護送任務
警察局の寮に入って10日が経った。受けた試験の結果はまだ来ない。待っている間、警察局の機動隊でバイトして過ごしている。内容は、機動隊員の訓練の相手で、今日の訓練内容は模擬戦だ。
「視覚に頼り過ぎだ。見えない所も警戒しろ」
隊員の視線を逸らせてから転がしたり、投げたりしていく。模擬戦といえど戦闘なので魔法も使ってくるが、技術レベルで言えばイザベラより少し高い位だ。
魔法は使えているが、使いこなすまではいかず状況判断も甘い。そこを鍛えていくのが訓練の意義なので丁寧に指摘していく。
「いちいち障壁で防いでいたら相手を見失うぞ」
弾けた魔法の煙に紛れて後ろに回ると、声を掛けてから肩を叩く。叩かれた魔導師は返事をしてから訓練場の端に移動した。
「今までも教えてきた事があるの?」
コルザが声を掛けてきた。この訓練の指導官はコルザが努めていて、俺はそのサポートという立ち位置だ。
「何度か弟子を取って鍛えてきた事がある。今もイザベラを育ててるしな」
「そうなんだ」
この訓練に参加している魔導師達は、警察局に就職して間もない新人達だ。これから訓練を重ねて強くなって行くだろう。
訓練場の離れた場所では魔法の射撃訓練が行われていた。イザベラも参加しており、ひたすら射撃魔法を撃ち続ける訓練だ。射撃の正確性を上げるのと、魔力量を鍛えるのが目的だ。
「そういえば、試験の結果はいつ分かるんだ?」
「もうそろそろのハズなんだけどね。訓練が終わったら聞いてみるよ」
訓練が終わって訓練場を出るとシャーラが待っていた。試験の結果を伝えるために待っていたそうだ。結果から言うと、2人とも合格との事だ。
「ハヅキがAランク、イザベラがDランクや」
ランク分けはD・C・B・A・Sの5段階にそれぞれ+とーが付く。細かく分けられているのは実力を正確に把握する為だそうだ。
「Sに勝ったのに下のAなんだな」
「その辺は大人の事情やな。それで早速やけど仕事や」
仕事の内容は危険物の護送だ。押収した危険物を別の拠点に運ぶまでの護衛に参加して欲しいと頼まれた。イザベラは、ウィルとコルザが面倒を見てくれるそうなので預ける事にした。
「護送は私も参加するから」
「捜査官が護送も担当するのか?」
「護送対象の危険度の高い場合、職種や担当を超えて高ランクの魔導師が入るんよ」
人手不足もあるが危険物に関するトラブルが起きた場合、高ランクでないと対応出来ない事が多い為だそうだ。腕が良いのも考えものだな。
シャーラが運転する車に乗って護送の起点となるターミナル駅に向かう。俺達の仕事は、ターミナル駅から次の拠点があるターミナル駅までの護送だ。
「ずいぶんと遠くまで運ぶんだな」
「危険物ではあるけど宗教的にも重要な物やからね。目的地にある宗教施設に返すのも理由の1つや」
「危ない臭いしかしないな」
ターミナル駅に到着すると先に着いていた警察局の職員達4人と合流する。全員が高ランクなのだろう、纏っている魔力が多い。
打ち合わせの結果、俺はシャーラの指揮下に入って一緒に行動する事になった。護送対象の危険物が積んでいる列車に乗り込むと決められた持ち場で待機する。
車両が出発すると職員達の警戒感が強まった。危険物が積んでいる車両には防衛装置で守られているので人は乗っていない。
「何も無いな」
「このまま問題なく行ってくれたら良いねんけど……」
列車は都市部を抜けて住宅街に入り、山間部を進む。襲撃者の気配もなく、防衛装置も問題なく稼働している。列車は山間部を抜けて荒野に入った。一番襲撃を警戒する区間だ。
「顔が怖いぞ」
「いつ来るか分からへんからな。そっちはリラックスし過ぎちゃう?」
警戒を強めすぎて肝心な時に集中が切れるのは本末転倒だ。
『セキュリティが干渉を受けています』
「来たな。突き放すと逃げられるから、適度に邪魔して逆に情報を集めよう」
『了解』
俺が襲撃を知らせると、シャーラが職員達に連絡を入れた。シャーラも戦闘服に着替えて、手には杖を持っている。
『解析完了。セキュリティのダミーに誘導……成功しました』
「これでネットワークから侵入される心配は無いな」
「ダミーって、いつの間に?!」
