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第33話 帝王の遺伝子

 2日間の旅行が終わり、優人達は上葉町に戻ってきていた。

 とても楽しかった2日だったがなんだかんだで疲れていた優人。この日は家でくつろごうと思っていたそんな朝、奴らは優人に安息を与えなかった。


 ──今日も魔獣が街に現れた。街の上空にゲートが出現し、魔獣が飛び出してくるいつもの日常に戻らされた。



「なんで最近こんなに魔獣が来るんだろう……」


 ここ数日間は零人がいない分カバー役がいないのであるが、今日は零人の代わりに心強い助っ人がやって来ていた。


 力強くみなぎるような大罪の能力者の霊力が伝わってくる。

 その少年は魔獣を倒そうと息を巻いていた。



「仕方ねぇですよ。盆が近いんで、でも俺がサポートします」


 優人の隣には紫苑の髪の少年、『傲慢』の能力者である瑛士が立っている。

 やれやれというような表情で首をコキコキと鳴らしながら、彼は横目で優人の方を見る。


(この人は師匠からかなり信頼の厚い人だ。なんたってあの師匠が()()と呼ぶだけの人だ。別に妬みはないし右腕ポジということも理解している。だが俺の中で知っておきたい。この人がそれだけの人なのかを自己完結で良いんだ、この目で確かめたい……)


 そう思考しているうちに霊力の反応が迫ってくる。

 霊力からするに実体化していない、一般人に見えないタイプの魔獣のようだ。

 そして牙を剥き出しにしたユニコーンの魔獣がこちらに突っ込んでくる。


 つまりそれは────



「修行の時間だぁ!」


「──ッ!」


 瑛士は優人のその目の変わりように少し驚いた。

 優人は構えると目を輝かせながら笑っていたのだ。


 狩ろうというような気持ちでも楽しむというような狂った笑いではない。ただ純粋に、『敵を倒す』という思想からくる武者震いのような感情。


 そこに負の感情が存在しないその瞳に、瑛士は優人の強さの片鱗を見た気がした。


(ピュアゆえの強さ……か。噂通りの人だな──)


 そう思っていた時に優人の中から呪錬拳が飛び出す。


 その呪錬拳は優人の体から黒の煙と共に出てきたと同時に急加速して見事な放物線を描く。

 呪錬拳がユニコーンに当たった瞬間、拳はその馬を巻き込んで鬼火を燃やし、霊力を焦がして消滅させる。


「うん、調子は良さそうっ!」


「お、おぉ……」


(嘘だろおい。霊力の多さもそうだが……なんだあの呪いは。感覚で分かる、実体干渉能力がありえねぇほど高い)


 瑛士は大罪の能力者としてここまで様々な死線をくぐり抜けてきた戦士である。

 そんな彼はそのほんの一瞬のウチに優人のポテンシャルを全て見抜き、そして仰天していた。


(あの霊力の感覚は師匠の霊力と同じ、いや()()()()。あの霊力から放たれるモノはドス黒いもんだ。間違いなくあれは──『邪気』の性質!!)


 邪気とは、魔物や邪神の類いから生み出される汚された霊力である。

 しかしそんな邪気を放っていて穢れていないどころか恐ろしく『ピュア』な優人に瑛士は好奇の目を向けていた。



(だがそれにしてもだ、あの呪いは──)


 一斉に束になって魔獣がやってくる。

 優人には「翼があるタイプは真っ直ぐに向かってくる」という習性を理解していた。


「あそこに──見えた!」



『キシャァアルァァァァ』


『エチャィァァァマァァ』


 優人はその魔獣の性質を狙って、まずは霊動術で脚力強化。

 足を曲げて力を貯めて跳ぶと共にポルターガイストを利用して飛行する。

 そのまま幻想刀を取り出して右上から斜めに振り下ろし、その軌道上にいる魔獣を残らず両断した。



 ──そこから更に追い討ちをかける。

『呪術式』の理解により、優人の呪いはまたステージアップを果たしていた。



「呪い状態変化、『毒』!!」


 本来の呪いの役割であるジワジワとした攻撃は優人の呪いにない。ただ具現化し、直接的な攻撃として使用していた呪いはシンプルな打撃や斬撃だけでなく、特殊効果を発揮する。


 その僅かな時間も見逃さずに瑛士は目撃した。


「の、呪いが……」


 斬られた部分から呪いが侵食していっているのだ。

 触れた呪いは毒が回るように魔獣の皮膚を黒く変色させ、ダメージを蓄積させながら広がっていった。


 次第に拡散される呪いは魔獣達の身体を覆っていき、やがて彼らは断末魔を上げながら次々に消えた。



 まだ慣れてはいないが、新たに見出した己の呪いの力に優人は歓喜した。着地すると両手を上げて嬉しそうにしている。



「成功だあ!! でも、全然ダメだ。まだ数が──」


 魔獣の反応は依然として大量に残っている。


 そして優人の後方上空から早速ドラゴンが迫っていた。

 小ぶりでスピード特化なそのドラゴンは瑛士が確認できた時にはもう優人の頭上にやって来ていた。術などの発動には微妙に足りない距離まで侵入される。



(流石にこれはまず──)


