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第15話 突入

「とうとう、来たね」


 悪霊のいない静かな夜は明ける。早朝の寒さを残す街で、少年達は約束の座標にて凱旋の準備を整えていた。集って早々、一触即発状態の白夜と瑛士を一晴がなんとか諌めようと努めている。

 そんないつもの光景を他所に優人と真一は和やかな会話を交わす。


「おはよう優人さん、お疲れ様です」


「真一君おはよう! ところで真一君、その刀って君の刀なの?」


 優人の目は真一が腰に携えた刀剣に釘付けだった。秀麗な刃の縞模様、錆一つない鋼鉄の匂い、確かな質量を持った日本刀が彼の少年心をくすぐった。


「これは委員会から支給された刀です。名刀零人シリーズの一つ、『霊屠(れいと)』」


「名刀、零人?」


「はい。零人さんの切り落とした腕から作った刀です」


「えええぇぇ!?」


「零人さんには超再生能力があるので、ご自身の肉体を媒介とした神器クラスの武具が沢山あるんです。それがこの名刀零人シリーズです」


 人体から生み出された武器と聞いては流石の優人も唖然とした。優人は複雑な心境ではあったものの、零人本人が気にせず差し出している脳内映像が浮かんで彼への心配などはすぐさま消える。


 白夜と瑛士の口喧嘩も激化しかけていた最中、彼らの脳内に男の声が降り注ぐ。


『みんな揃ったみたいだね〜』


 前触れもなくルシファーの一声が掛けられると合わせたように五人は動きを止めた。


『これより作戦を決行する。君たちの足元に魔法陣を発動するから、その中のなるべく中央に寄ってね。そして発動したらすぐに地下都市に転送されるから、準備は整えてて』


 指示を受けると瑛士は即座に本作戦のリーダーとしての面構えへと変わる。


「地下都市についた瞬間、俺はカイザーレガシーで簡易的な安置生成と敵の探知をする。白夜は凶星で振動の防壁を作れ、真一と一晴さんは指示をするんで臨戦態勢で、兄貴は親玉の為に霊力を温存してて下さい」


 冷静かつ合理的な作戦立てに誰も異論はなかった。唯一身の安全を徹底すべく、一晴が作戦内の細かな提案をする。


「可能であれば瑛士様も傲慢の武器の『不貫の盾』の準備をお願いします。念には念を入れましょう」


「承知しました。では現場の状況判断が出来次第、その場で俺が行動を指示します」


 戦闘と任務においてこの場の面子は優人よりもプロとして先輩である。他人任せにするつもりはなかったが、作戦会議には出る幕もなかったため返って優人は安心感を得た。


『それじゃあ、今から転送するよ』


 ──話し合いが終わったと同時に彼らの地に魔法陣が複数展開され、徐々に加速しながら回転し霊力が術の回路を巡っていく。

 淡い光が彼らを包み、5人の視界段々と歪んで辺りの景色がボヤけ色が滲んでいく。


『君たちの武運を祈ってる』



 5人の体は転送術によって霊力が巡り、術を介して霧散化していく。


 優人の心臓はうるさいほど激しく鼓動し、不安の感情は全て混ざり混ざって清々しさすら感じていた。

 流れる血、霊力、エネルギー、全ての自身の中の感覚が鮮明になって勇気が湧いてくる。


 その純粋で一切の邪念なき優人の心は彼の中を巡り、魂に宿る術式と共鳴する。



 深呼吸をし、最後の覚悟を決めて優人はポツリと己を鼓舞する魔法の言葉を呟いた。


「──さぁ、無双の時間だ……」


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 優人は眠りから覚めたかと思うほど一瞬でテレポートされた。

 目の前には先程共にいた4人が立っている。しかしその目のピントを変えた瞬間に周囲の風景の変化に気がついた。


 見渡す限り辺りには石造りの建物が立ち並んでいた。それら形こそ建物であったが、用途は住居などではなくどちらかというとハリボテ。地層や火山のようにまるで自然に生まれ、生物が使用することを想定していないオブジェクトのようであった。


 そして上を見上げるとそこには星空が広がっていた。地下空間、当然空などあるはずもないが確かにそこには星があった。

 瑛士は上を観察していると、あっと声を上げて驚嘆した。


「あれは……超高密度の魔鉱石だ。おそらく天井から突き出た魔鉱石に霊力が籠って発光してんだ」


「それにしても……本当に夜みたいに寒いですね。密閉された地下空間なら本来は温度は高い筈ですが──空間内の気候は異界に寄っていますね」



 周囲を観察しながらも警戒を怠らずに身構えていた。

 白夜と瑛士はそれぞれの大罪の能力で振動と大気の動きから逆算し敵の探知を行う。


 まだ霊力の反応は薄く、彼らの近辺に魔獣はいない。そう断定しようとしていた時だったが事実は彼らの感覚とは異なっていた。



 霊力の反応は彼ら全員が全く感じ取ることは出来なかった。

 しかし白夜と瑛士は凶星とカイザーレガシーによる物理法則的探知法での索敵には反応があった。

 というよりも、反応以外に何も無かった。


 2人がほぼ同時に魔獣の感知して辺りを見回していた時には既に遅かった。

 優人達も事態が目に見えてから初めてその状況を飲み込んだ。



 既に大量の魔獣が下品に舌を出しながら静かに5人を取り囲んで狙っていたのだ。

 更に問題であるのがその圧倒的な数量。大罪の瑛士達でさえ滅多に相対することのない程の群れ。それもそれぞれの個体の質も最悪なことに低くはなかった。

 過去に何度か魔獣の軍勢を謁見した優人も、両面宿儺の忘れ形見となっていた異界の蜘蛛達や零人が上葉町で一斉に魔獣を殲滅した際の数とは比較にならぬ程の規模であることは容易に理解出来た。


