18.ご褒美
――結局、ルマのおかげで魔物の討伐は問題なくすることができた。
村の人々からは感謝され、報奨金なども含めて色々と受け取ることになったけれど、ミリシャとしては少し複雑な気分だ。
今いる宿も、魔物を討伐してくれたお礼と無料で泊めてくれることになったわけで。
正直断ろうかとも思ったけれど、これらは全てルマのおかげで――彼女は遠慮せずに感謝は受け取るタイプだった。
もちろん、正当な報酬なのだから――正しいのはルマの対応なのだろう。
単純に――それに相乗りするような形になったミリシャの複雑な心境があるだけの話だ。
「しかし、あの合成獣は何だったのでしょう?」
ベッドの隣に座ったルマが、不意にそんな疑問を口にした。
「うーん。一応調べてみたけれど、他に合成獣の姿はなかったし、誰かが確認するような様子もなかったから」
詳細については分からないが――考えられるとすれば、やはり合成獣が何らかの形で単独行動を始めてしまった、ということだろうか。
一応、周辺の調査も含めて行ったけれど、少なくとも合成獣に関してはこれ以上、問題となることはなさそうだった。
「何にせよ、村の人達が安心して生活できるならそれでいいかな。ルマのおかげだね」
「ミリシャ様が望むことであればどのようなことでも」
ふっ、と小さく笑みを浮かべてルマは言う――合成獣との戦いも、彼女の強さのほんの一部にしか過ぎないだろう。
実際、彼女は『魔力制限』を解除しなかった――つまりは、あくまで人間に近いレベルに制限した状態で、合成獣を一撃で仕留めることができたのだ。
無論、あの合成獣が決められた行動範囲でしか行動しない、などといった制約はあったわけだけれど。
「ところで……何か御褒美などは、もらっても?」
不意にルマはそんな言葉を口にした。
彼女からすれば――働きに見合う対価を求めるのは当然なわけで。
合成獣の討伐においてミリシャは何もできていない――だから、ミリシャが彼女にできることをしないといけない。
「えっと、私にできることならなんでも?」
先ほどのルマの言葉と似たようなことを思わず言ってしまう。
すると、ルマは感情を尻尾で表現しながら、
「……なんでも? なんでもいいのですか?」
そう、確認するように問いかけてきた。
思わず、ベッドに押し倒されるほどの勢いで。
「う、うん。私にできること、なら、だけど」
思わず、自信がなくなってしまう――一つの村の危機を救った、とも言える彼女の働きに対して、ミリシャはどんな見返りを求められるのだろう。
ルマは意を決したような表情で、
「……では、今朝のように撫でていただけますか?」
そう、恥ずかしそうな表情を浮かべながら言った。
「……撫で?」
思わず聞き返すが、ルマはこくりと小さく頷く。
そういえば――朝起きた時、撫でられることを喜んでいた。
寝惚けていたようにも思えたけれど、やはり撫でられるのは好きらしい。
「それくらいのことなら、いつでもするけど」
「い、いつでもというわけには……」
「……? とりあえず、横になってくれたら」
「……では、失礼を」
ルマはごろんとベッドに横になって、ちょうどミリシャが膝枕をする形になる。
フェンリルの姿だと撫でるのはさすがに大変だけれど、人の姿なら簡単――といっても、ミリシャよりも身長の高い女性を愛でる、という構図になってしまうのだけれど。
そっと、ルマの頭に手を触れて撫でる。
すると――尻尾が物凄い勢いで振られていた。
「……っ」
ルマはというと、すごく嬉しそうな表情を浮かべている。
村を救った対価がこれでいいのなら――確かに安いものだと言えるだろう。




