベが頑固でな……」



 やれやれと顔を左右に振るシルヴィアの頭をわしわしと掴みながら私は言葉を続ける。

 

 

「それにレインもパーティーメンバーになったことだし、お祝いをしようと思うんだが……何もなければ一緒にどうだ?」

「ラーベさん肉は出る?」



 食い気味に質問するアロラはお祝いという単語に眼を輝かせている。……今さっき昼食を摂ったばかりだというのに、彼女の頭の中は祝いの席に出る料理でいっぱいのようだ。

 

 

「あぁ、丁度いい季節だし、浜辺で網焼きでもしようと思ってな。人数が多いほうが楽しいし、予定がなければ一緒にどうだ?」

「……網焼き?」



 私の言葉に首を傾げる面々。私は夏のレジャーとして浜辺で水遊びをしながら肉や魚を炙って食べる行楽の説明をすると、皆の目が燦々と輝く。特にシルヴィアの反応は大きく、明日と言わず今から! と席を立つぐらいだ。

 

 

「まぁまぁシルヴィア、食材とか飲み物とか水着とかの準備もあるから……」

「でもどうやって海まで? アロラ、海まで飛べる?」

「……岩がゴツゴツしてる所なら行けない事もない。浜辺は行ったこと無いから無理」

「あー……。まぁ、移動は任せてくれ。それじゃあ、明日のギルドが開く時間に南門で待ち合わせしよう」



 釈然としないアロラだったが、わくわくした様子のシーラを見たら何も言えないようだった。昼食を終えて若草亭を出ると、テディ達はギルドに、私達は明日の準備のために商店の並ぶ街の中央通りに向かうのだった。

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