第18話 見知らぬライバル
──これはとある『仁義なき戦い』である。
少年は目が覚めた瞬間に戦闘態勢を整える。
素早い手付きでテーブル上の目薬を手に取ってさし、隣に置かれたエナジードリンクを一缶丸々飲み干した。
「くぅっ……」
空になった缶を荒々しくテーブルに戻すと彼は腕を軽く伸ばし軽いストレッチをした所でベッドから立ち上がり、すぐ横にある椅子に座った。
ゲーマー達が使用しているのを目にする、持たれかかれるタイプの大きな椅子である。
彼はそこにもたれ掛かり、3つもある目の前のモニターを立ち上げコントローラーを手に取る。
その青い瞳をブルーライトでさらに青く染めた。
「さてと……朝からやりますか」
7つの大罪『怠惰』の能力者もとい──世界的プロゲーマー真神零人は己の武器を装備する。
零人は準備が整った状態になると自身のスマホを開き、優人に電話をかけた。
呼び出し音が2回なるとすぐに優人と電話が繋がる。
『───あ、もしもし。零人君?』
「ああ、優人ぉ……今は暇か? ゲームの誘いなんだが」
『あ、ごめん零人君。今日は野球部の助っ人でちょっとダメそうなの』
「野球部!? なんでだ?」
『野球部の先生から出て欲しいって言われたの。今日勝てば甲子園行けるから……他にも今度にサッカーとバスケとセパタクロー
の助っ人で大会に行くんだ』
(あー、そういえば前に何か言ってたな。こういう風に優人を運動部の合法チートアイテムにするために色々学校と契約してんだよな)
優人は魔術や能力を扱えるようになる前から身体能力と運動神経は良く、零人が街に来る前はオリンピック日本代表監督などからもスカウトが入っていたほどだという。
(しっかし助っ人にしても多いな。野球、サッカー、バスケにセパタクロー……セパタクロー!? うちの高校にセパタクロー部なんかあったか!!?)
「わかった、また今度誘うわ。大会ガンバレよ」
『うん!』
会話が終わると静か通話終了のアイコンをタッチして零人は指をポキポキと鳴らした。
「ふぅ……じゃ、ソロで始めっか!」
零人がパソコンの電源を入れると中央の画面に早速ゲームのロゴが表示された。
そのゲームとは『ラッシュスラッシュバスター』先月に発売された世界的に人気な新作格闘ゲームである。
数多くのゲームキャラ達がこの戦いの異世界に召喚され頂点を目指すために戦うというシンプルでエキサイティングな格闘ゲームだ。
主に、拳、剣、飛び道具のいずれかを使い相手の体力を0にするかステージから落とせば勝ちという単純明快なルールで世界的人気を誇るゲームの1つ。
ちなみに零人は一応アマチュアプレイヤーのポジションにいるが、彼の実力は実際のところプロから見てもトップの力だった。
「まぁ肩慣らしに近くでやるか」
零人はカーソルで剣持ちの私服姿のキャラを選択すると近くで対戦モードを選択した。
──このモードはタイマン勝負で戦うのだ。
近くで対戦、つまり近所にいるようなプレイヤーと戦うので比較的にレベルはそこまで高いわけではないので零人は準備運動としてこのモードを選んだ。
零人は準備運動前の準備運動として、まずはロード中にボタンを連打した。
指の動きを良くするのと共にコントローラーのスティックも少しづつ温める。
零人が指のウォーミングアップをしていると画面は切り替わって、ステージにキャラが出現しカウントダウンが始まる。
相手は蜘蛛人間のキャラを選択したようだ。
(このタイプは飛び道具、そしてスピード特化。だからこいつの攻めの基本的は──仕掛けられる前に仕掛ける!)
