第27話 迫りくる試練
初夏……それは梅雨が過ぎ去り訪れる季節。
服装が変わり、新しい環境に適応して気分や心境、様々なものが入れ替わるこの時期──少年少女達は試される。
それはほとんどの者達にとって必須であり、受けざるを得ないある試練がある。
この時代、そして今、最も必要な要素を兼ね備えているか。己の『スキル』がどこまで通用する武器なのかそれによって試される。それは…………
期末テストである。
学生なら決して避けることのできぬ試練、もとい苦行である。日頃努力してきた者、直前で慌てふためく者、諦める者。
その者達のランクがよりハッキリし、良くも悪くも自分自身の実力が明かされるイベント。赤点を取れば敗者、取らねば勝者、さらに高みを目指せば強者。
若人達のプライドと学生生活、人によれば一生がかかっていると言っても差し支えない慈悲無き戦いが始める……
戦いの朝、その日の教室内はとても騒がしかった。零人が登校した時にはもうすでに全員が揃っていたため零人は時間を間違えたかと時計を見た。
「……あぁ、寝みぃ」
零人は寝不足気味のようだ。目には少し隈ができていて、雰囲気から察するに睡眠時間は数時間程だろう。
「零人君もしかして……一夜漬け?」
「いいや、昨日は『ファイナルクエストX』でキャラ全部が最大火力出せるまでレベル上げしてたら朝になっちまった……」
「そういえば零人君のプロフィールにその画像が朝に載ってたね。それ見てやりたくなっちゃったから僕も学校で『ファイナルクエストオンライン』やっちゃったよ」
「へぇ、リリースされたばかりのアレか……とりあえずXを全クリしたらやり始めっかな」
「あっ、Xを全クリするなら『フェニックスの薬草』があると後になってアイテムが貰えるし特殊ムービーが見れるよ」
「そうか、ソレを今日売りそうになったが取っておいて正解だったな……サンキュー」
テスト前日に一夜漬けでゲームをした零人、当日の朝から学校でスマホゲーをする優人。これは両方とも完全にアホである。
これが彼らのテストにどう繋がるかは予測不能。
しかしこれを聞いていたクラスメイト全員が敵が減ったと思い、心の中で密かにガッツポーズをした。
──怒涛の1日だった。この学校は1日の内にテストを終わらせるタイプなので、生徒の精神的疲労は計り知れない。
殆どの者が無我夢中で行い、テストをやっていた時の記憶がほぼなかった。ただひたすら、少しでも高みへと全員がペンを走らせる。
そして、この日は皆が解放感に満ちていた……
果たして幸運と勝利の女神は微笑むのか?
審判が下るのを生徒達は待った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
──1週間後廊下にて順位が発表された。この時点でそれぞれのテスト返し結果は明らかになっていた。
努力の成果が出た者、想通りの結果で微妙な感触を味わう者、
その点数に愕然とする者……己の戦績を見るなり彼らは騒いでいた。
だが大体の者はこのテストという絶対的なランクを求めてこの場に立っている。
勝利、または保身のためにその自分に付けられた数字が気になっていた。
張り出されたその順位表を確認すると落胆するものや喜ぶものなどが騒いで廊下がうるさくなる。
そして生徒達は自分の順位の確認が終わると他人の順位を確認し始める。
そして彼らはある2人の順位に釘付けになった──
『優崎と真神、同率の2位ィィッ!?』
侮っていた2人に順位を越され呆然となる一同だった。
まさかあの二人に負けるなど誰も思ってもいなかった。
──結果から簡潔に言えば、この2人は天才なのだ。
「やったぁ! 不安だったけど、良かった〜」
優人は真面目タイプの天才だ。
授業と宿題を真面目にこなせば、テストや難しい応用問題まで難なく解くことができる『純粋な天才』。
確かに真面目、しかし必要な努力量のコスパがとても良い人間ゆえに努力量は常人のそれと異なる。
おまけに優人はそのピュアさゆえ、一切の邪念がなく授業中は真剣で1番集中している生徒。
