第9話 幻の国
その日は素晴らしいほどの晴天で、夏の暑さも忘れてしまいそうになるほど心地良い風が吹いていた。
花は咲き、鳥たちは空を舞う。周りからはお菓子の甘い匂いが鼻腔をくすぐっている。
その場所では陽気で愉快な音楽があちらこちらで流れ、同じ世界にあるものとは思えない程に楽しげで素敵な空間であった。
子供も大人も男も女も、誰しもが楽しめる幻の世界。
──開園したと同時に人々は中へと向かっていき、優人達はエントランスを出た目の前でそのパークの全貌を目の当たりにする。
優人は嬉しさとテンションがMAXまで到達し、元気いっぱいに喜びを叫んだ。
零人、香菜、菜乃花も同調して弾ける。
「『テイスティーランド』だー!」
「「「イエーイ!!」」」
彼らが待ちに待ったこの7月27日、この日はテイスティーランドの特別イベントデーなのだ。
このテーマパークは超大手の映画会社の『ボルト・テイスティー社』が日本に作った幻とお菓子の国。
テイスティー社の映画作品をモチーフにしたアトラクションや建設に携わった他社の映画やアニメともコラボしたテーマパーク。
文化の集大成と言うべき場所なのである。
優人達の住んでいるT県が世界に誇る最高の遊園地、上葉町から電車で4人はやって来た。
なんせ先日、優人と香菜が上葉町の大食い大会にて準優勝賞品として獲得したこの日限定の招待状チケットが4人分あるのだ。
大会を終えてから4人ともこれを楽しみにしていたのだ。
「あれ? 確か主催者のやつは10組限定って言ってなかったか?」
主催者とは、以前に優人と香菜が参加した大食い大会の主催者の事だ。
その時の景品としてこのチケットをゲットしたのだが、確かにそいつは10組限定と言っていた。
しかしこの混みようだと明らかに辻褄が合っていないため零人は困惑していた。
だがその零人の疑問には菜乃花が答える。
「あぁ、あれは主催者の人が間違えたらしいよ。正しくは1000組限定だってホームページに書いてあった。まぁさすがに10組だけは豪華すぎるよね」
「なんだ、結局はいつも通りってことか?」
「いやいや、普通は万単位で人いるよ! いつもは身動きが取れなくなることもあるし……」
「え!? そんなに人って集まるもんなの?!」
この会話を耳にして香菜は何か察したようで直接零人に聞いてみた。
「もしかして零人君……テイスティーランド来たの初めて?」
すると零人は恥ずかしそうに頬を赤くしてモジモジしながら答えた。
「あぁ……こんな所に来れる機会も人もいないもんだから、初めてなんだ。だから今日は俺が1番楽しみにしてたんだよ」
「へぇ、零人君もやっぱり楽しみにしてたんだね〜」
「まぁ、初めてだからよ。いくら持ってきたらいいかも分からなかったから多めに持ってきた」
ここで優人は少し嫌な予感がした。
零人ならやりかねない「あること」をしているのではないかと、確認のために1つ質問を聞いてみた。
「──零人君、今日いくら持ってきたの?」
ここはそこらの遊園地とは違って物価が異常に高く、食事代やお土産代がかかるという話を来る前に零人に話していたのである。
零人はカバンの中から財布を取り出し中身を見せる。優人はその中身をおそるおそる確かめてみる。
──そこには大量の万札があり、財布がかさばりまくっていた。
「い、一応現金25万とクレジットカードは持ってきた。万が一に備えて400ドル──」
「…………25万とクレジットカード? え、ドル!? ……ドル!!? なんで海外のお金が!!?」
優人が仰天した反応をしていたため、零人は血の気が引いていって顔が青くなった。
「もしかして……足りねぇのか? 今なら瞬間移動してすぐ金おろしてくるけど──」
「十分すぎるよ!? 逆にスリとか落とした時が大変だから!」
優人は急いで財布の中を整理させた。
悪霊を倒しまくる、又は危険な魔物などを倒すことによって霊管理委員会は相応の報酬が支給されるため、零人の金のストックはかなりある状態であった。
だが今回、このような狂行をしたのには零人の方にも理由があった。
優人はこれでも大手企業の御曹司である。そして優人の家は高級住宅街の中にあり、その隣に香菜の西源寺家がある。
これが今回の零人の金銭感覚がズレた原因である。
「多くても5万円だよ! クレジットカードはいいけど……他の余分なお金やドルは返して」
「ドルは必要ないのか?」
「逆に本物のドルをお財布に入れてる人、僕初めて見たよ?」
珍しく優人に世話を焼かれている零人を女子2人は見ていたが、彼女たちの目は見逃さなかった。
零人のクレジットカードはただのクレジットカードではない。
それは許されし者に託される禁断のカード──漆黒に輝く覇者の証であったことを。
(ゆーて私、家が特別お金持ちってわけじゃないなら高校生がブラックカード持ってる光景が信じられないよ)
