王宮案内
翌日、長旅の疲れを癒したセシリアは、朝の支度をする侍女から、ジルベスターと朝食を共にとの誘いを聞いた。
特に断ることもないので、了承すると食堂に案内される。そこには既にジルベスターが待っていた。
セシリアを見ると表情をゆるませ、セシリアをエスコートするべく手を差し伸べた。
「おはよう、セシリア。よく休めたかな?」
「おはようございます。とても居心地の良いお部屋で、よく休めました。」
セシリアがジルベスターの手に自分の手を乗せると、そのままくるりと回るように反対側の手でジルベスターに腰を抱かれた。
あれよあれよと言う間にそのまま席に座らされる。
貴族の食堂のテーブルは一般的には長方形である。なのにそこには、セシリア1人横になってもまだ余るくらいの直径の円形テーブルがあった。そしてやはりジルベスターは隣に座る。
これはいいのだろうか…そう思っても、それを聞けるような人物はこの場にはいなかった。疲れているだろうからゆっくり朝食を摂るように、との気遣いで王太后がこの場にいなかったのがせめてもの救いだった。
何事もないような様子で食事を摂るジルベスターに促され、セシリアも食事を摂った。
朝食の後、まずは城内の主要な場所を案内された。
「ここはセシリアの執務室だ。その他に、王妃教育の講師はここに来る。母上との場合は、母上から指示がある。」
そう言って案内されたところは、王の執務室の隣だった。王の執務室側に本棚があり、様々な本が置いてあった。本棚の中央には大きめの鏡もある。
「結婚式が終わったら、間にある本棚と壁を撤去して、一部屋にする。」
(国王と王妃の部屋を一つにする意味ってあるのかしら。むしろ内密な話はどこでするの?)
「大急ぎで作り直したんだ。」
そう言うと、ジルベスターは甘く笑った。
セシリアも笑みを顔に固定したまま、何も言えなかった。
(作り直したってことは、元々は別だったのよね…?なぜわざわざ作り直したの…??)
「いつでも直ぐに会えるだろう?」
そう言うとセシリアの手を、ぎゅっと握った。
セシリアの頭の中は疑問でいっぱいだが、とりあえず結婚までは執務室も別の部屋だということで、疑問は一先ずは置いておく。
隣の国王の執務室に入ると、イェルクの他に宰相と各部署のトップの貴族が居た。
簡単に紹介され、挨拶を返す。今日は顔合わせだけだったようで、すぐに終わりイェルクを残して、彼らは執務室から出た。入れ替わるようにして、男性が1人入ってきた。
自分の父であるディミトリアスも美しいと評されるが、それとは方向が違う美しさだ。濃いめの金髪を後ろで一括りにした彼は、女性と言っても差し支えない顔だった。但し、体付きは勿論男性であり、声も女性では有り得ない低さだった。
「お初にお目に掛かります。ルエーガー公爵アンゼルムでございます。以後お見知り置きを。」
優雅に礼をとった。仕草もとてもたおやかだ。
「ツェツィーリアでございます。至らぬところがあるかもしれませんが、よろしくお願いします。」
先ほどと同じようにカーテシーをした。ジルベスターに腰を抱かれる。
「アンゼルムはイェルクと同じく私の片腕となる。セシリアも関わることが多いでしょう。
久しいな、アンゼルム。もうまとまったのか?」
後半はアンゼルムに向けられた。
「はい。長くお暇をいただき申し訳ございませんでした。全て予定通りに参りましたので、本日よりまたよろしくお願いいたします。」
「先日、アンゼルムはルエーガー公爵家を継いだばかりで、しばらく引き継ぎの為に城を空けていたんだ。義妹はどうだ?」
確かルエーガー公爵の娘が、婚約破棄された女性だったはずだ。当主が交代したということは、アンゼルムは後継として養子に入った義兄だろう。いくら次期国王が交代したとはいえ、ルエーガー公爵家は完全に被害者だ。彼はジルベスターをどう思っているのか。
「ローザはだいぶ回復してまいりました。ただ、右足はもうこれ以上は良くはならないかとの医者の見立てです。」
「そうか。それで?」
「義父は結婚式の後、領地の方へ。結婚式は出来る限り早くに、少人数で行います。もう子がいるかもしれませんし。万事予定通りでございます。」
「わかった。」
「ローザはもう余り外には出られませんから、社交は限られるかもしれません。」
「アンゼルムがそれでいいんだろう?」
「ええ。ツェツィーリア様とは懇意にしていただきたい。きっと気が合うでしょう。」
そう言うとアンゼルムはセシリアに目を向けた。アンゼルムの目に背筋がぞくりとした。
「ぜひ。」
粗方挨拶を終え、城内を見て回るとあっという間に1日が過ぎてしまった。
実はアンゼルムだけで短編が書けそうなほどのヤバいキャラです。私の話の中の男性陣はヤバいやつばかりなので困りますね。
もし需要があるならアンゼルムの話も膨らませようかな…確実にR18ですが。




