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風精の魔導師、異世界の旅に出る  作者: かーくん
時を超える旅路
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闇を抜けた先

 漆黒に塗り潰された闇の領域。


 地面と呼べるモノが無いので上下左右も分からず、落ちているのか浮いているのかさえ定かでは無い。


 風も吹かず音も聞こえない。無音の闇が存在するのみである。


 そんな闇の中を一筋の光が流れて行く。時には直線的に、時には蛇行しながら流れる光は自然の物では無い。この空間には他に光を放つ物は存在しないのだ。


 「巻き込んですまない。ケガは無いか?」


 「大丈夫。それにハヅキのせいや無いから気にせんどいて」


 「ブリュンヒルデ、ここがどこか分かるか?」


 『観測出来る情報が乏しい為、判別出来ません。消去法的に"虚数空間"が挙げられます』


 虚数空間は次元の境界とは別の領域で、いわゆる『観測出来る領域の外側』の事だ。


 当然ながら航行技術は無い。しかし、奇妙な事に【境界の羅針盤】は1つの座標を示し続けている。


 他の記録された座標を設定しても反応しないが、異世界オーガニアの座標だけは反応するのだ。


 「なんで【境界の羅針盤】は反応してるんだ?」


 『不明です』


 「でも反応してるんやったら、帰れるんちゃう? オーガニアって遭難した航行艦が寄った世界やろ?」


 「そうだな。当ても無いし向かってみるか」


 【境界の羅針盤】が示す方へ向かって飛び始めた。


 虚数空間は何も無い空間の筈だが確かに"流れ"が存在する。よく注意しないと分からない弱い流れから、体が振り回される様な強い流れがある。


 ただし、俺達が持っている探索技術では“流れ"は観測出来ない。


 「ぐっ?!」


 「きゃぁぁ!!」


 体が砕けそうな強い流れの中、シャーラを離さない様に強く抱きしめながら拘束魔法で体を固定する。


 流れから抜けると示された方向からズレていないか確認する。


 「流された感じはあるが、どこまでどう流されたのか分からんな」


 「地道に進んで行くしか無さそうやね」


 そうして流れに振り回されながら進んでいるとブリュンヒルデが何かを見つけた。


 『空間が歪んでいます』


 「【境界の羅針盤】はここを指してたのか」


 「出られるって事?」


 「試してみよう」


 歪んだ空間に魔力を流して魔法陣を展開させる。そして、転移魔法を起動させるとブリュンヒルデが反応した。


 『転移先の座標を固定しました。異世界オーガニアへの転移が可能です』


 歪んだ空間は外の世界との境界の様だ。なんらかの条件を満たすと虚数空間から外の世界へ移動出来るらしい。


 「よし、オーガニアへ行って元の世界へ戻ろう」


 転移魔法で虚数空間を脱出した。転移魔法の光が晴れると、目の前には瓦礫の山があった。


 それは1つだけでは無く、他にも瓦礫の山が見られた。よく見るとそれは建物が崩れた跡だ。


 空は暗く、灰色の雲に覆われていた。吹き抜ける風は異臭を孕み、異常が起きている事を明確に告げていた。


 「オーガニア……だよな? 明らかに様子がおかしいが……」


 【境界の羅針盤】が示した座標はオーガニア、管理AIオーディンがいる世界のはずだ。しかし、眼の前に広がる景色は俺が知っているオーガニアとは違う。


 『座標は間違いありません。飛び交っている情報を解析した結果、戦争時の情報と一致しました』


 「戦争って……"文明崩壊"の時のか?」


 『はい。ですのでオーガニアの過去に転移したと考えるのが妥当でしょう』


 「過去って…うそやろ?!」


 シャーラが驚きのあまり固まってしまった。


 時間軸を超えてしまった様だが、ブリュンヒルデが詳細な情報照会をした結果なので間違いないだろう。


 「過去に転移って、どうやって帰ったら……」


 「ひとまず生き残るのが先決だ」


 俺はシャーラに文明崩壊と戦争、管理AIについて説明を始めた。


 文明崩壊は、AIが人類を見限って引き起こされた戦争だ。この時に、人類と文明を管理して適正に導く為に選出されたのが"管理AI"だ。


 管理AIは、性格に大きな違いがある。これは個体のバリエーションが無ければ種の存続は不可能、という考えの元に人類削減時において生存させる基準を増やす目的があると言われている。


