表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/19

17.一番安全な方法

「では、失礼して」

「え――わっ!?」


 不意に身体が浮かぶような感覚――気付けば、またルマに抱えられていた。

 驚きこそすれ、拒絶はしない。

 合成獣の動きは人間のミリシャの動きを軽く凌駕している。

 ルマもそう判断したのだろう。

 次の瞬間、合成獣は勢いよくミリシャ達の方に向かってきた。

 ルマが地面を蹴って跳躍する――先ほどまでいた場所に、地面を抉るような大きな爪痕が残った。


「……! なんて威力……!」

「攻撃的になりましたね。やはり、ここを縄張りとしているようです」

「合成獣は本来なら、縄張りなんて持たないはずだけど……」


 主がおらず、野生化したということだろうか――その可能性なら考えられる。

 合成獣はあくまで人工的に作られた魔物ではあるが、ベースとなる魔物は存在しているし、命令する者がいなければ当然、服従する相手もいない。

 ただ、距離を取ると追ってくるような真似をしないところを見ると、野生とは少し違う感じもした。


「ルマ、一旦止まって」

「承知しました」


 十分に距離を取ってから、ルマは動きを止める。

 ミリシャは合成獣に狙いを定めて――放ったのは『光弾』。

 シンプルな攻撃魔法であり、威力も大したことはない。

 合成獣に致命傷を負わせるレベルでもないが――どうするかを見たかった。

 大きく前足を上げると、合成獣はミリシャの放った『光弾』をかき消す。

 やはり、傷を負わせることはできそうないが――さらにミリシャは追撃を行う。


「ミリシャ様?」


 ルマもミリシャの行動に疑問を感じたようだ。

 放った『光弾』は合計で五発――いずれも、合成獣は全てかき消した。


「やっぱり、近づいては来ないんだ」


 ミリシャの疑問は確信へと変わる。

 ――縄張りという概念とは少し違う。

 あの合成獣は森に居座っているが、深追いはしようとして来ない。

 おそらくは川辺付近までは行動範囲のはずだが、わざわざ追ってまで攻撃を仕掛けようとしないのだ。

 いかに怪我するレベルではないとはいえ――ミリシャの『光弾』を五発全てかき消しておきながら、近づてくるようなことをしないのがその証拠だろう。


「……これは一体?」


 ルマも気付いたようだ。

 合成獣である以上は、通常の魔物とは異なる点がどうしても多くなってしまう。

 あくまで可能性の範囲で言えることは――あの合成獣は何らかの命令系統を受けており、まだそれを完遂しようとしているということ。

 合成獣の主が生きているかどうかまでは、判断できないが。


「一概にどう、とはやっぱり言えない。でも、確実な方法は――ここからの攻撃に対してなら、合成獣は反撃はしてこないってこと」

「そういうことですか」

「ルマ、私のことは一度下ろしてもらっても大丈夫だよ」


 ルマに地面に下ろしてもらい、改めて合成獣を見る。

 ――とはいえ、ミリシャの使える魔法では合成獣を仕留めるには威力が足りない。

 そうなると、いよいよ頼れるのはルマの魔法になるが。


「ルマは遠距離の魔法って使える?」

「この距離から合成獣を仕留められるかどうか、ということでしょうか?」

「簡単に言うと、そういうことになるかな。申し訳ないけど、私には難しいから」

「離れたところから一撃で仕留めるとなると、やはり相当な使い手でなければ無理でしょう。それと、私があの合成獣をこの距離から仕留められるかと言われたら――答えは可能です」


 そう言うと、ルマは右手の人差し指を立てて、合成獣に狙いを定めた。


「念のため確認しますが、仕留めてしまっても問題ありませんか?」

「……うん、一番安全な方法がこれだと思うから」

「承知しました。では――打ちます」


 そう言ってルマは指先に魔力を込める――集まったのは冷気で、小さな氷の結晶が指先に出来上がると、それはゆっくりと動き出した。

 だが、次の瞬間――気付けば合成獣の目の前まで氷の結晶は飛んでいき、目の前で弾ける。


『――』


 次にミリシャが見たのは、氷漬けになった合成獣の姿だった。


「これでよろしかったでしょうか?」

「す、すごい。完璧だよ、ルマ」


 ミリシャがそう答えると、ルマは小さく笑みを浮かべた――その横顔は凛々しくかっこいいのだけれど、尻尾はすごくぶんぶんと揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