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第10話 凶球飛び交う球技大会

 球技大会。それは技と技、力と力、人と人がぶつかり合うことによって行われる体育祭に次いでのスポーツ一大行事。


 泣くも笑うも技量で決まる、地獄の沙汰も球次第。勝利の女神の手のひらの上で若人達が火花を散らしながら挑む今大会。

 当然ながら上葉高校の生徒達も湧き上がっていた。


 学校は朝から祭り騒ぎで和気あいあいとした雰囲気が漂っていた。


 ──ただ1人、青ざめた顔をしている彼を除いて。



「さ、最悪だ。なんだよ球技大会ってのは……」


 零人は体操服姿になってからというもの、死刑宣告をされたかのように絶望していた。

 事実、彼にとってこれ以上にない辱めと同義であった。


 真神零人の数少ない苦手分野、それこそが球技なのである。

 身体能力に関しては申し分ない零人だが、ボールコントロール能力は常人より遥か数倍低いのである。


 転校してきてから早々に行った授業内でのサッカー、彼は惨敗するだけに留まらず醜態を晒しまくったという世界最強に有るまじき不名誉な成績を叩き出したのである。


 さらに本日も零人は怠惰の制限による霊力徴収により霊力が限りなく少ないためポルターガイストによる球の誘導もままならない状態。

 まさにバッドコンディションであった。



「数百人単位に赤っ恥を晒すのか? これなら拷問の方がまだマシだ」


 しかしテンションが盛り下がる零人とは対照的に、優人はクラスメイト達の指揮を執るように自分達を鼓舞していた。



「みんな、一生懸命頑張ろうね!!」


『うおォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』


 優人の一声が掛かると共に男女関係なく同級生達は雄叫びを上げ、円陣を組んだりなどをして最高に青春していた。


 スポーツにおいてスポーツ大学からスカウトが来るレベルまで得意とする優人がいると言うだけでクラスとしては相当なアドバンテージであったが、さらに優人は複数の競技に出場するらしくクラスメイトらも大いに期待していた。


 そんな所をこれから盛り下げてしまうと思うと零人は気が重くなり、とぼとぼと1人でトーナメント表のある場所まで歩いていった。



「ていうか種目決めの時は任務でいなかったから何処に飛ばされたのかも知らねぇな、えっと俺は────」



 それからおよそ1時間後。開会式を終えた生徒達はそれぞれ自分の種目の会場へと到着し、順番が回ってきた所から順次始まっていった。


 そして開幕早々、零人は体育館へ駆り出される。


 体育教師が号令をかけるとその2クラスの男子達はコート内に入ってポジショニングなどの作戦会議をしていた。


「それでは1分後から本日最初のドッジボールを始める」


 ドッジボール、それは誰しもが遊び慣れ親しんだ競技。

 相手は自分のパーソナルスペースまで侵入してくることはなく、複雑なルールも技術も必要としない日本の伝統的なスポーツ。


 言われるまでもなくクラスメイト達は外野決めや誰を狙っていくかなど、簡単な作戦を立てていた。


 流石の運動音痴の零人でもドッジボールでなら醜態を晒す問題はないだろう。そう思われたが────



「な、なぁ皆すまん。ドッジボールってどういうスポーツなんだ?」


「「「「………………はッ!?」」」」


 致命的盲点、ここに来て重大な問題が発生してしまった。

 零人は小学校にも中学校にも1度も通ったことはない。それは零人が日本の義務教育を通常の学校に通うということで修了していないが故の弊害であった。


 ルールどころかドッジボールという単語すら聞いたことのない零人はいきなり未知の競技をやれと言われているようなものなのだ。


 同級生達は狼狽えていた。もし運動音痴の零人がルールも知らずに敵にパスでもしてしまった時には、全滅の未来が彼らには容易に見えていたからだ。



「いやいやいや、小学校で絶対やってただろ?」


「すまねぇ、小学校とか学校に通ってなかったからドッジボールってのを知らねぇんだ」


「えっとドッジボールってのは──」


 しかしこのタイミングでブザーは鳴ってしまい、強制的に試合は始められてしまった。

 開始のホイッスルが響く中、クラスメイトは零人に最も重要なルールを伝える。


「だっ、えぇっと……ボールに当たったらダメなんだ! それさえ分かれば大丈夫!!」


「りょ、了解した」



 こうして若干の不安要素を残したまま、激戦のドッジボール対決が始まった。

 ──だがそれは開始から1分半までのことであった。


「どうして、どうしてこうなったァァァァァッ!!」



 現在、零人を除いた全メンバー撃沈。内野メンバーはスポーツ音痴の1人のみとなった。


 自分がボールを投げようものならロクなことにならないと零人は弁えてボールを避け続けていた。

 しかしドッジボールにおいてその行動は悪手、ドッジボールが苦手な者が最後に残ってしまうという定番にして最も希望が持てない状況に陥らせてしまったのである。


「やっべぇ、初戦敗退か……」


「この状況じゃ勝ち目が────」



 しかしここで彼らの予想を大きく裏切る展開が起こった。

 それは相手側の選手達の反応によって徐々に事実が浮き彫りになり始める。


「おいなんでだ? さっきから全然当たらねぇよ!!」


「ウッソだろ、カスリもしてねぇじゃねぇか」



 零人は自分に向かって投げられる球に試合開始から1度も触れていなかった。ずっと避け続けていた。


 零人の肉体や本能、脳には数々の戦闘を乗り越えたことにより無意識下ですらも発動できるほどの危機回避能力が身体的感覚に備わっている。

 場合によっては至近距離から放たれる弾丸すらも避けられる零人にとって、こんな素人の殺傷力ない物理法則に縛られた物体の投球など取るに足りない。


(どうすりゃ良いかイマイチ分からんが、避け続けてれば良いんだよな)



