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風精の魔導師、異世界の旅に出る  作者: かーくん
時を超える旅路
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フツギのやり方

 白い建物に飛び込んですぐに、建物を囲むように結界を張った。


 追いついてきたツギハギ人間は結界に阻まれて中に入れず、魔法を使っても結界を壊せないでいた。


 「ブリュンヒルデ、シャーラの容態は?!」


 『解毒魔法が上手く機能しませんので、魔法に耐性のある毒物である可能性が高いです。また、毒の影響で体内の各所で炎症が起こっています』


 シャーラを床に寝かせると容態と体の状態を確認した。体には何か所も内出血が出来ており、内出血から出血も見られ始めた。少しずつ血の混じった咳まで出始めた。


 「ゴホッ! ゴホッ!」


 「〈浄化の清水〉!!」


 水の解毒魔法を使ってブリュンヒルデのサポートをしながら回復魔法で体力の回復を図る。


 「ごめん」


 「今は喋るな!」


 解毒を続けるが、発汗も出血も止まらない。咳は収まったが呼吸は荒いままだ。


 『警告!! 細菌感染を確認しました。毒と共に体内に入ったものと思われます』


 「くそっ!! こんな時に!! ……仕方ない」


 薄めを開けてこちらを見ているシャーラと目があった。口が動いた気がしたが聞き返している余裕は無い。


 「ブリュンヒルデ、手伝ってくれ。解毒剤と抗生剤を作成する」


 『収納されている薬剤では作成は不可能です』


 ブリュンヒルデの言う通り、手持ちの素材では薬剤を作成出来ない。特に解毒剤は毒に適合しなければ効果が無い。だが、方法はある。


 「ブリュンヒルデ、毒の解析は終わってるか?」


 『完了しています』


 ブリュンヒルデの言葉を聞いて、収納魔法に保管されている紫の宝石が付いたブローチを取り出した。


 「魔力に毒の性質を付与する魔法具だ。ただし、毒の内容は魔力の量によって変化する」


 このブローチを使って俺の魔力を薬として運用するのだ。ブローチに魔力を通して、眼の前に魔力玉を作った。


 「ブリュンヒルデ、解析してくれ」


 『了解。……適合する効果はありません』


 「そのまま解析を続けてくれ。毒性を変化させていくから近づいたら教えてくれ」


 ブリュンヒルデの解析結果を確認しながら魔力を調整して、魔力玉の毒性を変化させていく。


 外の結界とシャーラに掛けている解毒魔法、魔力玉の作成と負担は大きいが何一つとして気が抜けない。


 『抗生物質を確認しました』


 「よし、シャーラの体に魔力や入れるぞ」


 魔力が抗生剤の性質を持つ事に成功したので、シャーラの体に少しずつ浸透させていく。


 『状態が安定しました』


 シャーラの発汗と発熱が収まった。解毒魔法の効果も出ており、内出血からの出血も止まっている。


 しかし、毒物は体内に残ったままなので再び魔力玉を作って解毒剤の効果を目指して魔力を調整していく。


 しばらくして毒に適合する解毒効果を持った魔力玉が出来上がったのでシャーラの体に流し込んでいく。すると、顔色も戻り呼吸も安定した。


 「これで一安心だな」


 解毒効果が効いた事で体が楽になったのか眠ってしまった。


 『命の危険性は大幅に下がりましたが継続的な処置が必要です』


 「解毒と抗生剤の魔力調整は記録してるか?」


 『開始時から全て記録してリスト化してあります』


 「助かるよ」


 目的の効果にたどり着くまでに様々な効果を持ってきた魔力玉。その効果と魔力の調整度合いを記録してくれているので、再現性が高くなった。


 俺1人の頃は適当な毒を作ってぶつける位しか出来なかった。


 「ブリュンヒルデ、シャーラを見ててくれ。外を片付けてくる」


 『了解』


 俺は結界の外に出て集まっているツギハギ人間を倒していった。中途半端な攻撃は意味がなく、吹き出す血には毒があり雑菌が混じっている。


 「〈雷の咆哮(サンダー・ローア)〉!! 〈吹き上がる炎(フレア・ライズァープ)〉!!」


 雷で神経を焼いて完全に機能停止させたり、立ち上る業火で肉片すら残さずに焼き尽くす。雷はともかく、火系は苦手なので魔力量で誤魔化しながら倒して行く。


