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第11話 剣聖と狂犬

「お前……『剣聖』じゃねえか」


 零人が真一の方を向くと彼はニコニコと笑っていた。そして零人に対して気さくに話をかける。


「やあ零人さん、向こうは大丈夫になったのかい?」


「俺の方は西源寺とシロがいたから平気だったが、お前が来るなんて聞いてねぇぞ?」


「委員会から連絡が来て、急遽観光に来ただけですよ〜」


 2人のやり取りに区切りがついたのを察すると優人は真一に飛びついて、今度は優人が質問攻めにした。


「ねえ真一君、剣聖って何? 強いの? もしかしてアニメみたいな感じの人?」


 優人の最近好きになったアニメは異世界転生ものが多かったため『剣聖』というワードに食いついた。仕方なさそうにいつもの如く零人が説明する。


「お前の想像通りの感じだ、こいつの前世が異世界最強の剣聖なんだよ。剣や刃物ならなんでも扱える上に剣術はだいたいマスター級、独自の剣の流派とかも見てすぐに扱えるチーター。勿論、ただの剣の才能に関しちゃ俺なんかよりも上だ」


(やっぱり……でもあの零人君が上って言うぐらいだもんね。さっきの戦いで分かったけど、真一君は凄いなぁ)


「ちなみ真一君って魔術とかはどれくらい使えるの?」


「全然だよ〜? 前世は技の一部で使えたっぽいけど、霊力も少ないからね」


「まぁそれでもお前はリアル勇者だったじゃねぇか。しかも貴重な前世のジョブ持ち」


「僕の他にも前世のジョブを引き継いでる人は意外だけど色々いるよー。例えば〜」



「──!?」


 魔獣を倒して安心していた優人は新たな霊力反応が空から近づいてくることに気付き、身構えた。落下してくるその霊力は推定でも『聖獣クラス』の霊力。霊力量も相当だが、それ以上に霊力そのものから伝わってくる圧が凄まじかった。

 その巨大な霊力は3人のちょうど真上からやってくる。

 優人は見上げると、空には僅かに濃い霊力が広がっていた。


「零人君、これ不味くない!?」


「あぁ、これなら平気だ優人。でも、平気じゃねぇかもな」


 対象が地面に近づいてくると共に地鳴りの低く胸に響くような音が次第に大きくなっていく──


「ぃやあひゃひゃひゃひゃひゃぁああ!!」



 落下して来るそれは、人だった。


 ドゴォン!


 気味の悪い笑い声が聞こえたと同時にソイツは隕石のように3人の目の前に落ちてきた。轟音が響き砂埃が辺りに舞った。


「──!」


 優人は気を緩めず、ソイツと間をとるため後ろに下がった。徐々に砂埃が流れていくとソイツのシルエットが見え始める。


 ソイツは──その少年は何事もなく地面で犬のように座っていた。

 少年は歯を剥き出しにし、目を見開いて彼らを見ている。3人を舐めるように見渡すとゆっくり立ち上がり、猫背のまま首を顔を30度傾けて灰色の髪を揺らす。

 その様相や形相はまるで狂人、肉を食らって血をすするような猛獣という印象を優人は与えられた。

 彼は優人の方を見つめると白く鋭い歯を剥き出しながら犬のように舌を出して笑った。


「えへへへ……」


 優人は反射的に呪いと魔法陣を発動しようとしたが攻撃の数秒前に零人に止められる。


「大丈夫だ優人、こいつは敵じゃねえ。見た目はちょっと……かなりヤバそうだが安全な……人間? んんっと〜まぁ人間だ」


「安全のとこじゃなくて人間のとこが疑わしいの!?」



「酷い言い様じゃんよお、蒼……」


「しゃっ、しゃべった……!」


 少年はまだ目を全開に開けながらゆっくりと優人に近づいていく。深く呼吸をすれば顔に息がかかるほどの距離まで彼は詰め寄った。

 戸惑う優人はぎこちなく彼の名を尋ねる。


「君、名前は……?」


「俺ェ……? 俺は成宮透真(なりみやとうま)。お前、なんか面白い」


「ええ!? そっ、そうかなぁ──って成宮ってことは」


 優人が言いかけた時、真一は透真の服の中に首から手を突っ込んで鎖を出す。

 よく見ると透真の首にはリードのように鎖の付いた首輪が付けられていた。

 そして真一は鎖を握り締めると何事も無かったように爽やかに話を再開した。


「この子は透真、僕の双子の弟だよ」


「え、えええ!? 弟って、全然顔とか違くない?」


「そりゃあ二卵性双生児だもの、顔は違ってても変じゃないよ」


「てゆーか、なんで透真君は首輪ついてるの!?」


 確かによく観察すれば2人目元が似ている気がしてきた。

 透真がキマってるように目を開けていたことと、2人の雰囲気の違いのせいで初めは全く気づかなかった。

 でもやはり、透真の強烈なキャラのせいが大きかった。


 そして真一はとんでもない事実を優人に告げた。



「ちなみに僕が前世で倒した魔王がこの子だよ」


 2人の間に流れた数秒の沈黙、優人の脳内をはてなマークが駆け巡った後に優人は驚愕して飛び跳ねる。


「どど、どういうことおおお!?」


「え、そのまんまの意味だよ?」


「兄者ァ、こいつ誰?」


 ここで一旦、優人を落ち着かせて情報を整理させるために零人が解説に入る。

 真一の方も透真に向かって優人のことを色々聞かせ始めた。


「元はこいつらが前世で相打ちになってこっちの世界に転生してきた。その時に透真の方は育て親が良かったおかげで魔王の人格が完全になくなったらしい。一緒に育ったかつての天敵も兄者と言って懐いている」