 だが優人は自分から2m前に跳び空中でバク転した。

 身体の向きが上下逆さになって、そこから一回転し威力をつけてから強化済みの脚でドラゴンの頭を蹴り抜いた。


 竜の頭蓋に衝撃が走り、中で威力が爆発する。

 ドラゴンは優人の勢いを止めることのできないまま消滅する。


 蹴り抜いたことで回転の速度が減速し、優人は宙でくるりと回って華麗に着地した。


「バラバラになられちゃうと困っちゃうなぁ」


 魔獣の霊力反応はどんどんと空で広がっていき始めている。

 上空を見ながら悩んでいた優人だったが、突然瑛士に詰め寄られて瞳を輝かせながら彼に質問された。



「──優人さん! 今の技ってまさか、『ラッシュラ』のケイン・マッカーサー・ゲイブの必殺技の『クレイジネスレッグ』ですか!?」


 確かに優人が繰り出した技は今流行りの格闘ゲームでおなじみの『ラッシュラ』のキャラクターの必殺技と被っていた。

 優人も零人もラッシュラは好きで、無意識のうちに優人はゲームの技を使用していたようだ。


 瑛士は今までにない食いつきようで優人に話し掛け始める。



「そうだよー! 瑛士君も知ってたの? 嬉しいっ」


 その時、不意に見せた優人の笑顔。

 タイプは全く違うが、瑛士の中でどこか師匠の零人と重なるその姿、圧倒的なセンスと素質がありさらに進化するであろう実力、そして接していると伝わってくる優人の人の良さとピュアさ。


 それで瑛士は優人という人間の片鱗を理解した。


(そうか、この人はただ実力だけのやつじゃない。性格から趣味まで……なるほど。完敗、それよりも湧き上がるこの感情は──)


「優人さん──」


「なあに?」



「いや、兄貴!! 俺、優人の兄貴にずっとついてきます! 師匠と兄貴を尊敬し、例え空の果て異世界の向こうまでもついてきます!!」


「え、え。どうしたの? 瑛士君、いきなり──」


「行きましょう! 残りの面倒なのは俺が片付けるんで、あとは兄貴は見ているだけで大丈夫です!!」


「えっ!? うん、ありがとう」


 優人は次の瞬間、瑛士に突然出現した椅子に座らされた。まるでソファーのような座り心地で、思わずリラックスしてしまいそうになるような椅子であった。


(瑛士君が戦うとこ! 楽しみ……って、あれ? この椅子ってどこから?)


 その椅子は魔術などで生み出されたり転送された形跡はなく、突然その場所に現れたのだ。

 本当に優人の後ろでただの椅子が置かれてあり、そこへ座らされただけなのだ。



「兄貴は椅子にかけててください。あと俺の能力まだ説明してなかったですよね? 紹介がてら倒させて頂きやす!」


「うん──うぇっ!? 瑛士君の手が……」



 優人が注目したのは瑛士の腕だった。


 瑛士の右腕はまるで液体の()()()()()()()()()、そして彼の拳が()()()()のだ。


 拳が消えてからも瑛士の腕は北海の荒波のように肉が暴れてやがて──粒子のように空気中に分散していった。



「そっ、その腕……どうなってるの!?」


 目を白黒させて優人は彼の腕を凝視した。

 瑛士はクールに微笑み、その気高い能力の名を口にする。


「これが俺の能力、『カイザーレガシー』。三千世界森羅万象に通じる『傲慢』の能力です」


 そして瑛士の腕は1秒以内に再構築される。


 そして戻ったそばから瑛士は拳を地面にぶつけ腕ごと地面に()()()()()