『3、2、1、GO!!』
「シィッ……!」
零人のキャラは真っ先に走り技を繰り出しながら相手の中段を狙って攻めに向かう。攻撃範囲は広く、軽い無敵状態も発動していた。
しかし相手はいきなり零人の予測を超えてきたのだ。
蜘蛛人間は開幕早々で前方にジャンプ必殺技を繰り出したのだ。
キャラは糸で零人のキャラの背後にある地面を捉えている。
この技は相手キャラが使用した後は間違いなく背後を取られるという技。
これは攻撃力が弱いため攻撃や防御、相殺などの手段は使えないが回避やコンボ前のきっかけとしては十分な技。
零人は己の失念を悔やんだ。
「何ィ!?」
蜘蛛はジャンプ必殺技のモーションである『ワイヤーフリップ』を問題なく発動し、零人から距離を置いた。
相手キャラは半月を描くように宙を蝶のごとく移動してステージ端まで逃げる。
「こいつは連撃はダメそうだ……ならカウンターと相殺を狙うか」
しかし相手プレイヤーの動きはまたしても相手は零人の予想を大きく裏切った。
ワイヤーフリップで遠くの地面を捉え回避したかと思えば、蜘蛛は勢いを殺すこともなくステージを飛び越えて落下していったのだ。
落下していった相手キャラは悲鳴を上げて脱落した。
このゲームモードは基本的に一機しかない。つまりこれは零人の勝利である。
『YOU WIN !』
「なんだ今の……もしかしてただの初心者か? 挙動がトリッキーだったから新手のワイヤー使いかと思ったぜ」
──そして同時刻の優人宅のリビング。
白夜と凌助は零人と同じ格闘ゲームに興じていた。
「あれ? 死んでる……」
「え、シロ君弱っ! 格ゲーの才能が皆無じゃん」
そう、先程に零人が対戦したプレイヤーは白夜。
彼はゲームをした経験が少ないゆえに開始から僅か数秒で攻撃を与えることなく、自滅したのだ。
白夜のゲームの実力は小学生以下である。そして敗北の後には凌助のディスりが白夜を襲っていた。
「ザコ以下やん!」
「凌助ぇ〜心が痛いッスよぉ」
──場所は零人の部屋へ戻る。
最初の戦闘でペースが空回りした分、次の戦闘で
「と、とりあえず次だ」
零人はキャラを変えないまま続けて対戦していく。
ゲームのロード画面はパッと切り替わり新たな挑戦者と対面擦ることとなった。
相手はタコのような顔と腕を持つ巨漢ファイターでいかにも重量級のキャラクターだった。
「このキャラは拳タイプ。ラッシュが強いが射程距離は狭く体勢崩しは容易だ」
『3、2、1、GO!!』
零人は開始のゴングが鳴るとその瞬間にすぐさま驚かされた。
相手のキャラのラッシュが普通よりのラッシュ時よりも格段に速かったのだ。
「こいつ……自動ラッシュじゃなくコントローラーの感度を上げて手動でしてんのか! とんでもねえ連打力だな、ラグってるみたいだぜ……」
相手キャラはラッシュで牽制して零人のキャラをステージ端の崖にまで追い詰めた。
そして巨漢キャラはそのまま小ジャンプを出し、隙がほとんど無い状態で零人のキャラに襲いかかった。
「こんなの、防いだらクラッシュしちまう……なら、カウンターしかねえなァ!」
零人は自分のキャラが敵キャラのラッシュの間合いに入ったちょうどのタイミングでカウンターを発動する。
カウンターは攻撃が発動すれば相手の攻撃を無視できる上に攻撃をいれられるので防御よりも効率が良い技。
発動する側にとって、タイミングをズラされカウンター後の隙に攻撃をされる以外の状況ならばデメリットは存在しない。
勿論回避はできるが相手は現在、小ジャンプとはいえ空中にいる。空中では防御コマンドが使えないのがこのゲームの仕様。
「ウラァァァ!!」
『アウッ!』
相手のキャラは零人の完璧なカウンターを喰らい、一瞬だけ怯んだ。
そして怯んだキャラを逃さずそのまま威力の高い技で上空に打ち上げ、連撃を繰り出しつつ下で力をチャージする。
零人のコンボからキャラが抜けて相手は一時離脱し態勢を立て直そうとしているが、既に零人の必殺技チャージは満タンになった。
そのチャージしたエネルギーを消費し、キャラの必殺技である『栄光の秘技』を発動する。
零人のキャラの武器は刃が黄金に輝き画面が揺れ出し、最後に画面が激しい光で点滅する。
そして画面が正常に戻ると相手は体力が0となっていた。
『YOU WIN !』
「しゃっ! 少しだけ危なかったな」
零人は勝利すると思わずガッツポーズをとる。
──その頃、地獄のとある部屋ではある男かゲームのリザルト画面を見ていた。
「負けちゃったよ〜。強いねガチ勢は……時間操作で僕の指を加速させてラッシュを速くしても無意味か」
ルシファーが敗北の文字を目にし落胆しながらコントローラーを握っていた。
「せっかく時間加速させて連打したのに〜」
ルシファーがブーたれながら次の対戦のためにキャラを選択していると、ルシファーの部屋の中に地獄の王の1人──魔王が入室してきた。
「おっルシファー君、それは『ラシュラ』かい?」