 瑛士は自分の目で見た現実を情報処理すると、ある一つの理想的ではない結論が頭に浮かんだ。


「最初に霊力がないように感じたのは、この空間に満ちた霊力に覆われて感覚が狂ったんだな。霊脈になってる場所だ、そんぐらい当たり前のことだったな」


 それは優人が他の能力者達に対してしていたことと同じであった。

 それは霊力の巨大さゆえに自分の霊力感知機能がエラーを起こし、あたかも霊力がないと錯覚してしまう現象である。


 しかしそれは駆け出しの初心者能力者が陥る現象なのである。

 だが能力者の中でも上位に位置する彼らにも同じ現象が起きた。何故ならそれほど感覚を研がれて来た彼らの霊力器官を麻痺させるほどに霊力の密度が高いのである。


 地下空間の異界ということもあり、霊力が延々とこの場に留まり続けた結果この事態を引き起こしたのである。



「先程の通り、皆さんは霊力を温存しておいて下さい。この程度の魔獣なら百も1万も変わらねぇです」


「少なくとも初動は俺らに任せて下さいっス」



 白夜と瑛士は3人が霊能力を使用する前に止め、地面の砂利を少しづつ踏みしめながら歩いて数メートル先まで前に出た。

 魔獣を刺激せず、かと言って威圧感は消さず、本能に訴えかけるような牽制による静止状況を作り上げる。


 2人はそのままの速度を保ちながら互いに背を向け、敵に対して拳を向ける。


 任務が始まってから2人は1度もいがみ合いも小競り合いも行っていない。普段の態度とは一変し、同じ大罪の能力者として白夜と瑛士は互いに背を任せて攻撃体勢を整える。



「白夜ァ……この地下はお前の凶星で崩落する可能性もある。振動は拡散させねぇように力を制御しろ」


「分かった。タイミングはてめぇに任せる」


 ライバルとも敵とも違う、強欲と傲慢の2人の間にある奇妙な関係性。

 それは薄っぺらな信頼や好意などより一層堅く、絆にも勝るとも劣らぬ2人の繋がりであった。

 霊能力は精神と直結する力、2人の力は必然的に互いを求めて蠢こうとしている。



「お前との相性──戦闘だけ考えりゃあ、これ以上にねぇ組み合わせだなァ」


「気持ち悪りィが、確かにな……」



 2人の臨戦態勢が完全に完了したと共に、魔獣達は本能に抗うことを止めて無鉄砲にも攻めてきた。ただ捕食するという原始的感情のまま走り出した。

 一体一体のレベルは中級の魔獣ばかり、しかし数の力が絶大であった。数百単位、或いは数千単位の魔獣達が脇目も振らずに2人へと迫ってきていたのだ。


 さらに空間を流れる濃い霊力の影響により、獰猛さと凶暴性は元の状態より遥かに強化されている魔獣達は足が進むままに詰め寄っていった。


 だが所詮は畜生に過ぎない。瑛士と白夜は迫り来る魔獣に臆することも取り乱すこともなく息を合わせてある技を同時に繰り出した。



「「死神達からの(グリムリーパーズ)安息(レクイエム)ッ!!」」



 両者がその技を叫んだ瞬間、再び辺りは静寂に包まれる。

 我武者羅に走っていた魔獣達はたったの1秒にも満たぬ極めて短い時間の内に全身を凍らされていたのだ。

 その呆気なさすぎる討伐に傍観していた3人は思わず息を飲んでいた。


 白夜は凶星による分子の振動操作で直接振動を静止、瑛士はカイザーレガシーで自身の肉や霊力を大気中の分子に寄生させ支配することで分子運動を停止させる。


 分子運動が止んだ空気は急速に温度を失い、絶対零度へ向かって気温が低下を開始する。



 全身を芯まで凍結させられた魔獣共は走って中央に向かっているその姿を完璧に残したまま凍らされ絶命していた。


 しかしそれで終わりではなかった。万が一、再生した際のケースを想定して2人は先手を打つ。


 白夜と瑛士は互いに身体を反転させ、強く足を踏み込むとそれぞれ相手の右手を狙い同等の力で拳を振るう。


 全力で殴り、ぶつかり合った2人の力は共振する。

 能力では伝えきれない霊力のみの衝撃波。力と霊力をぶつけ合わせ衝撃を生み出すことで周囲への被害を最小にした広範囲攻撃を実現させた。



「「うがっしゃらァァァッ!!」」


 2人の拳が触れると風も何も起きていないにも関わらず周囲の氷像達が内側から順に破壊されて砕け散っていった。

 見晴らしも良くなり、氷は溶けると共に霊力となって消滅していった。


 小手調べも兼ねた多数制圧を果たすと瑛士は2人の攻撃を見ていた彼らに指示を促した。


「神龍の霊力はまだ分かんねぇですが、今みてぇなエレメントクラスウィング並の魔獣は10万ぐらい存在していると予想します。なので一旦────」



 瑛士が話そうとしていたその刹那であった。5人の目の前に突如として青い火球が出現した。


 一瞬で彼ら全員を飲み込めるほどの体積を誇る高熱の霊力火球は稲妻の如く高速で接近して、一切の隙すら見せないまま5人の目の前で爆ぜた。

 突然響き渡る爆発音が地下空間の中で木霊していた。



「クッソ! 野郎、仕掛けて来やがったな」


 瑛士は冷や汗をかきながら火球の飛んできた方角を睨み、まだ見えぬ対象に対して怒りを顕にしていた。彼は間一髪のところで長方形の紅盾、『不貫の盾』を出現させ全員を火球から守ったのだ。


 ──現在、魔獣は約十万体。神龍、未だ姿すらは確認されていない。

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