14.そのために
「どうします? しばらく村に滞在するのであれば、宿を取りますが」
ルマの問いかけに、ミリシャは悩んでいた。
宿を取ると言っても、この村に宿屋などは存在しているのだろうか――おそらく、辺境地であまり人もやってこないのだろう。
そうなると、誰かの家に泊めてもらうようなことになるのだろうが、正直それは遠慮した方がいい気がする。
いきなりやってきて、泊めてほしいというのもかなり不躾だろう。
「町まではどれくらいあるの?」
「ここからなら、それほど時間はかかりませんよ。おそらく日暮れまでには到着するかと」
「それなら、町の方に――」
「騎士団の到着は遅れているのか?」
不意に、少し離れたところから村人の話す声が聞こえてきた。
「どうやらそのようで。冒険者ギルドにも依頼を送りましたが……」
「最近はどこも人手不足か。こうなると、我々だけで対処するしかないか……」
「ですが、相手は未知の魔物ですよ?」
「……未知の魔物?」
思わず、その言葉を繰り返してしまう。
「どうやら、村の近隣に魔物――それも新種が確認されたようですね」
「! 新種? そんな話はしていなかったような」
「わたしは耳がいいので」
ルマはそう言いながら、獣耳を動かして見せる。
なるほど――この村に来た時点で、彼女は今の話も含めて色々と情報を収集していたらしい。
「じゃあ、今の話にあった未知の魔物っていうのは……」
「誰も見たことがないから新種――あるいは未知の魔物、ということですね。森の方からやってくるとは考えにくいですが、村人が姿を見たのなら、この近辺にも姿を現わしているのかと」
「……それは、ちょっと放っておけないかもしれないね」
この村に危険が及ぶ可能性がある――それを知ってしまっては、ミリシャとしては村から離れるわけにはいかなかった。
「放っておけないというのは、つまり村人を守りたい、と?」
ルマがそう問いかけてくる。
「話を聞いてしまった以上は、だけど。そうは言っても、私にできることなんて何があるか……」
元々――軍属魔導師であったミリシャは、仕事で魔物の対処をした経験もある。
とはいえ、未知の魔物となるとミリシャに対処できるレベルかどうか。
そう考えていると、ルマが何やらそわそわし出すが見えて。
「どうかしたの?」
「ミリシャ様がそうしたいと仰るのなら、わたしがいるではないですか」
「……? あっ」
一瞬、何を言っているのか理解できなかったが、大事なことを忘れていた。
ミリシャのすぐ傍に――魔物の中でも上位の存在がいることに。
「でも、戦いになるかもしれないし」
「それでしたらなおさらのこと、わたしの力が必要になるのではないでしょうか? ミリシャ様のために力を振るう準備はできております」
ルマはやる気満々、といった様子だ。
――確かにミリシャ一人ではどう対処するべきか悩むところだが、彼女がいるなら話は別。
相手がどんな魔物だろうと、十分に対処はできるだろう。
少し考えて、ミリシャは結論を出す。
「じゃあ、協力してもらってもいい?」
「もちろんです。そのためにわたしがいるのですから」
ルマから同意を得て、ミリシャは話をしていた村人の下へと向かった。