(ブラックカードって実在したんだ……ていうか優人君はそこにはツッコまないんだね、さすがお坊ちゃま)
ちなみに零人のブラックカードは超特殊な方法で取得しているが、通常未成年は契約できない。
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とりあえず零人には400ドルと20万円を自宅に転送させた所で、早速4人はアトラクションへと向かった。
まずは最初に乗るアトラクションを皆で決めてながらパークを散策して回っている。
「皆はどれに乗る?」
「う〜ん、『ブルーアイズファウンテン』とかいいんじゃないかな?」
「わ、私大丈夫かな〜」
「おぉ、ジェットコースターか……これも初めてだ、乗ってみてぇ」
零人は童心に帰ったように己の欲へ忠実になっていた。目線は既に遠くへ見えたブルーアイズファウンテンに向けられていた。
最初はジェットコースターアトラクションのブルーアイズファウンテンに乗ることに決定し、4人で並びに行った。
特に零人は人生初のジェットコースターに胸を踊らせている。
──並んでいる間も楽しい話をしているとあっという間に数十分後が過ぎ、ブルーアイズファウンテンの順番がやって来た。
4人は並んだ順番の通り、ジェットコースターの最前列に零人と菜乃花、そのすぐ後ろに優人と香菜が乗った。
「うひゃー。楽しみだね、香菜ちゃんっ」
「うん、私もこれ乗るの久しぶり〜」
「私もー、あはは……」
「俺はマジで楽しみだ、はは……」
楽しいトークをする優人達の2人の前に座る2人は安全シートを下げながら互いに悶々と同じことを考えていた。
(4人で遊ぶっつーから普通に楽しみで来たがこれって──)
(香菜ちゃん達はそうだから自然だったけどこの状況って──)
((完全にダブルデートじゃんっ!!))
ダブルデート、それはリア充の遊びにして初々しい高校生2人にとっては最も難関とされていた行事の1つ。
零人も菜乃花も安全バーを下ろしている最中に理解したのだ。
4人で遊ぶという友達グループ的なノリからペアで座るという状況となってようやく2人は理解したというのが現状。
零人側にしてみれば、この3人は同じ友人枠としていつも収まっている。
だが優人と香菜がイチャつき始めることで2人はカップルセットに変化し、自然と自分と菜乃花は弾かれる。
菜乃花は周りの親しい人間の中でも唯一の一般人。ましてや、同い年の異性である。この状況で意識するなと言われる方が無理な話である。
いくら強さで世界最強と謳われようが、中身は友人関係すら乏しかった汚れのない青少年なのだから。
──対して菜乃花、彼女は密かに零人に思い寄せてる。
しかし思いは寄せていても、2人っきりで異性と接しているという感覚になったのは林間合宿の一夜だけ。
今まではなんだかんだで優人や香菜も混ざって遊んだりしていたため、その友人関係に馴染んでしまっていたのだ。
いざ再び好きな異性として意識してしまうと、顔から火が出そうな程に恥ずかしくなってしまう。
2人は不自然にカチコチと身体が固まり、アトラクションだというのに綺麗な姿勢で座っていた。
そんな彼らの様子を見て後ろ2人は何気なく言葉を漏らした。
「2人ともどうしたの?」
「そんなに構えなくても、怖くないから心配ないよ」
効果発動──『天然カップル』!
この効果により、零人と菜乃花の緊張感も軽く解けて身体の硬直が緩和される。
(そ、そうだな。変に構える必要はないんだ!)
(あんまり緊張しちゃうと誤解されちゃうかもだし……って誤解って何? やだ私、変な感じになってる)
そんな風にお互いの頭の中が大騒ぎでいた途中、キャストからの見送りのアナウンス入る。
『それでは皆さん、いってらっしゃあ〜い!』
その言葉と同時にコースターは急加速してホームから飛び出した。
坂を1度登るのではなく急発進するタイプのジェットコースターに零人は驚き、再び身体がガチガチに固まった。
だが後ろの2人は楽しそうな矯正を上げている。
「わははー!」
「イエーイ!!」
コースターが疾走していたのは、ファンシーなフルーツや宝石が飛び出し、チョコレートが溶岩のように固まっているような見た目のマウンテン。
チョコレートファウンテンを意識した山からの水しぶきがゲスト達にかかって顔が軽く濡れる。
また、コースターの行先に当たりそうな大きな宝石やイチゴがあったと思うと急カーブや急降下をしてコースターが揺れる。
「「いやっほ〜ぉい!!」」
カップル組は楽しそうに両腕を上げて絶叫しているが、菜乃花は必死でしがみついていた。
(このヒャッとする感じ、好きなんだけど体が飛ばされちゃうんだよね)
「「ふおあぉぉぉぉ!!」」
そしてコースターは1番の急カーブに差し掛かり、菜乃花はその遠心力に負けてコースターの右側に体を傾けさせられる。
──コツン
「ひゃわっ!?」
(へ、変な声でちゃった!)