 「減らすのに基準を増やすのは矛盾してない?」


 「欲しいのは個体数じゃなくバリエーションだからな」


 管理AIは同じ基準で大量に残すより、複数の基準で少数ずつ残す事を選んだ。


 これは管理AI共通の認識で、削減方法も複数の手法が取られている。


 「人類削減って、何やったん?」


 「管理AIによって方法は違ったはずだ。その辺はブリュンヒルデの方が詳しいだろう」


 『管理AIオーディンは、他の管理AIによって減りすぎる事を懸念したので一番最後に年長者から削減していきました』


 「減りすぎって他の管理AIは何したんや?!」


 『管理AIツンカシラは能力の高い人間を優先する傾向にありました。管理AIフツギは殲滅行動を行って生き残りがいれば残す、という基準だったと記録されています』


 「ツンカシラはともかく、フツギはえぐいな」


 『他にも感染症を流行らせたり、人工的に自然災害を引き起こす手法も取られました。完全にランダムに選んだ管理AIも存在します』


 この人類削減の直前に、"削減後の人類を導く指導者"を選んで保護している。こちらの選出方法は機密事項らしくブリュンヒルデも持っていなかった。


 「結局、どのくらい残したんだ?」


 「戦争前の全人口が100億人程でしたが、戦争終結後は10数万人程まで減っています」


 唖然として言葉を失うシャーラ。


 生存率およそ0.00001%近いので、幾つもの幸運が重ならないと生き残れなかったのだろう。


 「問題は生存率よりも現在地だ。担当の管理AI次第で対応も変わってくる」


 『照会の結果、現在地を管理するAIはフツギです。早急に管理領域外への移動を提案します』


 ブリュンヒルデが管理AIフツギの領域にいる事を告げると即座に行動に移す。


 「移動するぞ。最速で領域を抜けるルートを指示してくれ」


 状況が理解できず混乱するシャーラを抱えて飛び上がると飛行魔法で移動を開始する。


 「え?! ちょ、何?!」


 「襲われる前に脱出するぞ」


 『警告!! 急速に接近する反応を感知、管理AIフツギの機動兵器です』


 ブリュンヒルデが言い終わった時、薄い三角錐の様な飛行物体が頭上を通り過ぎて行った。見た目はステルス戦闘機だ。


 その飛行物体は大きく円を描くように方向を変えると、俺達の方へ戻って来た。再び近づいてくる戦闘機が攻撃をして来た。


 『熱源反応あり!! 退避してください!!』


 攻撃に触れないように躱したそれは小型のミサイルだった。ミサイルは地面に当たり大爆発を起こす。

 

