第9話 精霊を探す天使
──零人を追いかけ回して霊力を奪おうとした香菜に一通りの説教をし、軽くデートしてきた優人はそのまま1人で家に帰ろうとしていた。優人自身も零人を見つけるために走り回ったため若干の疲労感があった。
香菜はこれから霊管理委員会の仕事があるので説教のあと、一緒に歩いていた途中で転送術ですぐにどこかへ行ってしまった。
「このあとは1人で何しよ……!?」
通学路を歩いていた彼は上空からとてつもない量の霊力を持つ存在を感じた。あまりに高密度で超質量な霊力を持つソレに対し咄嗟に攻撃の準備を取りそうになった。
しかし優人にはその必要はないとすぐ理解できた。なぜなら悪霊特有の"邪気”を感じなかった。
そして何よりその存在はすでに既知の者であった……
「おーす! ユート!!」
黄髪の少女は天空の彼方からハイスピードで舞い降りて来た。あっという間に目視できる距離まで降りて来るとその白い羽を飛ばしながらその勢いを殺しつつ着地の準備をしていた。
「ガーちゃん!!」
四大天使の1人にして祝福の天使、ガブリエル。
「えぇーいしょっ!」
ガブリエルは一時音速を超えていたようで空にはソニックブームによって発生する雲のようなものができ、その爆風に自ら乗って着地した。しかしそれはあくまで攻撃ではないので着地点の地面には影響がなかった。
会ってそうそう2人はハイタッチをした。
『イエーイ!!』
「どしたのガーちゃん?」
「今日は零人に用事があったんだけど〜零人どこー? もしかしてこの町にもういない?」
状況判断が見た目の幼さに反して早い。おそらく零人の霊力がないのを感じ取ったのだろう。しかし、それを差し引いても早かった。そこから感じる霊能力のセンスは、さすがは四大天使というところだ。
「用事ってどうしたの?」
「実はぁ精霊が一体、この町に逃げちゃったんだぁ。リスの姿の精霊だから探すのが大変で〜」
「じゃあ僕お手伝いするよ。零人君はまだ戻れなさそうだし」
「ほんとー!? やった〜、じゃあよろしくー」
『イエ〜イ!』
再び2人はハイタッチをすると早速精霊の捜索を開始する。
ちなみに精神年齢的に近い2人は色々気が合うようだ。互いにノリのシンパシーを感じていた。
「その精霊って、どうやって探せばいいの?」
「とりあえず空から探そっ、霊力の反応があったところをカックニーン!」
「オッケー、ヴァーレお願いねっ」
「ニャァ!」
技の熟練度が向上したため魔法陣の出現とほぼ同時にヴァーレが召喚される。軽く自分の手を舐めるとヴァーレは優人の顔の前まで飛んだ。
ガブリエルは自前の翼で、優人はヴァーレに掴まって空を飛ぶ。
それにしても毎度毎度、少年を空高くまで運んでいるヴァーレはいつも大変そうだ。だが当の本人──本獣は嬉しそうにも見える表情をしていた。
「わぁお……やっぱり空から見る街って絶景〜」
「ウチもそう思うー! 最近の平和な時代になってから特にそう〜」
優人は特にその発言を気に止めなかったが、この言葉には重みがあった。ガブリエルはキリストの誕生した時期に生まれた天使であり、もう2000年ほど天使として生きている。そんな彼女には色々思うところがあるのだろう。特にこの平和な世界が続いていることがガブリエルにとっても嬉しいのだろう。
──その後しばらくの間は上空からそれらしき霊力を探していたが精霊は一向に見つからない。
「ねぇガーちゃん、リスの精霊って他に何か特徴ある? 好きな食べ物とか」
「う〜ん、そうだなぁ……あっ、そうだ! 精霊ってね、運がないところに行くんだ」
「運がないところ?」
「例えば、何か今日めっちゃ運が良かったとか悪かったってあるじゃん? それってだいたい精霊関係なんだよぉ、だいたいの運に関係することは」
「そうなんだ……でも運が悪いところってなんか、難しいよね。あんまり想像できないし、どうしたら……あっ!」
この時、優人は1つ妙案を思い付いた。
この案は精霊との遭遇率が上がる反面、場合によっては相手のメンタルが崩れるものだがそんなこと優人は露知らず実行を試みる。優人達は方向転換して学校付近に戻る。すると優人は上空からその"人物”を発見した。
「あっ! あそこかも」
