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風精の魔導師、異世界の旅に出る  作者: かーくん
次元連合警察局
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帰還

 事後処理を終えて警察局に戻ってきた。コルザは現地の医療機関で入院する事が決まった。検査入院の意味が強い為、長くても1週間程での退院となる見込みらしい。


 シャーラはテロリストの捜査に掛かりっきりだ。拠点のダミーを掴んだ件を挽回したいのもあるだろうが、コルザに関して責任を感じているのだろう。


 俺の方もウォルフや【旗印(ヴァンガード)】に関する情報が得られないまま日々が過ぎていった。ブリュンヒルデも、この世界のネットワークの解析がほぼ完了しているので深くまで潜って調査している。


 イザベラは変わらず機動隊の訓練に参加している。コルザが入院中の間は別の職員が担当していた。大きな災害が起きても、瀕死の重症を負っても、時間は変わらずに流れていくのだと実感する。


 「何も無いって言うのも不気味だな」


 平和なのは良い事なのだが、テロリストの動向が探れないのはもどかしい。クラビリスを対象とした襲撃事件も息を潜めている。


 訓練が終わって訓練場を出るとウィルが待っていた。理由を聞いたらコルザが帰って来るので、退院祝に外に食べに行くそうだ。


 「それで、ハヅキとイザベラも一緒にどうかなって」


 「混ざって良いのか?」


 「コルザの命の恩人だからね。シャーラもお世話になってるし」


 「それじゃ、遠慮なく」


 コルザは夜の便でターミナルポートに到着するので今から迎えに行くそうだ。ウィルが運転する車に乗ってターミナルポートに移動すると、既にシャーラが待っていた。


 「ハヅキ達も来たんやね」


 「誘って貰えたからな」


 2人からコルザの様子を聞くと、健康状態に異常は無く再生させた手足も正常に機能しているそうだ。仕事にも明日から復帰する予定だと言う。


 「おーい!」


 話しているとコルザの呼び声が聞こえた。見た感じは元気そうなので一安心だ。合流すると、寮の近くのレストランに向かった。


 「あの時はありがとうね。お陰で生きて帰ってこれたよ」


 謙遜するののも無粋だろうと思い、素直に受け取っておく。それぞれが注文を終えると雑談に入った。仕事やプライベートの話が主なので聞き流していたらシャーラから声を掛けられた。


 「前に言ってた魔法を作る話やけど、開発部門から参加したいって要望が来てんねん」


 「魔法を作る?」


 ウィルが興味を持って聞いてきたので、新しい魔法を作ろうとしている事を説明した。ウォルフの使う〈ひがくれるとき〉に対する魔法が必要なのだ。


 「でも、魔法を作るのって難しいんじゃないの?」


 「今から作ろうとしているのは最高位の魔法だからな、下準備が色々といるんだ。それが終われば楽だよ」


 コルザとウィルが見たいと言い出した。しかし、魔法の作成には大量の魔力を使うため安易に行えるものでも無い。特に文明世界であれば騒ぎになる。それを回避する為にシャーラに相談していたのだ。


 「で、やるのは構わないのか?」


 「大丈夫や、観客は大量におるけど……」


 「邪魔しなければ問題ない」


 話していると注文した料理が来たので食べ始めた。シャーラ達は話しながら食べているし、イザベラは普段食べないメニューなので夢中になって食べている。


 食事が終わると閉店時間が近づいていたので手早く店を出た。ウィルとシャーラは車を置いてから寮に帰るそうなので、コルザと一緒に先に帰った。


 

