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第24話 苦痛の壁

 時間は遡り、優人と瑛士が魔獣二体との戦闘を開始した直後。

 和平条約を蹴って罵声を浴びせた魔獣に対して彼らは先制を仕掛けていた。


 まずは瑛士が先陣を切り、己の大罪の能力を発動する。


「兄貴、先に失礼します!」


 瑛士は事前に大気中の分子に寄生させ始めていた自身の細胞を操り、空気中を漂う水分に霊力を流す。

 同時に水は酸素分子と水素分子を強引に引き剥がされて化学反応引き起こす。


「ブレイクアウトッ」


 空気中に頒布された瑛士の細胞。それら全ては霊力を放ち、実態干渉力を高めた炎を放出する。

 結果、化学反応と魔術によって地下空間内に大爆発が生じる。霊力と熱が魔獣二体へ襲いかかり、凄まじいエネルギーが獣共にぶつけられた。


 しかし爆煙は龍の息によって掻き消され、大した損傷を受けていない二体の身体が姿を出した。嘲笑うように虎は喉を鳴らす。


「硬ぇな畜生、分子も全然入り込ませられねぇ」


 初動で奇襲を仕掛け、態勢を崩す瑛士の作戦は失敗に終わった。しかしそれは誤算にも入らない些細な失敗だった。


 優人は霊動術によって強化した脚で疾走し、二体の足元へと即座に駆けつける。背中を地面に付けながら滑り込み、合掌した優人は身体の至る部分から呪いを解き放つ。


「呪錬拳ッ」


 呪いは拳を形作って上昇しながら加速し、拳の表面を無数の宝石で武装する。

 上昇する呪錬拳は何発も魔獣の腹や顎へと衝突した。衝突の瞬間には鬼火が発動され、小規模で高威力な爆発が発生する。


 連続して放たれた拳の猛襲は青虎と紅龍の超質量を下から突き上げる。獣共が声を漏らす中で優人は次なる攻撃を瞬時に生み出す。


「それから、錬金術!」


 合掌していた優人の手は激しく地面に叩きつけられる。

 叩きつけられた手と接している優人の背から霊力は地中に流れ込み、錬金術によって爆発的に物質が生成される。


 地面から七色に光り輝くクリスタルの槍が数十本にも渡って突出し、特級魔獣の巨体を突く。

 龍は元より浮遊状態にあったため効果は十分ではなかったものの、地に足をつけている青虎は攻撃をモロに受けて態勢が崩れかかる。

 更に虎は呪いの攻撃を受けた部分にのみ、蜃気楼のような揺らぎが生じていた。



 しかし優人は攻撃が直撃した途端、違和感と焦燥に襲われる。


「ここ、精霊がいなくて爆裂攻撃が出来ない……?」


 ブードゥー教老師ンクーロンより授かった精霊との共鳴による攻撃が機能しなかった。それどころか精霊自体がこの空間で存在していなかったのだ。


 攻撃の火力不足という優人の計算ミス、これは十分な威力を与えられなかった紅龍に攻撃の隙を与えた。

 龍の鋭い爪が地面を抉り、岩石を飛ばしながら高速で優人に迫る。


「うわあぁぁぁぁ!?」


「兄貴っ!」



 優人は反射的にポルターガイストと霊動術を発動し、迫る爪を蹴って威力を殺そうと試みた。


 しかし想像以上の威力に優人はいとも簡単に弾き飛ばされた。見た目以上の力を有したナックルに優人の体は軋みを上げる。


 吹き飛ばされた優人だったが間一髪といった所で瑛士が能力を行使し、減速させながら優人を空気のクッションでキャッチする。


「すっごく強い。ポルターガイストと霊動術使っても押し返されたよ」


「単純なパワー自体は相手が上みてぇです」


 瑛士は龍と虎を睨み、怪訝な表情で思考を巡らせる。


(ただ、妙だな。兄貴の身体能力と霊力効果も上回って、俺のカイザーレガシーもアイツらの体に入り込めねぇ。どういうトリックだ?)



 だが思考が完了する前に青虎の反撃が到来する。崩れた態勢を戻すと共に虎は前足を振り下ろし、霊力を込めた攻撃を地面に放った。


 霊力攻撃は波動と化し地面に沿って進み、地中を泳ぐ鮫のように2人目掛けて飛んで来ていた。


 瑛士は歯軋りを立てつつ結界術を施した『傲慢』の武器、不貫の盾を展開する。盾の中に優人を匿い、衝撃に揺らされながらも瑛士は盾を押さえつける。


「霊力を雑に込めてこれかッ……」


 魔獣らは決して複雑な魔術や能力を使用している訳ではない。しかし謎の身体構造と災害規模の破壊力を繰り出す身体能力がある為に厄介極まりない。


 その上にSS級能力者である2人の攻撃すらもまともに入らない。特級魔獣の中でも上位に食い込む強さを有していた。


 しかし観察を続ける中で瑛士の脳に電流が流れたように新たな推測が立った。


「っ──もしかして」



 瑛士は何かを思いついた瞬間、宙に散らした細胞達に多量の霊力を流す。


「分子変換式・シャイニングドライブ」


 流れた霊力は半ば解放状態のように空気中で暴れ出す。実体干渉を高めた霊力は分子に無理矢理まとわりつき、存在しない余白に侵入しようと奮闘する。


 霊力と分子は膨張、運動による熱、分離といった化学反応を発生させて入り乱れ不規則となったエネルギーを爆発という形で放出した。


 しかし魔獣に直撃したものの、その身体の表面が蝋燭(ろうそく)の火のように揺らぐだけで致命的なダメージを与えた感覚は皆無に等しかった。


(ほとんどノーダメ。なるほどなぁ、そういうことか)


