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第50話 魔法少女初陣

「──きゃああぁぁ!!」


 突拍子もなく行動するマリに菜乃花は早速付き合うことになった。

 マリの転送術で菜乃花はマリにお姫様抱っこされながら異空間へ飛ばされた。


 地面も天井も真っ白で360度見渡しても果ての見えない、それはまるで孤独なある1つの世界のようにも思えた。


 菜乃花が周囲をキョロキョロと見回していると、マユとサナエも転送術でリーダーの後に付いてきた。


「いきなり訓練でこの子の体大丈夫ですかリーダー?」


「まあまあマユちゃん落ち着いて、最初から実践よりまだマシよ」


「そうだけどさ……」


 マユは菜乃花の身を案じて言葉を掛けていたが、むしろ菜乃花に「何をされるの!?」という不安感を無自覚に植え付けていた。


「あの、まずこれを使うんですか?」


 菜乃花はマリから手渡された魔法少女のステッキを持って軽く振る。

 リーダーは菜乃花に教えたくてうずうずしていたので、威勢よくステッキや魔法少女の戦い方について順次説明をした。


「そう! 魔法少女のその武器は対悪霊排除専用霊力指向性装置、通称は少女ステッキよ♪」


(見た目に反して正式名称が厳つい!!)


「本来は熟練の霊能力じゃないと霊力単体での攻撃や操作は難しいんだけど、この装置はステッキそのものに術式が組まれてるから──」



 マリは自身の持つステッキを何も無い目の前に突き出して霊力を流す。

 霊力はステッキに流れると電流のごとくステッキ内部にある術式を通過してその効果を発現される。ステッキはマリのイメージカラーである青色に発光し始めて軽い振動を放つ。


 霊力がステッキ内を巡り力がチャージされるとキュィィンというポップな高音と共に輝きを放った。


「マジック・ハート・スパークっ!!」


 ステッキからは菜乃花が先程目にした虹色のレーザーが射出された。

 人1人なんて簡単に消し去ってしまうほどの大きさと長い射程範囲のレーザーは周囲に霊力を分散しながら消えていった。


 改めてその武器の性能を目の当たりにした菜乃花はそのステッキに魅入られた。


「す、すごいです!」


「ありがとう〜! 威力は見た目ほどじゃないけど、除霊能力は高いんだよぉ」


 するとマリはステッキをクルクルと回してご機嫌な様子でぴょんぴょん跳ねた。


「さぁそんな所で、次に説明することがある意味1番大切なことだからよく聞いてね♪ あなたのステッキにナノカの霊力を流してみて」


「はいっ!」


 菜乃花はステッキの中におそるおそる自分の霊力を流し込む。ステッキ内部では徐々に菜乃花の霊力が術式を通して循環し、ステッキがピンク色に染まっていく。


 そしてステッキに十分な霊力が行き渡った時、眩い閃光を先端から放出しながらステッキから菜乃花の霊力が放出される。


「わっ! あれ?」


 ステッキから溢れ出したのはレーザーではなく、ピンクの色をした霊力だった。

 霊力は菜乃花の体を包むように被さっていき、帯が締まるようにキュッと霊力が光を帯びながら布となって彼女の体に装備される。


 布はドレスのような魔法少女のコスチュームとなる。

 全体がピンクと白で彩られた服が装備され、服や彼女の髪にいくつかのハートのブローチが付けられる。



 ピンクのドレスは乙女の兵服、手に持つステッキは夢の結晶──魔法少女ナノカが、ここに参上する。


「わあぁ……最初は少し恥ずかしいかもって思ったけど、やっぱり可愛い〜」


 菜乃花は自分のコスチュームを着用すると嬉しそうに服のデザインを見て感嘆の声を上げる。

 マリはもちろん、マユとサナエも菜乃花の魔法少女ドレスに感動する。その姿になって喜んでいる菜乃花の姿が3人には異様に愛らしく写って見えた。


「可愛いコスねぇ! コスそのものは初めて見たけど、似合ってるわよナノカ♪」


「ありがとうございますリーダー!」


「はうっ!」


 無邪気な微笑みで菜乃花に「リーダー」と呼ばれたマリはその神々しさとあまりの尊さに胸を撃ち抜かれた。

 後ろで見ていた2人もその菜乃花の可愛い反応で心臓が攫われかける。


 マリは心臓がまだ落ち着いていないうちに、興奮状態のままコスチュームの説明を続行する。


「この衣装には最大のメリットがあるの、それは──変身する時よ!」


「変身の時ですか? こういったらダメかもしれないんですけど……変身のあの数秒はかなり隙になりそうな気がするんです」


「んん〜ナァイス!! 正解の1歩手前まで気づくなんて鋭いわねナノカ! でも実は()()()最高の利点なのよ」


「ふへ?」


 菜乃花は首を傾げるとマリはますます上機嫌にルンルンと跳ねながら自分のコスチュームを見せて説明する。


「委員会の技術班はこの必要な変身時間の活用方法を模索して、ある()()()()を思いついたの。それはね、『変身してる時、強くなれればいいじゃない』って」


「へ、変身している時にですか?」



「私のコスチュームは変身時間の間、霊力をちょっぴり多めに消費することで霊力を硬化させて体を守ってるの。その時の硬さは、ドラゴンでも噛めば歯が折れちゃうぐらい♪」


「ところどころでエグい……!」


 ここでリーダーに説明を任せていたマユとサナエも自分らのコスチュームの特性を伝える。


「私のコスチュームは変身すると霊力で衝撃波が生まれて、悪霊達は吹き飛んじゃいます」


「あたしは変身時に透過できる仕組みになってて、攻撃されても体をすり抜ける。このコスチュームはサナエと違って防御や回避系に近いかな」


「そして〜、ナノカのコスチュームは変身時に除霊の強い光が放たれて敵をノックアウトしちゃうわよ♪」



「そうなんですね、すごい……」


 菜乃花は淡々とコスチュームのことを語る姿に些かの恐怖感を感じていた。


(うん、ステッキやコスチュームの効果とはいえ……さらっと物理法則を超えてるよね? 霊能力者ってそうなの、あっさりと凄いことしてる種族なの?)


