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第12話 少年の力

 ────優人達が異界に連れ去られた一方で、零人もまた彼らの行方を追っていた。住宅の屋根の上で手元にモニターのような術を表示する。そこに書いてあったものは──『コードG:ランダム・異界』の文字。

 零人はその文字を見ると吐き捨てるように言葉を発した。


「クソっ! 見当が外れた……敵の異界術は特定の場所から侵入する"ゲート系”じゃなく特定の方法でしか侵入できねぇ"転送系”か。このタイプじゃ前のシロみてぇにこっちからじゃ干渉できねぇな──」


「アイツらに任せるしかねぇ……補助系の術やテレパスからリンクできるもんでも漁るか」


 零人はモニターをスクロールすると同時に複数の魔法陣を展開し始めた……


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ──そのころ異界に攫われた優人本人は確認作業を行っていた。体や指先に霊力を集中させ、召喚術の発動を試みるがやはり召喚獣どころか召喚用の魔法陣すらも現れない。


「やっぱり、ダメかぁ。異界じゃ召喚獣来れないのなんでだろう?相手は使えてたのに……」


 この状況に軽口を言える程度には優人は心の余裕が生まれていた。もちろん油断しているわけではなく、周囲の状況に注意を払えているからこそ優人はこの状態でいられるのだ。


 常に警戒を怠くことなくゆっくり異界の奥へと歩いていく。だだっ広い異界の中は暗いので攻撃防御も想定し、鬼火を体の周りに灯した。


「鬼火は使えるね──」


 鬼火の光に引き寄せられるかのように式神達が寄って来るのが分かった。奴らはまだ優人に飛びかかることはせずに間合いを詰めているだけの状態。


 その緊張が走った最中、優人のポケットの中から電話の着信音が鳴った。急いで優人は電話アイコンをタップする、相手は当然零人だ。


「もしもし零人君? 今はとりあえず、異界にいて周りは悪霊みたいなのに囲まれてるよ」


『OK、周りをカメラで映してくれ』


「はいっ、これ映ってる?」


『そいつらは式神じゃねぇか、気を付けろよ。召喚獣とは少しワケが違う』


「どういうこと?」


『召喚獣とは分類的には同じなんだが、式神は特定の条件を満たさないと使えないタイプが多い。その分だけ精密度がえらい違いだし式神の感覚は術士と共有されるから情報がほぼ筒抜けだんだよ』


「分かったよぉ、じゃあとりあえず全部倒すね!」


『お前……いつからそんな強引キャラになっ──』


 ──ブツン


 零人が話している途中で通話は切れてしまった。電波表示の部分を見た限り、異界の電波状況はとても悪いらしい。今の電話も零人が無理矢理回線を繋げたのだろう。


「わぁ、増えてる……」


 通話をしている隙に式神の数はどんどんと増えていった。前に異界にいた蜘蛛達よりかは幾分少ない上、霊力も弱いので恐怖心も過剰反応せず、優人は落ち着いた思考が可能だった。


「とりあえず、温存っ!」


 術士の実力が未知数な今は、霊力を多く使うべきではない。そう踏んだ優人は手始めに前衛で睨んでいる式神達を鬼火で丸焼きにしていく。


「おりゃあぁ!」


 青い火による強力な範囲攻撃は素早かった。制限しているとは言え、優人の霊力量は凄まじいため威力やスピードは並のものではない。結果的に式神達の反応は遅れて彼らは為す術もなく燃やされて体が消滅していった。


『キュシャアァァァ!』


 式神が焼かれている最中、空中からは翼竜のような小さい式神の集団が飛んで来ている。その数は見える範囲内でも50体は確認できた。


「呪いの拳ッ!!」


『シャアァァァ!!』


 優人は体から1つだけ呪いの拳を翼竜達の方へ飛ばす。黒の拳は優人との意識を繋げたままのイメージで放ち、タイミングを伺う。


「……ここっ!」


 拳が群れに最も接近した時に錬金術を発動。呪いの拳に魔法陣が浮かび上がり、周囲に存在している空気が変化していく。

 窒素や酸素が変換され、薄紅と碧に輝く宝石の大棘と化す。大棘は水が侵食するように宙で網目状に広がっていき、式神達に向かって急激に伸びる。その宝石達は針のように鋭く硬くなり、翼竜達の頭部を吹き飛ばした。


 ここで前方にさらに追撃、地上の式神達の足元からは無数の呪いの拳を出現させ式神達に掴みかかる。地上の式神は虎やライオン、キメラに似た姿で4足だったため綺麗に足を掴むことに成功した。