 ◇



 翌日、警察局に行くとシャーラ達が集まっていた。トラブルが起きたのかと思って声を掛けると、俺を待っていたそうだ。


 「魔法作成の件やけど、今日出来る?」


 「出来るが急だな」


 「開発部門が張り切っちゃって」


 開発部門の職員が普段は見ない系統の魔法作成が観測出来るとあって暴走しているそうだ。シャーラ達の案内に従って開発部門のエリアに移動する。


 開発エリアに入るとシャーラが1人の職員に声を掛けた。その職員から開発部の主任だと自己紹介を受ける。主任が魔法作成の観測を取りまとめるそうだ。


 「それでは実行して頂く部屋に案内します」


 主任の案内で広い部屋に通された。この部屋は開発した魔法の実験をする為の部屋との事で、壁には何重にも結界が張られているそうだ。


 「観測の準備を始めるので少し待って欲しい」


 そう言って主任は部屋から出ていった。残った俺達は新しく作る魔法について話し始めた。特にコルザが興味を持っている感じだ。


 「それで、どんな魔法を作るの?」


 「ウォルフが使う〈ひがくれるとき〉に対抗出来る魔法だな。風系の最上位で組む予定だ」


 「風で炎に対抗出来るの? 普通は水か氷だと思うんだけど」


 「それは自然現象の話だろ」


 「え?」


 俺とシャーラ達とでは魔法に対する認識が違う様だが、一から説明するのも面倒なので今は止めておこう。話していると準備が整ったと主任の声がスピーカーから聞こえてきた。


 「私達は外に出てるから」


 シャーラ達はイザベラを連れて部屋の外に出た。俺は杖を出すと足元に魔法陣を展開させた。


 「始めるぞ」


 宣言すると、緑色の巨大な宝石がついた装飾品を出現させた。これには莫大な魔力を蓄えており、魔法作成に必要な魔力の補填に使用する。


 少しずつ魔力を開放していくと、魔法作成に必要な魔法を起動させて行く。今回はブリュンヒルデの協力は得られないので少しずつ丁寧に組み上げていく。


 魔法が正常に起動すると、新しい魔法に適応する呪文を決めていく。内容は既に決めているので読み上げるだけで良い。それが終わると、魔法のイメージを現実の魔法に定着させて行く。


 この作業は魔導師ごとにやり方や感覚が違うので説明が難しい部分だ。俺は体を動かしながらイメージを定着させていくので、人によっては踊っている様に見えるらしい。


 魔法の定着が終わると、術式が正常に組まれているか確認する為に小規模で発動させる。呪文を詠唱しながら出力を抑えて出来立ての魔法を使った。


 「〈しなとかぜ〉」


 魔法が起動すると風が吹き荒れ、乾いた音を立てて壁に張られた結界が砕けた。恐らく、〈ひがくれるとき〉と同じ様に一定以下の魔法を無効化したからだろう。壁は無事なので多めに見て欲しい。


 「終わったぞ」


 終わりを告げるとシャーラ達と主任が入って来た。


 「結界が壊れたのに壁は無事なんだね」


 「出力は抑えたからな。結界が壊れたのは魔法の効果だ」


 俺は〈しなとかぜ〉について説明した。暴風による巻き上げと斬撃による広域殲滅(せんめつ)魔法で、一定以下の魔法をを無効化する効果を持たせている。また、範囲内には魔法が暴風域となって残り続けるのも特徴だ。


 「そんな事が本当に可能なのか?!」


 「相手の火に当てたら被害が大きくなりそうだけど大丈夫?」


 皆んなは驚いているが、術式自体は問題なく起動したので大丈夫だろう。魔法の相性についても、俺が使う魔法は風でも何でも1つの物質として扱われる。炎に風を当てたからと言って、巻き込んで大きくなる事は無い。


 「体系が丸っ切り違うんだね」


 ウィルが関心している横で主任は手元にあるモニターを操作している。何か呟きながら操作しているので少し不気味だ。


 「なぁ、今の魔法は私達でも使えるのか?」


 「いや、俺の専用魔法として組んだから無理だな。他の魔法なら使えるが……」


 「ぜひ、試させてくれ!!」


 主任が勢い込んで迫ってきた。詠唱で起動する魔法を(いく)つかピックアップして主任に試して貰った。呪文詠唱は新鮮だったらしく、ノリノリで叫んでいた。


 シャーラ達も順番に魔法を試しているが体系が違っても似たような魔法はあるので、主任ほどの驚きは無い様だ。


 「風とか火が物質扱いなのは変な感じだね」


 「完全な専用魔法って無いよね」


 シャーラ達の使う魔法は使う人に合わせたチューニングはしても、俺が作ったような他の人が全く使えない魔法は無い様だ。同じ様に専用の魔法陣も無いので主任は興味を示している。