「ユート、当てがあるの?」
「うんっ!」
そして本当に偶然では運が悪い存在といえばただ1人──彼がいた。
「政樹君!!」
運命によって不運になってしまったと言っても過言ではないその人物……不運の象徴とも言える飯塚政樹、彼のことだった。
彼は普段から不幸に愛されている。政樹の守護霊は茶碗の姿をした厄病神であり、彼は不幸体質となっているのだ。
「優人か、どうした?」
ちなみに、これが彼らにとって久しく会話が成立した瞬間だ。この間優人と挨拶をしようとした彼は舌を噛んで会話どころではなかったのだ。すると2人が尋ねる前に政樹から質問してきた。
「なぁ優人、その子お前の知り合いか? なんかこの子もお前達みたいにヤバい雰囲気が──」
「ヤバい雰囲気ってなんだー? ウチは天使だぞー! 偉いんだぞー!?」
「……はっ!?」
「えっと、じゃあ最初から説明するね……」
優人がガブリエルや今回の件について説明すること約5分、政樹は大方察したようだ。
「えっと……つまりその精霊を見つけるためにお前とガブリエルさんと一緒に──不運な俺が町を歩いて探すってことか?」
「そだよー!」
否定も訂正もせず、ガブリエルは無邪気に答える。これが結構痛いようで、政樹に精神攻撃の会心の一撃がぶち込まれる。
(ハハハ……珍しく頼られたと思ったら、こういう系ね。別にいいんだけど──)
彼の中では今"存在意義”という言葉の定義が揺らいでいた。もうガッカリしすぎていて笑えてくるほどに。
「ツッコミどころ満載だけど、まぁいいや……それよりもお前らの探してる精霊はもう見つかったよ」
すると政樹は自分の背中を指指す。その背中には小さなリスがしがみついていた。2人が霊力を見て確認したがやはり精霊だった。リスからは天使達と近い種類の霊力が感じ取れる。精霊はつぶらな瞳で優人達を見つめていた。
「いた〜!!」
さすが不運オブザイヤー、すでに精霊は来て憑いていた。精霊にとっては不幸はおやつや栄養感覚。よって政樹の元へ引き寄せられるのは必然と言っても過言ではないのだ。
「じゃあ回収するね〜、リスちゃんこっちー!」
『キュー!』
(────あれっ? ていうか精霊の好物が不運ってことは……俺、今の時間は運が良かったってことか?)
短時間で引き離されてしまうのもまた運命なのだろうか、せっかくの開運アイテムが没収されてしまった政樹は落ち込んだ。
(宝くじか何かでもやっときゃぁ良かったのか? あぁ、勿体ねぇことした……)
「政樹君ありがとう!助かったよ〜」
「おう……次からは俺の人権意識してくれ」
不運な男の悲しき言葉だった。そのまま政樹はとぼとぼと道を歩いて何処かへ歩いていく。リスのいなくなったその背中は哀愁に満ちていた……
──ひとまず手伝いが済んだのでそのまま優人はガブリエルと分かれて家に帰る。
「ガーちゃんまたねー!」
「また遊びに来るよぉ!!」
「楽しみにしてるねぇ〜」
「……さてっと、お仕事終わり──」
「あっ、ガブリエル」
「れーと!」
このまま天界に戻ろうとするガブリエルのもとにすれ違いでイベント終わりの零人がきた。手にはグッズでパンパンになった袋を握りしめている。
「悪い悪い、精霊は見つかったか?」
「うん、ユートが手伝ってくれたー!」
「おう、なら良かったな」
正直なところ、彼は行きたいイベントに行って仕事もサボれた零人は随分と得をした気分になった。
そのままガブリエルは帰ろうと翼を広げる。だが飛び立つ直前で彼女は零人に話し掛けた。
「そうだ、れーと」
「ん、どうした?」
「──気を付けた方が良いよ、今回のこの子の逃走と最近次々にやってくる強大な悪霊達……なんか嫌な予感がするから」
ガブリエルの声音と表情が一転した。冷静で低いその声からは彼女がいつもの明るい雰囲気ということもあり、より真剣さが伝わってきた。その雰囲気の変化は少し怖い要素も含んでいた。
「…………了解」
「それじゃねー!」
──意味深な言葉を残して天使は飛び去った。ガブリエルに言われたことを零人も深く考えた。
「大罪の能力者の集結、それだけじゃあねぇだろうな。おそらく、というか確実に優人も──とにかく用心しねぇといけねぇなこりゃ……」