その瞬間、遠心力で身体が傾いたせいで菜乃花の頭が零人の肩に触れた。
全身にかけられる重力でさらに腕や腰も零人へ強制密着してしまった。
驚き顔と恥ずかしさで瞬間的に顔が赤くなった菜乃花は
ゆっくり隣に座っている零人の方を振り向いて彼の顔色を伺った。
「──ハッ!」
しかし隣で座っていたのは、目は虚ろになって顔色が先程よりも真っ青になった零人だった。
肉体から魂が出たと本気で思うレベルで放心状態となり、必死になって口元に力を入れていた。
(そ、そういえば零人君って乗り物酔いしやすい体質だった! 林間合宿の時もそうだったし)
普段の移動は徒歩、飛行、瞬間移動で済ましている零人は揺れる乗り物への耐性が皆無なのである。
オマケにその対策として手に入れた三半規管などの状態を整える能力も『怠惰』の制限のせいで、封印状態にあるときた。
零人は気持ち悪さに襲われていたが菜乃花がいる手前、ひたすら我慢するしかなかった。
今ある力を全て注ぎ込み、己の逆流を押さえつけていた。
「零人君だっ、大丈夫!?」
「────」
反応がない、まるで屍のようだ。
体が密着するほどの至近距離にいた菜乃花だが、コースターが激しく動くせいで零人の唸り声しか分からなかった。
一方でそんなことは露知らず、後ろのカップル2人組はブルーアイズファウンテンを楽しみ尽くしていた。
「ひゃ〜楽しい〜!!」
「私このアトラクション1番好きなのー!」
どうしようかと思っていた矢先、菜乃花オロオロしながらあることを思い出した。
(あれっ、このアトラクションは確か──)
ここでようやくコースターは上り坂を上り始めて減速しだした。
「────ふぅ、何とかいけた……」
零人の顔にはわずかに生気を取り戻し、安堵した表情を見せていた。
しかしその先に広がっていた光景が零人に残酷な運命を告げる。
上り坂の向こうでは、レールが途切れていたのだ。何故先のレールがないのかと零人は目を点にして数秒ほど考えた。
「……ふぇ?」
途切れたレールの手前で停止したコースター、急な坂道、さらに後ろから聞こえてくる喜びの大絶叫、自ずと答えは導き出される。
──ここからはこのコースターは来た道を逆走するのだ。
あのカーブだらけで車体が揺れる道をもう一度、それも進行方向すら分からず上手く踏ん張ることもできない状況下で。
(零人君だいじょ……あ、大変だぁ)
「────ハハ、終わった……」
零人は目を見開き、絶望した表情を浮かべた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
──ブルーアイズファウンテンを乗り終えた優人と香菜はメリーゴーラウンドに隣同士で乗り、ベンチに座る零人と菜乃花に手を振っていた。
菜乃花はスマホで2人の写真を撮りながら、今度は自分の肩を零人に貸して座らせていた。
零人は落ち着いて呼吸を繰り返して気持ち悪さを回復させていた。
「イエーイ!」
「わーいなっちゃん、うさピースっ♪」
テンションの高い2人はカメラを向ける菜乃花の方を向いて可愛らしいポーズをとる。
零人は頭を菜乃花の肩に乗せながら弱々しい声を出した。
「──ごめんな、菜乃花さん。なんかアレで」
「いいよ、全然。零人君の具合が悪いのに放っておけないよ」
菜乃花は優しく零人に微笑みかけた。
彼女自身も零人の面倒を見ることは心から嬉しかったのだ。
零人は菜乃花の包容力と母性に心がジーンと温かくなった。
「……今日は皆で来れて本当に良かったね」
「うん。人生初のテーマパークは最高の思い出になりそう──いや、なってるよ」
菜乃花は無意識で自然と手を零人の頭に置いて撫でていた。
零人は思いがけない彼女の行動に驚き、頭を乗せたまま赤面する。
「…………」
(やべぇな……まだ頭がクラクラする)
────零人は完全回復すると、少ないながら己の霊力と優人の分けられるだけの霊力で可能な限り本気を出し、それに香菜も加勢した。
「そーれ、香菜ちゃんお手製の1日結界〜♪」
「『特定結界支配術』現行時間加速ッ」
香菜がテイスティーランド全域を結界で覆い、零人は生成された結界内の中の時間のみを加速させた。
中の時間だけを加速させることで結界外の時間より人や物を速く動かさせ、通常よりも長くパークが楽しめるように作ったのだ。
そして、並ぶ時間は4人の体感時間だけを加速させるというちょっとしたチート技で楽しんだ。
だが実際は4人で話している時間も楽しかったので、少ししか使う機会がなかった。
──そしてここは幻の国、周りの人々は時間など誰も気にしないため特に問題も起こらないのである。
優人は改めて喜びを声に出して叫んだ。
「まだまだ、テイスティーランドを楽しんじゃおー!」
「「「イエェェーイ!!」」」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
園内の多くのアトラクションを4人は乗りまくり、キャラクターとのグリーティングや体験型アトラクション、食事にお土産の購入などをして存分に楽しんでいた。
優人と香菜は終始叫んだりしてハイテンションで周り、零人と菜乃花は全力で楽しみつつもこの最高の一時を噛み締めていた。
特に零人に関しては、1つの夢が叶ったのである。
友人とテーマパークで遊ぶなんてこと、半年前の彼が想像出来ていたであろうか?