 笑顔を浮かべたまま、菜乃花は今更ながらに感じた異常ぶりを再確認していた。菜乃花にとってこれは話が大き過ぎて段々と笑いが込み上げてきそうになっている。



 だが説明が終わるとマユは深いため息をつきながら菜乃花に大事な補足を入れる。


「っていっても、私たちはこのコスチュームや開発した技術班の力を借りてるだけよ。武器や装備を整えて実力が足りない霊能力者の力を何倍にもしてサポートするだけ」


「いっいえ! そんなことないですよ、皆さんは悪霊と日々戦ってる凄い人達です。そんなことは──」



「ちょっとマユちゃん、今のは皮肉っぽく聞こえちゃったわよ?」


「え? あっ、ごめん。ただの謙虚とコスチュームの性能の良さを言ったつもりだったんだけど……皮肉っぽかった?」


「そうですよ〜! ナノカちゃんも戸惑ってたじゃないですかぁ」


 クールな上にリーダーの自由奔放さにブレーキをかけている人物だったために気づかなかったが、マユは結構な天然らしい。

 今の反応見て彼女の可愛いらしい部分を見た菜乃花はクスッと笑った。


 そしてマリはマユのした説明も踏まえて最後に説明を終わらせる。

 今までの垢抜けた印象とは少しだけ変わり、落ち着いた雰囲気で話の続きを語った。


「マユの言う通り、私達は強い霊能力者じゃない。でも、可愛いという強い感情を力にして魔法少女になることで心も霊力も強くなれる。────負けないって気持ちがあるから、私達は魔法少女として戦えているの」


 その3人の瞳と表情はまるで光の筋のように真っ直ぐで、空で踊る星々のように輝いていた。


 力に恵まれなくとも、己を鼓舞し負けない心を持った彼女達は正しく今の菜乃花にとっての理想像だった。

 零人のために、邪魔にならないために成長したいと思い悩んでいた菜乃花は『自分の心』が決まるということが1番大切なのだと魔法少女達から教わることになった。


「さ〜て、それじゃ現場にレッツゴー♪」


「えぇっ!? 現場っていっても、まだ朝ですよ?」



 マリは疑問そうに自分のことを見てくる菜乃花にチッチッチッと指を動かして自慢げにまた語り始めた。


「じ・つ・は〜♪ この空間って現実世界の時間軸とズレてて、そろそろ向こうは夜になってるはずよぉ」


「ええぇぇぇぇ!!」


「本当はここに来させる気はなかったんだけどね、何かナノカにはしっかりと『魔法少女』として戦ってる私達のことを知ってもらいたかったから、自由に使えるここに連れてきちゃった」


 そう言いながら、マリは少しだけ菜乃花に寂しそうな表情を見せた。


(──さっき出会った時から明るいマリさんも、心のどこかでは孤独があるのかな? きっと、私じゃ分からないほどマリさん達は大変なんだよね……)


「マリさん!」


「どしたのナノカ〜?」


 菜乃花は胸を張って真っ直ぐに達、マリに向かって再び挨拶を言う。


「1日魔法少女、最後までやり遂げます!!」


「あは、そう言ってくれると……嬉しいよ♪」


 嬉しそうに笑い返すとマリは4人の足元に転送術の魔法陣を展開して戦いへ向かう準備に取り掛かった。


「あとナノカ、転送したらすぐに空中戦なんだけどコスチューム着ていれば浮いてるから安心してね〜」


「う、浮いてる!? ちょ──」


 菜乃花がツッコむ隙も与えずに魔術は発動して4人は転送される。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ──そして時は現在に至る。


「なんでこうなったのおおぉぉぉぉおぉ!!?」


 菜乃花は目の前に現れた悪霊の大群に驚愕していた。

 3人はステッキで悪霊達を次々と倒していったが、それでも数がかなり多かったようだ。攻撃に焦りが見え始めている。


「リーダー! あまりにも多すぎ、対処しきれないかも!!」


「結構数います〜、なんでこんなにいるのぉ!?」


「確かに、昼間も私戦ったけど……この街にいる悪霊や魔人の強さって他の場所とは違うの」



 それもそのはず、この街は実力ある霊能力者が4人も揃っている上葉町。

 彼らの強力な霊力と香菜が街全体を囲うように張った結界の効果の1つが作用して悪霊達は常にここへと引き寄せられているのだから。


 だが、菜乃花に不安はなかった。

 何故なら彼女達が一緒に戦うから、戦い時に大切なのは強さだけではなく心なのだと教えてくれた彼女達と戦えるのだから、不思議と菜乃花の体には力はみなぎってきた。


(──これでも、こうやって戦うのって初めてだね……でも大丈夫。私は────)


 最も強くなれる自分を作り上げるため、菜乃花は己の()()名前を悪霊達に叫ぶ。



「魔法少女ナノカ、参上ッ!!」



 ──入山菜乃花が魔法少女ナノカとなって戦う初陣である。

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