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テーマパーク

 ぼんやりとした意識の中、部屋をノックする音に目が覚める。


 「ハヅキ、起きてますか?」


 「今起きた所だ」


 着崩れた服を軽く整えて扉を開けるとアスクレスが立っていた。


 「もう少ししたら出発しようと思いますが、出られそうですか?」


 「分かった。手早く支度するよ」


 「それでは、終わったら降りて来て下さいね」


 アスクレスが1階へ降りて行ったので、すぐに支度に取り掛かる。と言っても俺達はそのままなので特に時間も掛からない。イザベラを起こして服を整えてから1階に降りる。


 「早いですね」


 「準備するものが無いからな」


 アスクレスの方も支度は終わっているので一緒に家を出て洞窟に向かう。洞窟ではアリエスとピスケスが待っていた。2人も同行するそうだ。


 洞窟内の床には魔法陣が刻まれていて、この魔法陣を起動させる事で別の場所に移動できる。以前はピスケスに導かれて村に来る時に使ったが、今回は俺達が襲撃された公園に向かう為に使う。


 魔法陣の上に立って魔力を流すと、魔法陣が光って組み込まれた転移魔法が起動する。魔法が終わると別の洞窟に転移していた。


 アスクレスは慣れた足取りで洞窟を登っていく。洞窟を出るとスーツを来た男女が3人いて、声を掛けて来た。


 「ご無沙汰しております、アスクレス様」


 アスクレスの知り合いで、この国の大統領の秘書で名前は「ティーナ」と名乗った。こちらの紹介も軽く済ませると公園の外に案内された。


 「こちらにお乗り下さい」


 停められた1台の大型の車に促されて乗り込む。全員が乗ると動き始めたが発進する時に音がしなかった。


 「電気自動車か」


 「ご存じなんですか?」


 声に出ていた様でティーナに聞かれてしまった。アスクレスはブリュンヒルデを見せたからか微笑んでいるだけだ。


 「俺の出身世界は機械技術も発展していたからな」


 走る車の窓から外の流れる街並みを見るが昔の記憶を思い出して陰鬱(いんうつ)になってくるので視線を車内に戻す。


 イザベラは初めて見る景色に興味津々で夢中になって見ている。その様子をみて少し救われた気がしたのは気のせいだろうか。


 「そろそろホテルに到着します。会談前後の数日はそのホテルでお過ごし下さい」


 車がホテルの前に到着した。車から降りてホテルに入るとホテルマンが出迎える。手続きはティーナが全て済ませたので部屋の鍵を貰ってエレベーターで部屋のある階へ上がる。


 「ハヅキ様方はテーマパークに行きたいと伺っておりますので案内役をご用意致しました。日程は明日でよろしいでしょうか?」


 「ああ。ただお金は持ってないが、どうしたら良い?」


 「ご心配なく。今回の費用に関しましては相応の額を支給されております。ご要望のあった衣服の購入費用や食事代なども合わせて、こちらで持たせて頂きます」


 「ありがとう」


 ラゲアックに滞在している間、観光や買い物などの費用は全て持ってくれる事になった。それだけ俺が持つ情報に期待をしてくれていると思っておこう。


 提供して貰った待遇に対する対価は正当に支払わなければならない。過度な技術提供は軋轢(あつれき)の元だから控えるが、この世界は文明レベルも高いのでアスクレス達の方針次第では多少のオーバーテクノロジーにも対応出来るだろう。


 「明日の9時にホテルのロビーで待ち合わせでよろしいでしょうか?」


 「分かった、9時だな」


 「はい。それと、コレを渡しておきます。電子マネーと言って伝わりますでしょうか?」


 「カードに記録された数字まで通貨として使用できるカード、という認識で合ってるか?」


 「はい」


 ホテル内だけでなく外の店でも使えるそうで、ティーナがいない間に必要な物があれば使って構わないそうだ。中に入っている金額は多くは無いが、多少の小物を買う分は入っているそうだ。


 「それでは今日の所は失礼致します」


 そう言うとティーナはエレベーターで下に降りていた。俺達は一度部屋に入ると中の設備を確認する。ベッドが2つ、風呂にトイレ、大型のソファにテーブル、広い部屋2つにキッチンまで付いている。


 「ここで暮らせそうだな」


 設備のチェックを終えると湯船を溜め始める。さて、風呂に入る前にイザベラの問題を何とかしなければならない。


 (アスクレス、今どこにいる?)


