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16.二人で

 ルマと共に森の中に入ってしばらくすると、ルマが何かに気付いたような仕草を見せた。


「こちらの様子をうかがっていますね」

「! 分かるの?」

「ええ、気配を感じます」


 さすがというべきか――ミリシャからすれば、森の中に入っても近くにいる魔物の気配すら感じられないというのに。

 ルマはミリシャの前に立つような動きをする。


「ルマ?」

「……」


 名前を呼んでも、彼女は答えない。

 ――次の瞬間、ルマがミリシャの身体を抱えて跳んだ。


「……!?」


 突然のことに驚いて、声すら上げることができなかった。

 気付けば、ルマはミリシャを抱えたままに後方へと下がり、それなりの高さのある木の枝の上で着地する。


「ど、どうしたの?」

「申し訳ありません、威嚇してきたので」

「威嚇……!?」


 ミリシャの気付かないところで、何やら攻防があったらしい。

 けれど、フェンリルであるルマに対して威嚇を行うなんて――いや、今のルマはミリシャから見ても、気配は人に近いもの。

 ここにいる魔物の気付いていないのかもしれない。


「どうやら、こちらに近づいて来ているようです」


 ルマの言う通り――目を凝らすと、木々を揺らしながら何かが近づいてくるのが見えた。

 やがて足音が聞こえ、その魔物の姿が露わになる。


「あれは……合成獣キメラ?」


 ――姿を見えたのは狼の魔物だった。

 けれど、ミリシャはすぐに違和感に気付いて、思わず声に出してしまう。


「合成獣、ですか?」

「う、うん、たぶんだけど」

「どうしてそれが分かるんです?」

「『魔力探知』を使っているんだけど、その魔力の流れが――複数見られるから」

「なるほど。言われてみれば、確かに匂いも複数ありますね」

「ルマは合成獣を知っているの?」

「本物を見たのは初めてです。人工の魔物、という認識で間違いないですか?」

「うん、本来なら合成獣は作り手の傍から離れることはないんだけど……」


 近くに魔導師が潜んでいるのか――それとも、合成獣が単体で動いているのか、それは分からない。

 それに、これはあくまでミリシャの知識の範囲に過ぎない。

 五百年という月日が、魔法体系に変化を及ぼしていたとしても不思議ではなかった。

 赤色の体毛を持つ合成獣は、真っすぐこちらを見据えている。


「すぐに襲い掛かって来ないところを見るに、警告をしているようです」

「……警告?」

「これ以上は近づくな、ということでしょう」

「……合成獣は知能に関しても普通の魔物よりは高いから。闇雲に人を襲うつもりはないんだろうけど」


 安全か、と言われると難しいところだ。

 実際に森に足を踏み入れたミリシャやルマを威嚇しているし、ルマが距離を取らなければ――襲い掛かってきた可能性もある。

 何より、人口的に作り出された魔物である合成獣を、そのまま放置しておくわけにもいかないだろう。


「いかが致しますか?」

「どうあれ、村の人達の生活もかかってるし、確実に安全とは言えない以上――あれは討伐するしかない、と思う」

「そういうことでしたら」


 ルマは言うが早いか、地面に降り立つと一人前に出た。


「わたしが始末しましょう。ミリシャ様はここでお待ちを」

「待って」


 一人で行こうとするルマに対し、ミリシャは声を掛ける。


「わたしも行くよ」

「しかし」

「わたしがお願いしたことだから」


 仮にも魔導師――それに、村の人の話を聞いて、ここまで来たのもミリシャの意思だ。

 全てルマに任せきり、というわけにはいかない。


「分かりました。では、わたしから離れないようにお願い致します」


 ルマの言葉に頷く。

 ――二人で、合成獣と対峙した。

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