表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冥土さんが往く  作者: セフィール
悪役令嬢のお嬢様
17/20

召喚

テスト終わったぞー!

 無限に存在する世界を内包する、“秩序”。

 その外側の“混沌”。

 そのさらに外側の、どこか。

 そこに、それ(・・)()る。

 魑魅魍魎が巣くい、あらゆるモノを呑み込む、無限の”穴”、もしくは“海”ともあらわせる、それ(・・)

 いつも自分を喚ぶ者を待っているそれ(・・)は、唐突に喜悦の色を浮かべる。

 それを知るのは、たった四柱の“王”のみ。

 そしてそれ(・・)は、徐に言葉を発する。


 ───みつけた───




 +++++++++++++++



「ん」


 ひやりとした冷たさに、うっすらと意識が覚醒する。

 目を開けると、薄暗い。ようやく目の焦点があってきて、複雑な紋様が描かれた天井が見える。どうやら仰向けで寝ていたらしい。

 それにしてもここはどこだろう。

 なんでこんなところにいるのかな?

 確か寝る前は──!?


 ─ジャラッ─


「ぐぇ、ぐっ、えほっえほっ。」


 勢いよく起き上がろうとして、首がしまった。

 そこで初めて、私は大の字で寝かされてて、両手両足首、四肢の付け根、そして首を、枷で床に固定されていることに、気づいた。後、裸だ。寒い。

 乙女にあるまじき、うめき声を出したのは、忘れてほしい。

 ってそうだった!悪魔崇拝者達がやって来て、それで…

 結局私、誘拐されちゃったんだなぁ。

 そうだ!お母さんは無事!?


「お母さん!」


 と読んでみるも、お母さんからの返事はない。

 しかし…


「おやおや、もう目が覚めたのですか。」


 知らない男の声がした。起き上がれないどころか、首も満足に動かせないため、姿も見えない。声の感じからすると、あまり若くはなさそうだ。


「誰?」

「私ですか?いいでしょう、教えてあげましょう。私の名はアラビアータ。悪魔の王が一柱、憤怒を司るサタン様を信仰する、教団『憤怒の使徒』の、リーダーをしています。」


 まさか答えてくれるとは。

 あ、でもよくこういう敵って、ペラペラ語ってくれたりするし、こんなもん?まあとにかく、話してくれるなら都合がいい。

 ここからなんとか、逃げ出すためにも、情報を聞き出せるだけ聞き出そう。


「お母さんはどこ?」

「あなたの母親ですか?。さあ?。ここに並べている贄のどれかだと思いますよ?」

「…生きてるの?」

「そりゃあもちろん。死んだら贄としての価値が下がりますからね。」

「ここはどこ?」

「ここですか?ここはですねえ。王都のスラム街のどこかの地下、と答えておきましょうか。詳しくはめんどうなので。」

「…悪魔を召喚してどうするつもり?」

「おやおや、なかなか聡いですねえ。そうですねぇ。私にとって、サタン様が全てなのですよ。そんなサタン様が召喚を望んでいる。だから召喚する。ただそれだけですよ。」


 そう言ったアラビアータの声音は、熱に浮かれていた。


「さて、お喋りもこれまでですね。準備も整ったようですので、とっとと儀式を始めましょう。」

「「「「「ハッ」」」」」


 その時初めて、この空間に大勢の人間がいたのを知った。

 って、それよりまずい!全然逃げる算段ついてないのに!

 このままじゃ、お母さんが死んじゃう!


「待って!お願い待って!」


「「「「「ゞ■仝£〆々∇∃§%@Å」」」」」


 私の訴えはむなしく、誰も意にも介さない。広さも不明なこの薄暗い空間に、ただ意味のわからない不気味な呪文が響きわたる。


「そうだ!。もうすぐここに聖騎士が来るよ!それでもいいの!?」


「「「「「Ⅹ┛юфПΨヰ†ΛΘДЯж」」」」」


 聖騎士の名前を出せば、少しは動揺しないかと思ったけど、効果はない。

 天井の紋様が、淡い紫の光を放つ。そしてたぶん、床も光ってる。


「あ、悪魔なんか、怖くない!あんな雑魚に頼るしか能のないお前たちも、怖くない!この国を滅ぼすなんて、できる訳がない!」


 こんなのただの強がりだ。でも、相手を挑発するぐらいしか、おもいつかなかった。

 紋様の光はどんどん強くなる。さらに不気味な靄が発生し、天井に描かれた紋様の、中心で渦を巻き始める。


「「「「「〆ΘП§ΨЯжфÅ∃%Д£∇」」」」」


「お願い、やめてよう!お母さんを、殺さないで…誰か、誰か助けて…」


 私の願いは、届かない。無情に、儀式は、終わってしまった。

 光が一段と輝きを強め、靄の渦は濃くなり、ついに、門が開いた。


 ───そして、それは顕現する。───


 天井の、紋様中心に開いたそこから覗くは、果てなき深淵。垣間見ることすら許されない、途方もない存在。

 そこに確かに()る。しかし、知覚することができない、許されない。

 ただ、理解させられる。これに比べれば、人間など、いや、他のなんでさえ、とるに足らない矮小な存在であると。


「あ、あぁ」


 それは、誰の声だったか。私だったのかもしれないし、アラビアータかもしれない。一つ確かなのは、畏怖の念が込められていたこと。とにかく、それは隔絶しか存在感を放っていた。なのに知覚することができない、それ。