ラシュラはラッシュスラッシュバスターの略称である。
「っ! お疲れ様です魔王様。えぇその通りです、魔王様もどうですか?」
「じゃあルシファー君と対戦しちゃおっかな……あれ? そのプレイヤーID──」
魔王は画面でルシファーのゲームアカウント名が表示されている部分を見つけた。
魔王はしかめっ面をするとアカウント名の場所を指さしてルシファーを睨んだ。
「これ、昨日やった時に私をチートでやってきた煽り系のプレーヤーの……次にこのプレイヤーが来たら通報しようと思ってメモしたんだよね」
「────え?」
魔王の心当たりは大当たり。
ルシファーは時間操作能力による脳筋チートをした上に相手を軽く煽るタイプのプレイヤーだったのだ。
そして運悪く魔王相手にルシファーは煽りを行ってしまったのだ。
ルシファーの顔はみるみる白くなり、変な汗が吹き出していた。
目が完全に泳いでいるルシファーを見ると魔王は背を向けて低い声で言い放つ。
「──ちょっと来てくれ」
魔王は自分の動きとルシファーをポルターガイスト系統の魔術によって連動させることで、強制的にルシファーを引きずっていった。
「ちょ、いやああぁぁぁぁ!!」
「ハハハ、私も人間時代はゲーム廃人だったからね。本物のゲーマーの恐ろしさを見せてやるよ」
「ホンギャロス!!」
ルシファーはじたばたと抵抗するが叶わず、涙目になりながら魔王の間に連行されていった。
地獄の皇帝の実に無様な姿である。
──そして場所は戻り、零人は新たな対戦相手とロードする。
画面が切り替わるとそこに立っていた対戦相手は零人のキャラと同系統の剣士キャラ。
それもスピードとリーチが強みな代わりに攻撃にくせのある上級者向けのファイターだった。
「へぇ……初心者なら使わねぇキャラだな、面白そうだッ」
『GO!』
開始の合図が響くと、零人はコントローラーをトップギアの速度で動かし連撃技を放つ。
全身全霊の零人の技術が敵のキャラクターにぶつかっていった。
だがダメージは入っている様子はなかった。
(あ、俺の直感が言ってる「こいつ俺より強くない?」……って)
全くその通りだった。
零人の全ての攻撃は剣技によって相殺されて完全に防御されてしまっていたのだ。
そしてこの零人の技というのは始めが肝心の技である。この後の威力は一方的に下がっていくのみ。
「嘘だろ!? プロでもこのムーブに反応できねえのに」
そして零人の全力の連撃は終わりを迎える。
終わりはなんと、ゲーム開始からたった10秒で迎えてしまったのだ。
「ッ!?」
敵キャラは先程の零人が対戦したルシファーのキャラとは比較にならないほど正確で破壊力のある攻撃を叩き込んでいった。
零人が反撃を所々でしても完璧なタイミングで攻撃を繰り出して静止させ、追撃を食らわすという戦術を相手はとっていた。
そして最終的に零人はあっさりとオーバーキルされてしまった。
ゲームを愛し、ゲームのために大金を注ぎ誠心誠意ゲームと向き合ったこの男を相手は数秒程度で倒したのだ。
この日、一流ゲーマーとしてゲーム界に君臨してから初めて零人は「敗北」という2文字を突きつけられた。
しかし敗北したにも関わらず零人はニヤリと笑って画面を見つめた。
むしろ、彼は好敵手を見つけたと歓喜していたのだ。
「こんな奴がいたのか、この街に……ククク、次のEスポは荒れるなぁ」
零人はゲームを終了するとそのままモニターの電源を落として二度寝に興じた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
その頃、再び優崎家のリビングでのこと。
沙耶香はラッシュラのリザルト画面で「WIN」の文字を見るとコントローラーを手放す。
「ああ〜、つまんない。お兄ちゃん他に何かゲーム持ってなかったったけ? 音ゲーの方がまだいい」
零人が唯一敗北した相手、それは優人の妹である優崎沙耶香だった。
「「っ…………」」
隣の別機でラシュラをしていた2人は沙耶香のあまりの実力に口を開けて絶句していた。
思ったよりも簡単過ぎたゲームに飽き始め彼女は別のゲームソフトを優人の部屋で探し始める。
「沙耶香さん……ゲーム上手いんだ」
「俺、姉ちゃんがゲームしてるの見たことないのに……化け物じゃん」
実力でいえば沙耶香はラッシュラをプレイするプロゲーマーの実力を遥かに凌いでいたのだが、彼女自身まだその凄さを理解してはいなかった。
そのレベルは冗談抜きに世界を取れるレベルだということを。
「いいや、アイスでも食ーべよっ」
沙耶香はゲーム探しを諦め優人の部屋を出てキッチンへと向かった。
その間も横で同じゲームをしていた2人は沙耶香を見ながらまだ口をパクパクさせている。
沙耶香は欠伸をしながら冷凍庫のバニラアイスを漁る。
──そして沙耶香は後の世界大会優勝者になるということは、この時はまだ誰も知ることはなかった。