「あとは仕上げっ、結界!」



『バギャアァッ!』


『ガゥアァァッ!!』


 式神達は引きずられ、おおよそ1箇所へ集まらせる。勢いによって式神達が引き寄せられたタイミングを見計らい、優人は簡易結界で式神達を閉じ込めた。


 前に零人が異世界の魔王を倒した時に身に付けた優人の簡易結界、実用化するには完成度がまだ未熟であったがゆえに優人はこの術の練習をココ最近は重点的に行っていた。

 実はこの術──呪いの拳との相性の良さも抜群なのである。


「やった!練習して良かったぁ……呪錬拳!!」


 優人の必殺技、呪いの拳と錬金術による宝石が殴り舞う呪錬拳が簡易結界内へと放たれる。たった1つだけ放たれた呪錬拳は結界内を縦横無尽に飛び回る。


「これで──鬼火っ!」


 優人は呪錬拳の上からさらに鬼火を纏わせる。拳による漆黒の衝撃波とは別に、感染するように勢いを増していく青の炎が式神達共を追い詰めていく。


『バギャアァァァ──』


 式神達は熱と痛みの中、霊力として空間の一部へ還る。結界内に反応が消えたのを確かめて優人は術を解除し、先へ向おうとした……


「じゃあ奥に────え?」


 それは何の前触れもなく、背後から式神が現れたのだ。

 振り向くと既にそこでは虎のような式神が右前足を頭の上に構え、強靭なその爪と共に振り下ろす準備を整えていた。

 ここで瞬間的に先の零人の言葉を思い出した。


『式神の感覚は術士と共有されるから情報は筒抜けだ』


(もしかしてさっき戦ったから位置はもう分かってたから前で戦ってる隙に後ろにまわられたの!? まさか結界内だから出せる場所が自由とか──)


 霊動術で脚力強化し式神から距離をとろうとするが優人の反応がほんの僅かに遅れる。そのスピードから分かる、この攻撃は回避できないのだと。


(大変──)


 優人は攻撃を回避しながら防御をするために決して背を向けなかった。だからその目でしっかりと捉えてしまった、式神の攻撃が優人の顔の上に50センチ辺りまで到達したことを。


(やられちゃう……)


 命の危機を感じたその時──────優人はある違和感を感じた。


 式神が…………静止したのだ。


「────えっ?」


 それはまるで、録画した映像をストップさせたように式神はピタリと止まっている。


 優人は予想外のことに驚きつつ、術で強化した脚で式神の攻撃範囲内から外れる。


「やぁっ!」


 その隙に式神に向かって呪錬拳で放ち貫いた……がやはり何か違和感があった。

 式神はその攻撃によって消滅したのだが、その前のほんの一瞬だけタイムラグがあった。優人はこれまでの戦闘で悪霊や魔獣の消滅するタイミングはあらかた掴んでいた。なのでその分奇妙に感じたが考えられるのは──


「もしかして僕、成長したのかな? 相手の動きに対応する力みたいなのが……とにかく、今はいいかな」


 妙な気分だがそのことはどうでもいい。一刻も早く妹を救出するためにと優人は先に進んで行く。



 ──この時の状況を沙耶香は術士の見ているモニター越しに見ていた。


「クックック……」


 先程から狂ったかのように、嬉嬉として画面を見つめる術士に沙耶香は得体の知れない恐怖心を覚えていた。彼女は目を潤ませ小さな声で呟く。


「お兄ちゃん、シロ……たすけて」


 沙耶香の心は不安によって弱まっていく一方で術士は気分が昂っていく。唾を飛ばし早口かつ饒舌となってベラベラと独り言を話す。


「ひっ……」


 ──沙耶香が見たその男は、彼女の人生においてどの人物にも当てはまらない"狂気”が存在していた。笑うピエロのような奇妙さと奇怪さから来るこの恐怖は、全身を舐め回されているような寒気となって沙耶香を襲う。


「ああぁ……良い、これは良いっ! 何とも素晴らしいっ、ここまでの素質と霊力を兼ね備えた少年と対峙しておきながら兄は何をしていたのやら。はぁぁあ、贄にするもよし……引き込むもよし、育てるもよし──んあぁぁぁ、正に原石だぁ。勿論勿論勿論っ、排すべき存在だとしてもこれはまた高揚としてきますねぇ。あの幼い容姿と甘い声はどんな風に悶えるのだろう? 甘美という言葉程度では済まされない、もっと刺激的な"運命”を感じるぅ!! 式神を通してもあの霊力は伝わってきましたねぇ……これならあのア────およ? ここの道は……」


 モニターに映し出されているのは優人の映像。そして優人が今歩いているのはこの暗い異界の中で唯一分かる場所──男達自身のいるこの場所。映像の中に映る優人のさらに奥にはローブを来た男の姿と檻の中に囚われた少女の姿も映し出されている。


「お兄ちゃんっ!!」


 振り向いた術士の男は口元を上弦の月のように歪めた不気味な顔をローブの中から覗かせてまじまじと優人を見つめる。警戒する優人を舐るように見回して再び口角を異常なほど上げて感心するように頷いた。


「おやおや、これは……」


「妹を返せ、悪党ッ!!」


 優人の真っ直ぐに光る目と男のギラギラと光る眼光が交じりあった。

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