「そうなんだ」


(なんだろう、どうしても透真君がちょっと怖いんだよね……)


「言いたいことは分かるぜ。たしかに透真の魔王的な面は消えたがその代わりに脳の一部の機能やテンションの制御力を失って一見すると危ねぇ奴に見えるようになったってわけだ」


 透真に関する説明を終えると零人は不思議そうに彼の方を向いて頭をかいた。


「ちなみに首輪は霊管理委員会に入った時に元魔王の安全性を証明するために付けられたが、もう付けなくてもいいはず……」


 ここで透真はいきなり隣に現れて会話に参加してきた。本物の犬のような動きで2人の足元から顔を出す。


「だってさあよぉ、蒼、これに霊力流すと肩こり消えるんだぜ?」


「それはトラップの内の一つだ……てか話をぶった斬るな!」


「──なんで零人君、蒼って呼ばれてるの?」


「さっきも言ったが、こいつは一部の脳機能が欠如している。透真は霊能力と記憶能力こそ断然良いんだが名前と場所を判断する能力が

著しく低いらしい」


「アダ名つければ覚えられるぜ。兄者の名前すらも覚えられねえ」


 話から察するに彼自身には自覚も理解もあるようだった。それがどこか悲しくも聞こえたが、透真はどこか嬉しそうにしている。


「でも、そっか……」


 先程は彼のキャラにビビっていた優人だったが、いざ彼の現状を知って見てみるとなんて事はない。ただの、むしろ愛らしさすらある少年だった。


 優人のイメージ的には透真は白夜と近かった。

 白夜が仲間を守る忠犬なら、透真は飼い慣らされた狂犬といったイメージ。どちらも愛らしい犬のような存在だった。



 ここで真一から大体のことを聞いた透真は優人の方に一気に近づく。

 再び全身を舐め回すように優人を見つめると目を軽く閉じて笑いかけ、握手の手を差し出した。


 怖いと思った笑顔も、彼の中の優しさを感じた優人にはもう気になることではなくなった。


「お前は──マロだ! よろしくなぁ」


「マロが僕のあだ名だね。わかった、よろしく透真君!」


 優人も手を差し出して透真の手を握った。

 握手する2人は幼稚園児同士のようにも、ペットと飼い主のようにも見えた。

 それを隣の保護者2人は和みながら見ていた。


「どうです零人さん? 僕の自慢の弟、可愛いでしょ〜」


「その自慢の弟の笑顔が俺は怖ぇよ。中身は良いのは知ってるが……」


 零人の胸の辺りがジーンと温かくなる。この時の優人は零人の中では友という印象ではなく、自分の弟のようなポジションになっていた。

 不思議な心境に立った零人はなんとなく深いため息を吐いた。



「んぁ! そうだ忘れてた……」


 ここで透真は何かを思い出したようにハッとした様子で真一の方を向いた。透真は真一の体にしがみつくと焦ったような表情となる。


「兄者! さっきトラックが来たけど届いた物が1人じゃ運べなさそうなんだ。手伝ってくれェ」


「そうか、何が届いたんだい?」


「俺の育ててたトマトの入ってる鉢植え、落としそうだから兄者にも手伝って欲しいんだ!」


「んぐっ!」


「どうしたの零人君?」


「いっ、いや。なんでもねぇ……」


(やっべぇ、不意打ちかよ)


 見た目からは想像できないような可愛い趣味を聞いて吹きかけた零人だがなんとか口を抑えて堪えた。

 そして透真が戸惑っている姿は本当に餌を待つ犬のようにあたふたしていた。


「それじゃあ兄者!」


「わかったよ……あ、そうだ。優人君は学校、三用中学校かな?」


「ふぇ?」


 真一の質問に対してキョトン顔の優人に代わり零人が返答をした。


「こいつが行ってるのは私立上葉高校。だがそこは優人の弟や『強欲』のシロが行ってる。確かお前らとタメだろ?」


「えっ! 優人君って高校生なの!?」


「え! 真一君達、中学生だったの!?」


 中身はもちろん外見も幼く見える優人は中学生、逆に爽やかでにこやかな真一は高校生と思ってもおかしくはなかった。どうやらそのせいで2人は互いに年齢を誤認していた。

 それは2人の身長のせいもあるのだろう。優人は161cmだが真一は167cmであるのだから。


「兄者帰ろうぜェ!」


「そうだね、じゃあ透真はいつものお願い」


「ひゃあァァァっ!!」


 透真は両足を折り曲げて屈むと霊力を脚に流した。霊力を流すことで身体強化して地面を蹴る──それは爆発かのような蹴りだった。


「えひゃっはうあぁぁぁ!!」


 スクワットの原理で透真は垂直に飛んでいく。花火やミサイルを連想させるような跳躍で彼は空へ飛んで行った。単純な身体強化のみな上にただの蹴り1発でここまで飛ぶことは優人でも不可能、これこそ彼が狂犬と呼ばれる理由である。


 そして剣聖は狂犬の首輪の鎖に掴まって一緒に飛んでいく。移動は透真に任せ片方の手を振って2人の元を去っていった。


「それじゃーねー」


「ばいばーい!」



 空に向かって手を振る優人。2人の姿はあっという間に見えなくなった。

 そして零人は三用中学校が少しだけ心配になったのであった。


「あの4人がいる中学……これまた何かありそうだな」

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