最強と呼ばれる彼が求めていた友情が今はあるのだと、このテイスティーランドが訴えかけているような気がして、心臓が締まるような嬉しさを覚えた。
──しかしそんな時間でも終わりというものはあっという間に来てしまうのだ。
終わってしまうからこそ、この一時は極上なのである。
夜が訪れ空は星々で輝き溢れ、パークはいよいよクライマックスのショーの時間になってしまった。
「楽しかったけど、やっぱりあっという間だったね〜」
優人がそう呟いた時、空を見ていた零人はあることに気がついて香菜に聞いてみた。
「──あれ? なぁ西源寺、まだ結界は解いてないのか?」
「えっ? それは……」
「あっ……綺麗」
見上げた空では蜃気楼に似たような現象が起き、さながら霊達によるプロジェクションマッピングが行われていた。
人魂の姿となった浮遊霊や精霊達が集まって、光が空を舞っていたのだ。
それは除霊や天使達の霊力と同系統の聖属性の霊力。パークは神聖な霊力で満たされ、霊魂がまるで天の川のように光で園内を照らしていたのだ。
「あれは私の術じゃないよ。多分、ここにいる人達の喜びや幸せに寄せられて──自然にできた天然結界だと思う」
「そうなんだねぇ、あの霊たちも僕達みたいに楽しんでるのかな?」
「きっとそうだよ優人、私たちと一緒だよ。だって霊も生者も、テイスティーランドは大好きじゃん」
(幻の国って言うだけあって、すげえ場所だな。教会や大聖堂とかでもこんなにはならねぇよ)
「へぇ──あっ」
最後のショーに合わせて何発もの花火が空へと打ち上げられた。
色鮮やかで儚く美しい花は次々に咲いた。
光と音がゲスト達を魅了し、皆が空を見ていた。
「ねぇ、見て見てー!」
「わっ、凄いね〜。霊たちが」
「マジか……初めてあんなの見た」
花火と共に空を飛んでいる霊たちも輝きを放った。花火をさらに彩るように7色に光ったり、黄金色に激しく光ったり。
テイスティーランドそのものの守護霊であるかのように、霊たちも幻想的なパークを演出していたのだ。
「わぁ……」
菜乃花は輝く花火をその瞳に映し、感嘆の声を漏らし見とれていた。
「……」
そして零人は自然と彼女の横顔を見つめていた。自分自身でも何故と思うほど、彼女のことを見ていたのだ。
(──思えば、林間合宿の時からだよな……なんか菜乃花さんは、他の女子とかと接してる時と違う感覚になるんだよな)
零人はこの日、特にこのことを考えていた。
自然と菜乃花を追ってしまう目線や彼女の前では恥ずかしい自分は見せたくないと思う気持ち、隣にいるとどうしてか緊張してしまったり心臓の鼓動が早くなること。
人間関係が乏しかった彼にはこれが何なのかという疑問が頭の中を駆け巡っていたのだ。
(何でだ? 俺は優人や西源寺とかと同じく菜乃花さんも友達だと思ってる筈なのに……何でだ、それとはまた違うような感覚だ──この感情、知ってるようで知らないこの感じはなんだ?)
──その時、特大の花火がドンと大きな音を立てて爆ぜた。
その時に零人の蒼い瞳には菜乃花の横顔がハッキリと目に焼きつけられた。
その瞬間、彼女が空を見ている姿をくっきりと捉えた時に再び身体は固くなり、心臓が速く大きく波を打った。
(もしかしてこれって……アレなのか)
零人は何回か瞬きをし、1度も空を見てからもう一度菜乃花の顔を見つめた。
その時、彼の中でその感情は確信へと変わった。
少年は初めて、その気持ちの名前を知ったのだ。
それは……再び見つめても先程と変わらず、可愛く愛おしく見える彼女の姿が証明していた。
(──へえ、これを────初恋っていうのか)
人はこの気持ちの名を、恋心と呼ぶ。