 上空には、さっき結界を張ったと思われる筒状の物体が浮かんでいた。形状や動きからして管理AIフツギのドローンだろう。


 ツギハギ人間を全て倒し終わった。これ以上、集まって来る気配が無いので建物に戻る。


 飛び込んだ白い建物は、中の構造から病院の様だ。待合には汚れたベンチが置かれていたが、瓦礫は無く整えられていた。


 シャーラを休ませられそうな部屋を探す。2階の崩れていない部分に部屋があったので入ってみた。


 「これは……酷いな」


 遺体がベッドだけでは無く床にまで敷き詰められていた。治療したような跡が残っているので受け入れた患者なのだろう。


 「薬や物資が切れて治療出来なくなったのか」


 他にも部屋があったので回ってみたが、どこも同じだった。強いて言うなら部屋の崩れ方が違うくらいだ。


 地下に降りてみるとリネン室があったが中には何も無かった。


 「何も無いか。けど、入口に寝かせているよりはマシだろう」


 1階に戻ってシャーラを地下のリネン室まで運ぶ。その後、汚れているシーツの中から比較的汚れの少ない物を見繕って水魔法を使って洗濯する。


 洗剤は残っていた物を使わせて貰った。洗濯が終わると魔法で温風を出して乾燥させる。


 「こんなもんだろ」


 汚れの後は残っているが洗ったシーツは乾燥したので1枚を畳んで枕にして、もう1枚は寝ているシャーラに掛ける。


 「容態はどうだ?」


 『変わりありません』


 状態も安定している様なので俺も休憩を取る事にした。結界は杖に記録して固定化しているので、俺が意識を向けなくても問題無い。


 「少し休むから何かあれば起こしてくれ」


 『了解』


 ブリュンヒルデに声を掛けて仮眠を取り始めた。

 


 ◇



 『ふむ、あれでも死なぬか。悪く無いな』


 結晶の様な物に囲まれた広い空間には巨大な球体が浮かんでいた。


 その球体の下から、長く黒い髪をなびかせた男が現れた。男はゆっくりと地面に降りると、少し体を動かして何かを確認している。


 『これなら遊べそうだ』


 そう言うと男はその空間から出て行った。



 ◇



 仮眠を取り始めてから2時間程が経った頃、ブリュンヒルデが何かが近づいて来ると警告を受けた。


 ブリュンヒルデにシャーラを任せて外に出ると、長く黒い髪が特徴の男が空中に立っていた。


 男がこちらに手をかざすと、張ってある結界が砕けた。そして男は名乗りを上げる。


 『余の名はフツギ、この領域の王である』


 「フツギ…管理AIが直々に何の様だ?!」


 『お前は中々にしぶといからな。余が直接殺してやろう』


 「生き残らせる人類も必要なんじゃないのか?」


 『お前が死ななければ生かす事も考えてやろう』


 人類は削減しても全滅させる事はしない。それが管理AIの共通認識だが、この管理AIは守る気が無いらしい。


 恐らく、1人でも生き残れば条件を満たしたと言うのだろう。この惨状の中で生き残りが何人いるかは不明だが、目の前に現れたのは明確な"敵"だ。


 『さあ、余を楽しませてみろ!』


 フツギは魔法弾をブリュンヒルデとシャーラがいる白い建物に向かって放った。


 それを魔法弾で相殺しながら抜けた攻撃を障壁で防ぐ。


 『ほう』


 「相手は俺じゃ無かったのか?」


 『的があるのだから狙うのは当然だろう?』


 フツギは魔法の槍を何本も作り出した。槍は勢い良く建物に向かって飛んで来る。


 槍の柄に魔法弾を当てて相殺させると、残った弾をフツギに向かわせたが障壁で防がれてしまった。


 『〈毒の魔弾(ドゥ・ズーダン)〉!!』


 フツギが放つ魔法弾を相殺するが、爆発に混じって飛沫(しぶき)が飛び散る。警戒して飛沫に当たらないように距離を取る。


 「〈烈風の剣(ゲイル・ブレイド)〉!!」


 『〈呪詛の魔剣(ズジョウ・ジエン)〉!!』


 風の剣と呪いの剣がぶつかり爆発すると、衝撃が周囲の広がり強風が吹く。


 『やるではないか。なら、これは防げるかな? 〈終の承影(ジェスウ・チョンイン)〉!!!』


 「〈暴風の神剣(ストーム・カリバーン)〉!!!」


 フツギと魔法を撃ち合い、相殺した魔法が風を起こし、抜けて来た魔法を障壁で防ぐ。


 『久しぶりに遊べたぞ、感謝する』


 フツギの周りに膨大な魔力が込められた球が出現する。その球は強い光を放っており、周囲に雷を(ほとばし)らせていた。


 (ブリュンヒルデ!! 多重結界!!)