 (ハヅキですか? 今は部屋にいますが何かトラブルですか?)


 (トラブルじゃないんだが、イザベラの風呂を頼めないか?)


 幼いとはいえイザベラは女の子だ。一緒に入るのは不味い。アスクレスに相談すると了承してくれたので助かった。


 すぐに扉がノックされた。扉を開けるとアスクレスが来てくれたのでイザベラを預ける。イザベラ達が風呂に入っている間に俺も風呂を済ませておこう。


 入浴後にソファで寛いでいるとイザベラがアスクレスと共に戻って来た。


 「その服……」


 「村の子供が着なくなった服を少し頂いて来たの。この子に似合うかなって思いまして。良かったら、このまま来てくれませんか?」


 「良いのか?」


 「ええ、仕舞い込んでいるよりは良いでしょう」


 脱いだ服はランドリーで回してくれていて、明日の朝に返してくれるそうだ。代わりと言って3着分の服を貰った。動きやすさを重視してくれたようで、旅の中で着るにはありがたい。


 「色々と手を回して貰って感謝する」


 「構いませんよ。ハヅキがいなければ襲撃で全員が捕まっていたでしょうから。それに、期待もしています」


 「応えられるように頑張るよ」


 「それでは、また明日。おやすみなさい」


 アスクレスは自分の部屋に戻って行った。


 「良かったな、イザベラ」


 頭を撫でると「うん」と言って嬉しそうにしている。イザベラをベッドに連れて行って寝かせるが、なかなか寝付けないようだ。


 「寝れないのか?」


 「……一緒が…いい」


 「…そうか、なら一緒に寝るか」


 「…うん」


 アスクレス、イザベラに変な事教えてなければ良いが。


 アスクレスの言動に疑念を抱きつつもイザベラのベッドに入って一緒に眠るのだった。



 ◇



 翌朝、ホテルの朝食バイキングで食事を済ませるとアスクレスが洗い終わった服を持って来てくれた。


 「これから出かけるのですか?」


 「ああ、イザベラの服を買ってから遊びに連れて行こうと思ってる」


 「私は行政府に行って会談の調整をします。何かあれば遠慮なく連絡してください」


 アスクレスに感謝してロビーに降りるとティーナが待っていた。


 「おはよう」


 「おはようございます。お早いですね」


 「お互い様だろう、まだ15分ある」


 「そうですね。では、今日の案内役を紹介させて頂いてもよろしいですか?」


 ティーナは隣にいる男を紹介する。


 「初めまして。本日の案内役を務めます、ペリオンと言います。どうぞ、よろしくお願いします」


 「俺はハヅキ、こっちはイザベラだ。申し訳ないが礼儀は欠いているので大目に見て欲しい」


 「承知しました。それでは、先にイザベラ様のお洋服から回らせて頂いてよろしいでしょうか?」


 「お願いするよ」


 ペリオンの案内の元、ティーナと別れてホテルの玄関につけられている車に乗り込んだ。女性の運転手が別に用意されていた事にも驚く。


 目的地の服屋は少し距離があるらしい。軽い雑談をしながら時間を潰すと目的地に着いたようだ。


 「こちらのデパートに目的の洋服店がございます」


 到着したデパートは富裕層が利用するような高級感のある佇まいだ。ペリオンに案内されて訪れた子供服の店には客はまばらだった。


 「こちらのお店は機能性と強度を両立した服を取り扱っております。旅をしていると伺っておりましたので、こちらのお店を選ばせて頂きました」


 「ハヅキ様とイザベラ様でよろしいでしょうか? 担当させて頂くメリアと申します。どうぞ、よろしくお願いします」


 「ああ、よろしく頼むよ」


 「では、こちらへどうぞ」