 「専用魔法を他の人が使う方法って無いの?」


 「権限を持っている魔導師が許可を与えれば可能だ。許可の条件や範囲は自由に設定出来る」


 「なら! ぜひ、私に!!」


 「却下だ! 不用意に許可を与えたら専用で組んだ意味がない」


 しがみついて来た主任を振り払う。専用で組まれる魔法は危険性が高かったり、使用難度が高い場合が大半だ。安易な許可は災いを生みかねない。


 「けど、許可を貰ってたらウォルフに対抗出来る様になるんじゃないの?」


 「魔導師としての技量で負けていたら許可を貰ってても意味が無い。逆に上回っていれば問題無く防げる」


 〈ひがくれるとき〉の効果が〈しなとかぜ〉と同じなら魔導師の技量が重要になってくるので、その辺りを説明していく。安易に強い魔法に頼っていても強くなれないのだ。


 「いやー、面白いものが見れて楽しかったよ。またぜひ来てくれ」


 主任が握手を求めてきたので応じたら、握手したまま勢いよく上下に振られた。そして顔が近いので興奮して息が粗くなっているのが良く分かる。


 若干引きぎみに挨拶を済ませると開発部門のエリアを離れた。主任の姿が見えなくなるとシャーラ達は大きくため息を吐いた。


 「良い人なんだけど疲れるんだよね、あの人……」


 コルザが呟いたが言いたい事は理解出来る。情熱はあるだろうし積極的なのだが圧力を感じるのだ。申し訳ないが長時間は願い下げだ。


 待合ロビーに戻ってくると、俺とイザベラは訓練場に向かいシャーラ達はビルに残った。コルザも事務仕事があると言ってビルに残った。


 訓練場につくと、既に始まっている訓練に合流した。俺は模擬戦の相手に入り、イザベラは魔法練習を始めた。今日の訓練は近接戦闘が中心の様で、後衛の魔導師が杖を手に懐に飛び込んでくる。


 後衛なので近接戦闘の経験は少ないので動きにキレが無い。反撃に対しても動きが止まる事が多いので隙が目立つ。


 ゆっくりと動きながら近接戦闘の動きを教えていく。剣士の動きと剣の捌き方、棒術や槍術の動きの基本など前衛に踏み込まれた時の対応を伝えていった。


 イザベラも他の魔導師と模擬戦を始めていた。ペース配分が課題なので使う魔法を節約しながら戦っていた。しかし、節約を意識し過ぎて必要な場面で魔法が使えていない。


 対して相手の魔導師は眼の前の魔法に意識が集中し過ぎて、対応で手一杯になっている。相手の動きを予測したり、次の行動の準備が出来ていないとジリ貧になる。


 レベルが近いから拮抗しているが、戦い方を知っている魔導師が相手だと押し切られる。


 「はぁっ!!」


 俺の模擬戦の相手が勢い良く踏み込んで来たが、力の流れを逸らして受け流した。自分の攻撃の勢いを処理し切れずに転んでしまった。


 「大丈夫か?」


 「は、はい」


 転んだ相手に手を差し伸べると掴んでくれたので引いて起こした。その後も相手を変えながら模擬戦をこなしていった。模擬戦の後は良かった部分と改善点を伝えていった。


 「今日はこれまで!」


 「ありがとうございました!!」


 訓練を終えると教官が声を掛けてきた。話を聞くと、高ランク魔導師の訓練にも参加して欲しいとの事だった。ランクが上がるにつれて訓練の相手がいなくなる問題が起きているそうだ。


 「貴方なら高ランク相手でも問題無いと思うんだけど、どうかな?」


 「俺は構わないぞ」


 「助かるよ。話は通しておくから決まったら連絡するよ」


 教官と別れてイザベラと寮に戻った所でコルザからメールが来た。内容は教官が話していた高ランクの訓練に関してだが雲行きが怪しいと書いてある。


 「大きい組織で派閥争いもあるだろうし、大変だな」


 俺には関係無い話だ。無理に干渉してくるならイザベラを連れて逃げれば良い。魔導師のレベルを見るに、高ランクと言っても相手取って困ることは無い。


 コルザとメールでやり取りして詳細を確認していく。本決まりでは無いそうだが、明日の午後に行われる高ランク魔導師の訓練に参加する事になった。


 コルザも参加するそうで、参加する高ランク魔導師はリミッターを外した状態での参加になる。リミッターはAランク以上の魔導師に掛けられているものだ。


 最大威力を抑える出力制限と、扱える魔力量を抑える運用制限の両方が課せられる。これは上官の許可が無いと解除出来ない仕組みらしい。


 俺にリミッターが掛けられていないのは委嘱(いしょく)魔導師だからだそうだ。しかし、リミッターを掛けようとする声が出ている様だが、法律で決められていないので強制権は無い。


 「なるほど。俺を危険人物にしたい訳だ」


 俺がリミッターを外した高ランク魔導師達を倒せば、その事実を盾に要求を通すつもりなのだろう。負ければ上から権限で強行してくる事も予想出来る。


 中途半端な対応は逆効果だな。ここでの最適解は、圧倒的な力で蹂躙する事だ。

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