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six

閉店間際のカフェの空いている時間。


いつもこの時間を狙ってディータは姿を現す。

無造作に整えられた黒髪に、アメジストの瞳という本来の自分の姿で。

念のための銀縁伊達眼鏡もかけて。

社交界で知られたアウイン侯爵の『金髪・エメラルドの瞳』は偽の姿。

偽の姿しか知らないシシィには、この黒髪・銀縁眼鏡の人物は全くの赤の他人として認識されていた。




仕事帰りにカフェで寛ぐ。

手元には、先程までシシィを陰ながら警護していた警備兵からの報告書。

『本日のシシィ様は、茶器や皿などを破壊することもなく、菓子を落としたり無駄にすることなくお勤めでございました。本日もシシィ様目当てに来られた男性客がありましたが、よーーーーく言い聞かせておきましたので、二度とシシィ様に近寄ることもないでしょう』


今日はつつがなくお勤めできたんだね。


シシィの成長に目を細めるディータ。

最初の頃の報告書はひどいものだった。

『今日は茶器を5客破壊しました』

『今日は焼き菓子を落下させました』

『今日はケーキを取り落しました』

それでもマダムは寛容に「それくらい、初めは誰でもやるものよ」と、笑って許してくれていた。

シシィも、元々聡明で器用な娘なので、丁寧に仕事をこなすうちに、こういった失敗は減っていったのだ。


シシィが仕事に慣れていくにつれて、看板娘の評判を聞き、彼女目当ての客も増えてきた。

あからさまに口説こうとしている若い男たち。

営業妨害は絶対にしたくないが、シシィに手を出すことは断じて許さない。

そこは警備兵が上手いこと言いくるめて「菓子は買いに来るが、リリィには手を出さない」と誓約させていった。




そうやって見守ることひと月。

今日も新聞を読みつつ寛いでいるディータ。注文したミルクティーはすでに温くなってしまっている。そろそろお代わりを頼もうかと思っていたその時。


コトリ。


眼の前に、注文していないはずのものが置かれた。

かわいらしいハートのお皿に乗せられた二つのマカロン。


はて? 注文した覚えがないけど?


くいっと、片眉が上がる。

「ん?これは?」

周りにまだ少しの客がいるので、潜めた低い声でシシィに問う。

「はい、こちらはマダムから常連様へのサービスでございます」

こちらも、潜めた声で答えるシシィ。

「そうか。ありがとう。」

にっこりと微笑んで謝辞を述べる。

すると、シシィの頬が赤く染まるのが見て取れた。


これは、脈ありだ!


手応えを感じ、会心の笑みを浮かべるディータであった。




それから時折サービスの菓子をつけてくれるマダムとシシィ。


「よければあなたもご一緒にお茶をしませんか?」


閉店まであと30分足らず。

カフェの客がいなくなったのを見計らって、ディータはシシィをお茶に誘ってみた。

にっこりと極上の笑み付きで、自分の向かいの席を手で示しながら。

「はい? えっ、ええと、まだお仕事時間ですので!」

シシィは真っ赤になってうろたえている。

そんな姿もかわいらしい。

「それは残念。ではまた……」

と、ディータが引き下がろうとした時。

「あらぁ、リリィ。もうお客様もいらっしゃらないし、もうすぐ店じまいだから休憩とってもいいわよぉ~」

と、それまで二人のやり取りをニコニコと見守っていたマダムから声が飛んできた。


グッジョブ! マダム!! 


マダムの後押しに乾杯!


「えええ? でも……」

なおも躊躇するシシィ。しかしすかさずディータは、

「マダムの許可も出たことですし。」

畳み掛けるように、にこやかに再度向かい席を手で示す。

「はあ……では……」

真っ赤になったまま、おずおずと着席するシシィだった。

マダムを見ると、ディータにもウィンクを飛ばしてきた。

満面の笑みでウィンクに応えるディータだった。




「あなたは、リリィさんとおっしゃるんですね?」

閉店間際。シシィと束の間のお茶の時間。

初めて誘った日から、ほぼ毎日。日課のようになってきた。

「ええ。あなたは?」

頬を染めながらも、ふわりと微笑みながら聞いてくるシシィ。

細める瞳がアメジストなのが複雑な気分。

「ディー、と申します」

「いつも来て下さる常連様なのに名前も知らず、失礼いたしました」

ぺこりと頭を下げられる。

「いやいや、長居ばかりする邪魔なお客ですから」

ははは、と笑って見せる。

「そんなことございませんわ」

つられて笑うシシィ。はにかむ笑顔も愛らしい。

「僕は王城で事務官をしているんですが、仕事帰りにたまたまこのカフェを見つけてね。とてもいい雰囲気だから気に入ってしまって」

嘘も方便だ。そこは諜報部員。嘘が気取られることもない。

「まあ、うれしいです。マダムも聞いたら喜びます!」

花が綻ぶように微笑み、喜ぶシシィ。

それを見て、つられて笑みになる自分。


穏やかに微笑みながら交わす会話。ゆるりとした時間。

シシィとの距離が詰まっていくのを感じるディータだった。


ディータ、絶賛アプローチ中☆


これを書いている間ずっと「夕方も6時を回り閉店まであと30分たらず、デパートは夕飯の買い物のおば様たちでごったがえす~♪」(Byドリカム)がまわってました(笑)


今日もありがとうございました! 

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