 店員に案内されて店の中に入ると、既に何着か洋服がテーブルの上に並んでいた。可愛い感じの服からボーイッシュな服まで幅がある。


 「この中でお好みの服のデザインはありますでしょうか?」


 「イザベラ、着てみたい服はあるか?」


 「……」


 どうやら赤いワンピースに興味があるようなので試着をお願いした。戸惑ってるイザベラを促して、店員と試着室に入ってもらう。


 着替えが終わって試着室から出て来たイザベラは顔を真っ赤にして照れていた。


 「似合うな」


 「そうですね。ボーイッシュな服よりは女の子らしい服の方が良さそうですね」


 店員はイザベラの雰囲気を確認した後、さらに何着か見繕って持って来た。


 「こちらの白いカーディガンはいかがでしょうか? 肌寒い日や室内での冷房対策としてご使用いただけます」


 「そうだな。あとズボンと、それに合わせた服も見たいんだが」


 「かしこまりました」


 店員に注文すると、ズボンと長袖のシャツを持ってきてくれた。試着室で着替えたイザベラが店員と一緒に出てくる。


 「今度はゆったりめの服を選ばせていただきました。街を歩いていても疲れにくく、風通しも良いので快適に着こなせます」


 高級店だけあって店員の判断も優れていると感心させられる。イザベラはワンピースが気に入っているみたいだが、旅をするならズボンで合わせた服も欲しい。


 「ペリオン、費用はどのくらいだ?」


 「服の購入費は予定に入っておりますので、買い漁るような事をしなければ問題にはなりません」


 「金額は教えてくれないのか?」


 「物価に関する情報をお持ちでないと考えております」


 数字の計算は出来ると言ったら、費用として100万ドラクマを用意していると教えてくれた。試着した服が一式で3〜5万ほどだから、確かに買い漁らなければ余裕はある。


 「さっきの赤いワンピースと白いカーディガン、あと今着ている服も一式もらいたい。それと、今着ている感じでもう一組選んでほしい」


 「承知しました」


 「ペリオン、意見があったら遠慮なく言って欲しいし、行き過ぎたら止めて欲しい」


 「それでしたら、帽子と靴下と靴も購入されてはいかがでしょうか」


 帽子か。靴下と靴は旅に耐えられるものが欲しいがワンピースに合わせた靴があってもいいだろう。


 「すまないが、ワンピースに合わせた帽子と靴下と靴を1組選んで欲しい」


 「承知しました」


 店員は赤いベレー帽とフリルのついた靴下、黒いローファーを持ってきてくれた。サイズも問題ないようなので購入することにした。


 最終的に10万ドラクマを超えたがペリオンは無表情で払っている。イザベラは赤いワンピースに着替えている。テーマパークへ行くのだからオシャレした方が良いだろう。


 服をもらって店を出ると次の行き先を聞かれたので旅の中で履く靴を見たいと伝える。


 「それでしたら、別のフロアに登山用品のお店がございます」


 ペリオンの案内で登山用品の店に入って靴下と靴を選ぶ。服屋の店員は合わせやすい色で選んでくれたので靴は選びやすい。イザベラのサイズと好みを確認しながら選んでいく。


 最終的に今の足のサイズのスニーカーを2足、1サイズ大きいスニーカーを1足と靴下を数足分購入した。


 「ありがとう、良いものが変えたよ」


 「何よりでございます。この後はいかがしましょう。昼食時ですがここでお食事をされますか? それともテーマパークで食事をなさいますか?」


 「そうだな、ここで食べていこう」


 「承知しました。ではこちらでございます」


 ペリオンに案内されてレストランに入った。この世界の食事に関しては村での様子しか知らないのでペリオンの好みに任せた。


 食後に車に戻るとデーマパークについて教えてくれた。夜8時まで開園しているので今から行っても楽しめるそうだ。