 そして地面は変形し、その場からは土製の巨大な腕が生成された。


 一見するとその土腕は錬金術で作り上げたような光景であったが錬金術を多用する優人にはわかった。あれは錬金術とは根本から違う別の存在。

 言うなれば、それは白夜の持つ『強欲』の能力に近いものである。


 その能力は生成ではなく──操作である。



 前方から何の躊躇いもなく低空飛行で巨大な怪鳥が突進してきた。しかし瑛士はもちろん、余裕の笑みのままタイミングを伺う。

 彼はまさしく、零人を真似たような表情をしていた。



「傲慢のこの能力は……すなわち『寄生』です」


『ギシャァァィァァァ!!』


「俺の肉が、細胞が、分子が、どこまでも()()して身体を自在に形成して()()()()()()()()()()()。剣も爆弾も魔術も俺には効かないッ!」


 怪鳥が瑛士の約20メートルまでの間合いに入った時に拳が轟速で怪鳥の頭に飛んでいき、顔面の皮膚にめり込んだ。


「ゴラアァァ!!」



 ギュ……という謎の声を最後に魔獣は霊力に分解されて消えていく。

 そして瑛士は土腕を元の位置に戻し、本体の地面から引き抜くとそれは完全にただの地面に戻った。

 瑛士は空を見上げると、虫の集団のようにバラバラだった魔獣が一気にこちらに向かってくるのが見えた。


「誘導しておいて良かった……最後に派手なの2発、行きますよ!!」


 ──両拳を握って腰を低くし力を溜める。

 瑛士を中心に空気の流れが変わり、台風のように渦巻き始めだんだんと優人のところまでも熱くなっていく。



「わ、わああ! かっ〜こいいッ!!」


 優人は目を輝かせてその光景を拝んだ。


 優人は己の憧れ、目指すもの、夢の結晶の一部をまた垣間見たような気がした。

 零人、香菜、白夜、瑛士は7つの大罪の能力者──つまり世界最強の7人の内の4人である。


 彼は強さを求める戦士ではないが、優人は『ある決意』を信念として今は()()を目指している。


 なので能力を使用し、魔獣討伐をしようとする瑛士は優人の目にはヒーローに見えていていた。



「──駆けて、貫き、燃え上がれ……」


 瑛士は右腕を後ろに振り、腕全体の肉を空気中に分散させ己を構築している分子を希釈させる。

 そして大気圧は変化し、空気の密度が徐々に大きくなっていく。瑛士はその消えたはずの腕を振り殴るような動作をする。



「うらがあああぁぁぁぁぁ!!!」


 周囲を巻き込む猛烈な暴風とそれを中心に見えない大気圧の力が付加されたことにより、その圧力で魔獣の群れの前半部分が完全壊滅した。


「あ、あの飛んでる魔獣達を一撃で倒しちゃった!」



「細胞を空気中の窒素や酸素に寄生させてぶん殴れば、向こう側に俺の肉が届く……」


 瑛士は己に言い聞かせるような声で言葉を発し、攻撃のイメージを固めていった。



「空気の中で肉が分子レベルで動き回り……分子活動の灼熱で奴らを葬る!」


 瑛士はもう片方に残っている左腕に力を込め、腰を入れた一撃を奴らの軌道上に放つ。彼が力むと共に高密度の空気はその分子が不規則かつ無秩序に動き回り、運動は多大な熱量を放出する。


 ──支配された空気は目に見えない宙の塵やカスに着火し燃え上がる。



「『ライジング・ドライブ』!!」


 空気ごと熱波が大移動をし、飛行中の魔獣共を完全に包み込んだ。

 迫っていた残りの後方の魔獣達は周囲、体の内部問わずに焼かれていく。


 空にのさばる獣たちを覆う火炎は朝日よりも強い輝きを発って燃え盛っていた。


 そして魔獣から自然に戻る霊力は星屑のように空気の中へと散った。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「す、凄いよ! 瑛士君かっこよかったぁ」


「そうですか? 嬉しいっス」


(でもそれよりやっぱり優人さんの方が断然、格としては上だな……大罪の能力を抜きにしてもしなくても、実力的に勝てそうにない。いくら帝王の能力っつっても、これは俺だけの能力じゃねぇからな)


 これで4人目、優人の力を心から認めた人物は大罪の能力者の中でついに4人となり、とうとう過半数を占めた。

 大罪の能力者が実力を認めるということは即ち────



(いずれにしろ、おそらく来年の夏にこの人は──大罪の名を持つだろう! どれを手に入れるかは、()()()()()()わからねぇがな)


 底知れぬ優人の力に恐れつつも瑛士は尊敬の念を抱いていた。

 1人の霊能力者として、()()()1()()が認めていた。



「そういえば、優人の兄貴はとうとう明日ですよね? 例のサラマンダー寺院」


「うん! それが終わればちょうど零人君も帰ってこれそうなんだ」


「えっ、そうなんすか!? 良かったぁ。それじゃ頑張って下さい、健闘を祈りやす!!」


「うん、ありがとう!!」


 ここにまた1つ、新たな友情が生まれていた。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ──同時刻、アフリカ某所『サラマンダー寺院』にて。


 木と葉で作られた室内に1人、黒色で仙人のような様相の老人が煙の漂う中で瞑想していた。


 だが身体がピクりと反応し、何かを感じ取ったのかその老人はニヤリと口元が緩んだ。



「これは随分と……ホホホ、教えがいのありそうじゃのぉ」

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