なので知識を頭の中へ叩き込める上、授業態度も良いため成績が恐ろしく良いのだ。
「へぇ、俺はこんぐらいのレベルなのか」
一方の零人は『不真面目タイプの天才』である。
たとえ授業中に寝ていても、聞こえてくる声やパラッと見えた教科書に書いてある文字を読んだだけでテストで大量得点を取ることが可能だ。
そもそも、数多くある魔術を操るには教養や素養がとても必要になる上に彼は地頭も良い。
ゆえに能力でカンニングするより自分で適当に解く方が圧倒的に成績が良いのだ。
能力で脳を活性化させる方法もあるが、そこは彼なりのポリシーがあり絶対に使用しない。
所詮このテストは零人にとって流れ作業程度でしかないのだ。
天才達には、ただの一般ピープルでは無力なのだと行動で示されたような感覚に2人を除いた者全ての達が襲われた。
彼らには今は容易に話しかけることもできない。人によっては殴りかかってしまわないように踏ん張っている者もいる。
そんな現象を起こした2人に話しかけるハートの強い女がいた。それは香菜だった。
「優人達スゴいね……今回むずかったのになんでそんなできるの?」
ちなみに彼女の点数はとても良く、平均かそれ以上の成績だ。
点数はどの教科も70点後半から80点前半と、中々良い成績。
順位も上の中から下と全く悪くないのだが、この2人の前ではその実力は消し炭にへと変わる。
そして極めつけは優人が香菜へ無自覚でナイフ発言をした。
「香菜ちゃん凄いよ、中学の時よりさらに上がってる。僕も見習わなくっちゃ!」
「ぐふあっ!!」
優人の悪意無しの言葉……香菜のソウルイーターの能力の名のようにその発言がメンタルを越え、魂まで食い殺される。
精神の支柱スレスレの所を優人の強力な言葉の弾丸が通り過ぎた。
「あ、あはは……」
「さ、西源寺が壊れた」
「保護者が子にやられるとはこのことか……」
新たに格言ができるとともに廊下にいる全員のテンションが全体的に盛り下がる。
──しかし希望の女神が降臨した。
ただ1人だけ、そこには静かに喜ぶ者がいた。
全員がその少女を見た後、最後の希望になってくれと彼女の名前を確認した。
『第1位 入山菜乃花』
「「うおおぉぉ!よっしゃあああぁぁぁ!!」」
「えっ!?どうしたの?」
「コイツら、はしゃぎ過ぎじゃねぇのか?」
再び廊下が歓声で包まれた。
今度はさらに大きな音、そして全員の気持ちが一つになる。無言の内に全員の心は繋がっていた。
菜乃花は、誰もが認める努力家である。
毎日授業は熱心に参加し、日々の予習復習は欠かさない。ノートの多重使用はもちろん、ボイスレコーダーやメモに付箋など、様々な勉強方法を効果的に行っている。
天才に対抗できる唯一の存在──それは『努力』という最強にして絶対的な武器を持っている秀才である。
そして惜しみない拍手が彼女に向けて送られた。
それは廊下にいた生徒全員からのスタンディングオベーション。
「えっもしかして──これ全員が私に!?」
「おめでとー!」
「よく頑張ったねぇ!」
「俺らに感動をありがとうっ!」
「え……ちょっと、え──どういうことっ!?」
全員が彼女を讃え、次々と賞賛の声を届ける。生徒たちが温かい拍手を菜乃花に贈る。中には感極まっている者すらもいた。
先の状況をよく理解していなかった2人も一緒に菜乃花を祝福した。
一気に大物芸能人のような扱いとなった菜乃花は恥ずかしそうな顔をして笑った。
──そう、彼女は証明してみせたのだ。最後は最も努力した者が勝利を手に入れるのだと。
そして、もう一つだけ言えることがある。魔術や能力を使用し、臨機応変に戦闘をこなす霊能力者とはそれ相応の頭を持っているのだ。
つまり強い霊能力者に馬鹿はいない。
ただし、1人だけは除いて──
同日の三用中のテスト返しにて。
白夜はテストの結果用紙を持って涙ながらに凌助の元へと駆け寄ってきた。
「凌助ぇ、テストダメだったぁ。助けてくれ〜」
「シロ君なんで5教科合計が綺麗にオール30!?」
彼は2年後に高校で追試を受けるのは間違いないだろう。