 『〈雷公鞭〉!!!』


 光の珠が弾けて天地を繋ぐ光の帯が無数に出現すると、一瞬遅れて轟音と衝撃が周囲一帯を打ち付ける。灼熱の雷光に砕かれた大地は焼け焦げ、激しい耳鳴りに襲われる。


 『これを受けて生きているとはっ?!』


 「〈魔封雷剣(まふうらいけん)〉!!」


 激しい雷撃によって発生した煙の中からフツギの動きを止めると魔法で作った槍を構える。


 『何だ、これは?!』


 「〈天を砕く槍(レギオンブレイク)〉!!!」


 放たれた魔槍がフツギを貫く。胴体には大きな穴が空き、胸から上と腰から下だけが残った。


 『きさ…ま…』


 地面に落ちたフツギの姿にノイズが入ると、姿が消えて壊れた人形が残った。


 「人形にコントロールの一部を移してたのか」


 本体は別の場所にいて、人形を遠隔操作して戦っていたのだろう。それでも強大な魔法を使える辺り、さすが管理AIと言った所か。


 戦いが終わってシャーラの所に戻ると、砕けた多重結界の中で最後の1枚だけが残っていた。


 「生きてるか?」


 『当然です』


 「何とか生きとるよ」


 ブリュンヒルデは余裕のある感じで答えてくれたが、シャーラはギリギリと言った感じだ。


 「起きたんだな」


 「あれだけの魔力がぶつかたら眠ってられへんって」


 シャーラはフツギとの戦闘中に目が覚めたらしい。状況はブリュンヒルデに聞いていたが、〈雷公鞭〉はさすがに間一髪だったそうだ。


 「あれ、本当に魔法?」


 「雷系の空間殲滅魔法だな。貫通持ってないのが幸いだ」


 貫通効果を持っていれば障壁や結界を貫いてシャーラが死んでいたし、ブリュンヒルデも壊れていただろう。


 建物もフツギの魔法で壊れてしまったので、別の場所を探す必要がある。


 「次の攻撃が来る前に移動するか」


 「えっ?! いや、大丈夫やから?!」


 シャーラを抱えあげると騒ぎ始めた。魔法で運んでも良いが、とっさの時に置き去りになる。相手の動きに備えるなら抱えている方が都合が良い。


 「飛ぶから大人しくしてくれ」


 ブリュンヒルデのルートに従って移動していくが瓦礫の海が続いているだけだ。人の気配どころか形の残った建物すら見当たらない。


 日暮れが近づいて来た頃、周りより大きな建物が目に入った。近づいて確認してみると崩れた商業施設だった。


 「今日はここで休むか」


 使えそうな場所を見つけて休息を取る。病院で拝借したシーツを床に敷いてシャーラを寝かせると、少し離れた場所で火を起こした。


 ブリュンヒルデに収納してもらっている食材を使って夕食済ませると、火を消してシャーラの近くで座ったまま休息を取った。


 「ハヅキ…ごめんな、邪魔ばっかして……」


 「シャーラに責任は無いのだから気にしなくて良い」


 「でも……」


 「明日も移動するから、もう寝ろ」


 

 ◇



 朝日が登った頃に目が覚めると、火を起こしてお湯を沸かしてコーヒーを入れる。固まった体を動かしているとシャーラが起きて来た。


 解毒剤と抗生剤が聞いているのか、起きて歩けるようになっている。


 「おはよう、早いんやね」


 「そうでもないよ。コーヒー飲むか?」


 「貰おうかな」


 コーヒーを入れたカップを渡すと、冷ましながら飲み始めた。苦いのは平気な様だ。


 「ブリュンヒルデ、ツンカシラの領域はまだ遠いのか?」


 『何もなければ本日の夕方頃には入れます』


 「何なければ……か」


 「一波乱ありそうやな」


 シャーラの調子も万全では無いし、フツギも手を出してこない保証は無い。


 コーヒーを飲み終わり、出発の準備をしていると足音が聞こえて来た。警戒していると人間が1人、通路を歩いている。


 「生き残り?」


 「にしては様子がおかしい」


 歩いてきた人間はゆっくりとこちらを向いた。その目は焦点があっておらず、衣類は赤黒い大きなシミを付けていた。


 衛生状態が悪いのか周囲に虫も飛んでいる。歩き方もおかしく、足を引きずるように歩いている。


 「ア゛ァ゛ア゛!!」


 その人間はうめき声を上げながら両手を突き出して突進して来た。とっさにシャーラを抱えて飛び退くと、突進する人間は足元の瓦礫につまずいて盛大に転けた。


 地面に顔がこすれて顔面が削れると強い異臭が漂って来た。


 「何、この臭い?!」


 「肉体が腐ってるのか?!」


 再び突進してくる人間を魔法で燃やすと、人間の体内から白い糸状の生物が這い出してきた。


 「きゃっ!!」


 「寄生虫か! 〈炎の短剣(フレア・ダガー)〉!!」


 寄生虫に魔法が命中すると、大きく体をくねらせて暴れたが少しして動かなくなった。焼けた寄生虫からは焦げた肉と油の臭いに混じって腐臭が漂って来た。


 「寄生虫にしては大きくない?」


 「人間に寄生して操るんだろう。人間を見つけたからと言っても、生存者とは限らないという事だな」

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