 やがて、その存在は形をとる。

 影は、五つ。おそらく、人型。

 やがて、五つの人影は地に降り立ち、私の視界から消えた。


 ──コツ、コツ、コツ──


 足音が一つ、響きわたる。

 私は、恐怖に身を固めるしかなかった。

 足音はだんだん近づいて来て、私の頭の上で止まった。

 それはしゃがみ、私の顔を覗きこんできた。その顔がはっきり見えた時、私は息を飲んだ。

 美しかった。ありえない程整った、人外の美。

 少なくとも、その顔はに人間との相違点は、見られない。

 けれど、その神秘的な美しさに、人間ではないと理解させられる。

 どこか喜びをはらんだその眼は、どんな宝石もかなわない輝きを放つ、朱と金のヘテロクロミア。

 特上の絹が、糸屑に等しいと感じるような銀髪は、蒼と黒のメッシュがはいっている。

 その白い肌は、雪原でさえくすんで見える。

 身に纏うは、極上のメイド服。レースなどで飾られたそれは、大国の姫のドレスすら、足もとにも及ばない。


 見惚れていた。先程まで感じていた恐怖など、軽く吹き飛んでしまっている。熱に浮かされたように、多好感で頭が満ちる。

 悪魔の王様に仕えてるメイドさんかな?とか、こんな美しい悪魔になら、体を奪われてもいいかな、とか、むしろ私なんかの体で申し訳ない、とか、とにかく、くだらないことを考えていた。

 危機感を、抱けない。この人が望めば、死すら喜んで受け入れてしまいそう。それほど、その美は、桁外れだった。


 その悪魔のメイドは、私の首に手を伸ばす。

 ああ、殺されるんだなぁ。この人になら、むしろうれしいなぁ。

 と、そんなことを考えていた私の耳に、「パキッ」と、何か固いものが折れた音が聞こえた。

 一瞬、首を折られたかと思ったけど、違う。私の体の自由を奪っていた枷。それが碎け砕け散っていた。

 そして、手首をそっと掴まれたと思えば、流れるように立たされた。痛みも何も感じなかった。気づいたら、立ってた。そんな感じ。


 見ると、私の前にあの悪魔のメイドさんが、片膝立ちをしている。スカートからはみ出た、太ももがまぶしい。


「ようやく。」


 メイドさんが、言葉を発した。すごく綺麗な声。この声を聞くだけで幸せな気持ちに溢れてくる。そんな声。

 それにしても、「ようやく」?なんだろう。


「ようやく、見つけました。」


 ああなるほど、ようやく合う肉体をみつけたとかかな?

 あ、そういやぁ私って、悪魔の王様の入れ物になるんだっけ。

 このメイドさんじゃないのか。それはちょっと残念だなぁ。

 そういえば、メイドさんのご主人様ってどんな人だろう。

 そう思って、メイドさんの後ろに目を向ける。驚いた。

 なんせ、四人の悪魔が片膝立ちで、跪いてるんだもの。

 え、もしかして、このメイドさんが一番偉い?

 じゃあなんでメイド服?コスプレ?

 そんなアホなことを考えていると…


「どうされましたか?」


 という言葉に、はっとする。

 正面を向くと、メイドさんが私を見つめてる。

 そんなに見つめられると恥ずかしい。そういえば、私って裸だったなぁ。どうしよう。全部見られてるよね。まあ、4歳児の体だしいっか。と思ってたけれど、あれ?私、服着てない?なんかいつのまにか、ドレス着てるんだけど。いつ着せられたの!?

 ぜんぜんわからなかった。


「寒そうでしたので、僭越ながら、お召し物をご用意させていただきました。お気に召しませんでしたか?」

「あ、いえいえいえ!むしろありがとうございます!」


 また、一人思考にふけってた私に、メイドさんの声がかかる。

 その言葉に、慌ててお礼を言うと、嬉しそうに微笑んで、「恐縮です。」と返される。おお、メイドだ。って、この人、私にこんな腰低くていいのかな?


「はい。もちろんでございます。私はお嬢様のメイドですので。」

「へー」


 て、へーじゃないよ!?私!え、お嬢様って私のこと?そんなまさか。てゆうか、心読まれた?


「メイドの嗜みです。」


 そ、そうですか。

 それより、私はどうすればいいのかな?この状況。

 私、悪魔の王様に、捧げられたんだよね?

 なんかメイドさんと会話してるだけなんだけど。

 そしてお嬢様ってなに!?


「お嬢様はお嬢様です。これから、お仕えさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。」

「あ、はい。」


 意味わかんなすぎて、これしか言えなかったよ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いやーついに会いましたかー [一言] テストお疲れ様です
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