今後
「一目惚れ?」
え、そんな理由で!?
「はい。私は長年、素敵なお嬢様に仕えることを夢としてきました。」
「あ、はい。」
なんか唐突に語りだした。
「そこで、召喚された先で素敵なお嬢様に会えることを楽しみに、何度か適当な召喚を横取り…げふんげふん。受け付けてきました。」
この人、何度も横取りしてたのか。てゆうか、もうごまかす必要なくない?ついさっきも、横取りしたって、すでに言ってたし。
「気分の問題です。」
あ、はい。
「しかし、なかなかこれといった方は現れませんでした。元々、明確な理想のお嬢様像、というのがありませんでしたので、条件付きで召喚を受け付けてしぼりこむ、といったこともできませんでした。」
「へー。」
「何度か短期的にメイドをしましたが、結局これといった方は現れませんでした。次こそは、次こそは!と、お嬢様を探して幾星霜。今宵!ようやく!ようやく!長年の努力が実り!お嬢様に巡り合うことができました!見た瞬間にわかりました!この方だと‼」
「お、おぅ」
涙を浮かべながら、仰々しい身振りで、号哭せんばかり。
どんだけ見つからなかったんだろう。
「ざっと7億年程ですね。」
「なっ」
7億!?そんな宝くじみたいな数になるの!?
そ、そりゃあ涙も浮かぶよね。
「お分かりいただけたところで、あらためてお嬢様。末長くお仕えさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
「は、はい。」
若干釈然としないような気もするけれど、まあ、すごい人が見方についたってことで、いっか。
深く考えたら、なんとなく負けな気もする。
…現実逃避じゃないよ?
「それではお嬢様」
「ん?何?」
「あれらの処遇は、いかがいたしましょうか?」
「どれ?」
指し示された方を見てみると、そこには…手足を切り落とされた人間、らしきものが積まれていた。
…何事!?
話を聞いてみると、邪魔だったからと、手足を切り、喋れなくして、身動きを封じた上で、邪魔にならないように、ひとかたまりにまとめておいたらしい。
…どこの誰を!?と思ったけれど、よくよく見ると、近くに黒い服が盛られてる。多分、悪魔崇拝者達。私が手も足も出なかった相手を、さらっと処理するとか、すごすぎてもう何も言えないよ。
「まず、この者達はお嬢様を誘拐し、服を脱がし、危害を加えようとした者達です。ですが、私がお嬢様と巡り合うきっかけを作ったことは、評価に値します。そこで命を奪うのはやめにし、手足と言葉と行動を奪うに留めました。」
「そ、そう。」
「それで、お嬢様。あれらの処遇はいかがいたしましょうか?」
「えっと…」
そ、そんな急に言われても、ど、どうすればいいの!?
「それでは、まずはお嬢様の目標から考えていきますか?」
「え?」
私の目標?なんでいきなりそんな話に?
「いいですかお嬢様。ここがお嬢様のターニングポイントです。」
「た、ターニングポイント…」
「はい。はっきり言って、ここで私に出会わなければ、お嬢様は、ゲームのシナリオ通りの運命を歩んだことでしょう。たとえ、どんな努力をしたとしても。」
「っ!」
そ、そうだったの!?
てゆうか、このメイドさん。当たり前のようにゲームのこと知ってるな。まあ、心を読めるんだから、驚く程のことじゃないか。
「この世界は神の遊び場です。運命が神によって定められた人間に、為す術はありません。まあ、それは今はいいですか。そこで、です。今後、お嬢様はどんな生を歩みたいか、決めもらいたいのです。」
「どんな生を、歩みたいか。」
「ええ、公爵家に戻り、シナリオ通りの生を歩みたいなら、この場はシナリオに沿うように擬装する必要があります。また、シナリオに沿いながらも、危険だけは回避し、母君と暮らしたい場合も、そのように。」
「な、なるほど。」
「それではあらためて、どのような生を歩みたいですか?」
「え、えぇ。いきなりそんなこと言われても…」
なんか、さらっと重要そうな話が流された気がするんだけど。
まあ、メイドさんがいいって言うなら、いいんだよね?
それにしても、どんな生を歩みたいか、か。
急にそんなこと言われてもなぁ。
自慢じゃないけど、前世の私なんて、大学卒業するまで、結局将来の夢すら決まってなかったからね。
そんな私に、人生設計を聞かれてもなぁ。
たぶん、ここで決めなきゃだめなんだよね?
こういう時は、最低限譲れないものをあげていこう。
んーと、まず、死にたくない。天寿をまっとうしたい。そしてお母さんと放れたくはない。次にゲームシナリオだけど、私の命が懸かってるならともかく、今はメイドさんが、命の保証をしてくれるらしい。それなら、現実になったゲームを、見てみたい。ああでも、公爵家には戻りたくないかなぁ。一部を除いて、使用人の態度も悪いし。となると、平民になるしかない?
けど、公爵家と違って、働かないと食べていけないだろうし、安全も…。さすがに、メイドさん達に稼がせるわけのは、だめだろうし。て平民じゃ学園いけないじゃん。それじゃあゲームに…はこの際いいか。妥協しよう。いや、公爵家に戻ればいいんじゃ?でもなぁ…
「お嬢様。」
「ん?何?」
「私は最強にして、全知全能に最も近い悪魔。故に、お嬢様はそんな、メリットデメリットを考える必要はありません。ただ、願いを口にすればいいのです。そして、私達に遠慮はいりません。お嬢様の願いを叶えることこそ、至上の喜び。むしろお嬢様が、少しでも遠慮や我慢の類いをされる方が、私達には心苦しいです。その上で聞きます。どのような生を歩みたいですか?」
「えぇ…」
何かと思えば、すごいこと言ってるよこの人。このメイドさん、神様か何かですか?
それにしても、なにも考えなくていい?つまり、願望をそのまま全部言えばいいのかな?それなら…
「お母さんと放れたくない。公爵家に戻りたくはない。でも、生活に苦労したくはないし、現実になったゲームも見てみたい。後の細かいことは、今は後回し!」
「了解しました。お嬢様。」




