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15.頼りにしてる

 ――村人曰く、村の近辺で魔物が目撃されるようになったのは数週間ほど前からということ。

 この近辺にいる魔物は大体把握しており、明らかに生態系とは違うもので、今のところ村への被害が出ているわけではないが、比較的大型の魔物であるために調査の依頼も出しているとのこと。

 けれど、今の時点では誰も対応できていない、とのことだった。


「ここは『ノルヴェイン王国』の領内ですが、王国騎士団の対応は遅れているようですね」

「人手不足、とは言ってたね」

「地方になればなるほど――対応は後手に回るでしょう。実際、この辺りに騎士がやってくるところは見たことがありません。それと、冒険者の姿もあまり見ないですね」


 騎士の仕事には当然、どんな場所であろうと人々を守る務めがある。

 冒険者については――依頼があれば動くのだろうけれど、姿を見せていないということは、両者共に人手不足ということは間違いないのだろう。

 ミリシャはというと、旅の魔導師ということで魔物の調査依頼を引き受けることになった。

 ルマが執事服を着ていたためか、貴族であると勘違い――正確に言えば、貴族ではあったのだけれど、今の時代においてミリシャには貴族としての籍も存在しないだろう。


「村の人々の話によれば、この辺りでの目撃情報が多いようですが」


 そこは村から少し離れた場所で、『ウェルダ霊峰』からは少し外れた森だった。

 近くには川が流れており、自然豊かなこの場所では怪我などに効く薬草も豊富で、村の特産としても有名らしい。

 故に、ここでの薬草採取は定期的に行われているそうだが――未知の魔物が姿を見せるようになって以来、この辺りに人が立ち入ることは禁じられているそうだ。


「一先ず、この辺りを調査してみよう。魔物の足跡とかフンとか、何かしら痕跡が見つかるかもしれないし」

「それでしたら、すぐ近くにフンは落ちているみたいですよ」


 ルマの即答に少し驚いたが、さすがの嗅覚というべきか――彼女はフェンリル。

 人よりも圧倒的に鼻は効くのだろう。

 ルマの案内で、フンの場所を確認する。


「話には聞いていたけど、かなり大型の魔物みたいだ」

「そのようですね。村までやってこないところを見ると、危険はないのかもしれませんが」

「……問題は、この辺りに住み着いているってところかな」


 未知の魔物がいる限り、村人はここに安心して通うことはできないのが現状なのだ。


「どうします? 森の中に足を運んでみますか?」

「何にせよ、姿を見てみないことには何とも言えないからね。ルマには付き合ってもらって悪いけど……」

「とんでもない! わたしのことなど気になさらないでください。ではでは、森の中に入るのなら一度元の姿に――」


 そう言って、ルマは身に着けていた執事服を脱ぎ捨てようとする。


「待って待って!」

「? どうかなさいましたか?」

「ここは一応、あの村の人達の生活圏だから。ルマの元の姿を見られるのはまずいと思う」

「なるほど、確かに一理あります……。申し訳ありません、軽率でした」

「謝るようなことじゃないよ。でも、魔物と戦闘になった場合のことは、考えておかないと。『魔力制限』も、かけたままになるだろうし」


 ルマはフェンリル――だが、力に制限をかけている状態だ。

 それは、人の生活に紛れ込んでもバレないようにするための方法でもある。

 村から距離があるとはいえ、フェンリルはそこらの魔物とは一線を画す存在――おそらくは、ルマが自身に課している『魔力制限』については解除できない。

 ミリシャでなかったとしても、彼女が全力を出せば気付く者は出てくるだろう。

 ただでさえ、未知の魔物で不安を抱えている村人達の負担を強めるわけにはいかなかった。


「仮に戦いになるようなことがあっても、心配はございません。人の姿でも、戦えるようにはしておりますから」


 ルマはそう言うと、近くにあった一本の木を指差した。

 すると、木は根本から静かに氷漬けになっていく――ルマが魔法を発動したのだ。

 フェンリルは氷属性の魔法を最も得意とすると聞く。

『魔力制限』を掛けていても、問題ないと言いたいのだろう。


「頼りにしてるよ、ルマ」

「! お任せを!」


 ルマは一層――気合に満ちた表情を見せる。

 実際、どんな魔物が相手だったとしても、ルマ以上に強い魔物はそういないのかもしれない。

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