 攻撃自体に効果は望めなかったものの、瑛士は自身の仮説が立証されたことによって顔を一瞬だけ晴れさせた。だがすぐにその顔は曇ることになった。


「兄貴、あの魔獣共はかなり厄介な身体してるみてぇですよ」


「やっぱり……具体的に何か分かったの?」


「奴らの肉体は霊体でも実体でもねぇんです」


「普通の魔獣みたいに、実体があるかないかってことじゃないんだね」


「はい。半霊体とも違うし理屈は分からねぇんですが、おそらくどちらにも属さない肉体を持ってるから俺らの物理攻撃も霊力の攻撃も受け流されてんですわ」


「それって、攻撃が当たらないってこと!?」


「いや、そうでも無さそうです。微弱とはいえダメージは与えられてる。つまり攻撃出来てんなら、何かしらの弱点が存在する筈です」



 瑛士は少しばかりの希望を見出し、盾を優人に託して前へとゆっくり歩み始めた。

 瑛士は僅かに魔獣へ接近すると彼らに質問した。


「そういやぁよぉ、名前聞いてなかったな。お前らの名前は何だ?」


 魔獣の名前、それは単なる種族名の判別だけではない。

 悪魔や神には名前と存在の概要があり、人々から認知される。名のある存在ほど力を有する。


 つまり逆算すれば、これだけ強大な魔獣であれば何かしらの神話や宗教で上位の魔物である可能性もある。それが判明すれば自ずと弱点も見えてくると瑛士は考えた。


 しかしそんな期待すら打ち砕く返答が彼らの口から聞こえてきた。



『名など、余達には存在しない』


『我々はこの地で生まれたその瞬間より、王として君臨する使命を承っただけ。その他の物など与えられて等おらん』



 予想外だった。瑛士のこの予測は決して間違ったものではなかった。

 だが敵はその予想を上回っており、勝ち筋となる道がまた一つ消されてしまった。


(名無し、つまりは神や悪魔みてぇな信仰認知からじゃなく概念から直接生まれた魔獣か。弱点は自力で探すしかねぇのか)



 彼が再び手詰まった感覚を覚えていたその刹那、瑛士の視界は虎の巨体によって全て埋まった。

 何が起きたか一瞬では理解が間に合わないほどの速度で虎は接近し、気が付けば右の前脚を大きく振りかぶっていた。


「なっ! 早っ──」


『喧しい』


 猛虎の前脚は神速で振り抜かれ、瑛士は小石のように弾き飛ばされた。


「瑛士君ッ!!」


 瑛士は為す術もなく攻撃を受け、地下空間の壁へと叩きつけられた。途中で威力を殺し切れず、瑛士の身体は壁面にめり込んで損傷を受ける。

 瑛士の紫髪は毛先が赤紫へと変化し、肉体が『牙狼の影』の再生力では修復が追いつかないほどの損傷を受ける。


 そして1番の最悪なダメージは瑛士の眼球の損傷だった。

 振り払うと共に打たれた虎の霊力攻撃は瑛士の上半身を襲い、壁面の激突の衝撃も相まって脆い目玉は小さな果実のように潰れてしまった。


「ッ! ああぁぁ、クソが……目をやりやがった」


 目を中心に回復させたが、ダメージより痛みのショックが厳しかった。脳に流れる痛みの信号は瑛士の意識を飛ばしかけた。


 転送術で即座に優人が駆けつけて瑛士の容体を確認したが、その凄惨な現状に優人は声を失った。


「瑛士く──あっ!! 瑛士君の両目が……」


「しくじりました兄貴。目ぇ潰されました」


 瑛士は悔しそうな声を出して優人に今の状態の深刻さを伝えた。



「今これ、相当やべぇんです。実は俺、全盲なんですよ」


「えっ……」


「昔、霊力で魔獣に傷を付けられたんです。霊力の攻撃は場合によっては回復魔術を使っても傷が完治しねぇんで、こうやって後遺症が残りました」


 瑛士の過去の一部と状況の圧倒的な劣勢さを唐突に知った優人は不安に駆られた。先程まであった戦意が薄れ、彼の恐怖心が徐々に強まっていく。


「普段は眼球に術式かけて視力を確保してんですが、ここだけは術式をかけてもらわねぇ限り『牙狼の影』で治しても機能が戻らねぇんです」


「そんな、そんなのって……」



「でも、それを言い訳に退くなんてことはしねぇですよ」


 瑛士は痛みを振り解き、大きな声を発して己の決意を表明した。めり込んだ岩の中から身を剥がし、瑛士は両腕の肉を宙へ散らして再戦の準備を進める。


「カイザーレガシーで周囲に両腕の肉の胞子を飛ばす。大気と霊力の流れを読んで位置を特定、それで戦います」


 傲慢の能力者は起き上がる。戦いにおいて諦める事は瑛士の信条が許さない。


 五十嵐瑛士は立ち上がり、能力を発動しながら敵に向かって自分の覚悟を吠える。


「俺は、絶対に引かな──」


 

 だが少年の決意は虚しく、非情な現実が二人に向かって鞭を振るった。


 瑛士は優人の背後で再び接近してきた青虎の姿を目の当たりにする。その更に奥では口を開け、口内で巨大な火炎球を生成する紅龍も目で捉えてしまった。


 膨大な霊力と不可避の暴力が瑛士と優人を殺しにかかった。

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