 相手の予備動作や投球の癖を読むことで2手3手も先の行動を取ることを彼は可能にしていた。

 柔軟な動きや周囲に悟られない程度の瞬間的な意図的な関節脱臼、飛翔などでボールを尽く回避した。


 素人の目でも分かるほどの異常な身体能力にチームメイト達は感服していた。


「よし、このままなら行けるぞ!」


「よっしゃあ零人頑張れ!!」


 次第に外野に回った彼らから声援が送られ始め、焦った相手チームはさらにボールを高速で零人の陣地へと投げ込んだ。

 だがその程度で零人が追い詰められる訳もなく、彼も余裕の表情をしていた。


 だが1人、チームメイトがあることに気がつく。



「なぁおい、誰か零人に言ったか? ……陣地に残ってる人数で勝敗が決まるって──」


「あっ……」


 彼らは零人にただ避け続けろとしか指示は出されていない。勝敗を付ける方法を伝え忘れていたことに気がつく。


 しかし彼らがその事に気がつくのはあまりに遅すぎた。

 零人の動きに見入っていたせいもあり、タイマーの残り時間を全員が確認した時にはもう数秒前の段階まで入ってしまっていた。


 無情にも試合終了のブザーが体育館に鳴り響いた。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 試合を終えた零人は自分のクラスの他の競技の成績を確かめるためにトーナメント表を置かれている場所まで戻ってきていた。


「ンがあぁぁ、人数で勝ち負けが決まんなんて知らなかった。それなら逃げながら相手の意識を誘導でもしとけや良かったな……」



 初戦から敗退させてしまったことに罪悪感を抱きながらも零人は皆の活躍を紙面上で確認していた。


「お、サッカーは俺のとこ勝ってんじゃねぇか。うめぇヤツらが揃ってたのか」


 そう考えているとちょうど横に来ていた2人組の男子生徒の話している内容が零人の耳に入ってきた。



「優崎のいる組のサッカーチーム、さっきやばかったよなぁ」


「何たって0対6の圧勝だもんな、ビックリしたよ」


(本当に上手い奴らが揃ってたんだな──)



「何故か飯塚の顔面に相手のシュートが全部当たってたもんな」



(──んぉ?)



 飯塚、それは政樹のことに違いなかった。


「あの後飯塚が担架で運ばれたの見てなんか逆に怖くなったわ」


「鼻血出しすぎて顔面血まみれだったし、審判とかも大慌てだったしな」



 幸か不幸か、おそらく政樹自身の不幸体質がその性質を働かせたのだろう。

 シュートボールを顔面に食らうことで得点を入れさせることは無かったが、代わりに大負傷という最悪のギブアンドテイクを運命によって勝手に取引されていたようであった。


 状況を想像するだけであまりに不憫過ぎて、零人は政樹に同情心すら湧いてきていた。


「あ、そうだ。次は優崎がバスケに出るらしいぜ」


「マジで!? 見に行こうぜ。ラッキー!」


 そう言うとその2人は物見遊山に体育館へと向かっていった。


 優人は零人と対照的にスポーツに関しては素の身体機能だけでもオリンピック選手を優に超える。

 故に高校スポーツ界隈ではその名前も知られており、同じ学校の生徒だというのに芸能人に会うかのように見に行く者もいるようであった。


「さて、俺も優人の活躍を見に行くとするか」



 背伸びをして体をボキボキと鳴らしてストレッチすると零人は体育館に戻った。

 応援席について観戦をしようとしていると零人に気がついた優人が無邪気な笑みでコートから手を振っていた。


「零人君、頑張るね〜!!」


「おう」



 その刹那のコミュニケーションが終わると優人は気持ちを切り替え、一瞬にしてハンターの目へと変貌する。


 その間に身近な静寂が流れ、それを破る審判の声と共にボールは投げられる。


『──始めッ!!』


 ボールが投げられると身長の高い1人のクラスメイトがボールをキャッチし、早速優人にパスを送った。


「よろしく頼むっ!!」


「わかったよぉっ!!」


 優人はボールをキャッチすると右足を強く踏み込み、地面を蹴り飛ばした。


 バスケのルールに触れぬようたった1回の踏み込み。そこから優人はほとんど助走をつけるままコートの真ん中で跳んだ。


 だが跳んだ方向というのは上にではない。優人から向かって正面、ゴールに向かって跳んでいたのである。



 超人的身体能力により優人は綺麗な放物線を己の体で描きながらゴールまで跳び、ダイレクトにダンクシュートを決めたのである。


 この間、時間にして試合開始から約3秒の出来事だった。

 相手チームや教師陣、他クラスの者達がド肝を抜かれている中で優人は爽やかな笑顔を浮かべてコートの中央に戻っていった。


「相手選手が優人なんじゃ、勝ちなんて最初から決まってるようなもんなんだな……」



 ────その後、バスケは学年で優勝。

 サッカーは政樹という的を失ったことにより大量得点を許し2回戦敗退という結果になった。

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