車両の天井から何かが落ちる様な音がした。恐らく襲撃者が列車に乗り込んできたのだろう。窓の外にも、列車と並行に飛ぶ襲撃者が見える。
襲撃者達は列車に魔法を当てて脱線させようとしてくるが、列車の張られた障壁が防いでいる。職員達も外に出て襲撃者との戦闘を始めた。
窓から外の様子を見ていると、大きな音と共に車両に衝撃が加わった。天井から襲撃者が1人入って来た。
「2人か……邪魔するなら殺す」
「それで逃げると思ってるの?」
シャーラは拘束魔法を使って捕まえようとするが強引に防がれてしまった。襲撃者は手元に大剣を出現させると両手で構えた。
「ハッ!!」
気合とともに振り下ろされた大剣が車両を破壊する。衝撃が線路まで届いたのだろうか、列車が大きく揺れて横転した。
線路を勢いよく滑る車両から抜け出して上空に逃げる。襲撃者が2人、危険物が積まれた車両に取り付いた。それを見てシャーラが飛び出していった。
「〈星の鎖〉!」
襲撃者達はシャーラの拘束魔法を躱す為に車両から離れたので、俺達は襲撃者と車両の間に入る。襲撃者達はフードとローブで全身を隠しており、仮面も付けていた。
「全部で6人か、そっちは任せるぞ」
「了解!」
脱線した列車の周りでそれぞれ2対2の戦闘が行われていた。俺達も手分けして襲撃者との戦闘に入る。
「〈風の弾丸〉!」
こちらの魔法を飛行魔法を使った立体機動で躱し、反撃に魔法弾を放ってくる。こちらも魔法弾で相殺させるが、距離を保ったまま魔法を続けて撃ってくる。
使ってくる魔法も基本的な魔法弾や拘束魔法だけだ。恐らく、使う魔法から戦闘スタイルを特定させないためだろう。特殊なスタイルの場合、個人を特定されかねない。
「?!」
襲撃者は懐から取り出した何かを放り投げた。それは魔法陣になって広がると、巨大な火の球になって撃ち出された。躱すと後ろの車両に当たるので〈烈風の剣〉で斬り伏せる。
再び何かを投げると今度は多数の巨大な火の球が飛んできた。
「8連起動〈烈風の剣〉」
連続起動させた魔法で薙ぎ払う。〈烈風の剣〉の斬撃が届いたのか、襲撃者のローブが傷ついていた。
杖を構えて魔法を撃とうとした時、後ろで大爆発が起こった。襲撃者を注意しながら振り返ると、危険物が積まれていた車両が燃えている。
シャーラの相手は姿を隠していなかった。最初に確認した時は姿を隠していたから、さっき現したのだろう。
(爆発するまで魔力を感じなかった。あの装備には魔力を隠す効果もあるのか)
燃え上がる様な赤い髪と膨大な魔力を持つ青年。その青年が放つ魔法弾は豪雨となって車両に降り注ぐ。
車両に直撃した魔法弾は大爆発を起こした。車両の影から魔法弾が飛び出した。
(シャーラは無事か?! だが、359番の相手は重すぎるな)
さっきまで戦っていた襲撃者を無視して359番へ仕掛ける。
「〈風の弾丸〉!!」
最大出力で放った魔法弾は視界を塗り潰すように広がって359番に向かって行く。359番は弾幕を縫う様に躱しながら距離を取った。
「お前も来てるとはな、401番」
「今の俺にはハヅキって名前がある」
「奇遇だな、俺もウォルフって名前がある。自分でつけた名前だがなっ!!」
言い終わるや魔法弾で攻撃して来る。相殺させるとウォルフが接近して大剣を振り下ろす。躱した剣が跳ね返って来るのを下がって避ける。
大剣は生き物の様に縦横無尽に襲いかかって来る。ウォルフは持ち替えたり、体を回転させたりと剣の勢いを殺さない様に振り抜いて来る。俺は杖で剣を受け流しながら捌いて行く。
ウォルフの剣が魔力を帯びて赤く輝き始めたので、こちらも杖に魔力を通して強化する。剣と杖の打ち合いが激しさを増す中、車両の方で何度か爆発が起きている。
しかし、ウォルフを相手に気は抜けない。シャーラ達に頑張って貰うしか無い。
「やるなぁ、これはどうだ! 〈灼熱の鎧〉!!」
「〈風迅の衣〉!」
お互いに強化魔法を起動させた事で、打ち合いは更に激しくなる。振り抜かれる剣の一振りごとに斬撃が飛び、周囲を切り裂いて行く。
突如としてウォルフが離れた。警戒しているとウォルフの横に傷ついたローブ姿の襲撃者が並んだ。