 「VIPチケットをご用意しておりますので、アトラクションに並ぶ時間は少なくて済むかと思います」


 テーマパークに到着すると、並ばずに中に入れてもらえた。VIPチケット自体は一般販売しているが値段が高いので買う人は全体で見れば少ないそうだ。


 アトラクションの説明をしてくれたが、見てみないと分からない事も多いので端から回ることにした。途中で飲み物や軽食を買って楽しみながらアトラクションを回る。


 VIPチケットは優秀で、本当に並ばなくてもアトラクションに乗れた。イザベラの身長が足りずに乗れない物もあったが、それでも楽しめたようだ。


 「どうした?」


 イザベラが歩きづらそうにしているので靴下と靴を脱いで確認すると両足ともに靴()れが出来て赤くなっていた。


 「何で言わなかった?」


 「……」


 イザベラは下を向いて黙っている。困らせると思ったのだろうか。


 「痛い時は痛いと言ってくれない方が困る。これからはちゃんと言うように」


 「…うん」


 足の靴擦れを治癒魔法で治すと赤みが引いていって、健康な肌色に戻った。痛みも引いたようだ。


 「魔法とは便利なものですね」


 「ちゃんと教えるよ。ペリオンも素質があるみたいだし」


 「それは魔法の素質と受け取っても?」


 「ああ、鍛えれば良い魔道士になりそうだ」


 「恐縮です」


 イザベラの治療が終わったので、再びアトラクションを巡り始めた。



 ◇



 日が暮れてきたので早めの夕食を取る。この後にはパレードがあるそうで、イザベラに見せたいと思ったからだ。同じように考えている客も多く、レストランはどこも混んでいた。


 「お待たせして申し訳ありません」


 「ペリオンが謝る事ではないだろう」


 レストランの前で待っていると順番が来たようで店員が案内してくれた。中は満席で、店員が忙しく動き回っている。


 昼食の時もそうだったが、初めて見る料理を食べるのは楽しいものだ。イザベラも最初は恐る恐るといった感じだったが口にあったのか夢中で食べている。


 食事が終わってレストランを出ると人の流れが出来ていた。帰るのかと思ったが違うようだ。


 「そろそろパレードのお時間です。我々も移動しましょう」


 パレードが始まるようだ。ルート上で見えそうな場所を探して待機する。イザベラは身長が足りないので、俺が肩車している。


 「来たようです」


 陽気な音楽と共にパレードが始まった。先頭のグループは20人が息の合ったダンスを披露している。


 その後ろからは女の子向けと思われるキャラクターが乗ったフロートが流れて来た。飾りもキャラクターに合わせられており、可愛い感じになっている。


 その次は仮装した集団が現れた。ペリオンの説明では、子供に人気のヒーローチームとの事だ。武術の演舞を披露するようにパレードを進行している。


 次のフロートもキャラクターが飾られていたが、最初のフロートと違って現実の動物をデフォルメした様なキャラクターだ。こちらは40年も続くコンテンツだと教えてくれた。


 他にも様々な飾りが施されたフロートが何台も通り過ぎていった。空からは紙吹雪が光を反射してパレードを盛り上げていた。


 パレードが進むと一緒になって進む人達で流れが出来るが、俺達は動かず同じ場所で見続けた。イザベラは終始、口を開けたまま見入っていた。


 パレードが終わると人が少なくなったのでイザベラを降ろす。


 「今日は帰るか」


 「うん」


 ペリオンに案内されながら、イザベラと手を繋いでホテルまで帰った。

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