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<SS>離れている時間

2012夏のsssの改稿版です(^-^)

ここはアンバー王国の王都ディアモンド。

平和で豊かなこの国は、賢王シャルルの善政と優秀な頭脳集団と強靭な軍隊の賜物である。

そして今日も何気ない一日が始まろうとしていたのであるが……。



「な・ん・で・僕なんです・かっ!!」

バンッ!!


僕の荒げた声とともに、勢いよく机を叩きつけた音が、執務官室に響き渡る。

眼の前には、上司のエメリルド室長。

僕の剣幕とは対照的にニコニコとしている。くそう。


「いやねぇ、僕が行くから次官のペリドットくんは必然的に居残りだし? タンザナイト殿は今の手持ちの仕事が佳境だし? プラットくんはまだ新人だし? 他国に行くのにもってこいの人材って、アウイン侯爵殿を置いていないんだよね~。身分といい……ね?」


なんてどこまでも穏やかに言ってのけてくれる。なんだよその最後の間は!


「その『……』は何を意味してるんですか!!」

「いいやまあ、そのなんだ。やっぱり見栄えは大事だろう?」

「関係ありません!!」


見栄えよりも外交手腕とか社交術とかでしょう! 僕は抗議を繰り返すも、


「その外交手腕も社交手腕もピカイチなアウイン殿だからこその抜擢なんじゃないですか」


極上の笑み付きで言われてしまった。

確かに、シシィと結婚するまでの僕の最大の武器だったけど?


そもそも何で室長とやりあってるかというと、もうすぐ予定されている国王陛下の隣国訪問に随行する面々について。ひと月も向こうに滞在して、やれ合同軍事演習だの、やれ社交パーティーだの、まあ外交オンパレードをやらかすらしい。誰が言い出したんだか。

で、国王不在の間は宰相のトパーズ卿が執務代行するから、室長が宰相代行として随行するらしい。他にも執務官室から要員を出すということで、僕に白羽の矢がぶっ刺さったというわけだ。


「だからって、ひと月もこちらを留守になんてできません!」

「ひと月なんてすぐですよ?」

「一日たりともお断りです!」

「まあ? アウイン殿の気持ちもわかるんだけどね~。決定事項だから諦めて?」

「くっ……!!」


最後までにこやかに室長は、出張命令書にサインしていた。




行く寸前まで嫌だ嫌だと駄々をこねていた僕だったけど、


「かの国はとても良質のアクアマリンが産出するそうですわね? かわいらしい首飾りを見立ててきてくださいな! ディーがくれた指輪に合うような!」


とシシィに愛らしい笑みで小首を傾げられて、そのあまりの可愛さにノックアウトされてしまい、単純にも「うん、わかった! 行ってくるね!」と言ってしまった。

くそう。




隣国に着いてから。


日中は仕事が山ほどあったので、何とか忙殺されたのだけど。

夜のパーティーはつらい。ていうか、はっきり言って苦痛。

踊るのもめんどくさいし、今更僕一人が社交だの外交だのしなくても、他にたくさん招待されている騎士たちがやってくれてるじゃないか! 必要だったのか? 僕??

目立たぬように壁際で気配を殺しているにも拘らず、きらびやかに装った令嬢や貴婦人達が声をかけてくる。鬱陶しいったらありゃしない。


そんな毎日が一週間ほども続いてくると、僕の機嫌は加速度的に悪くなっていった。


もはや仏頂面が基本スペックになってしまったんじゃないかと思えてきた頃。


「私が悪かった。奥さんからアウイン殿を剥がしたらこうなるなんて……。ある程度は計算済みだったんですけどね……予想以上でした。降参ですよ。奥さん、呼び寄せてもいいです」


室長が疲れた顔して言ってきた。「だからもう、そんなに黒いオーラ出さないで……」とつぶやいていたが、そんなことはどうでもいい。


「本当ですか?! じゃあ、後で連れてきます!!」


こちらに来てから初めて、心からの笑みを浮かべた。




転移魔法で家に帰り、急ぎ支度させたシシィと共に帰ってくると、それからは別人のように、それはそれは頑張って働いたさ! いつも通り、早くシシィの元に帰りたいからね。

パーティーでも、シシィと一緒なら楽しくて仕方ない。他の男どもに美しいシシィを見せるの、ほんとは嫌なんだけどね。


今日もありがとうございました!(^-^)

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