「目的は果たしたから俺達は帰るぜ」
ウォルフが言うと5人の襲撃者達は転移魔法を使ったのか姿が掻き消えた。そしてウォルフが詠唱を始める。
「空間殲滅だ!! 逃げろ!!」
「〈ひがくれるとき〉」
鼓膜を破る様な轟音と共に灼熱の炎が溢れ出す。大地は泡立ち、列車は蝋燭の様に溶け出していてる。高音の影響で視界が歪む中、ウォルフの気配が消えた。
「生きてるか?」
「何とかな」
結界の中で地面に座るシャーラに逃げられた事を謝ると、仕方ないと言ったくれた。
襲撃者達は最初、基礎魔法や魔法具を使って実力を隠しながら戦っていた。しかし、俺がウォルフの相手を始めた辺りから実力を見せたそうだ。
実力的には互角だったらしいが魔法具の性能が勝敗の差だと話す。
「いくら何でも大量のクラビリスを投入するのは不自然や」
「話は後にして、先に治療しようか」
シャーラは全身に火傷を負っている。特に左腕と胸やお腹周りが酷い。ブリュンヒルデにサポートをお願いして治癒魔法を掛けていく。
「ケガの治療も出来るんやね」
「本職ほど上手く無いがな」
治療が終わるとシャーラは立ち上がった。火傷は綺麗に無くなり、他にも外傷も残っていない。時間が経っても燃え続ける大地を前に対応を考える。
「この炎、消えへんねんけど……」
水や氷の魔法で消化を試みるが、一向に収まる気配がない。出力を上げても結果は同じだった。
「ブリュンヒルデ、氷系魔法での連立起動は出来るか?」
『可能です。魔法はどうしましょか?』
ブリュンヒルデがピックアップしてくれた中から一番ランクの高い魔法を選ぶ。分担を決めてから魔法を起動させていく。
「『〈うみがとじるひ〉』」
足元の魔法陣から水が噴き上がり、洪水となって燃える大地を飲み込んで行く。水は即座に氷始めるので、周囲には荒波がそのまま凍った様な景色が広がっている。
「一応は消えたか」
消火を確認してから結界を解くと冷たい風が吹き込んで来た。最上位の氷系魔法なだけあって冬の様な寒さになってきた。
「シャーラさん!」
空から襲撃者達と戦っていた職員達が降りてきた。全員負傷しているが動けない程ではない様だ。
突然現れた氷に戸惑いながらも、それぞれが報告を済ませていく。彼らと戦っていた襲撃者達も突然、強さが増したと言っている。
俺も状況報告を済ませて、ウォルフに逃げられた事と危険物を奪われた事を改めて謝罪する。
「あのレベルを相手に生き残れただけでも幸運と思いましょう。ハヅキ、彼らが求める物に心当たりはありませんか?」
「ウォルフと会うのは数百年ぶりだからな、特に思いつかない。ただ、アイツが欲しがってるなら力よりも別の部分に価値を見出すと思う」
「確かに。あれだけの魔法が使えるなら、力に固執する必要はない。宗教的な価値から狙ったのか……」
「誰かに依頼されたか、だな」
ウォルフが傭兵じみた事をやっていて、誰かからの依頼で危険物の収集をしている可能性も考えられる。
「私が連絡を入れるから、皆んなで現場検証をお願い」
「了解」
職員達が散らばって状況確認と検証を始めて行った。依頼されているとはいえ正式な職員では無いので、俺は程良く離れた場所で待機する。
周りには氷の景色が広がり、冬の様な寒さを吐き出している。魔法の範囲内にある車両は完全に溶けて原型を留めていない。その上から凍らせたから、グチャグチャになっていて検証どころではないだろう。
報告が終わったのかシャーラが近づいてきた。
「ハヅキ、この氷溶かせますか?」
「上位の火系魔法なら溶かせるぞ。後は自然に溶けるのを待つしか無い」
考えた結果、自然に溶けるのを待つ事にしたそうだ。増援が来るそうなので、到着しだい詳細な現場検証を進めて行くそうだ。待ってる間にオーディンに連絡して、俺とウォルフがいた施設と実験内容に関する情報を送って貰った。
「シャーラの持ってるデバイスとブリュンヒルデを接続出来るか?」
「試してみます」
ブリュンヒルデ側で調整する事で接続に成功した。元データのままだと翻訳が出来ておらず、フォーマットも違うため送れなかった。そのため、画像データに変換して送信した。
合わせて言語データも送信して翻訳出来る様にした。