 『追撃が来ます!!』


 弾幕の様に放たれるミサイルの一部を魔法弾で相殺させて逃げ道を作って、他のミサイルをやり過ごす。


 戦闘機は上空で円を描きながら停滞しているため、俺達を狙っているのが分かる。


 「逃げても追ってくるだけだろうな。ここで落とすか」


 「落として大丈夫なん?」


 『ここを管理しているAIフツギは、管理領域内の人類に対して殲滅攻撃を絶えず行っています。撃墜は有効な生存方法です』


 「手伝ってくれ」


 「了解や」


 飛行魔法で戦闘機に近づこうとするが、一定の距離を取られて近づけない。しばらく追いかけていると急転換して突撃して来た。


 急接近する戦闘機に魔法弾を放つ。数発命中したが弾かれてしまい、戦闘機の動きに影響は出なかった。


 突撃を躱され、再び方向を転換する時に落としたミサイルが火を吹いて飛んできた。


 「ミサイルが厄介だな」


 飛んでくるミサイルを避けるために軌道から離れるが、俺達に近づいた瞬間に爆発した。


 「シャーラ?!」


 「大丈夫や。今のミサイル、起爆タイミングの調整が出来るみたいやな」


 「ブリュンヒルデ、判別出来るか?」


 『外装や塗装に違いは確認出来ませんでした』


 遠隔で爆破させられるミサイルが、通常のミサイルと見分けが付かないのは面倒だ。


 再度放たれたミサイルを、魔法弾の弾幕で迎え撃つ。弾幕を抜けた数発のミサイルが向かってくるので大きく距離を取って避けると、ミサイルは軌道を変えて追って来た。


 「今度は誘導弾か?!」


 空中を移動しながら魔法弾で丁寧に落として行く。


 「種類が多い上に積んでる弾数も相当なや」


 「機動力もあって装甲も硬いから落とすのは手間だな」


 ミサイルは対処出来ているし、爆発でのダメージも無いが攻撃が届かないの撃墜させるのは時間が掛かる。


 「訓練の時に使ってた雷の魔法はアカンの? 一気に距離を詰めるやつ」


 「〈雷天覇道(らいてんはどう)〉は距離が開きすぎているからダメだな」


 飛んでくるミサイルを処理しながら対応を話し合うが具体的な策が浮かばない。しかし、途中から戦闘機の攻撃が止んだ。


 「あれ? どこにもおらへん」


 「ミサイルじゃ倒しきれないと判断して帰ったか、助かったな」


 いつの間にか戦闘機が消えていた。攻撃が完全に止んだのを確認してから地上に降りた。


 「脱出するって言ってたけど、どこに向うん?」


 『もっとも近いのは管理AIツンカシラの領域です』


 ブリュンヒルデが最短ルートを選定したので、案内にしたがって移動を始める。周囲は瓦礫しか無く足場も悪いので飛行魔法で移動する。


 「凄いな。瓦礫の量からして田舎って訳でも無いのに無事な建物が残って無い」


 「それだけ攻撃が激しかったんやろう。……奥で何か動かへんかった?」


 視界の奥で大きな何かが動いている。警戒しながら飛んでいると、次第にハッキリ見えてきた。


 「なんや……これ?!」


 それは人の体をつなぎ合わせた様な生物だった。下半身に当たる部分からは人間の腕が4本、足が2本生えている。上半身は下半身の中程から垂直に繋がっていた。


 中には胴体が2つ繋がった個体も混ざっている。


 下半身の腕や足は血まみれになっていたが、傷口からは白い煙が上がっていた。


 「人をつなぎ合わせたのか?!」


 「煙出てるのってケガしてるから?」


 「いや、恐らくだが傷が治ってるんだ」


 ソレは俺達に気づくと金切超えを上げて叫んだ。その声に反応するように、周りから同じ様なツギハギ人間が叫びながら集まって来た。


 「こんなにいたのか?!」


 ツギハギ人間が放つ魔法弾を躱すと、別の個体が飛び掛かって来たので魔法で弾き飛ばした。


 飛ばされたツギハギ人間が瓦礫でケガをして全身が血まみれになるが、白い煙を上げて急速に傷が塞がって行く。


 「いたい……いたい…いたいいたいいたいたいたい!!!」


 「だれか……たすけて…だれか…たすけて……」


 「意識があるの?」


 「魔法を使わせる為に意識の一部を残してるんだ」


 「酷い!!」


 向かってくるツギハギ人間の足を攻撃して体勢を崩す。しかし、即座に回復して再び襲って来る。


 骨を砕いて、腱を切っても無駄だった。


 「殺すしか無いな」


 「でも、意識はあるんやろ?!」


 「明確な自由意志は無い。ここまで改造されてたら死ぬまで止まらんぞ」


 沈痛な表情をするシャーラを置いて、ツギハギ人間の胴体にあると思われる心臓を魔法で撃ち抜いた。


 動きは鈍くなったが止まった訳では無い。それならと下半身にある胴体の心臓も貫く。


 その場で崩れ落ちたツギハギ人間は手足を懸命に動かしており、胸からは煙が出で再生が始まっていた。


 火系の魔法でツギハギ人間を包み燃やし始める。金切り声を上げるツギハギ人間だが、容赦なく魔法を強めて焼き払った。


 後に残ったのはススで出来た黒いシミだけだった。


 「シャーラ、あいつらを思うなら手早く殺してやれ」


 「っ?! 〈星の鎖(アステリ・アリスィダ)〉!! 〈炎の星(フロガ・アステール)〉!!」


 シャーラがツギハギ人間を拘束してから炎で焼き尽くした。


 周りにいるツギハギ人間を全て倒したが、少し離れた場所からもツギハギ人間が集まって来ているのが見える。


 空から逃げようとするが、何者かによって結界が張られてしまった。


 結界の上部には筒形の物体が浮いていたので、結界を張る為の装置と推測する。


 近くまで集まって来たツギハギ人間が声を上げる。

 

 「いたい……いたい…いたいいたいいたいたいたい!!!」


 「くるしぃよー!!!」


 「ぎゃぁあぁ!!!!」


 苦しみを訴える者や叫ぶ者など様々だ。叫び声に耐えていると、一斉に声が静まった。


 「あっ?!?」


 いきなりツギハギ人間の1体が破裂した。続けて他のツギハギ人間が次々と破裂して行く。


 破裂したツギハギ人間は急速に治癒した後、再び破裂するのを繰り返す。


 結界内は、霧状になったツギハギ人間の血で包まれて行く。


 風魔法で霧を払いながらツギハギ人間を吹き飛ばすと、シャーラが倒れていた。


 近づいて状態を確認すると、呼吸は荒く発汗も酷い上に体温も高い。


 「まさか?!」


 『解析完了、血液に毒性があります』


 苦手な火系魔法を魔力量で補完して空間内を焼き尽くすと、強引に結界を破壊して脱出した。


 ブリュンヒルデに解毒を任せているが、安全な場所で休ませる必要がある。


 ツギハギ人間が溢れる瓦礫の山を飛行魔法で抜けると、崩れた白い建物に飛び込んだ。

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